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特集 現代における解離—診断概念の変遷を踏まえ臨床的な理解を深める
文献概要
抄録
神経発達症を併存する解離症について症候学的に検討した。解離症と注意欠如多動症(ADHD)の併存例では幼児期からの幻覚・気配が,解離症と自閉スペクトラム症(ASD)の併存例では離隔のなかの拡散が,それぞれ通常の解離症より高頻度にみられることを指摘した。これらはADHDやASDの単独診断例の特徴ではなく,それらに解離症が併存することでみられる症候である。拡散や幼児期からの幻覚・気配は解離性の意識変容(空間的変容)に含まれ,その成立機序については「原初の意識」に覚醒不全が重なることで生じると推定された。こうした理解は併存診断や治療に役立つように思われる。
神経発達症を併存する解離症について症候学的に検討した。解離症と注意欠如多動症(ADHD)の併存例では幼児期からの幻覚・気配が,解離症と自閉スペクトラム症(ASD)の併存例では離隔のなかの拡散が,それぞれ通常の解離症より高頻度にみられることを指摘した。これらはADHDやASDの単独診断例の特徴ではなく,それらに解離症が併存することでみられる症候である。拡散や幼児期からの幻覚・気配は解離性の意識変容(空間的変容)に含まれ,その成立機序については「原初の意識」に覚醒不全が重なることで生じると推定された。こうした理解は併存診断や治療に役立つように思われる。
参考文献
1)柴山雅俊:解離の構造—私の変容と〈むすび〉の治療論.岩崎学術出版社,2010
2)柴山雅俊:解離の舞台—症状構造と治療.金剛出版,2017
3)柴山雅俊:解離における離隔の諸相—離脱・融合・拡散.木村敏,野家啓一(監修):「自己」と「他者」—臨床哲学の諸相.pp176-208,河合文化教育研究所,2013
4)Bozkurt H, Mutluer TD, Kose C, et al:High psychiatric comorbidity in adolescents with dissociative disorders. Psychiatry Clin Neurosci 69:369-374, 2015[PMID:25385063]
5)柴山雅俊:解離から自我障害を再考する.臨床精神病理 44:201-206, 2023
6)安永浩:精神医学の方法論.金剛出版,1986
7)安永浩:分裂病の論理学的精神病理—「ファントム空間」論.医学書院,1977
8)大饗広之:自閉スペクトラム症における「人格の多元化」.精神療法 47:33-39,2021
9)柴山雅俊:成人の自閉症スペクトラムにおける解離.精神科治療 27:611-616, 2012
10)Williams D:Autism and sensing:The unlost instinct. Jessica Kingsley Publishers. London and Philadelphia.1998[ドナ・ウィリアムズ(著),川手鷹彦(訳):自閉症という体験—失われた体験を持つ人びと.誠信書房,2009]
11)安永 浩:分裂病症状の辺縁領域(その1)—意識障害総論と神秘体験.湯浅修一(編):分裂病の精神病理7.pp275-316.東京大学出版会,1978
12)二木文明:自閉スペクトラム症の「感覚体験」を考える.臨精病理 43:123-136, 2022
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