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雑誌目次

雑誌文献

精神医学66巻5号

2024年05月発行

雑誌目次

増大号特集 精神科診療における臨床評価尺度・検査を極める—エキスパートによる実践的活用法

特集にあたって

著者: 數井裕光

ページ範囲:P.467 - P.468

 さまざまな精神症状,認知機能,生活機能などを評価するために評価尺度,心理検査,認知検査などが考案されている。また治療においては,家族との協同を必要とする場面も多いため,家族の介護負担感などを評価する尺度もある。われわれは,このような評価尺度や検査を使用しながら診療を行っているが,複数ある評価尺度や検査の中からどれを選択し,どのようなタイミングで使用するのかについては診療者間で十分に共有されてこなかった。そこで本特集では,それぞれの疾患や治療のエキスパートたちが,実臨床場面で,これらの評価尺度や検査をどのような考えに基づいて選択しているのか,また結果をどのように解釈し,どのように診療に役立てているのかなどについてまとめてもらった。さらに各疾患のセンターと呼ばれるような専門医療施設では,複数の評価尺度や検査をどのような手順で実際に使用しているのかなどについてまとめてもらった。
 具体的には,本特集は3章立てとなっており,第Ⅰ章「疾患横断的で基本的な評価尺度・検査」では,さまざまな場面や疾患において広く使用されている尺度・検査について解説してもらった。第Ⅱ章「疾患別の評価尺度・検査」では,DSM-5の診断分類などに準拠して,疾患別に診療に有用な評価尺度・検査について解説してもらった。その際,スクリーニングに有用なものと重症度評価や治療などによる変化を測定できるものとは区別して解説してもらった。さらに一般診療で使用する尺度・検査を優先するものの,臨床研究などにおいて重要なものにも触れてもらった。第Ⅲ章「臨床場面別の活用法」では,評価尺度や心理検査,認知検査などが特に有用と考えられる精神科診療場面のいくつかを取りあげて,実際の診療の流れに沿った使用法や手順について解説してもらった。外来診察の待ち時間に実施可能な自記式尺度,初回診察時に行う検査,経過観察時に行う検査などについての記載をお願いした。また必要な場合には,血液検査,生理検査,画像検査,脳脊髄液検査などにも触れてもらった。

序章

心を測る,その前に—臨床評価・検査実施の留意点

著者: 植野仙経 ,   村井俊哉

ページ範囲:P.470 - P.475

はじめに
 精神症状や認知機能,生活機能などを評価するうえで,検査(臨床評価尺度を含む)は有用なツールとなりうる。それらを活用するためには,目的や状況を考慮して検査を選択し,適切に実施することが必要である。
 具体的な検査の活用法の紹介に先立ち,本章では検査の使用にあたって留意すべき以下のポイントについて述べる。
・検査は面接や観察と組み合わせて使用する
・検査は同じ手続きで行う
・目的に適した検査を行う
・目的によって検査の妥当性の基準は異なる
・検査が測っているもの(構成概念)は存在するのか
・検査が測っているもの(構成概念)は確定したものではない

Ⅰ章 疾患横断的で基本的な評価尺度・検査

知能検査—Wechsler知能検査(WAIS-Ⅳ,WISC-Ⅴ)

著者: 松田修

ページ範囲:P.479 - P.486

はじめに
 知能検査は,精神機能の重要な側面のひとつである知能を測定・評価するための心理検査である。知能検査の臨床活用に際してまず留意しなければならないのは,測定・評価の対象である「知能」が心理学的構成概念にすぎない点と,その定義が研究者により異なる点である。しかし近年,知能の核心に関して著名な研究者による合意が得られた1)。これによると,知能とは,推論し,計画を立て,問題を解決し,抽象的に考え,複雑な考えを理解し,すばやく学習する,あるいは経験から学習するための能力を含む一般的な知的能力で,ものごとを「理解し」,それに「意味を与え」,何をすべきか「見抜く」ための,より広く深い能力である1)。この定義に加えて,近年,大きな注目を集めているのがCHC(Cattell-Horn-Carroll)理論2, 3)である。この理論は,近年開発された知能検査・認知検査に共通する理論基盤となっており,検査結果の解釈に活用されている4)
 CHC理論は,限局性学習症(SLD),注意欠如多動症(ADHD),自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症群の主訴の理解や支援の検討に活用することができる。また,小児期のうつ病における神経認知的障害に関する研究5)や,うつ病とアルツハイマー病の鑑別診断に関する研究6)でCHC理論の観点から分析が行われている。
 今なお細かい修正が続いているCHC理論だが,その大きな特徴は,知能あるいは認知能力を3層の階層構造で整理している点である。最下層に位置する第1層には,多くの細分化された能力(narrow ability:限定能力)が位置する。これらの能力を大きくまとめた能力(broad ability:広範能力)が,その上位に第2層として位置付けられている。ここには,流動性推理(fluid reasoning:Gf),結晶性能力(理解-知識)(comprehension-knowledge:Gc),短期記憶(short-term memory:Gsm),視覚処理(visual processing:Gv),聴覚処理(auditory processing:Ga),長期貯蔵と想起(long-term storage and retrieval:Glr),認知処理速度(cognitive processing speed:Gs),決定と反応速度(decision and reaction speed:Gt),読みと書き(reading and writing:Grw),量的知識(quantitative knowledge:Gq)などの能力が含まれる(これらの他に暫定的に6つの能力が提案されている)3)。そして,第2層の能力を統合した能力が最上位の第3層に位置付けられ,これが全般的な知的能力を表す一般知能(g因子)とされている4)
 さて,本稿で取り上げるWAIS-Ⅳ(Wechsler Adult Intelligence Scale-Forth edition)の日本版(日本版WAIS-Ⅳ)7, 8)と,Wechsler Intelligence Scale for Children-Fifth editionの日本版(日本版WISC-Ⅴ)9, 10)は,知能を「目的をもって行動し,合理的に思考し,自らの環境に効果的に対処するための個人の能力」と定義したDavid Wechsler博士によって開発されたWechsler(ウェクスラー式)知能検査の日本における最新版である。また,上述のCHC理論における広範能力のうち,おおよそ5つの能力,すなわち,流動性推理(Gf),結晶性能力(Gc),短期記憶(Gsm),視覚処理(Gv),認知処理速度(Gs)を反映していると考えられている。なお,これらの検査の診療報酬点数は,2024年3月現在,450点(根拠D283-3)である。

全般的精神状態を評価する代表的な尺度—GAF,WHODAS 2.0

著者: 小澤寛樹

ページ範囲:P.487 - P.491

はじめに
 GAF(Global Assessment of Functioning:GAF),WHODAS 2.0(The World Health Organization Disability Assessment Schedule-Ⅱ)は,精神医学における全般性尺度として,患者の精神状態と機能の全体的な評価に不可欠なツールである。本稿ではこれらの尺度の開発の経緯から使い分け,今後の展望を紹介する。

自尊心・自己肯定感・自己効力感および逆境的小児期体験の評価—ローゼンバーグ自尊感情尺度,ACE調査票

著者: 金生由紀子

ページ範囲:P.492 - P.496

はじめに
 精神医療において,横断的な観点と縦断的な観点を総合するとともに,肯定的な側面を含めて,患者全体を把握することが重要と思われる。
 本稿では,肯定的な側面として,自尊心・自己肯定感・自己効力感の評価について述べてから,発達の過程で遭遇した逆境的小児期体験の評価について述べる。その際には,評価尺度について具体的に述べている和文論文を中心に紹介して,実臨床につながるような解説を心がけた。

Ⅱ章 疾患別の評価尺度・検査 神経発達症群

知的能力障害群の評価・検査—田中ビネー知能検査Ⅴ,新版K式発達検査,Vineland-Ⅱ適応行動尺度

著者: 茶谷佳宏 ,   惣田聡子 ,   高橋秀俊

ページ範囲:P.498 - P.502

はじめに
 発達障害者支援法が施行されて20年近く経過し,幼少時から知的機能を評価する機会が増えている。一方で,知的能力障害の診断は,知能指数の値だけで決まるものではなく,適応行動の程度に応じて判断されるという認識が広まっている。特に,知的能力障害の程度が軽度あるいは境界知能の人の支援を考える際に,その人の知的機能のあり方を見極め,社会適応に与える影響について考慮する必要性が認識されている。
 知的機能の遅れに乳幼児健診などで早期に気づかれ,早期治療・早期療育につながるケースもあれば,知的能力障害の程度が軽度の場合は,学業の困難さで学齢期になって初めて気づかれるケースも多い。なかには偏見などを恐れて,成人になっても支援につながらず生活上の困難さを抱えるケースもある。知的能力障害への支援は,療育手帳交付や特別支援教育などが行われる。就労支援に関しては,知的能力障害のほうが精神障害よりも歴史が長い。診断や告知には慎重を要するが,知的能力や社会適応能力を適切にアセスメントし,個々のニーズに応じた支援につなげることは非常に重要である。

自閉スペクトラム症の評価尺度の臨床活用—M-CHAT,AQ,SRS-2,PARS-TR,CARS2ST,CARS2-HF,DISCO-11,ADI-R,ADOS-2

著者: 菊知充 ,   吉村優子

ページ範囲:P.503 - P.508

ASDを評価する尺度の位置づけ
 自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は神経発達症の1つである。すべてのASDに共通する特徴は,①持続する相互的な社会的コミュニケーションや対人的相互反応の障害,および,②限定された反復的な行動,興味,または活動の様式である。ASDは,注意欠如多動症や発達性協調運動症,知的発達症といった他の神経発達症と併存するケースが多いことや,症状も多様で重症度もさまざまであることから,臨床家の間で診断が一致しないケースもしばしば経験される。原因については,長らく誤解されてきた歴史がある。1940年代,自閉症は不適切な子育てが原因とされ,自閉症の子を持つ母親たちに「冷蔵庫マザー」という言葉が用いられたこともあり,長年にわたり,養育者たちは自責の念に悩まされた歴史がある。現在これは否定されている。研究者および医療関係者は,蓄積された研究結果から,ASDは先天的な脳機能の障害であり,育て方が原因ではないことを常識としている。
 ASDに関して,種々のスクリーニング検査や症状評価のための評価尺度が,それぞれの目的に応じて開発されてきた。ASD児の早期支援は,コミュニケーションの発達や,適応の向上などの効果が示されており,さらには成人後の自立度にも影響すると考えられる。早期支援へつなぐために,行政などが実施する集団健診などの機会を利用して,一般集団へのスクリーニングを行う試みが世界中で実施され,たくさんのスクリーニング尺度が開発されてきた。たとえば,乳幼児期自閉症チェックリスト修正版(M-CHAT)は,大勢の幼児を短時間(5分程度)で効率的に評価することが可能である。最初のスクリーニングにおいて,偽陽性率が高かったとしても,追跡が必要な被検者をある程度絞り込む場合に有効である。

注意欠如多動症の評価尺度・検査—ASRS-v1.1,ADHD-RS-5,Conners 3日本語版,CAARS日本語版,WURS,CAADID日本語版,DIVA-5

著者: 辻井農亜

ページ範囲:P.509 - P.513

はじめに
 注意欠如多動症(ADHD)は,年齢または発達水準に合わない不注意,まとまりのなさ,および/または,年齢または発達水準に対して過剰な多動-衝動性が障害レベルに達することにより特徴づけられる神経発達症である。ADHDはしばしば成人期まで持続し,その結果,社会的,学業的,および職業的機能の障害を伴う。ADHDのスクリーニング,診断や重症度の把握,治療効果判定には,児童青年期または成人期と発達に応じてさまざまな尺度が開発され,臨床から研究まで幅広く用いられている。本稿では,わが国で使用される主な評価尺度・検査について概説する。

限局性学習症の評価尺度と検査—日本版KABC-Ⅱ

著者: 今村明 ,   岩永竜一郎

ページ範囲:P.514 - P.519

はじめに
 限局性学習症(specific learning disorder:SLD)とは,神経発達症の1つであり,読み,書き,算数能力などの学習技能が,その人の暦年齢(または暦年齢と知的能力)から期待されるより顕著に低い状態で,その学習の困難さが知的発達の障害,視覚または聴覚の障害,他の精神または神経疾患,教育の欠如,心理社会的逆境体験などに起因するものではない状態である。DSM-5(DSM-5-TR)1)でSLDとして示された概念は,以前は「学習障害(learning disabilities:LD)」として知られており,またICD-11では「発達性学習症(developmental learning disorder)」2)がこれに該当する。
 本稿では,限局性学習症についての診断と臨床評価・心理検査について,KABC-Ⅱ(Kaufman Assessment Battery for Children Second Edition)を中心に概説する。

統合失調スペクトラム症及び他の精神病症群

統合失調症の精神症状に関する評価尺度—PANSS,BPRS,SANS,SAPS

著者: 中山知彦 ,   沼田周助

ページ範囲:P.520 - P.525

はじめに
 統合失調症は幻覚妄想などの陽性症状だけでなく,感情鈍麻や意欲減退といった陰性症状,認知機能障害など多彩な症状を呈する。急性期においては陽性症状が目立つため,陰性症状や認知機能障害が存在していても見落とされがちである。患者の精神症状をもれなく評価することは容易ではないが,評価尺度は患者の精神症状の重症度や改善の指標として有用である。現在,重症度評価や治療効果の判定には陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale:PANSS)が主に用いられている。本稿では,PANSSを中心に統合失調症の精神症状に関する評価尺度について解説する。

統合失調症の認知機能および日常生活技能・社会機能の評価—MCCB,BACS,SCIP,SCoRS,UPSA-B,SLOF,MATRICS-PASS

著者: 長谷川由美 ,   住吉太幹

ページ範囲:P.526 - P.529

はじめに
 統合失調症では,記憶,実行機能,語流暢性,注意,処理速度などを測定する神経心理学的検査の成績が,健常者と比べ1〜1.5標準偏差程度低下している1)。これが統合失調症の認知機能障害(cognitive impairment in schizophrenia:CIS)の定義である1, 2)。CISは寛解状態においても残存し,就労や日常生活技能などの機能的転帰を予測する。このことから,CISをターゲットとした薬物療法,心理社会的介入法,低侵襲脳刺激法などの開発が進められているが,現時点では保険収載されている治療法はない3)。以上のような治療法の開発や患者の社会復帰を精緻に行うには,科学的にコンセンサスを得た検査法によるCISの評価が不可欠である。
 米国ではCISの改善に向けた治療法の開発を目指して,国立精神保健研究所(National Institute of Mental Health:NIMH)主導のMeasurement and Treatment Research to Improve Cognition in Schizophrenia(MATRICS)Initiativeが発足した4)。MATRICS Initiativeによるプロジェクト開始以降,機能的転帰の各階層,すなわち認知機能,日常生活技能(daily-living skillsまたはfunctional capacity),社会機能(social functionまたはfunctional performance)が1つの連続体として理解されるようになった(図1)5)。このような流れから,認知機能を含む機能的転帰の各階層の評価尺度(測度)が開発され,日本語版の整備および妥当性の検証も行われてきた2, 6, 7)

双極症及び関連症群

双極性障害(双極症)及び関連障害群の評価尺度・検査—YMRS,HAM-D,気分安定薬のTDM

著者: 寺尾岳

ページ範囲:P.531 - P.536

概念・病態
 双極性障害(双極症:bipolar disorder)は慢性に経過する精神疾患の一群であり,これには双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害がある。双極Ⅰ型障害には躁病エピソードがあり,生涯有病率は0.6〜1.0%である。双極Ⅱ型障害には軽躁エピソードと抑うつエピソードがあり,生涯有病率は0.4〜1.1%とされているが1),筆者の考えるところ,実際にはもっと多く,うつ病と誤診されている症例も少なくない。双極性障害の70%以上が25歳以前に発症するため1),児童思春期発症のうつ病には,その後の人生において双極性障害と診断変更される症例がしばしばあり,これらは双極性障害に診断変更された時点からうつ病であった時期を振り返ると,その時期は潜在性双極性うつ病であったとも言える2)
 双極性障害の患者は心理社会的機能が低下するのみならず,10〜20年早死にすると言われるが,これには心血管疾患による死亡や自殺が関与している1)。以前,「タイプA行動パターン」という,せっかちで精力的な行動パターンの人が出世はするも人生半ばにして心筋梗塞で亡くなりやすい,ということが指摘された。筆者が考えるところ,タイプA行動パターンの背景にある発揚気質が双極性障害の病前気質でもあるために,双極性障害の死因としての心筋梗塞を,当時はタイプA行動パターンの死因として扱っていたのかもしれない。

抑うつ症群

抑うつ症群—HAM-D,MADRS,BDI,SDS,PHQ-9

著者: 岩田正明

ページ範囲:P.537 - P.542

はじめに
 うつ病は非常にありふれた疾患であり,日本人の約15人に1人が一生のうちにかかるとされている1)。このなかには,自らはうつ病と認識せず一般診療科を受診する患者も多いため,当該診療科において適切な自記式評価尺度を用いることにより,簡便にスクリーニングできることが望ましい。また,精神科を受診した患者においても,客観的な症状評価を定期的に行うことは,患者の予後の改善につながることが報告されている。これはmeasurement-based care(MBC)と呼ばれるもので,評価尺度による症状評価を定期的に用いた治療を受けた患者は,そうでない患者に比べて有意に改善することが知られている2)。具体的には,標準的な治療を受けた患者群の24週後の寛解率が28.8%であったのに対し,症状評価を取り入れた治療を受けた群の寛解率は実に73.8%であったという驚くべき結果が得られている(図1)2)。その理由としては,症状評価を行うことで客観的な改善度がわかり,改善がみられない場合には早期に薬物変更に着手できることや,患者自らが治療に積極的になること,またアドヒアランスが向上することなどが考えられている。このように,うつ病治療において客観的な評価尺度を用いることは非常に意義のあることと考えられる。
 本稿では,客観的うつ病評価尺度のゴールドスタンダードであるHamilton Rating Scale for Depression(HAM-D)とMontgomery Åsberg Depression Rating Scale(MADRS),および自記式評価尺度であるBeck Depression Inventory(BDI-Ⅱ),Zung Self-rating Depression Scale(SDS),Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)について説明する。

不安症群

全般不安症の評価尺度—GAD-7,HAM-A,PSWQ,STAI,SCAS

著者: 吉田斎子 ,   川上寿郎 ,   松澤朱里 ,   清水栄司

ページ範囲:P.543 - P.546

全般不安症の病態,概念
 全般不安症(generalized anxiety disorder:GAD)とは,6カ月以上にわたって極度の不安,緊張,心配が持続する精神疾患である。易疲労性,集中困難,睡眠障害のような症状も呈するため,うつ病の影に隠れて,診断されずに見逃されがちであり,プライマリケアで適切なスクリーニングが重要である1, 2)。日本における12カ月有病率は,うつ病(2.9%),限局性恐怖症(2.7%),GAD(1.2%),社交不安症(0.8%)の順に高かったとする疫学調査がある3)。また,米国のDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)4)ではGADの12カ月有病率は0.4〜3.6%,生涯有病率は4〜9%とされており,決してまれな病気ではない。

パニック症の評価尺度—PDSS,PAS,HARS

著者: 塩入俊樹

ページ範囲:P.547 - P.552

はじめに
 誰にでも生じる症状である不安は,精神健康調査票(GHQ)などの精神疾患のスクリーニング用の評価尺度や,状態・特性不安検査(State-Trait Anxiety Inventory:STAI)やZungの自己評価不安尺度(Self-rating Scale for Anxiety:SAS)などの全般的な不安症状の評価尺度など,疾患非特異的な評価尺度が多数存在するが,それらについては他稿に譲る。
 本稿では,パニック症(panic disorder:PD)の診療で役立つと筆者が考える症状評価尺度として,PDに特化したパニック症重症度評価尺度(Panic Disorder Severity Scale:PDSS)1)とパニック発作・広場恐怖評価尺度(Panic and Agoraphobia Scale:PAS)2)を,そして長年使用されてきたハミルトン不安評価尺度(Hamilton Anxiety Rating Scale:HARS)3)については併存症を診るためのツールとして紹介する。そして,それらの使用目的とタイミング,どのように使いこなすかなどについて,大学病院ではなく精神科クリニックでの実臨床に即し,筆者の経験を基に,診療のコツのようなものをお伝えしようと思う(残念ながら,紙幅の都合もあり,実際の評価尺度は省略する)。
 なお,より簡便な評価尺度(たとえば,パニック発作問診票Panic Attack Questionnaire-Ⅳ:PAQ-Ⅳ4)など)もあるのに,どうしてPDSSとPASを選んだかという理由は,両方とも医師用と患者用の2つがあり,それぞれの日本語版での信頼性および妥当性が検証されている1, 2)からである(当然,患者用を使用する)。また,3つとも約15分以内に評価できる点も実臨床的であろう。読者の皆さんの多忙な臨床現場において一助となれば,幸いである。

社交不安症の評価尺度—LSAS,FNE,SADS,SPS,SIAS

著者: 髙塩理 ,   高橋彩子 ,   杉田秀太郎

ページ範囲:P.553 - P.558

社交不安症の病態・概念
 社交不安症(social anxiety disorder:SAD)は,1980年に改訂されたDSM-Ⅲにおいて社会恐怖として登場した。海外において1900年代初頭にはすでに記載があり,日本においても近似する病態として「対人恐怖症」の知見が蓄積されてきた。歴史的に見ても「無視されてきた」一方で,看過できなかった疾患とも言える。米国での有病率は6.8%と報告され,他の不安症や気分障害,物質関連障害など他の精神疾患と併存しやすい。また,治療しないと症状は持続し慢性経過を辿り,学業や仕事や人間関係などに支障を来す。
 やがて疾患啓発が進み,名称は「社会」から「社交」へ,そして「恐怖」から「不安症」へと変更されてきた。その結果,「対人交流場面での単なる過剰に緊張しやすい性格」ではなく,治療可能な疾患として知られるようになり,保険適用のある向精神薬も上市されたことで,SAD患者の生活の質や社会機能は大きく向上した。しかしながら,SAD患者の受診率は低く,患者が受診しても治療者がSADを見過ごしたり,症状を過小評価したりしている可能性がある。取りこぼしなく症状を把握し診断するためにSADを対象にした評価尺度を用いるべきである。

強迫症及び関連症群

強迫症及び関連症群の評価尺度—Y-BOCS,MOCI

著者: 中尾智博 ,   豊見山泰史

ページ範囲:P.559 - P.564

はじめに
 強迫症(obsessive compulsive disorder:OCD)は特定の事柄に対して繰り返し生じる思考(強迫観念)と,それを打ち消すための繰り返しの行動(強迫行為)を特徴とする疾患である。強迫観念や強迫行為は長時間を浪費し,日常生活に強い悪影響を生じさせる。従来は不安障害(ICD-10では神経症性障害)を代表する疾患の1つであったが,病態,臨床像の違いから2013年刊行のDSM-5では,不安症群から独立し,衝動やこだわりを特徴とする「強迫症および関連症群」の中核疾患と定義付けられている。
 OCDの診断や重症度の把握,治療効果判定の場面において最も広く用いられている評価尺度がYale-Brown obsessive compulsive scale(Y-BOCS)である。Y-BOCSは強迫症状の評価方法として信頼性と妥当性が担保されており,臨床から研究まで世界標準の検査方法として幅広く用いられている。本稿では,このY-BOCSを中心に,OCDの症状評価の方法について解説する。

心的外傷及びストレス因関連障害群

心的外傷及びストレス因関連症群の評価尺度—IES-R,PCL,PDS,CAPS

著者: 佐藤秀樹 ,   前田正治

ページ範囲:P.565 - P.569

はじめに
 DSM-5-TR1)において,心的外傷及びストレス因関連症群とは,心的外傷となるような,またはストレスの強い出来事への曝露が1つの診断基準項目として明記されている障害を含むと定義されている。具体的には,反応性アタッチメント症,脱抑制型対人交流症,心的外傷後ストレス症(posttraumatic stress disorder:PTSD),急性ストレス症,適応反応症,および遷延性悲嘆症がこれに該当する。なかでもPTSDは,1つまたはそれ以上の外傷的出来事に曝露された後にさまざまな症状が発現する精神疾患である。
 PTSDのスクリーニングおよび診断や症状・重症度を評価するための代表的な指標として,自記式尺度にはImpact of Event Scale-Revised(IES-R),Posttraumatic Stress Disorder Checklist(PCL),Posttraumatic Diagnostic Scale(PDS)などがある。また,構造化診断面接法にはClinician-Administered PTSD Scale(CAPS)などがある。そこで本稿では,心的外傷およびストレス因関連症群のなかでもPTSDに焦点を当て,その代表的な評価指標について概要や評価方法などを解説する。

遷延性悲嘆症の評価尺度—BGQ,ICG,PG-13

著者: 片柳章子 ,   伊藤正哉

ページ範囲:P.571 - P.576

はじめに
 愛する人の死は,避けて通ることのできない最もストレスの高いライフイベントで,遺された者に喪失感と強い悲しみを生じさせる。多くの場合,こうした悲嘆反応は専門家の助けなしに,時間の経過とともに和らいでいく。しかし,一部の人においては,悲嘆が長期にわたって持続し,その後の健康状態にさまざまな影響を及ぼすことがある。このような悲嘆症状を呈する状態は,複雑性悲嘆(complicated grief:CG)などと呼ばれ研究が行われてきた。CGは悲嘆反応が長期にわたって持続するだけでなく,希死念慮や自殺企図,がんや心疾患,免疫機能障害,および生活の質(quality of life:QOL)の低下などとの関連や,心身の健康問題に支障を来すことなどが多数報告され1〜4),CGが専門的な治療が必要な精神障害として捉えられうるかについての研究が進められてきた5)。そうした研究の集積により,CGは2019年には世界保健機関(World Health Organization:WHO)の国際疾病分類第11版(International Classification of Diseases 11th:ICD-11)6)にて,2022年には米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版の改訂版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5-TR)7)にて,遷延性悲嘆症(prolonged grief disorder:PGD)という1つの精神障害として診断基準が取り入れられることになった。
 本稿では,PGD罹患者を早期発見し,適切なケアや治療につなぐことを目的に,これまでCGやPGDの症状評価尺度として用いられてきたBGQ(Brief Grief Questionnaire),ICG(Inventory of Complicated Grief),およびPG-13(Prolonged Grief Disorder-13)について解説する。

解離症群

解離症群の評価尺度—DES,CDS,SDQ-20,DIS-Q

著者: 酒井弘人 ,   田中究

ページ範囲:P.577 - P.581

はじめに
 解離症群の特徴は,「意識,記憶,同一性,情動,知覚,身体表象,運動制御,行動の正常な統合における破綻および/または不連続」1)(DSM-5-TRによる)であり,これらの破綻や不連続は全体的ではなく部分的であることが多く,その持続は浮動的で日により時間によっても変動し,個人生活,家族生活,学業,職業などに有意な機能障害をもたらす。主体的体験の減弱,連続性の喪失(離人感,現実感消失など)や,通常は容易であるはずの情報の利用困難(健忘など),主体の意識と行動への意図せずに生じる同一性の侵入(同一性の混乱や変容など)と,症状は多彩である。解離症群は,しばしば対処困難なストレス状況や深刻な心的外傷体験との関連で認められる。しかし,解離しやすさ(解離傾性)に性差,年齢差,個人差を認めることから,何らかの素因との関連が推測されるが決定的な知見はない。また,不安症や摂食障害などに併存して,解離症状が認められることもある。
 解離症はフロイトやジャネの時代から概念化され,ICD-9やDSM-Ⅱの時代には「転換型」と「解離型」に分類され,ともに共通の病理を持つと考えられ,身体に心的葛藤が転換され症状発現するもの,精神神経症的に解離されて症状発現するものと記述された。米国ではDSM-Ⅲ以降,この「転換型」は身体表現性障害の下位に分類される一方,欧州などではこの分類方法は継承されICD-10では解離性(転換性)障害と記述され,共通する病理を持つものと捉えられた。そうした中で,解離症状を精神症状として現れる精神表現性解離症状,身体症状として現れる身体表現性解離症状として分類することが検討されている2)。また,解離症状を5つの中核症状,「健忘」「離人症」「現実感喪失」「同一性混乱」「同一性変容」に分類して評価し,これらの強度や組み合わせで解離症状や疾患構造を理解することが提案され,それに基づいた構造化面接法が提案されたこともある3)。また,離人症や現実感喪失のように自己や世界から分離されているという感覚を「離隔」,運動あるいは認知過程の不能によって特徴づけられる「区画化」として記述しうることも述べられている4)。すなわち多彩な解離症状の概念化の過程で,その分類法が提案され,その評価方法が論じられてきたと言える。
 その中で,もっぱら精神症状として現れる精神表現性解離症状を評価するものとして解離体験尺度(Dissociative Experiences Scale:DES)5)および解離症状質問票(Dissociative Questionnaire:DIS-Q)6)が提案され,またもっぱら身体表現性解離症状の評価法として身体表現性解離質問票(Somatoform Dissociation Questionnaire-20:SDQ-20)7),離人症状の評価法としてケンブリッジ離人尺度(Cambridge Depersonalisation Scale:CDS)8)が提案されている。以下,各尺度を簡単に紹介する。

身体症状症及び関連症群

身体症状症及び関連症群の評価尺度—PHQ-15,SSS-8,SSD-12,SSAS,HAI/SHAI

著者: 富永敏行

ページ範囲:P.582 - P.587

はじめに:身体症状症及び関連症群とは
 身体症状症及び関連症群(somatic symptom and related disorders:SSRD)は身体症状症(somatic symptom disorder:SSD),病気不安症(illness anxiety disorder:IAD),変換症/転換性障害などで構成される。本群の特徴は,苦痛を伴う障害や日常生活に支障を引き起こす身体症状に関する内容が主訴であることである。
 DSM-5では,身体化障害を中核とする身体表現性障害の呼称がSSDに変更され,定義も抜本的に変更された。SSDは身体症状が医学的に説明できるか否かという原因論から離れ,苦痛を伴う身体症状の存在に加えて,身体症状に対する心理的な反応に焦点が当てられた。ICD-11では身体的苦痛症(bodily distress disorder:BDD)であるが,その概念はSSDとほぼ同じである。DSM-5-TRによるとDSM-5を用いた地域住民の有病率は6.7〜17.4%とされている1)

食行動症及び摂食症群

摂食障害(摂食症)の評価尺度—EDE,SCOFF,EDE-Q,EDI,EAT

著者: 永田利彦

ページ範囲:P.588 - P.593

はじめに
 摂食障害(摂食症)は,今や,年代,性的志向,人種,地域にかかわらず罹りうる,一般的な精神疾患となった。先進各国の特定の人種,成績優秀な若年女子だけに限られていたのは過去の話である。それに伴い,神経性やせ症,神経性過食症の2亜型から,回避・制限性食物摂取症,むちゃ食い症といったやせ願望・肥満恐怖を欠くものも摂食障害に含まれるようになり,異質性は増している。

睡眠・覚醒障害群

中枢性過眠症とその検査法—ESS,SSS,PSG,MSLT

著者: 小浦冬馬 ,   小曽根基裕

ページ範囲:P.595 - P.600

はじめに
 世界保健機関(World Health Organization:WHO)が公表した国際疾病分類第11版(International Classification of Diseases, 11th revision:ICD-11)では,それまで精神および行動の障害および神経系の疾患の下位分類であった睡眠障害がsleep-wake disordersとして独立した疾患群となった。そのなかには「特発性過眠症(idiopathic hypersomnia:IH),ナルコレプシー(narcolepsy:NC),クライネ-レビン症候群,身体疾患による過眠症,薬物または物質による過眠症,精神疾患による過眠症,睡眠不足症候群」の7疾患が中枢性過眠症として含まれている。精神科の臨床場面において「日中の過剰な眠気」や「不適切な状況での睡眠」を主訴として扱う場面は少なくないが,日本では過眠症有病率が海外に比べて高いと言われ,その治療薬が中枢刺激薬であることから,より正確で再現性の高い診断が求められる。
 本稿では眠気の主観的評価法であるエプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale:ESS),スタンフォード睡眠尺度(Stanford Sleepiness Scale:SSS)および中枢性過眠症であるIHおよびNCの確定診断に必要な睡眠ポリソムノグラフ検査(polysomnography:PSG),反復睡眠潜時検査(multiple sleep latency test:MSLT)について概説する。

睡眠関連呼吸障害群の検査—PSG

著者: 角谷寛

ページ範囲:P.601 - P.604

はじめに
 睡眠関連呼吸障害群は中枢性睡眠時無呼吸,閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA),睡眠関連低換気障害群に分類される1)。中枢性睡眠時無呼吸は心不全の時などに見られるチェーンストークス呼吸を含み,睡眠関連低換気障害群は閉塞性睡眠時無呼吸を合併することが多い肥満低換気症候群を含む。睡眠関連呼吸障害群の診断には終夜睡眠ポリグラフィー検査(polysomnography:PSG)が必須であるが,肥満低換気症候群の診断にはさらに肥満(BMI≧30 kg/m2)とともに肺胞低換気(覚醒時の動脈血液ガスPaCO2>50 mmHg)が必要である2)。成人において,OSAは睡眠関連呼吸障害群の大多数を占めるので,以降OSAを中心に述べる。

睡眠関連運動障害・睡眠時随伴症の評価尺度・検査—IRLS,SIT,MUPS,RBDSQ

著者: 井上雄一 ,   駒田陽子

ページ範囲:P.605 - P.611

はじめに
 睡眠関連運動障害・睡眠時随伴症(パラソムニア)の範疇に属する疾患は,運動促拍を伴う感覚異常が入眠前ないし夜間中途覚醒時に発現するムズムズ脚症候群(RLS)を除くと,大半が意識障害下で症状が発現するため,患者自身が客観評価できることは少ない。したがって,患者の自己評価だけでなく,ベッドパートナーからの情報も総合しうるスケール,運動・行動を他覚的に評価する手法を併用することが必要になってくる。

性機能不全群・性別違和

性機能不全の評価尺度—FSFI,SFQ,IIEF

著者: 横山富士男

ページ範囲:P.612 - P.616

はじめに
 性機能不全群の主要な特徴は,性的な刺激に反応できないこと,または性的な行為において痛みを感じることである。性機能不全は,通常性行為と関連した主観的な喜びまたは欲求の障害によって,または,客観的な遂行能力によって定義することができる。具体的には,性機能不全群にはどのような障害が含まれるかを示し,性機能不全群に対する代表的な評価尺度であるFemale Sexual Function Index(FSFI),Sexual Function Questionnaire(SFQ),International Index of Erectile Function(IIEF)について解説する。

性別不合/性別違和の評価尺度・検査—UGDS,性別違和感尺度,HTPPテスト

著者: 木下真也

ページ範囲:P.617 - P.620

はじめに
 性同一性障害(gender identity disorder)は,ICD-11では性別不合(gender incongruence)に,DSM-5では性別違和(gender dysphoria)に診断名が変更となった。大きな変更点は,ICD-11では精神疾患から外れたこと,DSM-5では「disorder」ではなくなったことであり,これは脱精神病理化を意味する。ただし,性別違和感そのものは病的ではないとはいえ,性別違和感により「生きづらさ」や「身体への嫌悪感」などの苦悩・苦痛が生じるため,ジェンダー外来においては性別違和感を適切に把握して,苦悩・苦痛が少しでも減るように一緒に模索していくことが重要である。
 性別違和感の把握には本人や家族などからの問診が基本となるが,UGDS(The Utrecht Gender Dysphoria Scale)や性別違和感尺度といった評価尺度を用いることは有用である。UGDSは診断補助や治療効果の測定などを目的に世界で使用されており,性別違和感尺度は軽微な性別違和感が評価できることが特徴である。また,性別不合/性別違和の診断には他の精神疾患との鑑別が重要であるため,普段の診療場面で用いる心理検査を行うことが一般的である。本稿では,UGDSや性別違和感尺度などの評価尺度に加え,当科ジェンダー外来でスクリーニング的に行っている心理検査について解説する。

秩序破壊的・衝動制御・素行症群

秩序破壊的・衝動制御・素行症群の評価尺度—ECBI,ODBI,SUPPS-P-J

著者: 原田謙

ページ範囲:P.622 - P.628

疾患概念
 「秩序破壊的,衝動制御,素行症群」は,DSM-5になって新設されたカテゴリーである。そこには,DSM-Ⅳまでの「注意欠陥および破壊的行動障害」から注意欠陥多動症(Attention-Deficit/Hyperactive Disorder:ADHD)を除いた反抗挑発症,素行症,反社会性パーソナリティ症(antisocial personality disorder:ASPD)と,「他のどこにも分類されない衝動制御の障害」に含まれていた間欠爆発症,窃盗症,放火症が含まれる。DSM-5の解説によれば,これらは「外在化スペクトラム」であり,どれもが,「情動や行動の自己制御に問題」があり,「人権を侵害したり,法や権威ある人物との間で葛藤を生じる行動として現れる障害」とされる1)

物質関連症及び嗜癖症群

アルコール使用障害のスクリーニングテスト—CAGE,AUDIT

著者: 伊東寛哲 ,   松下幸生

ページ範囲:P.629 - P.634

はじめに
 アルコール使用障害は,飲酒を継続することで徐々に依存が形成・進行し,自身の精神的・身体的健康に悪影響を与え,最終的にコントロール困難な依存症に進行していくという特徴がある。そのため,病状が進行する前に,アルコールの有害な使用を行っている段階から早期発見・早期介入を行い,依存に至る進行を予防することが重要であり,近年においては早期介入を念頭に置いた減酒治療やブリーフインターベンション(飲酒行動に変化をもたらすことを目標とした短時間の支援)が重要視されている1)
 また,アルコール使用障害は本人の深刻な健康問題のみならず,飲酒運転,暴力,虐待,自殺などの重大な社会問題を生じさせる危険性があり,公衆衛生上依然として大きな問題となっている。2021(令和3)年3月に厚生労働省が取りまとめた第2期アルコール健康障害対策推進基本計画2)においても,保健所や精神保健福祉センターなどの相談機関,かかりつけ医,従来アルコール使用障害の治療を実施していない一般の精神科医療機関,地域の救急医療などを担う総合病院,専門医療機関,自助グループなどが連携を促進し,包括的な対策を行う必要性が明記されており,専門医療機関以外でもアルコール問題に対する早期発見・早期介入が求められている。
 さらに,アルコール使用障害の患者は必ずしもアルコール問題についての対応を希望して医療機関や相談機関を受診・相談するとは限らない。たとえば,肝障害,食道静脈瘤,膵炎,酩酊時の転倒による外傷など,アルコール使用障害の合併を想起した場合においては,あらゆる治療機関や相談拠点がスクリーニングテストを用いてアルコール問題の有無や重症度を評価することは非常に重要である。
 本稿ではアルコール使用障害やアルコール問題に関連した代表的なスクリーニングテストとして,国際的にも認知され,実際に臨床や保健指導の現場において広く使用されるCAGEとAUDITを取り上げる。

薬物依存の評価尺度—DAST-20,SRRS,SOCRATES-8D

著者: 小林桜児 ,   平野祥子

ページ範囲:P.635 - P.639

はじめに
 薬物依存は,アルコール以外のさまざまな精神作用物質を摂取する行動を制御できない状態,すなわち覚醒剤や大麻,向精神薬,市販薬などさまざまな物質の使用について,コントロールを喪失している病態を指す。
 薬物依存の診断や重症度の把握を目的とする評価尺度の代表例がDrug Abuse Screening Test(DAST-20)であり,約40年間にわたって世界中で幅広く用いられている。DAST-20と比較すると使用頻度は高くないものの,患者の再使用リスクを評価する尺度として日本で開発・提供されているStimulant Relapse Risk Scale(SRRS)や,回復に向けた動機づけの程度を評価する尺度としてThe Stages of Change Readiness and Treatment Eagerness Scale for Drugs(SOCRATES-8D)なども利用可能である。
 本稿では,薬物依存の臨床や研究において頻用されているDAST-20を中心に,上記3種の評価尺度について解説する。

神経認知障害群

せん妄の評価尺度—CAM,DRS-R-98,MDAS

著者: 和田健

ページ範囲:P.640 - P.645

はじめに
 せん妄は,身体疾患に伴って発症する器質性精神障害のなかで最も頻度が高く,一般病院の入院患者において精神科コンサルテーションが依頼される理由としては最も多い。せん妄は,転倒転落やライン,チューブ類の自己抜去などの事故,医療スタッフの疲弊,在院日数の延長などさまざまな治療上のデメリットを生じさせる。また,患者の自己決定能力やコミュニケーション能力を障害するだけでなく,強い苦痛として体験される。さらには患者の中長期的な予後を悪化させ,認知症への移行や施設入所,死亡率を増加させる。
 昨今,せん妄への対策として予防的介入が重要視され,令和2年度診療報酬改定で「せん妄ハイリスク患者ケア加算」が新設された。入院当初から患者ごとにせん妄リスクの適切な評価とそれに基づいた非薬物療法的介入が求められており,多くの医療機関で試行錯誤が続けられている。
 このような状況のなかで,いかに適切にせん妄のリスクおよび症状を評価し,早期に診断し,治療的介入に結びつけていくかが医療上の大きな課題となっている。せん妄が発症しているにもかかわらず,見逃されている患者が多い事実は以前から指摘されており,できるだけ簡便で信頼性の高いスクリーニング尺度が求められている。また,適切にせん妄の症状を評価できて診断につながるような尺度や,診断後に治療効果を適切にモニタリングできる尺度も必要である。本稿では,現時点で使用可能なせん妄の評価尺度について解説する。

アルツハイマー病の評価尺度—MMSE,ADAS,RBMT,WMS-R,CDR,NPI

著者: 中山愛梨 ,   繁信和恵

ページ範囲:P.646 - P.651

はじめに
 アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)とは,典型的には緩徐に進行する近時記憶障害を主症状とし,進行に伴って遂行機能障害,見当識障害,視空間認知障害,失語,失行など多様な認知機能障害を呈する神経変性疾患である。ADの病期は,発症前段階のpreclinical AD(前臨床期AD),MCI due to AD(ADによる軽度認知障害),AD dementia(アルツハイマー型認知症)に分けられる。
 非典型的なADとしては,前頭葉症状が前景に立つ前頭葉型ADや,視空間認知障害が前景に立つ後部皮質萎縮症,言語症状が前景に立つlogopenic型進行性失語などが知られている。なお,高齢発症になると臨床的にADと類似する嗜銀顆粒性認知症や,primary age-related tauopathy(PART),limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy(LATE)の症例も少なからず存在し,ADではない可能性が高くなる。

レビー小体病による認知症の評価尺度・検査—MFQ,SFQ,CFI,ノイズパレイドリア・テスト,RBDSQ-J,MDS-UPDRSパートⅢ

著者: 鈴木麻希 ,   橋本衛

ページ範囲:P.652 - P.656

はじめに
 認知症の原因となる神経変性疾患のうち,レビー小体病による認知症(dementia due to Lewy body disease:DLB)はアルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)に次いで2番目に多く,認知症診療において日常的に遭遇する疾患である。鑑別診断のためには,診察において「DLBらしさ」を的確に捉えることが出発点となる。本稿では,DLBの診断基準と照らしながら,鑑別のために押さえておくべき評価尺度・検査を概説する。

外傷性脳損傷による認知症の評価尺度—RBMT,EMC,BADS,FrSBe

著者: 髙橋賢人 ,   上田敬太

ページ範囲:P.657 - P.661

外傷性脳損傷による認知症
 dementia(認知症)という言葉は,DSM-Ⅳまでは,記憶の障害に加え何らかの高次脳機能の障害が存在する,すなわち合わせて2つ以上の能力低下が存在する病態を意味した。しかし,DSM-51)からは,記憶に対する特別な扱いがなくなり,何らかの高次脳機能が1つでも低下している場合,neurocognitive disorder(神経認知障害)と呼ぶこととなり,dementiaという言葉は捨て去られた。しかし,日本語訳では認知症という言葉が残され,認知症(DSM-5)というわかりづらい用語で表現されている。DSM-5でいう外傷性認知症とは,①認知機能障害があり,日常生活や社会生活に制約がある,②脳の器質的病変の原因となる外傷の証拠がある,③他疾患(先天性疾患,変性疾患など)が除外されている,という条件を満たすものとされ,これは『高次脳機能障害診断基準ガイドライン』2)における,診断基準と合致するものとなっている。
 外傷性脳損傷の特徴として,損傷部位や病態の多様性が挙げられる。これは,受傷機転や受傷部位が患者ごとに異なることに起因する。とはいえ,大まかな分類としては,直接外力により外力直下または反対側の脳組織が傷害される局所脳損傷,および脳の回転や機械的伸長により脳の広範な白質線維が剪断されるびまん性軸索損傷(diffuse axonal injury:DAI)の2つがある。交通外傷ではDAIが多い一方,転倒・転落といった非交通外傷では局所脳損傷が多く,交通外傷では両者の合併が45%を占める3)

医薬品誘発性運動症群及び他の医薬品有害作用

医薬品誘発性運動症群の評価尺度—DIEPSS,AIMS

著者: 稲田俊也

ページ範囲:P.662 - P.667

はじめに
 統合失調症の治療に抗精神病薬が使用されるようになった1950年代以降すぐに,その副作用として錐体外路症状(Extrapyramidal Symptoms:EPS)が臨床上の問題となってきた。1990年代に入ってからは錐体外路症状の出現が少ないとされる第2世代抗精神病薬(Second Generation Antipsychotics:SGA)が広く使用されるようになったが,SGAも第1世代抗精神病薬と同様に,中枢ドパミン受容体を遮断するという共通の基礎薬理学的機序を多かれ少なかれ有していることから,依然としてEPSに脆弱性のある患者に対しては,抗精神病薬療法における大きな臨床上の問題となっている。
 EPSは抗精神病薬の投与初期にみられる急性期EPS(パーキンソニズム,アカシジア,ジストニア)と,遅発性に出現することが多いジスキネジアに大別される。急性期EPSは患者の生活の質(Quality of Life:QOL)を押し下げて,しばしば服薬アドヒアランスの低下をもたらすことがあるため,急性期EPSを早期に把握し,適切な処置を行うことは,精神科薬物療法上きわめて重要なことである。また,抗精神病薬の長期投与後にみられる遅発性ジスキネジア(TD)に対しては2022年に治療薬が承認されたものの,投与初期から適切な抗精神病薬療法を行うことによる予防の重要性が強調されており,TDの危険因子である急性EPSの発現を軽症の段階から把握し,注意深い抗精神病薬療法を行うことの重要性が指摘されている。
 本総説では,医薬品誘発性運動症群の重症度を評価する尺度として,薬原性錐体外路症状評価尺度(Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale:DIEPSS)1〜6)と,薬原性EPSのなかでも特にTDに焦点を当てた異常不随意運動評価尺度(Abnormal Involuntary Movement Scale:AIMS)3, 6)について,それらの評価尺度の概要や活用方法,使用上の留意点などについて述べる。

Ⅲ章 臨床場面別の活用法

早期の統合失調症疑いの症例(精神症発症危険状態)における評価尺度・検査の活用手順

著者: 鈴木道雄

ページ範囲:P.670 - P.673

 統合失調症の前駆状態が疑われるような症例に対する早期介入・早期支援の取り組みの中から,精神症発症危険状態(at-risk mental state:ARMS)の概念が生まれた。本稿では,疑診にとどまらざるを得ない前駆状態の診断というより,精神症の発症リスクを評価し,支援しながら経過観察する際に有用な評価尺度や検査について解説する。

周産期メンタルヘルス診療における評価尺度・検査の活用手順

著者: 佐藤昌司

ページ範囲:P.674 - P.678

はじめに
 従来,妊産婦の精神障害は主として産後うつ病をはじめとした産褥期に特に留意すべきとの概念が述べられてきたが,現在では,妊婦健康診査から産科入院時,さらには産褥期にわたって,身体面のみならず精神衛生面(メンタルヘルス)にも十分に留意した周産期管理を行うべきとの考え方が広がっている。本稿では,周産期領域において実際に精神的ハイリスク症例を抽出する立場となる産婦人科医師あるいは助産師を対象とした『産婦人科診療ガイドライン産科編2023』(GL2023)におけるClinical Question(CQ) & Answer(A)に沿って,周産期メンタルヘルス診療における評価尺度の活用のあり方について概説する。

睡眠障害の診療における評価尺度・検査の活用手順

著者: 木附隼 ,   斎藤かおり ,   鈴木正泰

ページ範囲:P.679 - P.685

はじめに
 睡眠障害の鑑別診断は多岐にわたり,限られた時間内で適切に診断するために,多くの睡眠専門外来ではさまざまな評価尺度を利用している。本稿では,睡眠障害診療において使用される評価尺度および検査について概説するとともに,その活用の方法について述べる。

コンサルテーション・リエゾンにおける評価尺度・検査の活用手順

著者: 明智龍男

ページ範囲:P.686 - P.692

はじめに
 コンサルテーション・リエゾンの領域においては,入院と外来では診療対象となる患者のタイプが全く異なり,ひいては活用する評価尺度・検査についても大きな相違が存在する。このため,本稿では,入院と外来のセッティングに分けて概説する。

子どもの診療における評価尺度・検査の活用手順

著者: 今成英司 ,   東琢磨 ,   小坂浩隆

ページ範囲:P.693 - P.697

はじめに:児童思春期外来の特徴と評価尺度・検査
 一般に,年齢にかかわらず精神医学的診療を行う際には,経過や関連する情報を丁寧に収集して患者の状態を把握する必要があるため,外来枠は他科に比してかなり余裕を持った時間設定をされることが多いものの,現状では常に慌ただしく時間に追われることが多い。そして,精神科外来にかかる患者は,受診までに蓄積された自身の辛さや思いが溢れて話が長引くことも多い一方で,重度の不安障害や気分障害などでは,返答潜時が非常に長く質問になかなか答えられず,患者自身の言葉での説明が非常に難しいことが少なくない。やっと話せても迂遠で非常にまとまりがなかったり,精神病圏の病態では妄想的な内容や幻覚の描写が混じることもあり,なかなか病状を捉えづらいことも多い。さらに児童思春期ともなると,そもそも本人の言語能力が未熟でうまく自身の状態を説明できず,緘黙で全く話をしてくれない場合もある。その保護者も不安や徒労感を少なからず持っており,本人の思い以外に保護者のとめどない思いの表出もある。また,学校担任や支援員,児童相談所職員が同伴することもある。そのため,児童思春期の精神科系の外来,特に初診場面では,相当程度時間を要するのが普通で,たとえ長めの診療枠を設定されていたとしても時間は当然切迫する。
 その一方で,自閉スペクトラム症(ASD)特性を持った子どもなどでは,予約時間ぴったりに診療が始まらないと癇癪を起こしたり,注意欠如多動症(ADHD)の特性から診察時間までじっと待つことができなかったり,付き添っている保護者がしびれを切らしてしまうこともあり,児童思春期の外来診療は時間との闘いになる。そのため,患児の状態を効率よく把握する工夫が重要で,評価尺度の利用はその一助となる。
 検査をこう進めるべき,といった決まった流れのようなものはなく,それぞれの医療者の診療スタイルや経験によっても,どうやって検査を利用するかは異なると思われる。本稿では主に簡易評価尺度の施行を念頭に置き,当院でよく行われている方法を一例として紹介するにとどめ,あくまで参考程度にお読みいただければと思う。

認知症診療に役立つ評価尺度・検査とその実施手順

著者: 數井裕光

ページ範囲:P.698 - P.702

はじめに
 認知症はその原因疾患によってさまざまな認知機能障害,行動・心理症状,神経症状を呈し,これらの症状のために日常生活を自立して送れなくなる状態である。本稿では,精神科診療施設を受診した患者に対して臨床症状の把握や鑑別診断・重症度診断を行う際,および経過観察を行う際に役立つ評価尺度や検査を,実施時期や留意点とともに解説する。

特発性正常圧水頭症に対するCSFタップテスト

著者: 鐘本英輝

ページ範囲:P.703 - P.708

 特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は,くも膜下出血や髄膜炎などの原因となる先行疾患がないにもかかわらず,脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)が頭蓋内に過剰貯留することで生じる病態である。過剰に貯留したCSFによる脳の圧迫のため,典型的には歩行障害・認知障害・排尿障害を呈し,適切に診断しCSFを頭蓋内から排出するシャント術を行うことで症状の改善が期待できる。
 iNPHは主に脳神経外科領域の疾患と考えられているが,治療可能な認知症の原因疾患の1つであるため,精神科を含む認知症診療の現場では鑑別すべき重要な疾患として知られるようになってきた。特に,iNPHにおけるCSF過剰貯留によって生じた脳形態の変化を反映したdisproportionately enlarged subarachnoid space hydrocephalus(DESH)の認知度は,精神科領域でも高まっている(図1)。

電気けいれん療法を行う際の評価尺度・検査の活用手順—治療効果の判定から有害事象の評価まで

著者: 多田照生 ,   坪井貴嗣

ページ範囲:P.709 - P.714

はじめに
 電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)は,うつ病や双極症のうつ状態,双極症の躁状態,統合失調症の陽性症状,カタトニア,身体疾患に起因する精神障害など,さまざまな疾患に状況に応じて施行され,薬物療法と比較して良好な反応を示すことが多い。しかし,ECTは全身に有害事象を引き起こす可能性があるため,有害事象の丁寧なモニタリングが必要である。また,適切な治療回数を選択するためには,評価基準に基づいた有効発作の判定と丁寧な治療効果判定が必要である。本稿ではECTを行う際に役立つ評価尺度や検査を,実施時期や留意点とともに解説する。

産業メンタルヘルスにおける評価尺度・検査手順

著者: 吉村玲児

ページ範囲:P.715 - P.720

はじめに:自己評価尺度の利点と欠点
 産業メンタルヘルス業務では自己評価尺度を使用する機会が多い。産業医は精神症状のスクリーニングに自己評価式ツールを用いる。これらは有用なツールではあるが,利点と欠点が存在する。
 利点としては以下の3点が挙げられる。
1) 簡便性:自己評価尺度は多数の従業員に対して簡単に実施でき,大規模なサンプルを対象にするのに適している。
2) 経済的:従業員の健康状態を評価するためのツールとしては低コストである。
3) 定量化:自己評価尺度は,従業員のメンタルヘルス状態を数値で評価するため,傾向や優先順位を定量的に把握するのに役立つ。
 一方,欠点としては以下の3点が挙げられる。
1) 主観性:自己評価尺度は,従業員の主観的な評価に基づいているため,個人間での評価の違いや偏りが生じる可能性がある。
2)虚偽報告:従業員は自己評価尺度の結果に影響を与えることを恐れ,真実を隠すかもしれない。特にその結果が社内の人事評価などに関わる場合には,誠実な回答を得ることが難しい。
3) 言語や文化背景:自己評価尺度は,言語的な理解や文化的な違いに影響を受ける。
 つまり,産業メンタルヘルスに関する自己評価尺度は,迅速で経済的な情報収集方法として有用であるが,その限界や確証バイアスに注意する必要がある。われわれは確証バイアスを持ちやすい。そのため,その質問票に記載されていることの一部でも自分に思い当たれば,肯定的回答をしてしまう。したがって,メンタルヘルス分野での自己評価尺度は偽陽性となりやすいので注意が必要である。企業が総合的なメンタルヘルス対策を実施するにあたり,自己評価尺度を他のデータソースと組み合わせ,より包括的な評価を行うことが理想である。

成年後見鑑定における評価尺度・検査の活用手順

著者: 樋山雅美 ,   成本迅

ページ範囲:P.721 - P.725

はじめに
 成年後見制度は,精神上の障害(認知症,知的障害,精神障害など)で判断能力が低下した人の財産の保護や契約のサポートを行う制度である。制度の利用にあたっては,医師の診断書を添付する必要があり,診断書では不十分と家庭裁判所が判断した場合,鑑定が求められる。本稿では,診断書,および鑑定書の作成に役立つ神経心理学的検査や,検査時の行動観察のポイントについて解説する。

自動車運転評価における評価尺度・検査の活用手順

著者: 上村直人 ,   藤戸良子

ページ範囲:P.726 - P.731

はじめに
 近年,高齢者と自動車運転の問題,特に認知症と自動車運転が社会的にも注目され,さまざまな対策が行われている。臨床医は患者の運転能力の評価では,医学的判断が求められるなど実質,運転能力の評価に関わっている。75歳以上の免許更新者では,認知機能検査において認知症が疑われる第1分類に判定されれば,医師の診断を受けることが義務化され,わが国では認知症と認識されれば,現行法でもすでに自動車運転が禁止されている。しかしながら,高齢者,特に認知症の人と運転免許の対応についてはまだまだ医学的な対応や臨床現場での対応方法に統一されたものはなく,研究面でも十分検討されているとは言い難い。
 2022年5月から一定の違反歴がある75歳以上の高齢者に運転技能検査(実車テスト)を義務付けるなど道路交通法が改正され,より運転能力の評価という点では進んだ一方で,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)と呼ばれる認知症の前段階の状態に対する運転能力評価や対策は今回の改正でみられなくなった。したがって,今後は医療現場においては,MCIレベルの段階から運転能力の評価が求められるようになりえる。
 そこで本稿では,精神科臨床で求められる高齢者,認知症を主とする自動車運転評価における評価尺度・検査の活用手順について述べる。

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目次

ページ範囲:P.462 - P.465

索引

ページ範囲:P.732 - P.734

次号予告

ページ範囲:P.735 - P.735

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.736 - P.736

奥付

ページ範囲:P.740 - P.740

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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