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文献詳細

雑誌文献

精神医学63巻2号

2021年02月発行

文献概要

特集 いじめと精神医学

災害といじめ—東日本大震災後の福島をめぐるいじめとコロナ禍

著者: 内山登紀夫12

所属機関: 1大正大学心理社会学部臨床心理学科 2福島大学子どものメンタルヘルス支援事業推進室

ページ範囲:P.187 - P.197

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抄録 福島第一原発事故後に放射能被曝に関連して生じたいじめと,新型コロナ禍におけるいじめの類似性について論じた。いじめは単に加害者と被害者の2項関係で生じるのではなく,家族,仲間のグループ,学校,コミュニティや社会状況などが複雑に関与している。第一原発事故の後,福島県内外において避難者や被害者を対象にしたいじめ,偏見,差別が生じた。放射能がうつるなどの科学的にはあり得ないような誤解に基づくものがあったが,それだけでは説明がつかない。現在のコロナ禍においても,感染者,医療者,感染者の多い地区の集団や住民への差別,偏見などが生じている。その背景には行動免疫システムの活性化がある。いじめの対策には加害者を非難するだけでなく,環境要因に目を向ける必要がある。

参考文献

1)クロード・スティール著,藤原朝子,北村英哉訳:ステレオタイプの科学—「社会の刷り込み」は成果にどう影響し,わたしたちは何ができるのか.英治出版,2020
2)文部科学省初等中等教育局児童生徒課生徒指導室:原子力発電所事故等により福島県から避難している児童生徒に対するいじめの状況等の確認に係るフォローアップ結果について(平成29年4月11日現在).2017
3)毎日新聞:いじめ—福島からの避難生徒,手記を公表 横浜の中1.2016
4)青木美希:地図から消される街—3.11後の「言ってはいけない真実」.講談社,2018
5)Swearer SM, Hymel S:Understanding the psychology of bullying:Moving toward a social-ecological diathesis-stress model. Am Psychol 70:344-353, 2015
6)荻上チキ:いじめを生む教室—子どもを守るために知っておきたいデータと知識.PHP研究所,2018
7)Maeda M, Oe M, Suzuki Y:Psychosocial effects of the Fukushima disaster and current tasks:differences between natural and nuclear disasters. J Nat Inst Public Health 67:50-58, 2018
8)ふくしま復興ステーション:県外への避難者数の状況. https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-kengai-hinansyasu.html (2021年1月7日閲覧)
9)内山登紀夫,川島慶子,福留さとみ,他:原発災害がもたらしたもの—福島の精神保健の現状と課題 子どものメンタルヘルスへの影響.精神経誌 特別号:S117, 2018
10)内山登紀夫,川島慶子:困難事態・緊急時支援に関する研究—発達障害者とその保護者へのインタビュー調査.平成28年度 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(身体・知的障害分野)「発達障害者への支援を緊急時(犯罪の被害や加害,災害など)に関係機関が連携して適切な対応を行うためのモデル開発に関する研究」分担研究報告書.12-30, 2017
11)朝日新聞:「差別感じる」県民3割—朝日新聞社・福島放送共同世論調査.2017
12)福島民友新聞:復興の道標・賠償の不条理—避難者に向かう視線「働く意欲」失う人も.2016
13)Devakumar D, Shannon G, Bhopal SS, et al:Racism and discrimination in COVID-19 responses. Lancet 395:1194-1194, 2020
14)Ransing R, Ramalho R, de Filippis R, et al:Infectious disease outbreak related stigma and discrimination during the COVID-19 pandemic:drivers, facilitators, manifestations, and outcomes across the world. Brain, Behav Immun 89:555-558, 2020
15)樋口収:リスク・原発.北村英哉,唐沢穣編:偏見や差別はなぜ起こる?—心理メカニズムの解明と現象の分析.ちとせプレス,2018
16)Curtis V, Aunger R, Rabie T:Evidence that disgust evolved to protect from risk of disease. Proceedings of the Royal Society of London Series B:Biological Sciences 271:S131-S133, 2004
17)Faulkner J, Schaller M, Park JH, et al:Evolved disease-avoidance mechanisms and contemporary xenophobic attitudes. Group Process Intergroup Relat 7:333-353, 2004
18)Yamagata M, Teraguchi T, Miura A:The relationship between infection-avoidance tendency and exclusionary attitudes towards foreigners:a case study of the COVID-19 outbreak in Japan. PsyArXiv. April 10.2020 doi. org/10.31234/osf.io/vhrqn
19)吉川肇子:リスクとつきあう—危険な時代のコミュニケーション.有斐閣,2000
20)Sawano T, Nishikawa Y, Ozaki A, et al:The Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident and school bullying of affected children and adolescents:the need for continuous radiation education. J Radiat Res 59:381-384, 2018
21)木下冨雄:リスク・コミュニケーションの思想と技術—共考と信頼の技法.ナカニシヤ出版,2016

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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