文献詳細
文献概要
書評
—森田達也,明智龍男 著—死を前にしたひとのこころを読み解く 緩和ケア÷精神医学 フリーアクセス
著者: 兼本浩祐1
所属機関: 1愛知医大
ページ範囲:P.1491 - P.1491
まずは,「変えられるものを変える勇気を,変えられないものを受け容れる冷静さを,そして,変えられるものと変えられないものを区別できる知恵を」というニーバーの祈りのことである。以前,明智先生からそのお話を聞いて感銘を受け,ニーバーの本も購入したが,この言葉にどうして自分が惹かれたのか,今回の本を読んで改めて感ずるところがあった。この言葉は,精神科医が身体に関わろうとする時に,常に突きつけられる困難を集約している。死はもっとも端的に身体の問題であるのはいうまでもないが,たとえば評者が専門とするてんかんも,時に抗いがたい身体の問題として現れる。死は究極の変えることができない私たちの身体の宿命である。てんかんは多くの場合は幸いなことに「変えられる」が,しかし時には身体の論理が私たちを圧倒し,その時点では人の力では抗うことができないてんかんの発作も存在する。目の前にある苦しみが,変えることができるものなのか,それとも変えられないものなのかを見誤ることは許されない。しかし神ならぬ私たちはそれでも時として見誤るのである。だから,どうか間違いませんようにと祈らざるをえない。
掲載誌情報