精神医学65巻8号

2023年08月発行

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特集 複雑性PTSDの臨床

子どもの複雑性PTSD—アセスメント，診断，治療的アプローチ

著者： 笠原麻里¹

所属機関： ¹駒木野病院

ページ範囲：P.1158 - P.1163

抄録
　本稿では，子どもの複雑性PTSDについて，評価と診断において注意すべき点，治療的アプローチの心得として重要な点を述べた。トラウマ体験の評価は本人と保護者を別席で行うことが必要であるが，体験はしばしばその時に語られず，十分把握できないことも多い。医療機関では，出来事の真偽を確認しきれないまま関与が始まることもあるわけだが，まず，子どもの語りを主観的体験として受け止めることが肝要である。一方，語られた出来事においては，子どもの嘘や保護者の代理によるミュンヒハウゼン症候群の可能性を念頭に置く必要もある。さらに，トラウマ関連症状の評価には，子どもの精神発達段階を考慮した評価が必要である。子どものDSO症状の評価のためには，子どもの発達段階や発達特性に応じた情動統制や対人関係技能の標準的発達を理解している必要がある。治療的アプローチとしては，まず，トラウマインフォームドケアが重要である。

参考文献

1）ジュディス・L・ハーマン（著），中井久夫（訳）：第六章　新しい診断名を提案する．心的外傷と回復〈増補版〉．pp181-201，みすず書房，1999

2）van der Kolk BA, Roth S, Pelcovitz D, et al：Disorders of extreme stress：the empirical foundation of a complex adaptation to trauma. J Traumatic Stress 18：389-399, 2005

3）飛鳥井望：複雑性PTSDの概念・診断・治療．原田誠一（編）：複雑性PTSDの臨床—“心的外傷〜トラウマ”の診断力と対応力を高めよう．金剛出版，2021

4）丹羽まどか，金吉晴：複雑性PTSDの診断と特徴，および治療．心理学ワールド 97：21-22, 2022

5）亀岡智美：子どものPTSDのアセスメント．誠信書房，2022

6）鈴木治：精神発達の段階．波多野完治（編）：ピアジェの発達心理学．pp16-33，国土社，1996

7）ジョン・ボウルビィ（著），二木武（監訳）：母と子のアタッチメント—心の安全基地．医歯薬出版，1993

8）早川宜佑，岩垂喜貴，笠原麻里：誰も信じられずに自傷を繰り返すしかなかった青年期女児Aの治療過程．トラウマ・ストレス 21：41-48, 2023

9）野坂祐子：トラウマインフォームドケア—“問題行動”を捉えなおす援助の視点．日本評論社，2019