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雑誌詳細

文献概要

特集 複雑性PTSDの臨床

文学と複雑性PTSD—『八つ墓村』・『拳銃』・『嵐が丘』

著者: 髙橋正雄1

所属機関: 1筑波大学

ページ範囲:P.1183 - P.1189

抄録
 横溝正史の『八つ墓村』とエミリア・バサンの『拳銃』,エミリー・ブロンテの『嵐が丘』という3つの作品に,複雑性心的外傷後ストレス症という観点から検討を加えた。『八つ墓村』の鶴子は,後に大量殺人事件を起こす要蔵に監禁されて死を恐怖するほどの暴行を繰り返されたために村を出奔するものの,その後何年も抑うつ的な状態が続き,外傷体験を想起させる話題を避けたりフラッシュバック様の発作を起こしている。また,『拳銃』には夫の嫉妬妄想に基づく執拗な攻撃に晒された女性が夫の死亡後も続く複雑性PTSD的な症状に悩まされる様子が,『嵐が丘』には複雑性PTSD的な状況の世代間伝播やそこからの脱却の可能性が描かれている。特に主人公のヒースクリフが息子を侮辱し脅すような態度をとり続けたために,息子は依存的でありながら人の好意を素直に受け取れないような性格になるなど,『嵐が丘』は複雑性PTSDやアタッチメント症とパーソナリティ症の関係を示唆しているという点でも先駆的な作品である。

参考文献

1)髙橋正雄:文学にみる複雑性PTSD・1.精神療法 47:498-499, 2021
2)髙橋正雄:文学にみる複雑性PTSD・2.精神療法 47:637-638, 2021
3)髙橋正雄:精神療法と病跡学・第2報.精神療法 44:878-882, 2018
4)横溝正史:八つ墓村.KADOKAWA, 1996
5)エミリア・バサン(著),吉田秀太郎(訳):拳銃.世界短篇文学全集9.集英社,1963
6)エミリー・ブロンテ(著),河島弘美(訳):嵐が丘.岩波書店,2004
7)髙橋正雄:精神医学的にみた近代日本文学(補遺17).聖マリアンナ医学研究誌 96:51-56, 2021

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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