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特集 精神医療・精神医学の組織文化のパラダイムシフト
医療人類学から見た精神医療の組織文化とデザイン
著者: 狩野祐人1
所属機関: 1慶應義塾大学大学院社会学研究科
ページ範囲:P.162 - P.168
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本稿では既存の医療人類学的研究を参照し,精神医療の組織文化を,デザインの観点から検討する。20世紀半ば以降医療者は,精神医療とそれが実践される環境を,患者の社会的な生の回復を目的としデザインし直してきた。ただし既存のエスノグラフィが示すのは,リカバリーという拡張された意味においてであれ,医療者の視点から治療に中心的な価値を置きデザインされた環境は,当事者を作り変えるものとして働き,当事者のニーズとすれ違うリスクを温存するということだ。これに対し現在着目されつつあるのは,当事者をも精神医療の「デザイナー」と捉え協働する可能性である。
本稿では既存の医療人類学的研究を参照し,精神医療の組織文化を,デザインの観点から検討する。20世紀半ば以降医療者は,精神医療とそれが実践される環境を,患者の社会的な生の回復を目的としデザインし直してきた。ただし既存のエスノグラフィが示すのは,リカバリーという拡張された意味においてであれ,医療者の視点から治療に中心的な価値を置きデザインされた環境は,当事者を作り変えるものとして働き,当事者のニーズとすれ違うリスクを温存するということだ。これに対し現在着目されつつあるのは,当事者をも精神医療の「デザイナー」と捉え協働する可能性である。
参考文献
1)Escobar A:Designs for the Pluriverse. Duke University Press, Durham, 2018
2)Pickering A:The cybernetic brain. University of Chicago Press, Chicago, 2011
3)松嶋健:プシコ ナウティカ—イタリア精神医療の人類学.世界思想社,2014
4)Ramsden E:Designing for mental health:Psychiatry, psychology and the architectural study project. Preventing mental illness. Springer, New York, pp 209-235, 2019
5)Barrett RJ:The psychiatric team and the social definition of schizophrenia:An anthropological study of person and illness. Cambridge University Press, Cambridge, 1996
6)Rhodes LA:Emptying beds:The work of an emergency psychiatric unit. University of California Press, Berkeley, 1991
7)Carr ES:Scripting addiction. Princeton University Press, Princeton, 2010
8)Hamraie A, Fritsch K:Crip technoscience manifesto. Catalyst 5:1-33, 2019
9)Mol A:The Logic of Care:Health and the problem of patient choice. Routledge, London, 2008[アネマリー・モル(著),田口陽子,浜田明範(訳):ケアのロジック—選択は患者のためになるか.水声社,2020]
10)熊倉陽介:人権としてのハウジングファースト:共同意思決定の基盤としての権利擁護.精神経誌 123:186-191, 2021
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