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文献詳細

雑誌文献

精神医学66巻8号

2024年08月発行

文献概要

特集 現代における解離—診断概念の変遷を踏まえ臨床的な理解を深める

解離は障害であり,力でもある

著者: 中島幸子1

所属機関: 1特定非営利活動法人レジリエンス

ページ範囲:P.1085 - P.1089

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はじめに
 解離(dissociative identity disorder:DID)の症状がある当事者として,解離について,医療に携わっている方々に読んでいただける機会をいただき,大変ありがたく思っています。
 私が最もお伝えしたいのは,解離は精神疾患であると同時に,サバイバルするための力でもある,ということです。この視点が欠けると,解離はなくさなければならない症状とみなされてしまいます。
 私を含め,解離の症状が強い人たちは,生きるか死ぬか,といった感覚を何度も経験している可能性が高いです。それは多くの場合,子どもの頃の被虐待(特に性虐待)経験によるものです。耐えがたい事態に遭い,独りで抱えきれずに複数の人格を作り出さざるを得なかった経験が過去にあります。今までも,そして今後も,トラウマの影響を大きく感じながら生き続けなければなりません。記憶を抱えては生きていくことができないほど破壊的な場合には,他の人格が被害の記憶を持ち続けてくれていることが,生き延びる術なのです。
 解離ができたからこそ生き延びることができたのであれば,それは能力であり,ゼロにしてしまう必要はないはずです。
 そこまでのトラウマ経験のない大多数の人にとっては,複数の人格やパーツで居続けて生きていく必要があるということを理解するのは難しいかもしれません。「1つの体には1つの人格であるというのが本来の姿だからその状態に戻そう,それが理想的な回復だ」と考えてしまうかもしれません。しかし,恐ろしい体験の記憶を体や脳に埋め込まれて生きていかなければいけない場合は,生き方が異なります。トラウマの治療が進むことによって,結果として自然と人格の統合が起きることはあります。しかし,統合自体を目標としてしまうことは,内部の人格や生き延び方の否定ともなりますし,達成することが困難すぎる目標に感じ,大きな反発や無力感などにつながり,逆効果になることを理解していただきたいと思います。

参考文献

1)中島幸子:マイ・レジリエンス—トラウマとともに生きる.梨の木舎,2013
2)International Society for the Study of Trauma and Dissociation(ISSTD) https://www.isst-d.org/[2024年6月4日閲覧]
3)Carolyn Spring:Trauma training for professionals and survivors. https://www.carolynspring.com/online-training/[2024年6月4日閲覧]
4)An infinite mind:Healing Together conference. https://www.aninfinitemind.org/healing-together-conference[2024年6月4日閲覧]
5)オルガ・トゥルヒーヨ(著),伊藤淑子(訳):私の中のわたしたち—解離性同一性障害を生きのびて.図書刊行会,2017
6)映画『Teamその子』 https://teamsonoko.yunique.works/[2024年6月4日閲覧]
7)ISSTD:dissociative Identity disorder individuals:societal threat or societal victim? ISSTD News(February 25), 2021 https://news.isst-d.org/dissociative-identity-disorder-individuals-societal-threat-or-societal-victim/[2024年6月4日閲覧]

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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