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雑誌目次

雑誌文献

精神医学65巻6号

2023年06月発行

雑誌目次

特集 精神科医療の必須検査—精神科医が知っておきたい臨床検査の最前線

特集にあたって

著者: 明智龍男

ページ範囲:P.845 - P.846

 精神疾患の診断に際して,多くの場合,器質因の除外が重要であり,その際,血液,髄液,生理,画像などさまざまな検査が行われ,心理検査も適宜併用される。一方,周知のとおり,認知症やてんかんなどの疾患では,脳画像や脳波検査などは診断確定の際に必須の検査となる。最近注目されている自己免疫性脳炎など,病態が徐々に判明してきている疾患については,一部施設でのみ特殊な抗体などの検査が研究目的を兼ねて実施されていることが多く,現時点ではルーチンの確定診断のための必須検査にはなっていない。最新の研究成果として,リキッドバイオプシーで認知症の診断が可能になったとか,ナルコレプシーの原因としてヒト白血球抗原(HLA)との密接な関連が判明したなどの報告も相次いでいる。
 医学は日進月歩である。実際,私たちが日常臨床に従事し,ある疾患を疑った際に,実際にはどのような検査が必須で,鑑別診断のためには何が必須であるかなど,十分理解できていないのは私だけであろうか。自身のことを考えれば,古い教科書レベルの知識の範疇であれば若手に自信をもって伝えられるが,最新の知見などについては十分に把握できているとは言い難い。たとえば,先日も,ごく軽度の意識障害を疑わせる20代前半の急性の興奮状態の患者さんの診察を依頼された。自己免疫性脳炎が疑われたため脳神経内科にも依頼されており,精神科の担当は急性精神病状態の管理が主たる目的であったが,その際に脳神経内科医と話していて,随分自分が知らない抗神経抗体がたくさん見つかっていることを知った。果たして,専門医がいない状態で自分がどこまでその疾患の診断が適切にできるのか懸念を払拭できなかったことが本特集を編んでみようと思った直接のきっかけである。

急性精神病状態で必要な鑑別検査—必須な検査とできれば実施したい検査

著者: 髙木学 ,   酒本真次 ,   藤原雅樹

ページ範囲:P.847 - P.854

抄録
 急性精神病状態は精神科救急などの場面で多く遭遇する重要な状態である。興奮が激しく患者の同意が得られない場面で,行うことが可能な検査を迅速かつ適切に行い,診断,治療することは患者の予後を左右するため重要である。本稿は,内因性精神疾患により引き起こされる精神病状態を鑑別する上で考慮すべき疾患を,近年のトピックスである,神経自己抗体によって誘発される精神病状態(自己免疫性精神病)やCOVID-19後遺症の脳症(抑うつなど)が含まれる器質性精神障害,内分泌ホルモンの分泌異常,膠原病,代謝異常,抗精神病薬の副作用による状態異常,薬剤中毒などが含まれる症状性精神障害に分けて詳細に解説する。加えて,診断に必須または状況に応じて行うべき検査に分類し表にまとめる。

一過性意識消失の鑑別に必要な検査

著者: 谷口豪 ,   加藤英生 ,   大竹眞央

ページ範囲:P.855 - P.865

抄録
 一過性意識消失(transient loss of consciousness:TLOC)は精神科臨床でも遭遇する可能性の高い発作症状であり,てんかん,失神,心因性非てんかん発作(psychogenic nonepileptic seizures:PNES)が原因であることが多い。これらの鑑別には本人の自覚症状,目撃情報そして病歴から発作症状を詳細に分析することが重要であるが,鑑別に有用な臨床検査も活用することで正しい診断に至る可能性が高くなる。てんかんを疑う場合には通常脳波検査はまず施行すべきであり,睡眠負荷によって発作間欠期てんかん性放電の検出率は高くなる。治療を開始した後もてんかん発作と思われるTLOCを繰り返す場合には長時間ビデオ脳波モニタリング検査の施行を検討する。この検査では発作を脳波とビデオで同時記録することによって,てんかんとPNESの鑑別などに役立つ。失神の原因もさまざまであるが,12誘導心電図は安価・簡便で無侵襲なので積極的に施行すべきであり,QT延長,Brugada症候群は突然死に至ることもあるので必ず評価するのがよい。

治療可能な認知症を見逃さないための必須検査

著者: 末廣聖

ページ範囲:P.866 - P.874

抄録
 認知症をきたしうる疾患は,アルツハイマー型認知症などに代表されるような神経変性疾患のほかに,内科疾患や脳外科疾患,精神疾患など多岐にわたる。その中には原因を解決することで認知障害の改善が期待できるものも多く,それらを見逃してはならない。いきなりすべての鑑別疾患を網羅的に検査することは現実的でないが,さまざまな疾患について順序をつけて鑑別を行っていくことが重要になる。本稿では認知症症状の改善が期待できる,見逃してはいけない疾患について簡単にまとめ,検査の組み立てについて考えた。

高齢者の初発幻覚妄想状態に際して必要な検査

著者: 小林良太 ,   森岡大智 ,   鈴木昭仁

ページ範囲:P.875 - P.883

抄録
 高齢者の初発幻覚妄想状態は,若年例と比較して器質性精神障害をより考慮しなければならず,その背景としては,アルツハイマー病やレビー小体型認知症,頭部外傷後精神病などがある。近年の研究により,神経変性疾患の前駆期症状として,高齢発症の幻覚妄想状態が生じることが明らかになってきている。すなわち,非器質性精神障害と考えられていたものの中に,器質性精神障害が存在する可能性があり,主なものとして,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症などが挙げられる。本稿では,器質性精神障害としての幻覚妄想状態と,神経変性疾患の前駆期に生じる高齢発症の幻覚妄想状態における背景疾患とその鑑別に役立つ画像検査やその他の検査について解説する。

高齢者にみられるせん妄の鑑別診断

著者: 八田耕太郎

ページ範囲:P.884 - P.890

抄録
 せん妄は,高齢人口の増加に伴い徐々に社会一般に知られるようになっている。しかし,医療関係者の中でも高齢者が言動異常を示すと何でもせん妄と言いがちであり,実臨床で必ずしもせん妄概念が正しく使われているわけではない。本稿では,高齢者にみられる言動異常について,せん妄,認知症に伴う行動・心理症状,レム睡眠行動障害,側頭葉てんかん,非けいれん性てんかん重積状態を対比しながら概説する。

物質およびアルコール使用障害の診断・治療において望まれる対応と検査

著者: 沖田恭治 ,   松本俊彦

ページ範囲:P.891 - P.898

抄録
 物質およびアルコール使用障害の診断・治療において臨床検査によって重症度を測ったりその予後を判断したりすることはできないが,関連する身体的問題のスクリーニングにおいては重要な要素となる。血液検査は患者本人からの拒否がない限りはルーティンで行うべきだが,対象物質が違法薬物である場合は,薬物を検出する目的ではないことを患者に伝えるのを忘れないようにしたい。物質使用障害の診断スクリーニングとしてはCAGE-AIDに沿った問診が容易であり,本稿で紹介したので参考にしていただきたい。他に症状やそれに起因する問題を把握する手法のほか,医療者が物質使用障害の問題に向き合う姿勢やチーム医療の重要性について概説した。

ギャンブル依存,ネット・ゲーム依存のスクリーニングテスト

著者: 曽良一郎

ページ範囲:P.899 - P.911

抄録
 ギャンブル依存,ネット・ゲーム依存は疾患概念が定まり診断基準が認定されてから日が浅く,多くの機能性精神疾患と同様に生物学的検査マーカーは存在しないことから,本稿では知っておくべき検査としてスクリーニングとしての質問紙検査を紹介する。問題のあるギャンブル,ネット・ゲーム使用の段階と依存症として形成された疾患を区別する目的として作成され,依存症診断の前段階のスクリーニングとして用いられる。多くのスクリーニングテストはICD-11やDSM-5の診断基準を反映して構成されているが,テストによっては必ずしも診断基準のすべての項目を網羅しているわけではない。多数の評価ツールが開発されているが,本稿では代表的なスクリーニングテストとしてギャンブル依存はサウスオークス・ギャンブリング・スクリーン(SOGS),ネット・ゲーム依存はインターネット依存度テスト(IAT)を中心に解説する。

非定型発達を評価するための検査とその結果の解釈—起立性調節障害の合併を疑った際の対応を含めて

著者: 山田敦朗

ページ範囲:P.912 - P.921

抄録
 子どもの診察においては発達の評価を行うことが必要であり,しばしば神経発達症の診断についても検討しなければならない。神経発達症は,正常との境界が不鮮明で連続線上にある,各疾患の境界が鮮明でなく重複や合併が多い,といった特徴がある。このため,診断がはっきりつかない子どもであっても,神経発達症の特性や発達の偏りについて評価する。また,子どもでは臨床的関与が必要にもかかわらず特定の診断がつかないケースが珍しくなく,発達の偏りの評価をすることで治療につながっていく。このほか,子どもでは心身症にもしばしば遭遇し,代表的なものに起立性調節障害がある。精神科医の立場からは心理社会的因子や環境因子を評価することが求められる。評価には各種の評価スケールが有用であるが,評価スケールの結果のみで診断はできない。主訴から始まって現症,現病歴,生育歴などを丁寧に確認し総合的に判断することが重要である。

パニック症の鑑別診断—身体疾患や物質・医薬品によるパニック発作をどう見抜くか

著者: 川村清子 ,   塩入俊樹

ページ範囲:P.922 - P.930

抄録
 パニック症(panic disorder:PD)の主要症状の1つであるパニック発作(panic attack:PA)は,数多くの身体症状を伴う。したがってPDの鑑別診断では,身体疾患(=医学的疾患medical conditions:MC)や物質・医薬品(substance/medication:SM)の関与について鑑別することが,特に重要となる。実際,PAはさまざまなMCやSMによって誘発される。実臨床において,これらの偽りの(PDによるものではない)PAをいかに見抜くかが,精神科医としての技量と言えよう。筆者らは,以下の3つの段階を経て見抜くよう心掛けている。まずPAを生じた症例がPDの典型例からどれだけ逸脱しているのか(逸脱が大きいほどPDの可能性が低くなる),そして次にSMの存在の有無,を評価する。もし,SMの関与がないとなれば,最後にMCによるPAの可能性について検討し,身体科医へのコンサルトを行う。本稿では,PAを生じさせるMC/SMにはどのようなものがあるのか,必要な検査は何か,についても記述する。

うつ病の診断,治療に際しての必須検査

著者: 長谷川千絵 ,   古郡規雄

ページ範囲:P.931 - P.937

抄録
 うつ病の鑑別診断にうつ状態を呈する身体疾患がある。併存する身体疾患やその治療薬がうつ病と関連するか確認するために,総合的な病歴を聞き,身体的・神経学的検査,一般的な血液・尿検査を行う。必要に応じて疾患特異的な検査や画像検査を追加し,専門医へ紹介する。認知症との鑑別が必要なときは頭部画像検査や認知機能検査を行う。うつ病と診断し薬物療法を始める前に,抗うつ薬によっては心電図検査を行う。また,治療開始後も一般血液検査を定期的に行う。増強療法としてリチウムを併用する場合は甲状腺機能や血中濃度を定期的に検査する。また,心電図検査も行う。非定型抗精神病薬を併用した場合も心電図検査を行う。電気けいれん療法を行う前には標準的身体所見,神経学的所見,麻酔前検査,心電図検査,血液・尿検査,胸部X線撮影,頭部画像検査,歯科検査を行う。反復経頭蓋磁気刺激療法を実施する前には脳波と脳画像検査を行うことが望ましい。

双極性障害の診断,治療に際しての必須検査と重要な情報

著者: 寺尾岳

ページ範囲:P.939 - P.947

抄録
 双極性障害の診断や治療に際しての検査や情報について,紹介状の扱い,症状性・器質性・薬剤性の鑑別のための血液検査や画像検査,服薬内容の確認,双極スペクトラムの診断,抑うつ状態や躁状態の評価,双極性障害と関連する気質の検査,併存する知的障害や発達障害の検査,併存する認知症の検査,気分安定薬の濃度測定,甲状腺機能や腎機能の検査,睡眠・覚醒リズム表を解説した。診断に関してはやはり,うつ病に潜む双極性障害(latent bipolar depression)を見つけ出すことが重要で,そのために双極スペクトラムの概念を理解し,発揚気質や循環気質を有するうつ病に注目することが必要である。また治療に関しては,リチウムをはじめとする気分安定薬の血中濃度を定期的に測定し,甲状腺機能や腎機能なども併せて検査することが必要である。

研究と報告

COVID-19に伴う学校の長期休校・再開に関するアンケート調査—発達特性のある子どもたちはどのようにこの事態を捉えていたか

著者: 小野和哉 ,   塚原さち子 ,   安藤久美子 ,   島内智子 ,   中村知佳 ,   尾上彩

ページ範囲:P.949 - P.958

抄録
 大学病院の児童精神科専門外来に通う児童とその家族に対してCOVID-19に伴う学校の長期休校・再開に関するアンケート調査を施行した。この結果105人の回答を集積した。反応をポジティブ群,中立的群,ネガティブ群に分けて解析した。長期休校に対してポジティブに反応する子どもがネガティブに反応する子どもより多くみられた。長期休校ネガティブ群は,学校再開時にはポジティブ群に移行するものが多く,長期休校時ポジティブ群の多くは,再開時ネガティブ群に移行した。こうした結果の背景に何があるのかを明らかにするため,種々の背景因子と,発達特性による差異が見出されるかを検討した。その結果,環境因子や,基盤となる発達特性による差異が存在する可能性が見出された。COVID-19の影響により教育システムにオンライン授業など多様化が進んだが,この結果,子どもの発達特性によって教育システムは多様である必要性が見出された。

書評

検査値と画像データから読み解く薬効・副作用評価マニュアル

著者: 田﨑嘉一

ページ範囲:P.960 - P.960

 本書は,薬剤師が薬物療法を患者個々の病態・状況に応じて進めるために,必要な情報や考え方と行うべきことを示した書である。いうまでもなく薬物療法を成功させるためには,個々の患者における薬剤の治療効果や副作用をしっかりと把握する必要があるが,そのためにどのような点について観察すべきかのポイントが示されている。このポイントはとても簡潔に書かれているため,理解しやすいのが本書の特徴である。
 また本書が2部構成になっていることも一つの特徴である。前半部は薬効別に薬剤の評価項目が示されており,冒頭にOverviewとして対象となる疾患の全体像がまとめられているので,全体を把握した上でどのような管理目的で薬物療法が展開されているのかという考え方を整理できる。また,その次には臨床所見と検査およびその目的が記されているので,それを参考にすると患者の状態も把握しやすい。前半部の中心は薬効の評価項目と副作用の確認項目であり,これも要点が整理されているため理解しやすく,病棟薬剤師なども必要時に参考にしやすいものとなっている。最後に評価から介入までフローチャートが作成されているので,悩んだときの助けとなる。さらに管理指導の書き方も記載されているので他の医療職からも理解されやすい記録が作成できる。

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基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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