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雑誌目次

論文

精神医学64巻4号

2022年04月発行

雑誌目次

特集 家族支援を考える

特集にあたって

著者: 金生由紀子

ページ範囲:P.379 - P.379

 こころの問題の対応にあたって,患者とともに家族の状態を把握して支援することは重要なはずだが,患者に焦点を当てすぎて家族に関する認識に偏りが生じて対応が不適切になることがあり得る。時には,家族を背景のように捉えたり治療者の役割の分担を期待したりすることがあるかもしれない。しかし,家族は,患者,周囲の人々や関係機関,さらには社会とのかかわりの中でさまざまな困難を体験して,支援を必要としている。しかも家族の対応が患者に影響して悪循環を来し,患者にとっても家族にとってもより困難が大きくなることが少なくないと思われる。そして,家族の中だけで解決を求めてしまうと悪循環からいっそう抜け出しにくくなる。患者のためにも家族のためにも,家族が適切に対応できるように働きかける心理教育が有用であると同時に,家族だけで抱え込むことがないように,家族の困難や苦痛が軽減するようにという配慮が望まれる。
 患者は家族をはじめとする環境との相互のやり取りの中で発達してくるものであり,家族についても同様のことが言える。本特集では,周囲の人々から社会までの広がりの中における家族という位置付けを踏まえるとともに,家族としての発達の経過とその節目を意識して家族支援について検討することを目指した。

子どものこころの問題における家族支援

著者: 長沢崇 ,   細金奈奈

ページ範囲:P.381 - P.388

抄録 こころの問題を抱えた子どもの診療において家族支援は重要な役割を果たす。本稿では2機関における家族支援と実際に行われている取り組みについて概説する。都立小児総合医療センターにおける入院事例では,子どもの重篤な精神症状や問題行動が家族に影響を及ぼしていることも多く,支援がより必要な家族が多い。多職種チームで綿密に情報共有し,多層的な家族支援を行っている。また摂食障害治療における家族支援の実際を紹介するほか,多機関連携の重要性についても述べる。総合母子保健センター愛育クリニックでは外来診療において養育者を支える視点を重視しており,複数の養育支援プログラムを提供している。アタッチメント理論に基づくものと行動理論に基づくものに大別されるが,「安心感の輪」子育てプログラムとCAREプログラムについて主に紹介する。そしてプログラムの要素を取り入れた養育者支援についても述べる。

妊娠・出産をめぐるこころの問題

著者: 山下洋

ページ範囲:P.389 - P.397

抄録 周産期の親子をとりまく生活環境は20世紀以降,急速な変化と大きな多様性を持つようになり,COVID-19パンデミックはその過程をさらに加速したと考えられている。今まさに育ちつつあり新たに世界に生まれ出てくる命にとって,どんな環境を整えればよいのかという現代社会の共通の問いに導かれ,世界各国で大規模なコホート調査が進行している。親世代の生活習慣と並んで,不安などのこころの問題もまた,周産期の段階から子どものこころと身体の育ち,健康に影響を与えている可能性が明らかになった。
 また出生後では子どもの情動制御や社会認知の発達を促す早期環境として親が一貫して養育的ケアを提供することは重要な側面である。精神医学におけるレジリエンス概念として親密な絆形成の過程が脳科学の領域からも注目され,affiliative neuroscience approachが提唱されている。ライフコースを通じたこころの問題の起点として情緒的絆は親子2世代の幅広いメンタルヘルスに繋がる疾患横断的な要因であり,予防的介入プログラムの重要な指標として多領域で臨床と研究のエビデンスが蓄積されている。

認知症高齢者を介護する家族への支援—介護者の主体性に注目して

著者: 今村陽子

ページ範囲:P.399 - P.406

抄録 認知症の家族介護は,介護者自身が心理的な動揺の中,進行によって変化していく本人の状態像に合わせた対応が求められる。その上,家族介護者自身のライフイベントや健康問題,経済状況などのさまざまな現実的な問題が重なるため介護の負担は大きく,家族介護者が心身の不調を来す場合がある。認知症の家族支援では,本人と家族介護者両方を支援対象として捉えると同時に,家族介護者は認知症の本人とは別個の存在であり,家族自身が自分の人生を主体的に生きる存在であることを尊重することが必要である。介護への態度は家族ごとに異なるため,家族介護者が主体的に考えて介護できるよう,家族状況をアセスメントしながら情報的サポートと情緒的サポートの両方を提供していくことが重要である。

発達障害のある人の家族への支援

著者: 吉川徹

ページ範囲:P.407 - P.414

抄録 発達障害のある子どもの育児には,多数派の子どもの育児と比較するとより多くの大人の時間,気力,体力,経済力を要する場合が多い。このため発達障害のある子どもを育てている家族に対しては,マンパワーの確保,知識とスキルの伝達,気持ちの支えなど複数の観点からの評価と実際の支援とが必要となる。また特に気持ちの支えに関しては,専門家による支援のみでこれを充足することは難しく,ピアサポートを含む形での相補的な支援がなされることも期待される。家族が安心して地域を頼ること,家族が自分の人生を楽しむことが,ひいては子どもと家族の「こじれ」を防ぐ決め手になるのではないだろうか。本稿では家族の負担軽減に主眼を置き,発達障害のある子どもの育児に必要な家族支援について整理を試みたい。その上で成人期の発達障害者の家族に必要な支援についても,考察してみたい。

ひきこもり状態の人をかかえる家族への支援

著者: 波床将材

ページ範囲:P.415 - P.422

抄録 「ひきこもり」は医学的概念ではないが,潜在的に精神疾患がある人も含み,不登校や思春期・青年期のメンタルヘルスの問題から,8050問題まで多岐にわたる問題がその背景にある。支援にあたっては,精神疾患圏,発達障害圏,その他という類型を念頭に取り組むのが実際的で,高齢化したひきこもりでは,経済面,生活面の支援も必要となる。ひきこもりの家族支援を行うに当たっては,家族も支援を受けてよい,生活を楽しむ機会を持ってよいという感覚を養うことが基本的な方向性となる。具体的な支援として,個別相談,集団での心理教育,家族どうしの分かち合いを中心とするグループワークなどがある。集団でのプログラムは,家族の孤立感を和らげ,おのおのが現状を客観的に捉える契機となり有効である。さまざまな支援団体などに関する情報提供も重要な支援である。

統合失調症—家族の立場から

著者: 岡田久実子

ページ範囲:P.423 - P.430

抄録 統合失調症を中心とする精神障がい者を取り巻く社会状況は,新しい向精神薬の開発・普及や活用できる社会資源・福祉サービスの拡大など,少しずつではあるがよい方向に向かっているように見える。しかし,精神疾患・精神障がいがある人の家族は,精神疾患の知識が得られない中で大切な人の精神疾患の発症に直面し,病気の症状から起こるさまざまな出来事を体験する状況は変わっていない。特に統合失調症は,完治することが難しいと考えられており,病気回復の道のりは長期にわたり,そのケアの多くは家族が担っている状況も継続している。また,主な症状の幻覚・妄想など理解や対応が難しく,コミュニケーションの取りにくさもあり,共に生活する家族は多くの困難を体験する。統合失調症や精神障害への偏見から家族で抱え込み,地域で孤立する家族も多い。自身の体験と地域の家族会活動を通して見えた多くの家族の体験から,また当会のいくつかの調査結果からも,家族支援体制の充実が望まれる。

双極性障害の家族支援を考える

著者: 成瀬麻夕

ページ範囲:P.431 - P.438

抄録 双極性障害の治療には,家族の治療参加が重要である。他方で,家族は患者の対応や自身の不安や不調などに困難を感じている場合が多く,家族自身を支援していく方法も検討していくことが重要である。本稿では家族焦点化療法のプログラムについて,患者自身の治療という位置付けだけでなく家族支援と捉えた時にどのように活かしていくことができるのか,マニュアルや先行研究を参考に考察する。家族焦点化療法のプログラムはモジュールとして挙げられているコミュニケーション訓練や問題解決の手法のみならず,トラウマ対応や危機管理マネジメント,ピアサポートに関しても包括的に言及されており,その情報も家族の支援として役立てることができると考えられる。

依存症における家族支援

著者: 吉田精次

ページ範囲:P.439 - P.445

抄録 依存症は患者自身が治療を求めて受診する前に家族が対応に苦慮して医療機関や相談機関を訪れることが非常に多い疾患である。そこで提供される家族支援が効果的なものであれば,患者の受診に繋がりやすい。患者の回復と同時に,家族自身の健康を回復することができ,家族支援はその端緒を開くきわめて重要な役割を担っている。家族が依存症についての理解を深め,患者に対する効果的な対応法を学び習得することで,患者に大きな影響を与えることができる。それらの取り組みによって家族自身の健康度が上がっていく。効果的な家族支援ができるよう治療者・支援者が研究し支援を提供することで,治療者・支援者自身の臨床経験が深まっていく。家族支援にエネルギーを注ぐことは依存症治療の底上げに確実に繋がる。依存症とはどのような病気なのかと依存症と家族について説明し,家族支援の重要性とその方法について述べた。

思春期・若年成人世代がん患者の家族ケア

著者: 吉田沙蘭

ページ範囲:P.447 - P.453

抄録 思春期・若年成人(adolescents and young adults:AYA)世代は日本ではおおむね15〜39歳とされている。当該世代の場合,患者の親も若年であること,社会経済的に安定していないことも多いこと,年少の子どもがいる場合があることなど,中高年層とは異なる特徴を持つ。たとえばAYA世代患者の親は,患者と同等の割合で精神症状を有することが報告されており,丁寧な説明を行うことで自責感を軽減したり,患者中心の意思決定を支援したりすることが役立つと考えられる。また,未成年の子どもには,抑うつ,身体愁訴,行動上の問題,認知機能や身体機能の制限などがみられることが報告されている。子どもは認知発達の途上にあり,病気に対する理解も成人とは異なる。子どもの発達段階や性格などの特性を考慮し,どのように患者の病気について伝えるかということを患者やその配偶者とともに考えることが,子どもに対する支援になる他,患者やその配偶者に対する支援ともなると考えられる。

ヤングケアラーと家族の支援

著者: 青木由美恵

ページ範囲:P.455 - P.462

抄録 「ヤングケアラー」とは一般に,本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている18歳未満の子どもとされている。ケアが必要な人は,主に,障がいや病気のある親や高齢の祖父母だが,きょうだいや他の親族の場合もある。近年いくつかの実態調査結果が発表され,中高生の約20人に1人がヤングケアラーであると推定され,社会の関心が高まっている。介護を担うことで得られるものもあるが,一方で,心身の健康,家庭生活や学校生活に影響を与え得る。本稿では,調査結果などとともにヤングケアラーの現状,課題と,支援として「負担の軽減と支え」「健康教育・啓発」「居場所づくりと対話」について解説していく。

展望

小児期トラウマによる気分不安定化

著者: 吉村淳 ,   鈴木映二

ページ範囲:P.463 - P.480

抄録 近年,小児期トラウマによる生物学的な変化が徐々に解明されており,それらによって生じる精神的な症状,身体的な疾患,社会生活機能の低下などが指摘されている。本稿では,日々の臨床的視点から,小児期トラウマがもたらす気分の不安定化について着目した。双極性障害の短周期化,重症化,治療抵抗性を引き起こすことが明らかになり,トラウマが重複するほどに発症が早期化して,ラピッドサイクリングの比率が増えるとの用量反応関係も報告されている。また,小児期トラウマによってうつ病の再発が促進されることも提示した。最後に,小児期トラウマが気分の不安定化を招く生物学的要因についても概観し,臨床的にみられる現象を裏打ちした。

追悼

長谷川和夫先生を偲んで

著者: 本間昭

ページ範囲:P.483 - P.484

 長谷川和夫先生が2021年11月13日に92歳で亡くなられた。先生は晩年には自らが認知症であることを公表し,講演活動を続けられていたが,その報に接したときに「俺は認知症なんだから本物の認知症の専門家だな」と言われたことを思い出した。先生と私との接点は1973年に先生が聖マリアンナ医科大学神経精神科初代教授として赴任したときから始まる。先生が赴任して間もなく東京都全域を対象に認知症に関する日本で最初の大規模な疫学調査が行われた。何軒かは長谷川先生と一緒に訪問した。冬の寒い時期だったが,「東京都の民生局から来ました」というとまず断られることはなかった時代であった。介護が必要な高齢者が利用できる施設は特別養護老人ホームしかない時代でもあった。ゆっくり日常会話をしながら相手の話を遮らず調査を進めるやり方はまさに先生のスタイルであった。1974年に出版された長谷川式簡易知能評価スケールはこの調査でも使われた。国際的に頻用されるMMSE(mini mental state examination)がほぼ同時期の1975年に発表されたことをみると興味深い。
 1975年に第10回の国際老年学会がイスラエルのエルサレムで開催され先生と一緒に参加した。先生は東京都の結果を報告された。まだ日本ではアルツハイマー型認知症よりも血管性認知症と診断される割合が多く,国際会議では常にその話題で質問が盛り上がっていた。先生はSir Martin Roth(Newcastle upon Tyne),Ewald Busse(Duke University),Lissy Jarvik(UCLA)を始めとしてスイス,イタリア,ドイツなどの研究者たちと懇親会などで親しく話をされていたが,普段の医局ではみられない面だった。

書評

—福原俊一,福間真悟,紙谷 司 著—臨床研究 21の勘違い

著者: 吉村芳弘

ページ範囲:P.454 - P.454

 目次を眺めたら我慢できなくなり,寝食を忘れて最後まで一気に読んだ。時が経つのを忘れるほど読書に熱中したのは久しぶりだ。著者の一人である福原俊一先生は過去の自著『臨床研究の道標』(健康医療評価研究機構,2013年)の中で,臨床の「漠然とした疑問」を「研究の基本設計図」へ昇華する方法を説いた。本書は実質的にその続編に位置される(と私は思う)。臨床研究を行っている,あるいはこれから行おうとしている医療者への鋭いメッセージが健在である。
 「すべての疑問はPECOに構造化できる?」「新規性=よい研究?」「『後ろ向き』なコホート研究?」「横断研究は欠陥だらけ?」「比較すれば問題なし?」「多変量解析は万能?」「バイアスって何?」「P値が小さいほど,効果が大きい?」などなど……。

—内海 健,兼本浩祐 編—精神科シンプトマトロジー—症状学入門 心の形をどう捉え,どう理解するか

著者: 熊木徹夫

ページ範囲:P.481 - P.482

 本書は精神科の「症状学入門」である。「症状の把握は,精神科臨床のアルファでありオメガであるから,今更あらためて学ぶまでもない。常日頃,DSMも使っているし……」という向きがあるかもしれない。ではDSMさえあれば,診療は滞りなく行えるのか。本書は,精神病理学の泰斗たる編著者が,これまたベテランの精神科医たちと手を携え作り上げた,入魂の一作である。なぜあえて今,本書を世に問うたのか。私なりにその意をくんでみようと思う。
 本書を通読し終えて,ふと過去に触れたソシュールの言語理論を想起した。その概略(ほんの一部ではあるが)は以下の通りである。ただ振り返るだけでなく,この理論は精神科症状学においてアナロジーが成り立つことを指摘していく。少し長くなるが,おつきあいいただきたい。

—橋本圭司,青木瑛佳,目澤秀俊,中山祥嗣 監修—日本語版ASQ-3【質問紙ダウンロード権付】—乳幼児発達検査スクリーニング質問紙

著者: 小枝達也

ページ範囲:P.485 - P.485

 本書の主な特長について3点述べたいと思う。
 1番の特長は,親などの養育者が記入して,発達の遅れを把握することができる点であろう。本邦においてはこれまでに優れた独自の発達検査法が開発され,現在でも広く使用され続けている。これらは検査法を学んだ検査者が実施するものであり,一般の養育者が記入することはできない。このたびASQ-3の登場によって,養育者が記入して,簡便に子どもの発達の状況を把握できるようになった。これは画期的なことである。

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目次

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P.486 - P.487

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.488 - P.488

奥付

ページ範囲:P.492 - P.492

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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