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雑誌目次

雑誌文献

精神医学64巻1号

2022年01月発行

雑誌目次

特集 超高齢期の精神疾患

特集にあたって

著者: 新井哲明

ページ範囲:P.3 - P.3

 高齢者人口が世界的に急激に増加している中で,本邦の高齢化率は2020年時点で世界で最も高く,今後さらに上昇を続けると推計されている。そのような状況を受け,老年精神医学の重要性が増し,高齢者の精神疾患に関する研究が進み,若年期から成年期の精神疾患との違いに関する知見が集積し,日々の診療に生かされている。しかしながら,平均寿命の延伸に伴って増加している80歳台後半以降の超高齢期の精神疾患に関する知見は十分とは言えず,その診断,治療,ケアなどについて迷うことが多く,たとえば薬物療法に関して,効果が出にくい,副作用が出やすい,アドヒアランスが悪い,などの問題がより顕著となる。これらの背景に,超高齢者の心理社会的および生物学的な特徴が関与していると思われ,それらについての知見が集積しつつある。米国の研究では,超高齢者の心理社会的特徴として,女性が多い,貧困の割合が高い,教育年数が少ない,寂しさ(loneliness)をより感じている,年齢を重ねることに否定的な認識を有する,などの傾向があることが報告されている。超高齢者の脳病理については,アミロイドβ蛋白集積は減少し,血管性変化,タウ病理,TDP-43病理が増加することや混合病理を呈する例が最も多くなる傾向が明らかになっている。以上から,超高齢期の精神科診療においては,生物学的にも心理社会的にも,一般的な高齢者とは異なった特徴を有する可能性を念頭に置いた対応が必要になると思われるが,それらに関する知見は未だ十分とは言えない。

超高齢期の精神疾患に関するオーバービュー

著者: 新井哲明

ページ範囲:P.5 - P.11

抄録 超高齢期という観点から,高齢化と精神疾患,老年精神医学の歴史,心理社会的事項,生物学的事項(脳画像と脳病理)について解説した。たとえば,脳病理に関しては,超高齢期ではより若い高齢期に比し,アミロイドβ蛋白集積は減少し,血管性変化,タウ病理(primary age-related tauopathy:PART),TDP-43病理(Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy:LATE)が増加する。超高齢者(oldest-old)は,より若い高齢者(young old)とは異なった心理社会的・生物学的特徴を有していることが明らかになりつつあり,それらの違いをより明らかにした上で超高齢者に適した治療やケアを考えることは今後の重要課題である。

超高齢期の統合失調症—その生物学的背景を中心に

著者: 入谷修司

ページ範囲:P.13 - P.20

抄録 ドイツのKraepelinが,統合失調症(早発性痴呆)の疾患単位を提唱してから120年以上経たが,いまだその病因病態は不明なままである。診断学的には,幾多の変遷を経て,現在はDSMやICDの操作的診断が臨床で広く汎用されている。高齢期に発症する統合失調症が,成人前期に発症するそれと同じ病態かどうかについても従前から議論されてきた。DSMにおいてもDSM-Ⅲまでは,発症は45歳以下という年齢的な制限があった。統合失調症という病態について,生物学的には神経発達障害の側面と神経変性の側面があることが想定されている。統合失調症が高齢者・超高齢者に発症するかどうかについては,従前からのlate-onset schizophreniaの議論の延長線上にあると考えられる。しかし,いまだ信頼性のある生物学的マーカーがないため診断は主として臨床症状と除外診断に頼ることになる。一方,高齢期・超高齢期になれば,脳器質的な加齢がインパクトを与え,少なからず精神症状に影響を与える。認知症に伴ういわゆるBPSDも,統合失調症様の症状を呈することもある。超高齢の統合失調症についての研究蓄積はほとんどなく今後の課題である。超高齢の統合失調症について,統合失調症診断の発症年齢の問題について歴史的経緯にふれつつ,どのように理解すべきかを生物学的な側面から概説した。

超高齢期の統合失調症様精神病性障害

著者: 横田修 ,   三木知子 ,   山田了士

ページ範囲:P.21 - P.30

抄録 85歳以上の超高齢者における統合失調症様の精神病性障害に関する知見は多くはない。スウェーデンのnation-wideの調査では,罹患率(発生率)は80歳以上で特に女性において著しく上昇し,男性の約1.6倍に達する。生活因子として,子の精神病性障害の既往,子の死亡,配偶者の死亡,低い社会経済状態が発症に関係するとの報告がある。歴史的に難聴や視覚障害との関係が言われてきたが,過去の結果は一貫していない。認知機能は無症状高齢者と比して幻覚を有する例で有意に低く,妄想を有する例では有意な差がなかったとの報告がある。85歳時に女性で幻覚を有する状況は3年以内の死亡と有意な関係があり,85歳時の幻覚,妄想,妄想様観念は3年以内の認知症発症に関係する可能性がある。少なくとも一部の症例で神経変性が発病に関与している可能性があり,将来はタウやαシヌクレインに関するサロゲートマーカーに基づいた分子治療が目指されると考えられる。

超高齢期のうつ病

著者: 馬場元

ページ範囲:P.31 - P.38

抄録 超高齢期のうつ病は,一般的な高齢期のうつ病とは器質的,心理・社会的要因に違いがあるため,それらを考慮した対応が求められる。一方,高齢者の脳機能や心理,社会的役割などの若返りが指摘されており,これまで示されていた高齢期におけるうつ病の要因や対応が現代の比較的若い高齢患者にはマッチしなくなりつつある。こうした背景からも超高齢期のうつ病に対する対応は,これまでの一般的な高齢者を対象とした対応に準じ,心理・社会的アプローチを基本として,必要に応じて薬物療法などを検討していくこととなる。脳血管障害をはじめとする器質的要因とそれによる認知・思考の柔軟性の低下,そして喪失体験に代表される心理・社会的要因などさまざまな要因が背景にあることを念頭においた丁寧かつ慎重な対応が求められる。

超高齢期の不安障害

著者: 橋本衛

ページ範囲:P.39 - P.47

抄録 不安障害は高齢者のメンタルヘルス上の,最も頻度が高い問題の一つである。高齢者の不安は,心理症状よりも身体愁訴が多く,典型的な不安障害の症候を呈しにくいことが特徴である。超高齢者の不安障害のリスク要因には,女性,うつ病や認知症の併存,親しい者との死別などのライフイベントなどがあり,これらはおおむね高齢者全般のリスク要因と共通している。一方超高齢者では,不安障害の有病率が前期高齢者よりも減少することが報告されている。そこには,超高齢者は元来身体的かつ精神的に健康な人達の多い集団であることや,疫学研究には健康な人達が優先的に参加することなどが影響している可能性がある。超高齢者では認知症が最大の合併症である。超高齢者が急増する本邦において,認知症恐怖への対応は,超高齢者のメンタルヘルスにおける重要な課題である。

超高齢期の慢性疼痛・身体症状症

著者: 西原真理

ページ範囲:P.49 - P.55

抄録 超高齢社会を迎えるにあたって,高齢者における慢性疼痛や身体症状症は精神医学が直面する新しい問題になり得ると思われる。まず,臨床的な対応として考えなくてはいけない点について,①幅広い精神医学的診断が必要不可欠であること,②治療的な小精神療法を工夫すること,また今後問題になってくることが予想される点,③鎮痛関連薬などによる薬物療法の留意点をまとめた。また,加齢により痛みへの感受性がどのように変化するのかを神経科学的な視点から述べ,また慢性の痛みが認知機能に与える影響,さらに認知症とはどのように関係してくるかを考察した。最後に,当センターが取り組んできた集学的慢性疼痛治療の例を挙げ,慢性痛教室のデータを示ながら運動療法などの重要性について強調した。

超高齢期の睡眠障害

著者: 清水徹男

ページ範囲:P.57 - P.64

抄録 超高齢期の睡眠障害の発症には,歴年齢よりも併存する心身の疾患や認知機能の低下,心理社会的な要因の関与がより大きい。また,壮年期や初老期では睡眠障害の治療により生命予後の延長や心身の疾患発症リスクの軽減に繋がる可能性があるが,超高齢期の睡眠障害ではそのような可能性は小さい。不眠に対しては,治療の対象とするか否かを慎重に判断し,治療するならば非薬物療法を優先する。睡眠時無呼吸については何らかの自覚症状(昼間の眠気,夜間の窒息感,抑うつ気分,認知機能の低下など)や,身体症状と明確な関連が示唆されたときにn-CPAP療法が適応となる。むずむず脚症候群についてはQOL低下や苦痛が大きいときには超高齢期においても薬物療法の適応となる。

超高齢期のてんかん

著者: 赤松直樹

ページ範囲:P.65 - P.70

抄録 高齢期はてんかんの好発年齢で,高齢者の1%以上がてんかんを有する。本邦では約40万人の高齢者がてんかんに罹患していると推定できる。高齢初発てんかんは,痙攣を来さない焦点意識減損発作(focal impaired awareness seizure:FIAS)を呈する側頭葉てんかんが多い。1〜5分間の意識変容を来す発作であり前兆や自動症を伴うことが多い。全身痙攣発作で発症した場合は,焦点起始両側性強直間代発作が大部分である。非痙攣性てんかん重積状態は持続する意識障害を呈するが,脳波などの検査が診断に重要である。認知症外来に焦点意識減損発作患者が受診することがあり,外来診療では留意する必要がある。

超高齢期のアルコール問題

著者: 木村充

ページ範囲:P.71 - P.76

抄録 80代後半以降の超高齢者が典型的なアルコール依存症として専門外来を受診するケースは少ないが,介護現場では飲酒による問題にしばしば遭遇する。飲酒による問題として,ふらつき,転倒,酩酊による興奮,介護への抵抗などが代表的なものである。加齢による要因から,比較的少量の飲酒でも影響を受けやすくなる。認知症と飲酒問題を合併する例もしばしばある。多量飲酒は認知症のリスクを上げると考えられるが,超高齢者では変性疾患による認知症に飲酒問題が合併した例が多いと考えられる。そのようなケースでも飲酒への介入が予後の改善に役立つことがある。認知症を合併したアルコール依存症では,本人の治療への動機付けが困難なことが多いため,環境調整や家族,介護者,医療機関を含めた協力が必要である。

超高齢期のせん妄

著者: 寺田整司

ページ範囲:P.77 - P.82

抄録 超高齢期においても,せん妄は非常に重要な病態である。超高齢者では,在宅であっても,せん妄の有病率が高く,また,せん妄発症後には,死亡や認知症発症といった予後を呈しやすいことが明らかとなっている。超高齢期では,認知症も非常に高頻度となるため,認知症とせん妄の鑑別あるいは併存の問題は避けて通れない課題である。最後に,高齢者一般の話になるが,せん妄の予防と治療について簡単に触れる。

展望

注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)—小児の併存例の診断と治療を中心に

著者: 太田豊作 ,   堀江純子 ,   鈴木千尋 ,   難波佑貴 ,   飯田順三 ,   氏家武

ページ範囲:P.83 - P.94

抄録 近年,注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)と自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)を併存する患児が数多く報告されている。また,ADHDとASDを併存(以下,ADHD+ASD)した場合,いずれか単独よりも症状が重症化すること,さらにうつ病などの他の精神疾患を併存する可能性が高いことも明らかとなっている。このことから,ADHD+ASDを適切に診断し治療することが重要である。そこで本総説では,ADHDとASDの特徴,類似点および相違点,ADHD+ASDの診断と治療法について解説する。

研究と報告

自閉スペクトラム症傾向を有する人の職場における対人関係とメンタルヘルスに関する研究—いじめ被害とそのサポートに注目して

著者: 中森祥文 ,   谷里子 ,   柴田康順 ,   内山登紀夫

ページ範囲:P.95 - P.104

抄録 本研究では,成人労働者254名をASD特性の指標である自閉症スペクトラム指数(AQ)得点で,AQ低群(174名)とAQ高群(80名)に分け,職場のいじめ被害とストレス反応,被害的認知,ソーシャルサポートを比較検討した。AQ高群のほうがいじめ被害を報告する割合が高かった。AQ得点に関係なく,いじめ被害を報告した人はストレス反応得点が高く,いじめ被害に関係なくAQ高群はストレス反応得点が高かった。AQ高群のほうが被害的認知の得点が高かった。AQ高群は上司サポートを得るとストレス反応が軽減すると示唆された。ASD傾向を有する人はいじめ被害に遭いやすいと推測され,いじめ解消と被害的認知の両方の検討が求められる。また上司サポートが得やすい運用整備も重要である。

ミニレビュー

日本における摂食障害とその社会文化的要因の変遷—国際摂食障害雑誌掲載の系統的スコーピングレビューの解説

著者: 中井義勝 ,   任和子

ページ範囲:P.105 - P.114

抄録 摂食障害の国際誌に掲載された「1700年から2020年の間における日本の摂食障害とその社会文化的要因の変遷」に関する筆者らの系統的スコーピングレビューの解説を行った。このレビューでは,漢文,和文,英文で記述された文献を調査,抽出,統合した。鎖国時代の18世紀に不食病が存在したことは,日本の摂食障害が西欧化により発症したという通説に反する。1960年頃の神経性やせ症の発症要因として,核家族の特徴が概念化された。1970年頃から西欧の影響で女性美の基準がやせ志向となり,ダイエットによる神経性やせ症が増加した。1980年代には食事が西洋化し,過食と排泄行動を有する摂食障害が増加した。20世紀後半には,ジェンダー役割など女性特有のストレスへの気づきによる摂食障害が増加した。以上,日本での摂食障害の病型の変化の包括的な概要を提供し,社会文化的要因が病型の変化にどのように寄与してきたかを考察した。

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基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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