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雑誌目次

雑誌文献

精神医学64巻2号

2022年02月発行

雑誌目次

特集 精神科におけるオンライン診療

特集にあたって

著者: 岸本泰士郎

ページ範囲:P.125 - P.125

 オンライン診療(telemedicine)とは,一般に通信技術を活用し離れた2地点間で行う健康増進,医療,介護に資する行為すべてを指す。精神科医療においては,遠隔での診断・重症度評価・治療効果が対面評価と同等であることがすでに多く報告されており,海外では日本よりも早くからオンライン診療が活用されていたが,2019年末まではその普及は限定的であった。2020年から本格化した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは世界中で猛威を振るい,多くの人々のメンタルヘルスにも悪影響を与えるとともに,生活様式にも大きな影響をもたらした。このような状況の中で,感染対策の1つとしてオンライン診療が注目されるようになり,パンデミック下において医療を継続するための手段として世界中で利用が拡大している。WHOが130か国を対象に行った調査では,世界中で精神科医療の需要が増加している一方で,93%の国では医療やサービスの中断が生じており,その解決のために70%の国で遠隔医療の導入がされていたことが報告されている。

日本におけるオンライン診療に関連した政策動向

著者: 吉村健佑

ページ範囲:P.127 - P.136

抄録 2018年3月に医師法に関連した「オンライン診療の適切な実施に関する指針(オンライン指針)」初版が発表されて以来,ここ数年でオンライン診療について制度整備と診療報酬による評価の強化が進められてきた。
 さらには,2020年1月の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生を受け,同年4月には厚生労働省は通知を続けざまに発出し,電話・オンライン診療を用いての時限的・緊急的な診療体制が敷かれ,それによる診療実績なども公表されている。
 このような動向の中,感染予防の観点などで有用性が注目され,オンライン診療の恒久化に向けた議論が本格的に開始された。関係学会などにより「事前トリアージ,処方薬等の制限,研修の充実」などについて具体的に検討されている。厚生労働省は「恒久化に向けた取りまとめ」を経て,2021年度中にオンライン指針の改定がなされる予定である。これらの議論の中で,初診からオンライン診療を行う場合,外来医療提供のあり方は大きく変化する可能性がある。
 さらに,2022年4月に迫る診療報酬改定について,中央社会保険医療協議会(中医協)においてさまざまな議論が進んでいる。本稿では,上記に関する政策動向について,特に精神科医療への影響に注目して考察する。

遠隔医療に関連した諸外国の政策動向

著者: 木下翔太郎 ,   岸本泰士郎

ページ範囲:P.137 - P.145

抄録 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は,世界各地で大きな犠牲者を出し,人々の生活様式に大きな影響をもたらした。諸外国ではパンデミック以前からわが国と比較して遠隔医療の活用が進んでいたとされているが,今般のパンデミックにおいて,COVID-19の感染予防策の1つとして注目されることとなり,世界各国で規制緩和が行われた結果,臨床現場や治験において利用が促進された。一方で,高所得国と低所得国での普及の差異や,ITリテラシーの不足や貧困からインターネットにアクセスできない人についての懸念など,遠隔医療の普及に伴うデジタルディバイドについても議論が行われるようになっている。遠隔医療を適切に活用していくためには,普及に伴う課題についても目を向けながら,ステークホルダーの理解を得て規制・政策の改善を行っていく必要があると考えられる。

精神科におけるオンライン診療のエビデンス

著者: 岸本泰士郎 ,   木下翔太郎

ページ範囲:P.147 - P.155

抄録 精神科における診察,診断,症状評価は互いの顔を見ながらの面接が中心となるため,オンライン診療が馴染みやすい診療領域である。スティグマが根強く残る精神科領域において,オンライン診療はアクセシビリティの向上や心理的抵抗の軽減などの点で有用である。筆者や共同研究者らのグループでは,本邦においてオンライン診療を用いた複数の臨床研究を行ってきた。認知機能検査の遠隔施行は対面の評価と高い一致度を示し,遠隔で施行した認知行動療法も治療効果が認められ患者の満足度も高かった。さらに,近年の研究では,オンライン診療における症状評価,治療の有効性,満足度,費用対効果について,対面診療と比べて遜色ない結果も多く報告されている。本稿では,こうした精神科におけるオンライン診療の有効性について,現時点でのエビデンスも交えながら考察していく。また,わが国におけるエビデンス確立に向けた取り組みとして,筆者らが行っているJ-PROTECT研究についても紹介する。

精神科外来でのオンライン診療の実践—高齢者と周産期の事例を用いて

著者: 木村大 ,   五十嵐佑弥 ,   佐藤愛子

ページ範囲:P.157 - P.164

抄録 オンライン診療は,医療へのアクセスの負担を軽減するため,受療機会の確保を容易にさせ患者の治療動機を維持し,治療の安定した継続に繋がるかもしれない。精神疾患の治療でオンライン診療が高い汎用性を持つ理由として,対面診療での時間的負担を軽減するだけでなく,対面診療では得ることのできなかった情報を収集できることも挙げられる。しかし,わが国では,精神科領域での情報通信機器を用いた診療に対する診療報酬の新設や法整備は十分に進んでいないため,診療報酬に支えられた精神科オンライン診療を提供することは難しい。本論では,負担の少ない受療を必要とする高齢者の精神疾患や周産期メンタルヘルスにおいて,オンライン診療が対面診療を補完できるか,有用性と医療安全面について症例を通して考察したい。

Web会議システムを活用したうつ病の遠隔認知行動療法の実践

著者: 佐々木洋平 ,   野上和香 ,   中川敦夫

ページ範囲:P.165 - P.174

抄録 うつ病に対する認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)は治療効果が臨床試験にて確認され,CBTは国内外のうつ病治療ガイドラインにおいて推奨治療の1つとして位置付けられている。しかし,わが国での臨床現場でのCBTの普及は十分ではなく,エビデンスのある治療が患者に届いていない,いわゆるエビデンス-診療ギャップ(evidence-practice gap)が存在する。evidence-practice gapを乗り越える実装戦略の1つとしてweb会議システムによる遠隔認知行動療法の活用が注目されている。本稿では,遠隔CBTに関する海外のエビデンスと取り組みを概観し,筆者らのうつ病に対する遠隔CBTの実践について紹介した。そして,遠隔CBT課題とそれへの工夫として「医療施設-患者自宅間で行う遠隔認知行動療法導入前のチェックリスト」ならびに「遠隔CBT実施のデモ映像を含めた動画教育資材(治療者用)」について紹介した。

遠隔神経心理検査の可能性

著者: 飯干紀代子

ページ範囲:P.175 - P.185

抄録 神経心理検査とは,注意,記憶,言語,視空間,遂行などの能力を測るテストであり,高次脳機能の十分な知識と熟達した検査技能を併せ持つ専門家が行う必要があるが,対象者の多さに比して数が不足している。このアンバランスを解決する1つの方法が,遠隔技術を用いた検査の実施である。新型コロナウイルスの感染拡大により医療機関などの受診に制限が生じている現状において,その意義はさらに高まったと言える。本稿では,①テレビ会議システムを用いて高齢者に行う神経心理検査について,自験例を含め,validityとfeasibilityを概観し,②具体的な実施方法と留意点を紹介した上で,③私たちが現在行っている一般的なweb会議システムを用いた試行を紹介しながら,今後の方向性と課題を述べた。

米国における精神科オンライン診療の活用と実践

著者: 松木隆志

ページ範囲:P.187 - P.195

抄録 米国では,1996年にカリフォルニア州で初めて遠隔診療が対面診療と同等の医療行為として認可されて以降,すでに多くの州で遠隔診療が正式な診療手段として認可されていた。しかし,運用に対するさまざまな規制や医療保険制度上の問題から,爆発的に普及するまでには至っていなかった。ところが,コロナ禍をきっかけに時限措置として全米で遠隔診療に対する大幅な規制緩和が行われ,特に身体診察が不要な精神科領域ではその利用が急速に拡大,精神科外来診療の大半が遠隔診療によって提供されるようになった。コロナ禍に伴うメンタルヘルスケアのニーズ急増も相まって,精神科遠隔診療の利用は右肩上がりで拡大しつつある。遠隔診療は診療へのアクセスを容易にするという長所がある一方,精神科診療に重要な非言語的情報の伝達が困難であり,プライバシーの確保が困難であるという短所も顕在化してきた。コロナ禍収束後は対面・遠隔の長所を組み合わせたハイブリッド診療が主流になると予測される。

精神科領域におけるオンライン診療の適切な普及に向けた課題

著者: 長尾喜一郎 ,   寺師隆平

ページ範囲:P.197 - P.207

抄録 2018年度の診療報酬改定において初めてオンライン診療という項目が追加された。そもそも遠隔診療とは,医師と患者を情報通信機器で繋いで診療をすることで,これまで制度上でさまざまな位置付けがなされてきた変遷がある。診療報酬上のオンライン診療はガイドラインや算定要件もあり,いまだ多くの医療機関に利用されていない。当初からこのオンライン診療を国が推し進めていく方向性は明らかであったが,現在のコロナ禍においては,臨床の医療現場でも,安全安心で適切なオンライン診療を検討しなければならない。本稿では,遠隔診療からオンライン診療に至る経過や,ガイドライン作成検討会での議論などに加え,大阪において精神科病院の現状をアンケート調査したことを報告したい。

医療・ヘルスケア領域におけるICT活用の可能性

著者: 原聖吾 ,   桐山瑶子

ページ範囲:P.209 - P.218

抄録 医療・ヘルスケア領域におけるICT活用は多岐にわたり,全体を俯瞰することはなかなか難しい。2010年頃から各種メディアなどで見かける機会が増えた「デジタルヘルス」について,その社会実装に時間を要してきたものの,社会環境整備に伴い今少しずつ実現されつつある。本稿では,現在注目されている領域を中心に紹介する。

研究と報告

医療観察法入院処遇クライシス・プラン作成研修プログラムの開発と効果検証

著者: 野村照幸 ,   森田展彰 ,   村杉謙次 ,   大谷保和 ,   斎藤環 ,   平林直次

ページ範囲:P.219 - P.230

抄録 医療観察法入院処遇においてはクライシス・プラン(CP)が作成されることが慣習となっているが,作成方法が統一化されているわけではない。実態調査ではCPは通院処遇において十分活用されていないことや医療観察法病棟スタッフも作成に困難を抱えていることが明らかになった。そこで,医療観察法病棟スタッフにおいて有効なCP作成を行えることを目的に,クライシス・プラン作成研修プログラムを開発し,その効果を検証した。その結果,研修プログラム実施前よりも実施後のほうがCP作成に関する知識や作成スキルに関する効力感などの向上がみられた。このことから,研修プログラムの有効性が示唆された。

短報

Cox比例ハザードモデルを用いた精神科救急入院パスにおけるクリティカルインディケーターの分析

著者: 松原拓郎 ,   岡崎勇樹 ,   長谷部憲一 ,   上山陽子 ,   鈴木勝彦

ページ範囲:P.231 - P.234

抄録 本邦では,精神科に新規入院する患者のうち5万人近くが毎年長期入院に移行しており,効果的な医療の改善が求められている。本稿では,当院で蓄積されたクリニカルパスのデータに対し,退院をエンドポイントとしたCox比例ハザードモデルを行い,治療に最も影響を与えるアウトカムであるクリティカルインディケーターを調査した結果を報告する。入院76日以内に症状の寛解状態を示唆するアウトカムがクリティカルインディケーターであり,未達成だと退院する確率が5割低くなることが分かった。急性期に精神症状の寛解をアウトカム設定し,医療チームで検討を重ねながら治療方針を修正していくことが長期入院を防ぐために重要である。

紹介

精神科デイケアにおける双極性障害当事者によるピアミーティング

著者: 有川雅俊 ,   加藤伸輔 ,   阿瀬川孝治 ,   杉村めぐみ ,   吉家洋

ページ範囲:P.235 - P.243

はじめに
 双極性障害は人間関係の悪化によって生活に困難を来しやすい疾患である1〜4)。服薬においてアドヒアランス不良となりやすく再発契機と結びつきやすい5)。しかし,標準的な薬物療法を受け6か月間以上寛解状態にある双極性障害患者でグループ心理教育を受けた者は再発を減少させるとの報告6)や,双極性障害におけるグループ心理教育とセルフヘルプグループを組み合わせた精神療法は,再発予防効果や入院回数の減少効果がある7〜9)との報告があり,ピアグループへの参加回数が多いほどQOLや幸福度向上に寄与する可能性が示唆されている10)。また,セルフヘルプグループは2018年のCanadian Network for Mood and Anxiety Treatments(CANMAT)11)のガイドラインにおいて対人関係-社会リズム療法(interpersonal and social rhythm therapy:IPSRT)とともにセカンドラインの心理社会的治療12)の1つとされている。わが国の代表的なセルフヘルプグループ活動として特定非営利活動法人ノーチラス会13)があるが,医療機関による双極性障害に限った集団精神療法の報告は少ない現状がある。双極性障害当事者が精神科デイケア(デイケア)プログラムにおいてファシリテーターを務めるピアサポートグループの実践報告は我々の知る限りほとんどない。医療機関が双極性障害当事者とともに実践している,双極性障害当事者のためのミーティングについて報告することにより,今後の臨床実践において新たな取り組みの1つとなり得る可能性があるので紹介したい。

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奥付

ページ範囲:P.250 - P.250

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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