icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

精神医学66巻10号

2024年10月発行

雑誌目次

特集 不登校の理解と支援

特集にあたって フリーアクセス

著者: 金生由紀子

ページ範囲:P.1237 - P.1238

 不登校は,文部科学省によると,年度間に30日以上登校しなかった児童生徒のうち,「何らかの心理的,情緒的,身体的,あるいは社会的要因・背景により,登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(ただし,「病気」や「経済的理由」,「新型コロナウイルスの感染回避」による者を除く。)」とされている。小中学生の不登校の人数の推移を見ると,2012年度から増加し続けており,2022年度は29万人以上となっている。新型コロナ感染症の流行後にその傾向が特に顕著である。
 不登校の動向には,家庭や学校,社会のあり方の変化も関連していると思われる。たとえば,インターネットやデジタル機器の普及による生活の諸側面の変化に新型コロナ感染症の流行が重なって,より影響が増幅したということもあるかもしれない。このような変化は,余裕の乏しい家庭や学校には負担となるかもしれない一方で,新たな活動や居場所の可能性を広げるかもしれない。

【総論】

不登校概論

著者: 宇佐美政英

ページ範囲:P.1240 - P.1247

抄録
 デジタル機器があふれると同時に過去最大数の不登校児童数を認めている現代であるが,子どものこころの成長過程の本質は変わらない。臨床医たちは,学校という同世代集団を前に怯え佇んでいる子どもたちと向き合うとき,人生の先達である大人として正しい道を教えるのではなく,険しい道の歩き方を一緒に考えていける姿勢が求められる。不登校診療にあたる臨床医たちには子どもの育ちとその心性を理解したうえで不登校の子どもとその親に合わせたテーラーメイドな心理社会的治療を提供することができる臨床力が欠かせない。

【家庭・学校・社会との関連】

不登校と家族の状況—子どもが発信するSOSを手がかりとした家族理解

著者: 中地展生 ,   山口祐子

ページ範囲:P.1248 - P.1254

抄録
 文部科学省の分類では,「長期欠席」の中に「不登校」や「病気」「経済的理由」「その他」などが含まれている。近年の複雑化する社会状況などを踏まえて,本稿では「不登校」本来の定義よりもやや広い範囲から「不登校と家族」の状況をまとめた。具体的には,2020〜2024年に発表された「不登校」と「家族」をキーワードとする39の論文から本テーマに沿ったものを10本選んだ。これらの論文を手がかりとして,「家族機能」「家族システム」などの家族療法的な視点からその家族理解について説明を行った。次に,「不適切な養育(マルトリートメント)や貧困」に加えて,これらの問題とも関連が深い「ヤングケアラー」についても取り上げて,同様に解説を加えた。

学校教育の在り方と不登校—学校は変われるのか?

著者: 和久田学

ページ範囲:P.1255 - P.1262

抄録
 不登校は,学校教育の問題として認識されなければならない。文部科学省の問題行動等調査では,不登校の主たる要因が「無気力・不安」であるものが半数以上であるとされているが,不登校児童生徒本人を調査対象とした実態調査によると,学校に関わる要因が指摘されており,この2つの調査には乖離がある。公益社団法人子どもの発達科学研究所が行った調査では,不登校に関連する要因を「いじめ被害および友達とのトラブル」「教師の行動,学校風土」「授業,学習支援の問題」「児童生徒の体調,メンタルヘルス,生活リズムの不調」「発達特性や家庭背景に関する要因」の5つに整理することができた。これらは,すべて学校教育の枠組みを問う問題である。教育機会確保法が施行され,不登校とその支援の考え方が大きく変化した今,学校教育の変化が求められている。

不登校を取り巻く社会の状況

著者: 中土井芳弘 ,   岡田倫代

ページ範囲:P.1263 - P.1269

抄録
 不登校児童生徒数は,2012年を境に増加に転じ,2020年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大とともに急増した。同様に若年自殺者数も急増し,子どもを取り巻く状況が,子ども自身の心身に,大きな影響を及ぼしていることが推察された。特に,家庭の状況は在宅勤務などで大きく変化し,学校は,コロナ禍での制限解除後もさまざまな教育施策に応えようとする教員の多忙化で,子どもたちと向き合う時間の確保が難しい状況に至っている。子どもは,頻繁にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通して自分の居場所を確認したり,仲間関係を構築しようしているが,常にリスクと背中合わせの状態で生きている。特に日本の子どもたちは,もともと仲間関係の構築が苦手であったり,社会的支援を求めにくかったりするところがあったが,コロナ禍により,さらにチャムシップの構築が難しくなり,それに伴う不安の増加がみられ,不登校の増加につながっている可能性が示唆された。

愛着や居場所という視点から考える不登校

著者: 和迩健太 ,   村上伸治

ページ範囲:P.1270 - P.1276

抄録
 不登校の生徒数は,社会のあり方や不登校に対する考え方が変化しているとはいえ,依然として高い水準で推移しているのが現状である。精神科臨床において愛着に問題を抱える虐待例を中心とした不登校ケースは当然として経験することがあるが,幼少期の愛着形成に特に問題もなく普通に育てられてきた子どもが不登校となり,その瞬間から子どもと親の愛着に混乱を来すケースのほうがむしろ多い。家庭内が「安全基地」として機能していたにもかかわらず,不登校問題に親が戸惑ってしまった結果「安全基地」として機能しなくなるからである。そのような愛着に混乱を来した親子に対して精神科医ができることは,子どもに対しては肯定し続け,時に診察室を「安全基地」として提供し,また親に対しては親の混乱を受け止めながら子どもを肯定的に受け止めるあり方を伝えていくことで,再び家庭を「安全基地」として機能させることではないかと考える。

各国における不登校を取り巻く状況—COVID-19パンデミック前後の変化を中心に

著者: 西村倫子

ページ範囲:P.1277 - P.1283

抄録
 学校への登校に関する問題は,国内外で古くから研究されてきた。特に「不登校」については日本からの研究発信も多く,その原因やきっかけといった関連要因は,世界各国からの報告と大きく異ならない。COVID-19パンデミック前後で学校を取り巻く状況は変化し,不登校は大きく増加したが,これも日本に限ったことではない。急増の原因は不明ではあるものの,登校に関する潜在的な問題が閾値を超えて顕在化した可能性や,オンライン学習の増加,メンタルヘルス低下などが関連した可能性がある。一方で,学びの場や居場所の選択肢は広がりをみせている。本稿では,特にパンデミック前後の変化に焦点を当てて,不登校の有病率,関連要因,介入・支援,学びや居場所の選択肢といった,不登校を取り巻く世界の状況を概観する。

【不登校に潜む精神疾患・症状】

不登校と精神疾患

著者: 山岸正典

ページ範囲:P.1285 - P.1293

抄録
 不登校の支援において,その背景に潜む精神疾患の診断と対応は精神科医の重要な役割である。児童思春期発症の精神疾患は症状が非定型的で,診断確定に時間を要することも多いが,成人の精神科の知見が生かせる部分も少なくない。児童思春期の精神疾患の診断を試みるうえでの留意点を意識するとともに,その特徴を把握することで,一般の精神医療の場でも可能な支援がある。治療に関しては,統合失調症,双極症Ⅰ型では薬物療法,うつ病,不安症,強迫症,摂食障害では心理社会的治療が中心となる。軽症例では疾病教育主体のアプローチで改善が得られるケースも多く,本人,家族との共同意思決定を心がけながら試みるとよい。不登校の支援の目標は,再登校することではなく,本人なりにwell-beingを追求するための基盤作りであり,医療や教育はともにこれを支える柱の1つである。限られたリソースの中,最善を追求し続けることが,よい治療関係ひいては回復の礎となる。

発達障害のある子どもの不登校への支援

著者: 井上雅彦

ページ範囲:P.1294 - P.1300

抄録
 不登校状態をもたらす学校不適応に対して,発達障害あるいはその特性が関与していることが指摘され,発達障害の存在は高い不登校リスクとなることが知られている。本稿では不登校状態の要因を個人要因と環境要因の相互作用から捉え,自閉スペクトラム症についてこれらの関連要因をリストアップした。しかしながら一般の精神科医療の中では,学校場面への直接的なアプローチは困難であり,その治療は保護者,学校関係者,スクールソーシャルワーカーなどと連携しながら行うこととなる。本稿では,精神科医療の中でのアプローチとして,併存症を含む診断やアセスメントによる合理的配慮への支援,保護者に関する心理的アセスメントと支援,関連症状に対する投薬治療・心理治療に大別し,その概要について解説した。

いじめ被害と不登校,自殺

著者: 桝屋二郎

ページ範囲:P.1301 - P.1309

抄録
 日本においては,いじめの認知件数は増加の一途をたどっている。2011年の滋賀県大津市におけるいじめ自殺事件は社会問題化し,2013年の「いじめ防止対策推進法」成立につながった。本法では学校におけるいじめの定義や予防・対策について法的に規定されている。小児期のいじめ被害体験は小児期逆境体験(ACEs)の定義拡大時に新たに加えられたように,人の健全な発達の過程に逆行するようなトラウマ体験であり,心身の成長発達に大きな悪影響をもたらすことが分かってきた。いじめ被害は短期的には不安や抑うつ気分・登校困難などを生じるが,重篤になると自殺リスクが上昇する。一方で長期的に見ても,成人期以降のうつ病や不安症の発症,あるいは自殺リスクを有意に高める。

不登校とゲーム依存・ネット依存

著者: 館農勝

ページ範囲:P.1310 - P.1316

抄録
 ゲームやネットに没頭してしまい,やめることができなくなってしまう子どもたちが増えている。ゲーム・ネットの使用時間が増えると,最初に削られるのは睡眠時間であることが多く,遅刻や欠席が増え,やがて不登校に発展する場合もある。一方,学校への登校が困難となり不登校になると自宅ではゲームやネットをして過ごすことが多い。その際,家族はゲーム・ネットが一番の原因と考えがちだが,友人関係や学業など学校のストレスが主因となる。ゲーム依存・ネット依存は不登校と関係が深いが,そこに関連する心理社会的要因は極めて多様である。両者に共通して併存する神経発達症が回復を困難にする場合もある。さまざまな要因が絡み合い生じた依存からの回復支援には,その全体像を理解するための包括的なアセスメントが必須である。不登校の支援においては,ゲームやネットという子どもの居場所を尊重した支援が重要である。

不登校と睡眠の問題

著者: 井上彩織 ,   堀内史枝

ページ範囲:P.1317 - P.1323

抄録
 不登校の理由として「朝起きられない」を挙げる子どもも多い。思春期になると,不登校の有無にかかわらず,生理的に睡眠相が後退しやすい。不登校の背景に鑑別が必要な睡眠障害が隠れている場合もあり,注意が必要である。不登校に多い起立性調節障害と睡眠・覚醒相後退障害はそれぞれ合併も多く,いずれも低活動や生活リズムの乱れでさらに状態が悪化しやすく,不登校を長引かせるという悪循環がみられる。しかし,登校や対人交流への葛藤から「朝起きられない」状態に陥っている場合も多く,睡眠の治療的介入のみで改善することはなかなか難しい。また,睡眠とゲーム,SNSの問題も切り離せない課題である。睡眠日誌や睡眠衛生教育など認知行動療法的な介入を用いながら,本人と治療関係を築いていけるようなアプローチが望まれる。

不登校と身体症状

著者: 永光信一郎

ページ範囲:P.1324 - P.1329

抄録
 小児医療提供体制の中で,子どもの心の問題への対応が重要視されてきている。特に不登校の児童生徒は毎年5万人ずつ増え続け,小児科クリニック,精神科クリニックでの対応が求められている。不登校の初期症状として,繰り返す頭痛・腹痛や,めまい,朝起きられないなどの起立性調節障害の症状を呈することがしばしばある。子どもの心の診療医は,不登校に伴う身体症状の原因が器質的疾患でないことを診療で明らかにし,精神症状と身体症状が相互に関与する心身相関の機序を説明し,身体症状への対応を本人と保護者に提供しなければならない。本人と保護者が身体症状に注目し過ぎると,心の診療や支援が進まない一面がある一方,子どもが発せられた身体症状の主訴に真摯に向き合うことで,徐々に心の診療が深まっていくこともある。小児科を受診する不登校の特徴,不登校の子どもに認める身体症状,起立性調節障害への対応,身体症状を伴う不登校への支援を中心に解説する。

【社会資源との連携】

不登校支援における,学校内での多職種連携・協働のあり方

著者: 竹森元彦

ページ範囲:P.1330 - P.1335

抄録
 本稿では,不登校への対応として,主に学内で,教員,養護教諭,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカー,さらには校医などがどのような役割を担って協働していけるのかについて論じた。学校のみで対応できない問題が増え多職種連携は不可欠である。多職種連携の重要性は認識されているが十分に機能しているとは言えない。それぞれの職務の特徴とともに,他の専門家と具体的にどのような点を協働するのか,どのような点に留意すべきかなどを具体的に記述した。学校内の不登校対応のチームが機能することによって,学校の安心安全につながる。多職種連携は「違い」を生かす実践である。「違い」から学ぶことによって,それぞれの専門性はより高まると考えられる。

「メガネ」を外してみませんか?—不登校「理解」の歴史から「支援」を考える

著者: 山下耕平

ページ範囲:P.1336 - P.1341

抄録
 本特集のテーマ「不登校の理解と支援」を考えるにあたって,まずは不登校がいかに「理解」されてきたかをたどり,それがどのような「支援」と結びついてきたかを考える。時代とともに,不登校への理解は進んできたように思える反面,子どもや若者の生きづらさは増しているように思える。それは,業績承認ばかりが肥大化し,評価のまなざしが社会のすみずみ,個々人の心身や言動のすみずみにまで浸透し,がんばる人が認められる道は多様になったものの,がんばれない人への圧力はかつてないほど高まっているからではないか。かつては登校/不登校の線引きが大きな問題だったが,現在は,生産性の有/無へと線引きの視点がシフトしている。そうした状況のなか,不登校への支援はいかにあるべきか。周囲に求められるのは,それぞれが自分の「メガネ」を外すことではないか。子どもを問題視して介入するのではなく,肯定し信頼しながら連携していくことを模索したい。

不登校に伴う家族への支援

著者: 牛島洋景

ページ範囲:P.1342 - P.1347

抄録
 不登校の支援において家族への支援は必須のことである。しかし,家族への支援には多くの矛盾や支援者の葛藤が含まれていることを忘れてはならない。家族への支援はサポーティブな側面がある一方で,家族への侵襲的な要素が含まれているなど矛盾を含んでおり,それぞれの思いを慮る必要がある。不登校の子どもの病理を家族が理解することが必要である一方,無理に理解するように促すことが,家族の自責の念や支援者への不信感を惹起する可能性がある。かといって,家族の思いを理解することのみでは,子どもへの対応が疎かになる。治療者はその葛藤を自覚しながら,バランスよく支援にあたるべきである。相談に訪れた家族の反応を十分に見極め,支援計画を立てる必要がある。その支援の先にある家庭と社会との再統合を見据える感覚を忘れずに,他機関との連携も密に行うとよいであろう。

不登校から社会的自立へ—不登校者支援体制の課題と可能性

著者: 足名笙花 ,   豊田毅

ページ範囲:P.1348 - P.1353

抄録
 筆者(足名)は中学時代に約3年間不登校を経験し,不登校者に対する当時の理解の少なさや不十分な支援の中でさまざまな問題を抱えつつも通信制高校に進学し,そこで得た友人や環境に助けられて大学進学を果たした。現在は大学院で不登校に関わる研究をしながらフリースクールに携わり,不登校者に対して社会的自立を見据えた支援を行っている。
 不登校者が増加する中で,不登校者の選択肢としてフリースクールは選ばれ,今後は子どもたちの成長の場としてさらに大きな役割を果たしていくことになる。これからは不登校になったことを問題視するのではなく,不登校となったことで生じる問題に対して1つひとつ適切に対処していくこと,「困難をしなやかに乗り越え回復する力」であるレジリエンスを育み,1人ひとりの子どもたち若者たちの未来を見据えた支援を行うことを重視していく必要がある。

書評

—金生由紀子 編 今村 明,辻井農亜 編集協力—発達障害Q & A—臨床の疑問に応える104問 フリーアクセス

著者: 小平雅基

ページ範囲:P.1354 - P.1355

 本書は『精神医学』誌2023年5月増大号特集「いま,知っておきたい発達障害Q & A 98」に,追加の質問を加えバージョンアップして書籍化したものである。日常診療で生じる多岐にわたる実臨床に沿った疑問に対して,発達障害の臨床の第一線で活躍する専門家たちが回答している。医療から福祉・教育領域の支援者まで幅広い読者の知りたいことにQ & A形式でわかりやすく解説しており,発達障害臨床の指針となる一冊といえるだろう。
 今では「発達障害」という言葉は世間一般に広く知れわたるようになっているが,その概念は時代とともに拡大してきた経過がある。歴史をさかのぼると1963年に米国で法律用語として誕生した「発達障害」という用語だが,さまざまな変遷を経て日本でその社会的理解や支援が促進される転換期となったのは2005年「発達障害者支援法」の施行といえる。ただし非営利団体が行ったある調査によれば,「発達障害」の社会的認知度は高い一方で,当事者や家族の多くは「十分に理解されていない」と感じているというギャップが存在することも報告されている。これは社会的な認知度が高まる一方,ともすればスティグマになりかねない危うさを示しているともいえよう。同様に「グレーゾーン」「Highly Sensitive Child」などといった言葉も発達障害と絡んで臨床現場に広がってきているが,これらもまた整理が難しく,そのような用語を使用する背景には,さまざまな医師側の葛藤が見え隠れしているようにも思える。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1235 - P.1235

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1356 - P.1356

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.1362 - P.1362

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら