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特集 DSM-5からDSM-5-TRへ—何が変わったのか
DSM-5からDSM-5-TRへ—その背景と動向
著者: 髙橋三郎12
所属機関: 1滋賀医科大学 2埼玉江南病院
ページ範囲:P.1338 - P.1344
文献購入ページに移動DSM-Ⅱ(1968年)からDSM-Ⅲ(1980年)への改訂は一大転機であった。現代統計学の導入による,診断基準,多軸診断の採用は,大規模な症例研究を促して,以来,蓄積されたデータを基にした10年ごとの改訂が,DSM-Ⅳ(1994年),DSM-Ⅳ-TR(2000年),DSM-5(2013年),DSM-5-TR(2022年2月)と行われDSMは大きく成長した。すでにDSM-Ⅲ以来40年を経過しているが,わが国においてもようやく診断基準や診断信頼性を検討することが常識となっている。DSM-5の翻訳出版(2014年)から日本精神神経学会が標準的な訳語の検討を行い,積極的にICD-11に準拠する姿勢も生まれてきている。しかし,DSM-5-TRでは,診断基準など直接診断に関連する部分は15%に過ぎず,それよりも本文改訂の10項目「症状の発展と経過」「有病率」「危険要因と予後要因」「文化に関連する診断的事項」「性別に関連する診断的事項」「自殺念慮と自殺行動との関連」「疾患の機能的結果」「診断マーカー」「鑑別診断」「併存症」が日常の診療に役立つ有用な情報を記述している。いわゆるMini-Dだけを参考にしているのはもはや時代遅れである。また,DSM-5-TRでは精神科診療の課題の裾野を広げて,各地域,各個人の背景文化の違いにも精神科医はもっと関心を持つべきであり,たとえば,苦痛の文化的概念では同じ“うつ”と言ってもその人の文化的背景によって内容が異なることに注意すべきだと強調,これが誤診を避け治療の有効性を上げることに役立つと述べている。
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