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雑誌目次

論文

精神医学65巻12号

2023年12月発行

雑誌目次

特集 精神科領域の専門資格—どうやって取得し,どのように臨床へ活かすか

特集にあたって

著者: 中尾智博

ページ範囲:P.1599 - P.1599

 精神科医療がカバーする領域・疾患は広汎であり,専門性が必要とされる場面も多い。まず,医療保護入院などの非自発入院の実施には精神保健福祉法に則った手続きを要し,その際は国家資格である精神保健指定医の資格が必要となり,多くの精神科医は本資格を取得している。精神科医療においては,前身となる法的資格も含め長くこの指定医資格が専門医資格を兼ねていたが,2005年,基本診療科を構成する18学会中最後に,日本精神神経学会(JSPN)による学会認定専門医制度が開始された。その後,日本専門医機構による専門医制度へと移行し,現在では1万名を超える精神科医が精神科専門医の資格を有している。
 上記2つは精神科医療を行う上でぜひ取っておきたい資格だが,より専門的な医療を展開する上では,サブスペシャルティの資格が必要となる。現在JSPNが認定するサブスペシャルティとしては,一般病院連携精神医学専門医(精神科リエゾン専門医),認知症臨床専門医,臨床精神神経薬理学専門医,森田療法専門医,日本内観学会専門医がある。他にも子どものこころ専門医やてんかん専門医,睡眠専門医,あるいは精神分析や認知行動療法の資格も,各領域の専門的医療を行う上では欠かせない資格であろう。また,司法精神医学の領域では医療観察法に則った鑑定入院の実施は鑑定医が行うが,鑑定医は精神保健判定医の有資格者から選出されるのが通例である。

精神保健指定医制度—新規指定申請を中心として

著者: 野木渡

ページ範囲:P.1600 - P.1611

抄録
 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」の一部改正が,2022(令和4)年12月16日に公布された。本改正では「当事者の意思尊重」「人権擁護のさらなる推進」「支援の充実」が謳われ,2024(令和6)年4月にはすべて施行されることとなる。また,それに先駆け2019(令和元)年7月1日以降からの精神保健指定医(以下,指定医)の申請については,新規申請制度に口頭試問が加わるなどの変更がなされ,指定医という「患者の人権や個人としての尊厳に配慮した立場」で精神科医療を担う重要性がより強調され,その法と役割の正しい理解だけでなく,人格と適性についてもより厳密に審査されることとなった。将来の精神科医療を担う指定医を目指す先生方には,指定医申請という機会に,人権に配慮した精神科医療の重要性について再確認し,人間的成長を含め適正な運用が確保できるようにさらなる研鑽を積んでいただきたい。

精神科専門医を持つこととそれによってできること

著者: 上野修一

ページ範囲:P.1612 - P.1616

抄録
 精神科を目指す者として,精神保健指定医と精神科専門医を取得することが,最初の関門ではないだろうか。精神保健指定医は,患者の人権を守るために作られた厚生労働省から指定される資格であることに対し,精神科専門医は,精神科医自らが作成し,自らの成長を目指すプロフェッショナル・オートノミーとして,日本精神神経学会が認定し,日本専門医機構によって承認される資格である。そして,精神科専門医は,患者の治療に当たり基本的な知識,技能を持つ,市民から客観的に理解しやすい透明性を持った制度の上に成り立っている。加えて,精神科専門医を目指す医師である専攻医の研修に関わる指導医は,教育に関わること自体が自らの研鑽にもつながる重要な資格である。本稿では,精神科専門医制度について背景・経緯,取得プロセスと更新方法,資格取得による意義,指導医との関係などを個人的な考えを含めて示す。

一般病院連携精神医学専門医(精神科リエゾン専門医)

著者: 和田健

ページ範囲:P.1618 - P.1622

抄録
 一般病院連携精神医学専門医(精神科リエゾン専門医)は,日本総合病院精神医学会の学会認定専門医である。日本精神神経学会に先んじて2001年4月1日に専門医制度を発足させ,2009年11月には厚生労働省より広告可能な専門医として認められた。2022年4月には精神科サブスペシャルティボード(PSSB)により,精神科領域のサブスペシャルティ専門医として認定され,2023年8月末現在で548名登録されている。
 精神科リエゾン専門医は,精神疾患と身体疾患とを併せ持った患者に対して,身体疾患治療チームと適切に連携して診療を行えることがその専門性と言える。また,患者や家族に直接対応するのみでなく,身体疾患治療チームをサポートする役割も果たす。さらには,院内の医療従事者に教育や研修を提供したり,せん妄の予防を目指した組織的対応を策定して実践させるなど院内のシステム構築にも積極的に関与する。

認知症診療に関する専門資格

著者: 樫林哲雄 ,   數井裕光

ページ範囲:P.1624 - P.1629

抄録
 認知症診療に関する資格の取得を目指す観点から,日本老年精神医学会専門医,日本精神神経学会の認知症診療医,日本精神科医学会の認知症臨床専門医,日本認知症学会の専門医の4種類の資格について,各資格の目的,取得プロセスと更新方法をまとめ,また優先度に関する私見を述べた。わが国では高齢者人口の急増に伴い認知症患者が急増する一方で,高度な専門性を有する認知症診療医が不足している。認知症の診療,介護・ケア,社会資源を含めた幅広い知識とスキルを有して,科学的エビデンスに基づく認知症医療に取り組む医師のさらなる養成が急務である。

日本睡眠学会総合専門医

著者: 大森佑貴 ,   松井仁美 ,   神林崇

ページ範囲:P.1630 - P.1633

抄録
 日本睡眠学会総合専門医は日本睡眠学会が認定する資格であり,適切な睡眠医療の提供を目的としている。近年,日本専門医機構のサブスペシャルティ領域の認定を目指して制度の改定がなされており,2023年には移行措置試験の実施や指導医制度の創設が行われた。日本睡眠学会総合専門医は睡眠医療に関する幅広い知識を有し,申請によりメチルフェニデートやモダフィニルの処方も可能である。資格取得には睡眠医療に関する十分な臨床経験を有することと筆記試験・実地試験・症例報告書の審査を要する。実地試験においては睡眠ポリグラフ検査の実施・判読に関する知識が必須となる。症例報告書においては睡眠時無呼吸症候群を中心に,複数のカテゴリにわたる睡眠障害の臨床経験が必要である。

臨床精神神経薬理学専門医

著者: 日本臨床精神神経薬理学会・日本神経精神薬理学会 専門医制度委員会

ページ範囲:P.1635 - P.1639

抄録
 日本臨床精神神経薬理学会(JsCNP)は「臨床精神神経薬理学を発展させ,精神科薬物療法を向上させる」目的で1991年に研究会として発足した。2003年臨床精神神経薬理学専門医制度を設立し,専門医には,精神疾患に対して向精神薬を用いた合理的薬物療法の実践,合理的な精神科薬物療法を行う上で必要な最新の臨床薬理学的知識の獲得,臨床精神神経薬理学に関係した学術活動の継続を求めることとし,2023年度からはJsCNPと日本神経精神薬理学会(JSNP)での共同運用としている。本専門医資格を有する者は,精神科治療学の進歩に即した精神科薬物療法に関する深い知識,高度な技術,そして倫理観を持っていることを意味する。この専門医制度は,国民が精神科薬物療法の専門家を求める際の受診の手がかりになるだけでなく,合理的な薬物療法を通じて高度な医療が提供し,国民の福祉が向上することに貢献する。

森田療法・内観療法の専門資格

著者: 中村敬

ページ範囲:P.1640 - P.1644

抄録
 日本森田療法学会では1996年に日本森田療法学会認定医制度規則を定め,森田療法の専門医としてふさわしい実力を持つ医師を「日本森田療法学会認定医」として認定するようになった。また資格化に伴い,事例検討を中心とした森田療法の研修システムを整備してきた。
 1998年に設立された日本内観医学会では,認定医師の資格が設けられた。その後,日本内観医学会と日本内観学会の統合に伴い,2018年からは内観療法の専門医を「日本内観学会認定医師」として認定するようになった。この資格の申請には,集中内観の経験が必須とされている。
 森田療法,内観療法とも日本精神神経学会においてサブスペシャルティとして認定されている。今後「森田療法専門医」,「内観療法専門医」の資格を設けるに当たり,どちらも現行の学会認定医資格とどう区別するか,さらなる検討が必要である。

精神分析に関連する資格

著者: 池田暁史

ページ範囲:P.1646 - P.1651

抄録
 本稿では,主に日本国内で取得が可能な精神分析に関連する専門制度について解説する。国内の主要な精神分析関連団体として,日本精神分析協会と日本精神分析学会がある。前者は国際基準に基づく,週4回以上のカウチを用いた精神分析を実践する精神分析家を中心に構成される組織であり,後者は週1回の精神分析的精神療法を中心的実践とする臨床家から成る組織である。前者は,精神分析家と精神分析的精神療法家という2つの資格を有し,後者は認定精神療法医という認定制度を有する。患者の無意識を扱う精神分析臨床においては,治療者自身が分析的セラピーを受けることが訓練の一部として求められている。前者の2つの資格は要件にそうした訓練を含んでいるが,後者はそれを含んでいない。後者の在りようは世界的には非常に特異なものであり,そこに日本の精神分析のユニークさと曖昧さがあると言える。

認知行動療法の専門資格

著者: 豊見山泰史

ページ範囲:P.1652 - P.1657

抄録
 認知行動療法は,世界で広く実践されている心理療法の1つである。科学的な治療効果の裏付けに基づき,本邦でも一定の条件を満たす場合には保険診療としての実施が可能になっている。多くの精神疾患・メンタルヘルス上の問題に対する有効性が示され,社会的なニーズも大きいにもかかわらず,治療を提供できる医療者が少ないことが現在の課題の1つと考えられる。治療の質の担保や治療者の育成についての検討がなされ,関連した資格が整備されつつある。本稿では,代表的な資格として厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザーと,日本認知・行動療法学会が認定する認知行動療法師®を中心に紹介する。

子どものこころの診療に関連する資格—子どものこころ専門医を中心に

著者: 辻井農亜

ページ範囲:P.1658 - P.1662

抄録
 わが国においては,少子化にもかかわらず子どものこころの問題は増え続けており,社会的なニーズは非常に高まっている。子どものこころ専門医機構は小児科系2学会と精神科系2学会の4学会により合同で立ち上げられた。子どものこころ専門医は小児科あるいは精神科を基本領域とするサブスペシャルティ専門医として位置づけられ,小児心身医学,発達行動小児科学,児童精神医学などの専門分野の研修を積み,子どものこころの問題とそれに関するさまざまな身体症状,精神症状,行動上の問題に対して,bio-psycho-socio-eco-ethicalという全人的視野に立って診療を行い,標準的な医療を提供できる医師である。子どものこころ専門医は,社会的ニーズの高い高度な知識と技能を有することに誇りと責任,そしてやりがいをもって地域社会に貢献できる資格の1つになることが期待される。

臨床に活かそう てんかん専門医

著者: 村田佳子 ,   渡辺雅子

ページ範囲:P.1664 - P.1668

抄録
 てんかんは,てんかん発作を引き起こす慢性脳疾患であり,患者の約30%に精神・行動の変化を伴いQOLを損なう。てんかん診療に携わる精神科医は減少傾向にあるが,てんかんに併存する精神症状の診療や心理社会的問題の対応における精神科医の重要性は変わらない。てんかんに併存する精神症状の改善はQOLの改善につながる。また,患者の呈する精神症状がてんかん発作症状であることがあり,精神科においてもてんかん診療の素養は求められる。てんかん診療に欠かせない脳波検査は,器質性精神障害の鑑別に有用である。てんかん専門医の研修は単位制であり,てんかん専門医指導医の指導の下で各医師の勤務状況に合わせて研修が可能である。

精神保健判定医

著者: 五十嵐禎人

ページ範囲:P.1669 - P.1673

抄録
 精神保健判定医とは,医療観察法に規定されている資格であり,裁判官とともに,合議体を構成して対象者の処遇決定を行う「精神保健審判員の職務を行うのに必要な学識経験を有する医師」のことである。精神保健判定医の業務には,精神保健審判員としての業務と医療観察法による医療の必要性に関する精神鑑定(医療観察法鑑定)を行う鑑定医としての業務がある。本稿では,精神保健判定医の業務や資格取得の方法について解説した。

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法の実施者認定

著者: 野田賀大

ページ範囲:P.1674 - P.1677

抄録
 本邦では,2019年6月より治療抵抗性うつ病に対する経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)療法が,保険診療下で保険算定要件が定める範囲において実施できるようになった。欧米では,うつ病をはじめとした精神疾患に対するTMS治療はすでに20年以上の実績があり,通常医療の一部となっているが,本邦ではまだ歴史が浅く黎明期にある。そのため,日本ではTMS治療に関する十分な知識や技術,経験を有する精神科専門医が非常に少ないという現状がある。そこで本稿では,保険診療下でTMS治療を実践するためのボトムラインとしての実施者基準およびその内容を主に紹介し,さらにアドバンスドなTMS臨床研究をするために必要なことについても少しだけ触れたい。

精神科医が産業医資格を取得する意義

著者: 𠮷村玲児

ページ範囲:P.1679 - P.1683

抄録
 メンタルヘルス対策は,産業医活動の核心であり,この対応は容易ではない。産業医は従業員の心の健康を守る役割を果たし,50人以上の企業に設置が義務付けられている。特に大企業では専任の産業医が必要とされる。産業医の業務には,健康診断の実施と健康維持措置,作業環境の管理,作業の管理,ストレスチェック,健康管理と改善の提案,健康教育や相談,労働衛生業務,再発防止措置の業務などがある。産業医資格を取得する方法は,日本医師会の研修や産業医科大学の講座を受講することである。特に,産業医科大学の集中講座は短期間での資格取得を目指す人々にとって人気があり,東京や福岡で開催される。産業医取得のメリットとしては,①産業医資格を持つ精神科医には多くの雇用機会が開かれる,②企業のメンタルヘルス対策には精神科医の経験が大いに役立つ,③予防医学に明るく,疾患予防に貢献できる,④精神科医と産業医の連携は,労働者のメンタルヘルス保護に必要とされ,労働環境の改善に寄与する,などが考えられよう。産業医は従業員の健康を保護し,特にメンタルヘルスの対策にはその専門的な知識とスキルが不可欠である。資格を取得することで,より多くの機会と役割を果たすことができる。

古典紹介

—シャルル・ラセーグ—ヒステリー性拒食症について【第1回】

著者: 西依康 ,   稲川優多 ,   加藤敏

ページ範囲:P.1685 - P.1693

 私見によれば,ヒステリー性の諸疾患に関する経過史の作成は,症状群それぞれを個別に研究することによってはじめて可能になるだろう。この予備的な分析作業の後,ヒステリー性疾患の諸断片が結びつけられ,そこから病気の全体像が再構成される。ヒステリーを一絡げに捉えて考察してしまうと,個別の現象や不確実な事象があまりにも多いため,一般的なものの中から個別的なものを捉えることができなくなってしまう。
 この手続きを,特定の時間,特定の場所と局在,特定の現象様態に限定された病態に適応する場合にはあまりに問題が多いのだが,本論での使用は妥当なものである。私はすでに,ヒステリーの性状をもつ咳と一過性のカタレプシーの特徴を挙げようと努めた。他の人々は,片麻痺,一過性ないし持続性の拘縮,知覚麻痺などを扱った貴重な個別研究を行ってきた。今回私は,1つの症状複合を扱うつもりである。これは,例外的な偶発事だとするにはあまりに頻繁に観察されるものであり,加えて,われわれがヒステリー症者の精神的布置の内奥に入り込むことができるという利点を持っている。

書評

—宮岡 等 編集代表 淀川 亮,田中克俊,鎌田直樹,三木明子 編—職場のメンタルヘルスケア入門

著者: 井上幸紀

ページ範囲:P.1695 - P.1695

 精神障害による労災申請もその認定も増加の一途をたどっている昨今,職場のメンタルヘルスケアは職場における最優先課題の一つである。職場のメンタルヘルスに関する成書も多く出版され,最近はスマホでネット記事にもアクセスできる。困ったら本で,ネットで,検索すればよいと思っておられる方も多いのではないか。しかし,それでは職場でいざというときに役立たない。職場で求められているのは,目の前で困っている労働者,上司,そして産業保健スタッフへの具体的対応だからである。またネットなどですぐに参考資料を引けるように思いがちだが,どのように調べていいのかわからず,目の前にある具体的な困りごとに役立つ記載にはなかなか辿り着かないだろう。本書の良いところは,単なる病気の説明にとどまらず,メンタルヘルス不調による職場での具体的な困りごとや,「事例性」に多く触れているところである。痒い所に手が届く内容で驚いたが,執筆者が「現場が本当に知りたい問題」を取り上げるべく,周囲の産業医,産業保健スタッフにあらかじめアンケートを実施したと知り,さもありなん,と納得した。
 本書がQ & A形式であることも素晴らしい。いざ困った時に目次からよく似た質問(Q)を見つけてそれへの具体的な対応(A)を読むことができる。職場での一次から三次予防のノウハウが惜しげもなく書かれており,入門書として最初から勉強するのもよいだろうし,困ったことが起こる度に本書をひも解くこともよいだろう。そうすれば知らないうちに実践に即した知識と対応方法が身につくことだろう。

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目次

ページ範囲:P. - P.

次号予告

ページ範囲:P.1696 - P.1696

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1697 - P.1697

奥付

ページ範囲:P.1702 - P.1702

精神医学 第65巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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