文献詳細
特集 現代における解離—診断概念の変遷を踏まえ臨床的な理解を深める
文献概要
抄録
DSMおよびICDの改訂は,解離症の診断分類に大きな変更をもたらした。解離性遁走は,DSM-5では,それまでのDSM分類とは異なり,解離性健忘の下位分類に位置づけられている。一方,ほぼ30年ぶりの改訂となるICD-11では,解離性健忘が,解離性遁走の有無によって二分されている。本稿では,健忘と遁走の位置づけについて,わが国独自の疾患単位である全生活史健忘の症例を通じて検討した。彼らは日々のストレスが累積し一定量を超えんばかりの差し迫った状況に追いやられ,自らの安らぐ居場所を失った状態にあって全生活史健忘を発症している。健忘であれ遁走であれ,病態の本質は同じであると理解できる。全生活史健忘の診断プロセスには,解離性遁走が解離性健忘の下位に移行したことの一因がみられることを指摘した。この解離性遁走の位置づけの変化は,曖昧さを含む解離概念を明確にする第一歩であり,この領域をより明確にしていくことが今後の課題であろう。
DSMおよびICDの改訂は,解離症の診断分類に大きな変更をもたらした。解離性遁走は,DSM-5では,それまでのDSM分類とは異なり,解離性健忘の下位分類に位置づけられている。一方,ほぼ30年ぶりの改訂となるICD-11では,解離性健忘が,解離性遁走の有無によって二分されている。本稿では,健忘と遁走の位置づけについて,わが国独自の疾患単位である全生活史健忘の症例を通じて検討した。彼らは日々のストレスが累積し一定量を超えんばかりの差し迫った状況に追いやられ,自らの安らぐ居場所を失った状態にあって全生活史健忘を発症している。健忘であれ遁走であれ,病態の本質は同じであると理解できる。全生活史健忘の診断プロセスには,解離性遁走が解離性健忘の下位に移行したことの一因がみられることを指摘した。この解離性遁走の位置づけの変化は,曖昧さを含む解離概念を明確にする第一歩であり,この領域をより明確にしていくことが今後の課題であろう。
参考文献
1)Spiegel D:Dissociation and trauma. Spiegel D(ed):Dissociative Disorders—A Clinical Review. Sidran Press, Lutherville, pp117-131, 1993
2)American Psychiatric Association:Diagnostic Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed(DSM-5). American Psychiatric Publishing, Washington DC, 2013[日本精神神経学会(日本語版用語監修),高橋三郎,大野裕(監訳):DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014]
3)World Health Organization:The ICD-11 Classification of Mental Behavioral Disorders:Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization, 2018
4)大矢大:全生活史健忘の類型化とその治療的意義について.精神経誌 94:325-349, 1992
5)大矢大:心因健忘.松下正明(総編集):臨床精神医学講座Special issue 2巻 記憶の臨床.中山書店,pp357-393, 1999
6)Fisher C:Amnesic states in war neuroses:The psychogenesis of fugues. Psychoanal Q 14:437-468, 1945[PMID:21004288]
7)Ross CA:Dissociative amnesia and dissociative fugue. Dell PF,O'Neil JA(eds):Dissociation and the Dissociative Disorders:DSM-V and beyond. Routledge, New York, pp429-434, 2009
掲載誌情報