文献詳細
文献概要
増大号特集 精神科診療における臨床評価尺度・検査を極める—エキスパートによる実践的活用法 Ⅱ章 疾患別の評価尺度・検査 解離症群
解離症群の評価尺度—DES,CDS,SDQ-20,DIS-Q
著者: 酒井弘人1 田中究
所属機関: 1兵庫県立ひょうごこころの医療センター
ページ範囲:P.577 - P.581
文献購入ページに移動はじめに
解離症群の特徴は,「意識,記憶,同一性,情動,知覚,身体表象,運動制御,行動の正常な統合における破綻および/または不連続」1)(DSM-5-TRによる)であり,これらの破綻や不連続は全体的ではなく部分的であることが多く,その持続は浮動的で日により時間によっても変動し,個人生活,家族生活,学業,職業などに有意な機能障害をもたらす。主体的体験の減弱,連続性の喪失(離人感,現実感消失など)や,通常は容易であるはずの情報の利用困難(健忘など),主体の意識と行動への意図せずに生じる同一性の侵入(同一性の混乱や変容など)と,症状は多彩である。解離症群は,しばしば対処困難なストレス状況や深刻な心的外傷体験との関連で認められる。しかし,解離しやすさ(解離傾性)に性差,年齢差,個人差を認めることから,何らかの素因との関連が推測されるが決定的な知見はない。また,不安症や摂食障害などに併存して,解離症状が認められることもある。
解離症はフロイトやジャネの時代から概念化され,ICD-9やDSM-Ⅱの時代には「転換型」と「解離型」に分類され,ともに共通の病理を持つと考えられ,身体に心的葛藤が転換され症状発現するもの,精神神経症的に解離されて症状発現するものと記述された。米国ではDSM-Ⅲ以降,この「転換型」は身体表現性障害の下位に分類される一方,欧州などではこの分類方法は継承されICD-10では解離性(転換性)障害と記述され,共通する病理を持つものと捉えられた。そうした中で,解離症状を精神症状として現れる精神表現性解離症状,身体症状として現れる身体表現性解離症状として分類することが検討されている2)。また,解離症状を5つの中核症状,「健忘」「離人症」「現実感喪失」「同一性混乱」「同一性変容」に分類して評価し,これらの強度や組み合わせで解離症状や疾患構造を理解することが提案され,それに基づいた構造化面接法が提案されたこともある3)。また,離人症や現実感喪失のように自己や世界から分離されているという感覚を「離隔」,運動あるいは認知過程の不能によって特徴づけられる「区画化」として記述しうることも述べられている4)。すなわち多彩な解離症状の概念化の過程で,その分類法が提案され,その評価方法が論じられてきたと言える。
その中で,もっぱら精神症状として現れる精神表現性解離症状を評価するものとして解離体験尺度(Dissociative Experiences Scale:DES)5)および解離症状質問票(Dissociative Questionnaire:DIS-Q)6)が提案され,またもっぱら身体表現性解離症状の評価法として身体表現性解離質問票(Somatoform Dissociation Questionnaire-20:SDQ-20)7),離人症状の評価法としてケンブリッジ離人尺度(Cambridge Depersonalisation Scale:CDS)8)が提案されている。以下,各尺度を簡単に紹介する。
解離症群の特徴は,「意識,記憶,同一性,情動,知覚,身体表象,運動制御,行動の正常な統合における破綻および/または不連続」1)(DSM-5-TRによる)であり,これらの破綻や不連続は全体的ではなく部分的であることが多く,その持続は浮動的で日により時間によっても変動し,個人生活,家族生活,学業,職業などに有意な機能障害をもたらす。主体的体験の減弱,連続性の喪失(離人感,現実感消失など)や,通常は容易であるはずの情報の利用困難(健忘など),主体の意識と行動への意図せずに生じる同一性の侵入(同一性の混乱や変容など)と,症状は多彩である。解離症群は,しばしば対処困難なストレス状況や深刻な心的外傷体験との関連で認められる。しかし,解離しやすさ(解離傾性)に性差,年齢差,個人差を認めることから,何らかの素因との関連が推測されるが決定的な知見はない。また,不安症や摂食障害などに併存して,解離症状が認められることもある。
解離症はフロイトやジャネの時代から概念化され,ICD-9やDSM-Ⅱの時代には「転換型」と「解離型」に分類され,ともに共通の病理を持つと考えられ,身体に心的葛藤が転換され症状発現するもの,精神神経症的に解離されて症状発現するものと記述された。米国ではDSM-Ⅲ以降,この「転換型」は身体表現性障害の下位に分類される一方,欧州などではこの分類方法は継承されICD-10では解離性(転換性)障害と記述され,共通する病理を持つものと捉えられた。そうした中で,解離症状を精神症状として現れる精神表現性解離症状,身体症状として現れる身体表現性解離症状として分類することが検討されている2)。また,解離症状を5つの中核症状,「健忘」「離人症」「現実感喪失」「同一性混乱」「同一性変容」に分類して評価し,これらの強度や組み合わせで解離症状や疾患構造を理解することが提案され,それに基づいた構造化面接法が提案されたこともある3)。また,離人症や現実感喪失のように自己や世界から分離されているという感覚を「離隔」,運動あるいは認知過程の不能によって特徴づけられる「区画化」として記述しうることも述べられている4)。すなわち多彩な解離症状の概念化の過程で,その分類法が提案され,その評価方法が論じられてきたと言える。
その中で,もっぱら精神症状として現れる精神表現性解離症状を評価するものとして解離体験尺度(Dissociative Experiences Scale:DES)5)および解離症状質問票(Dissociative Questionnaire:DIS-Q)6)が提案され,またもっぱら身体表現性解離症状の評価法として身体表現性解離質問票(Somatoform Dissociation Questionnaire-20:SDQ-20)7),離人症状の評価法としてケンブリッジ離人尺度(Cambridge Depersonalisation Scale:CDS)8)が提案されている。以下,各尺度を簡単に紹介する。
参考文献
1)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed, Text Revision(DSM-5-TR). American Psychiatric Publishing, Washington DC, 2022[日本精神神経学会(日本語版用語監修),髙橋三郎,大野裕(監訳),染矢俊幸,神庭重信,尾崎紀夫,他(訳):DSM-5-TR精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2023]
2)van der Hart O, Nijenhuis ERS, Steele K:The haunted self:Structural dissociation and the treatment of chronic traumatization. W W Norton & Co, New York, 2006
3)Steinberg M:Handbook for the assessment of dissociation:A clinical guide. American Psychiatric Press Inc, Washington DC, 1995
4)Holmes EA, Brown RJ, Mansell W, et al:Are there two qualitatively distinct forms of dissociation? A review and some clinical implications. Clin Psychol Rev 25:1-23, 2005[PMID:15596078]
5)Bernstein EM, Putnam FW:Development, reliability, and validity of a dissociation scale. J Nerv Ment Dis 174:727-735, 1986[PMID:3783140]
6)Vanderlinden J, Van Dyck R, Vandereycken W:The dissociation questionnaire(DIS-Q):Development and characteristics of a new self-report questionnaire. Clin Psychol Psychother 1:21-27, 1993
7)Nijenhuis ERS, Spinhoven P, Van Dyck R:The development and psychometric Characteristics of the Somatoform Dissociation Questionnaire(SDQ-20). J Nerv Ment Dis 184:688-694, 1996[PMID:8955682]
8)Sierra M, Berrios GE:The Cambridge Depersonalisation Scale:A new instrument for the measurement of depersonalisation. Psychiatry Res 93:153-164, 2000
9)Putnam FW:Dissocation in children and adolescents:A developmental perspective. Guilford Press, New York, 1997[中井久夫(訳):解離—若年期における病理と治療.みすず書房,2001]
10)Carlson EB, Putnam FW, Ross CA, et al:Validity of the Dissociative Experiences scale in Screening for multiple personality disorder:A multicenter study. Am J Psychiatry 150:1030-1036, 1993[PMID:8317572]
11)Waller NG, Putnam FW, Carlson EB:Types of dissociation and dissociative types:A taxometric analysis of dissociative experiences. Psychol Methods 1:300-321, 1996
12)田辺肇:解離症群/解離性障害群—解離症状評価尺度.臨床精神医学 49:1360-1383, 2020
13)田辺肇:質問紙による解離性体験の測定—大学生を対象にしたDES(Dissociative Experiences Scale)の検討.筑波大学心理学研究 14:171-178, 1992
14)田辺肇:解離性障害 病的解離性のDES-taxon簡易判定法—解離性体験尺度の臨床的適用の工夫.こころのりんしょうa la carte 28:285-291, 2009
15)Maaranen P, Tanskanen A, Haatainen K, et al:Somatoform dissociation and adverse childhood experiences in the general population. J Nerv Ment Dis 192:337-342, 2004[PMID:15126887]
16)Sar V, Kundakci T, Kiziltan E, et al:Differentiating dissociative disorders from other diagnostic groups through somatoform dissociation in Turkey. J Trauma Dissociation 1:67-80, 2000
17)Nijenhuis ERS, Spinhoven P, Vanderlinden J, et al:Somatoform dissociative symptoms as related to animal defensive reactions to predatory imminence andinjury. J Abnorm Psychol 100:63-73, 1998[PMID:9505039]
18)松井裕介,田中究,内藤憲一,他:解離症状に対するDIS-Q日本語版での評価.精神医学 52:49-54, 2010
掲載誌情報