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特集 ひきこもりの理解と支援
文献概要
抄録 ひきこもりとトラウマの関係性は単純ではない。いじめ被害のトラウマからひきこもった事例においても,家族による不適切な対応が二次被害をもたらし,ひきこもり経験そのものがトラウマになるなど,複数の要因が複雑な影響をもたらしていることが多い。あるいはひきこもることによって慢性的に尊厳が傷つけられた結果,当事者が「自傷的自己愛」に苦しむ可能性もある。これは,過激な自己批判を口にしつつも,その根底に自己愛が想定されるような矛盾した感情である。こうした尊厳の傷つきは,両親の不適切な対応がその一因である場合が多く,両親に対して強い恨みや怒りを向けるケースも少なくない。そうした場合に有効な対処が「対話」である。フィンランド発祥のケアの技法であるオープンダイアローグ的な対話実践では,議論や説得,アドバイスを控えてひたすら本人の訴えに耳を傾け,その内容を理解し共有する。この過程でトラウマが軽減され社会参加につながった事例を提示した。彼は自身の経験から,対話が当事者の主体性と自発性を回復させ,家族全体の再生を可能にすると述べている。
参考文献
1)厚生労働省(研究代表者:齊藤万比古):ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン.2010 https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000807675.pdf[2022年9月14日閲覧]
2)厚生労働省:ひきこもり VOICE STATION https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp/[2022年9月14日閲覧]
3)小川豊昭:ひきこもりの精神分析—幼少期のコンテイニング不全から生じる誇大なナルシシズムと受動的攻撃性.精神経誌 114:1149-1157, 2012
4)田邉友也:ひきこもり支援の実際—トラウマインフォームドケア(TIC)実践の最前線から.精神科看護 48(13):27-33, 2021
5)宮田量治:外傷性ひきこもり—日本的な複雑性PTSDへの支援と治療.金剛出版,2022
6)斎藤環:いじめ被害とPTSD.精神科治療学 29:633-638, 2014
7)斎藤環:改訂版 社会的ひきこもり.PHP研究所,2020
8)斎藤環:ひきこもりと「自己愛」.精神療法 41:359-363, 2015-2006
9)ODNJPガイドライン作成委員会(編著):オープンダイアローグ 対話実践のガイドライン—第1版.精神看護 21:105-132, 2018.(https://www.opendialogue.jp/対話実践のガイドライン/)
10)斎藤環:オープンダイアローグとは何か.医学書院,2015
11)Seikkula J, Arnkil TE:Open Dialogues and Anticipations-Respecting Otherness in the Present Moment. National Institute for Health and Welfare, Tampere, 2014[斎藤環(監訳):開かれた対話と未来.医学書院,2019]
12)木村ナオヒロ:オープンダイアローグ体験記.ひきこもり新聞Web版(2018年4月6日),http://www.hikikomori-news.com/?p=3022[2022年9月14日閲覧]
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