文献詳細
書評
—青木省三,村上伸治,鷲田健二 編—大人のトラウマを診るということ—こころの病の背景にある傷みに気づく フリーアクセス
著者: 小林桜児1
所属機関: 1神奈川県立精神医療センター
ページ範囲:P.1205 - P.1205
文献概要
かくもトラウマという用語は,人間に対極的な反応を引き起こす。女性の性的トラウマから研究を始めたはずのFreud自身,やがてトラウマ体験は本人の空想,と解釈するに至った。第一次世界大戦中に戦争神経症を発症した兵士たちは臆病者とみなされ,イギリスの精神科医Lewis Yeallandは電気ショックで治療しようとした。トラウマ体験が心の病を引き起こすことを私たちが認めることが難しい理由の一つは,それを認めてしまうと,患者は「炭鉱のカナリア」に過ぎず,患者を取り巻く他者が,社会が,つまりはその社会に属する私たち一人ひとりが変わらなければならない,という現実と向き合うことになってしまうからではないだろうか。
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