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文献詳細

雑誌文献

精神医学66巻1号

2024年01月発行

古典紹介

シャルル・ラセーグ—ヒステリー性拒食症について【第2回】

著者: 西依康1 稲川優多1 加藤敏2

所属機関: 1自治医科大学精神医学講座 2小山富士見台病院

ページ範囲:P.96 - P.106

文献概要

(第65巻12号より続く)
 私は2人の同僚とともに,私が強調しようとしている希少な特徴をよく表している事例を観察した。20歳の若い女性で,彼女は歌の練習をしたのに引き続いて,喉頭の痙攣性か何かの苦しみに襲われた。それが痛みと呼ぶにふさわしいかどうかはともかくとして,それは不明瞭で,説明が難しく,しかし大いに不愉快な感覚であった。患者はまず歌うのをやめてしまい,頑なに,もう二度と歌ってみようとしなくなった。前々から彼女は,歌うことは自分の能力を超えていると明言していたのである。新たに努力することを求められなければ,彼女は休むことしか望まない。治るならばどれほどよいかと言うことさえある。しかしそれは,彼女に誰も新たな努力を求めない時に限られている。最も合理的な治療も効果を上げぬまま,この不調は1年近く続いた。
 中等度の痛みを伴う同様の現象が,もはや歌っている時ではなく,ただ話をするということだけでも繰り返されるようになった。それは同じく漠然としていて,やはりやる気をそぐものだった。患者は完全な緘黙に陥り,一言でも発するよりはメモ帳に書くほうを好むようになった。こうして彼女は自発的な隔離生活に閉じこもり,家族や世間との関係を一切遮断した。彼女は,自分の考えの中から,自分にはこの状況は耐えられそうにないと書き,薬を拒否することは全くなかったが,しかし周囲から絶えず急かされても,話すことを決心することはできなかった。彼女が尻込みする困難の理由を執拗に尋ねられると,彼女はこう答えた。「苦痛が大きいわけでは全然なかったけれど,それに立ち向かう力があると思えないのです」。極めつけのもったいぶった調子で,彼女がほんの少しばかり言葉を話したことがあるが,その声ははっきりとよく響き,そこに何の障害も認められなかった。喉頭を注意深く検査したが,何の異常もなかった。

参考文献

1)Postel J, Quétel C:LASEGUE Ernest-Charles. In:Nouvelle histoire de la psychiatire. Privat, Paris, pp622-623, 1983
2)Olmsted JMD, Olmsted EH:Claude Bernard and the experimental method in medicine. H. Schuman, New York, 1952[オムステルドJMD,オムステルドEH(著),黒島晨汎(訳):クロード・ベルナール—現代医学の先駆者.文光堂.p15, 1987]
2)Olmsted JMD, Olmsted EH:Claude Bernard and the experimental method in medicine. H. Schuman, New York, 1952[オムステルドJMD,オムステルドEH(著),黒島晨汎(訳):クロード・ベルナール—現代医学の先駆者.文光堂.p35, 1987]
4)Lasègue C:École psychique allemande. In:Études Médicales(tome 1). Asselin et Cie, Paris, pp1-59, 1884
5)Lasègue C:Études médicales, tome 1,2. Asselin et Cie, Paris, 1884
6)Wartenberg R:Lasègue sign and Kernig sign;Historical notes. Arch Neurol Psychiatry 66:58-60, 1951
7)Vandereycken W, van Deth R:From fasting saints to anorexic girls;The history of self-starvation. NYU Press, New York, 1994[ヴァンダーエイケンW,ヴァンDR(著),野上芳美(訳):拒食の文化史.青土社,pp210-220, 1997]
8)Lasègue C:De la toux hystérique. In:Études Médicales(tome 2). Asselin et Cie, Paris, p1, 1884
9)Bernard Cl:Introduction à l'étude de la médecine expérimentale. Éditions Garnier-Flammarion, Paris, 1966[ベルナールCl(著),三浦岱栄(訳):実験医学序説.岩波文庫,pp187-188, 1938]
10)Lasègue C:Hystéries périphériques. In:Études Médicales(tome 2). Asselin et Cie, Paris, pp64-79, 1884
11)Lasegue C:Questions de thérapeutique mentale. In:Études Médicales(tome 1). Asselin et Cie, Paris, p596, 1884

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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