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特集 アディクション—コロナ禍で変わったこと,変わらないこと 【物質依存】
覚醒剤依存の病態と治療
著者: 小林桜児1
所属機関: 1神奈川県立精神医療センター
ページ範囲:P.910 - P.916
文献購入ページに移動抄録
2010年代後半から覚醒剤の乱用者は減少傾向にあり,コロナ禍の最中でも乱用者は増加しなかった。覚醒剤依存患者の年齢は徐々に若年層から中高年に移行しつつある。患者の生活背景は,向精神薬や市販薬の依存患者と比較すると,補導歴のある者や貧困,ネグレクト,親との離別体験を経た者が多い。小児期逆境体験の累積は,他者に頼って自らの心理的苦痛に対処する行動パターンの習得を妨げることになり,治療へと動機付けることが困難となりやすい。さらに覚醒剤乱用が長期化すると,精神病症状や抑うつ気分,睡眠障害も併存しやすくなる。回復支援に当たっては,支援者側が焦って断薬治療を強要せず,たとえ遠回りになっても患者本人の選択を尊重するほうがよい。薬物乱用が止まらず,生活上の困り感が高まり,治療を受けることに本人が納得できるようになるまで,見守り続ける姿勢が患者との治療同盟構築に不可欠なのである。
2010年代後半から覚醒剤の乱用者は減少傾向にあり,コロナ禍の最中でも乱用者は増加しなかった。覚醒剤依存患者の年齢は徐々に若年層から中高年に移行しつつある。患者の生活背景は,向精神薬や市販薬の依存患者と比較すると,補導歴のある者や貧困,ネグレクト,親との離別体験を経た者が多い。小児期逆境体験の累積は,他者に頼って自らの心理的苦痛に対処する行動パターンの習得を妨げることになり,治療へと動機付けることが困難となりやすい。さらに覚醒剤乱用が長期化すると,精神病症状や抑うつ気分,睡眠障害も併存しやすくなる。回復支援に当たっては,支援者側が焦って断薬治療を強要せず,たとえ遠回りになっても患者本人の選択を尊重するほうがよい。薬物乱用が止まらず,生活上の困り感が高まり,治療を受けることに本人が納得できるようになるまで,見守り続ける姿勢が患者との治療同盟構築に不可欠なのである。
参考文献
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14)小林桜児:人を信じられない病—信頼障害としてのアディクション.日本評論社,2016
15)板橋登子,小林桜児,黒澤文貴,他:小児期逆境体験が物質使用障害の重症度に及ぼす影響—不信感,被拒絶感,ストレス対処力の低下を媒介としたモデル検討.精神誌 122:357-369, 2020
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