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雑誌目次

論文

精神医学7巻1号

1965年01月発行

雑誌目次

第1回精神医学懇話会 主題報告

精神医学と神経医学

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.5 - P.11

はじめに
 精神医学と神経医学との関係は,欧米先進国にあつてはかねてから相当重要な話題であり,たびたびすでに論ぜられていたにもかかわらず,わが国では真剣にとりあげられたことはほとんどなかつたように思う。それは,従来は精神医学と神経学の両者を包含する"神経学会"あるいは"精神神経学会"がこの種の専門学会としてはわが国に存在していた唯一のものであつたからであり,また雑誌も一つの"神経誌""精神神経誌"しか比較的最近まで存在していなかつたからである。またわが国では従来精神医学も神経医学もどちらかといえば日の当たらない特殊中の特殊学科と一般に考えられていたという事情も,この両者を一つに結びつけて会合をもつことに大した疑問を起こさせなかつた理由の一つであろう。
 しかるに最近事情は一変した。まず臨床神経学会が独立してその機関紙ももつようになり,ついでこれは"日本神経学会"という完全に独立した学会となつた。精神神経学会と粒神神経誌はいぜんとしてつづいているが,そのほかに"精神医学"という雑誌も生まれた。これらの動きは精神医学と神経医学を遠心的に分離させる方向に進みつつあるように思われる。したがつてこのさい精神医学と神経医学の関係を徹底的に明らかにしておくことが緊急の課題であるように思われ,この精神医学懇話会でも,この問題を真先にとりあげたしだいである。

指定討論

「精神医学と神経医学」に対する討論

著者: 奥村二吉

ページ範囲:P.11 - P.14

1.はじめに
 この問題は文化圏により,国により,大学により異なるところがあると思う。われわれは日本の社会に適した方法を考えなければならぬ。ドイツやアメリカのありかたをそのまま輸入しようとすることは不可である。このさい,われわれの考察の根本となるべきものは学問の進歩と患者の幸福ということである。この2つの柱を見失つてはならない。いまの日本の大学のような強度に独立した講座制度は学問の進歩のためにも障害をなしているが,さらに強く患者の幸福を阻害している。これら旧来の制度にとらわれず真によきありかたを見いだし進んでいきたいものである。

「精神医学と神経医学」に対する討論

著者: 椿忠雄

ページ範囲:P.14 - P.15

 精神医学と神経学との関連についての精神医学者の会合に指定討論者として招かれたことを光栄に感じている。私は三浦教授のご講演をうかがつて,それについての意見を述べさせていただくわけであるが,それはclinical neurologistの立場における意見である。三浦教授がご指摘になつたように,神経学を考える場合,広義の神経学すなわちneurological scienceと,狭義のneurologyすなわち臨床神経学のいずれを意味するかを明確にしなければならないが,これを同じ意味において広義の神経学に関係している神経学者と,clinical neurologistを一応分類することができるわけである。三浦教授はこの狭義の神経学に対して,旧態依然たるとか,19世紀的神経医学とかよんでおられるが,この言葉に対する意見は別として,私はとにかく臨床神経学者の立場に立つての意見を述べるということを明らかにしておきたい。これは三浦教授が神経学を考えるのに精神医学者または精神神経学者としての立場に立つておられるのと対蹠的である。三浦教授は精神医学とneurological scienceの関連について,かなり長い時間論ぜられたのに対して,私もclinical neurologyと,neurologlcal sclenceの関連について同様に論ずることもできるわけであるがこれについては本日の主題からはずれる。三浦教授の論点は,そのように精神医学とneurological scienceとの関連が主となつており,精神医学と,狭義の神経学との関連についての論述が少ないので,clinical neurologistの立場から論ずる領域は勢いかぎられたものにならざるをえない。

一般討論

精神医学と神経医学

著者: 懸田克躬 ,   三浦岱栄 ,   奥村二吉 ,   椿忠雄 ,   楢林博太郎 ,   林暲 ,   井村恒郎 ,   笠松章 ,   牧豊 ,   原俊男 ,   白木博次 ,   里吉営二郎 ,   広瀬貞雄 ,   福山幸夫

ページ範囲:P.16 - P.28

 司会(懸田) 精神医学関係の方々はご承知のように,「精神医学」という雑誌では,何人かの者が責任編集者となつて,ほとんど全部の精神科の教授の方たちに編集同人になつていただいて,「精神神経学雑誌」とならんだ,臨床的な精神医学の雑誌としての特色を発揮したい,という努力をしているわけであります。その雑誌もだんだん皆さんに認めていただけるようになつてきましたし,やはり雑誌存立の1つの条件として,われわれが基本的に考えておかなければならない問題を,心おきなく話せる小さいグループのなかで,しかもその問題をよく考えていらつしやる方に,相当な時間をさいてスピーカーとなつていただき,それに加えてまた,集まつた方から忌憚のない質問なり,ご意見なりを聞かしていただくということで,そのような問題に関して考えを深めてゆく会合をもちたいということを考えました。いろいろなテーマを考えたわけですが,きようはその第1回として,「精神医学と神経医学」というテーマで,慶大の三浦先生,岡大の奥村先生,東大の椿先生の3人の方にお話をお願いしたわけです。
 精神医学と神経医学,あるいはpsychiatryとneurologyといつてもいいかもしれません,―かもしれませんということはおかしいですけれども,すでにpsychiatryを精神病学から精神医学と訳しなおしたところに,また人々の考えによつてニュアンスの違いがあるかもしれないからです。そのことはおいおい皆さまのお話のなかで明らかになつてくることだろうと思います。

研究と報告

高校生にみられたLustmord—その生育環境からの解明

著者: 杉山佳行

ページ範囲:P.31 - P.35

I.緒言
 サディズムと同様に淫楽殺人も,その定義はともあれ,それが実例に適用される場合には,比較的広義に使用されている1)2)3)。しかし,この事例では最狭義に解し,性的犯行の遂行を容易にする補助手段としての殺人や,また殺人が証拠湮滅の手段としておこなわれたものは除外し,「殺人または殺人に結果する行為を,それ自体が性的な興奮や快感をもたらすものとして追求されたもの」と定義しても,それに該当し,他方,淫楽殺人は「そう稀なものではない」3)と書かれてはいても,元来,少年事件において殺人が占めるのは小部分で,たとえば,筆者が大阪少年鑑別所に勤務した昭和29年から,本事件発生の昭和38年までの10年間に,当鑑別所で鑑別をうけた男子少年の総数は,33,348名で,このうち殺人に結果した事件名で入所した者は93名,しかも,その行為自体が性快感と結びついていたのは,この一例だけであつたことから,少年事件としては稀なものと考えたので報告する。
 なお,ひとりの人間の行動を,ただ一つの方法で解明することは,もともと困難で,これを彼のAggression4)だけに限つても,説明の可能性は多種である。

精神分裂病者の自殺(前編)—病識のある病者の自殺

著者: 梶谷哲男

ページ範囲:P.37 - P.41

I.はしがき
 自殺の原因を考える場合,Durkheimのように統計的処理によつて,社会的要因におもきをおく立場と,Delmaのように個人的素質におもきをおく立場がある。またBlondelのようにこの両因がなんらかの割合で混り合つていると考える立場もある。
 この場合,自殺の原因という漠然としたよびかたをしたが,GauppやGruhleは,原因と動機を峻別し,加藤も,自殺を準備する「自殺傾向」と自殺実行の直接のきつかけとなる「自殺動機」または「結実因子」とを区別している。また,Delmaは,自殺を,事故,痴呆,強制によるえせの自殺と,真の自殺を区別している。Goldsteinは「個人の行動が不注意に死をきたすような破局的事態の無秩序や混乱の結果ひきおこされる死は,自殺とよばれるようなものではない」といつている。大原も,自殺を純粋自殺と偽似自殺に分け,精神病者の自殺をおしなべて後者に属するものと考えているようである。

自殺未遂者(急性催眠剤中毒による)の生活環境—とくに片親問題を中心として(第1報)

著者: 横井敏夫 ,   黒田知篤

ページ範囲:P.42 - P.47

I.緒言
 戦中戦後の社会的混乱はしだいに安定化の傾向を示し,社会保障の改善,経済力の成長も認められ,これにつれてわが国の社会的不安も一見減少しているかに考えられるが,自殺率を問題にすれば,事実は予想に反し,年々増加の傾向を示している1)2)。自殺者の数は,昭和25年4,579名に対し昭和33年は11,315名と約2.5倍に達している。
 日本の自殺の問題中,最も大きなものは,若い世代の自殺率が諸邦に比べて最も高いということである3)

Hirnamin大量投与の精神療法的意味について—いわゆる依存的精神療法の設定から

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   延島信也 ,   馬場礼子 ,   岩崎徹也 ,   玉井幸子

ページ範囲:P.49 - P.59

I.まえがき
 精神療法は,治療者・患者間の心理的相互作用によつて,患者になんらかの治療的変化を生みだす治療方法である。
 近年の薬物療法の進歩は,逆説的ではあるが,精神療法の進歩を著しく促進した。その理由は,この心理的相互作用が無媒介には起こりにくい対象についても,薬物を媒介にすることによつて,心理的影響を受けやすい状態の成立が可能になつたからである。

発動の精神病理—とくに器質的過程をも顧慮して

著者: 伊東昇太

ページ範囲:P.60 - P.64

I.序論
 発動と前頭葉機能とは,密接な関係にあり,これに関する多くの業績があるが,内因性精神病ばかりでなく,慢性器質性精神病においても観察されるこの障害を検討してみたい。発動の障害が,精神神経疾患においてどのように比較されるかの課題は,この現象の比較精神病理学(注)ともいえるものであり,興味ある課題と考えられる。すなわち,器質性疾患の精神症状と内因性精神病の精神現象の橋渡しの症状として,この問題をとりあげることは,無意味なことでないと思う。なお1961年4月,北,北西ドイツ神経精神医師協会が,Kielにおいてこのテーマをとりあげていることもわれわれの領域で中核的主題の一つであることを示しているといえよう1)。また最近W. Klagesによるこの現象の心理と病理についてのまとめを見るが,31)疾患分類学上での位置づけに以下ふれてみることとする。

てんかん性もうろう状態および知覚抗争を伴つた身体図式障害の1例

著者: 高柳功

ページ範囲:P.65 - P.69

I.序
 身体図式障害という言葉はHeadらが身体図式という概念を提出して以来,脳病理学では広く用いられているが,脳病理学以外の領域でも多くの症状の説明に適用されており,そのために時に混乱が生じてくる。われわれがここで問題にするのは,あくまで脳病理学的概念における身体図式障害である。半側性の身体図式障害の成因については従来種々の異論があり,左大脳半球の優位性という問題もからみ諸家の見解は一致しない。一般に右劣位半球損傷によって身体図式障害が生じやすいことは事実であるが,単に右劣位半球における病巣のみによつてこのような障害が出現するとはいえず,そのさいに病巣外要因も当然考慮せねばならない。病巣外要因として種々な程度の意識障害がしばしば存在することはすでにCritchley,Weinstein,山県らが指摘しており,山県は意識障害の役割りが症状の出現に対してきわめて大きいと述べている。われわれは最近,頭部外傷後遺症で右劣位半球損傷が推定される症例を経験したが,この患者には頻回にもうろう状態が生じ,同時に身体図式障害および触覚性の知覚抗争が認められた。身体図式障害に意識障害および知覚抗争が合併したということは上述の病巣外要因をよりいつそう知るうえで興味のある点である。なお,身体図式障害に対しLSD 25を投与し症状の変化を観察しえたのであわせて報告する。

“Reading Epilepsy”の1症例

著者: 細川清 ,   西岡博輔 ,   山本昌知

ページ範囲:P.71 - P.76

I.はじめに
 知覚刺激(Sensory Stimuli)によるてんかん発作誘発の記述は古くとくに目新しいことでもない。光原性てんかん,音楽原性てんかんなどの発作群に加え,興味あるSyndromとして1956年Bickford1)が“Reading”が特異的刺激となり発作が誘発された自験例を中心として“Reading Epilepsy”を報告した。本症は2型に分類され“PrimaryReading Epilepsy”は読書が特異刺激であり,なかんづくかれの報告した6例中5例,読書中不随意の発作性下顎運動(A series of involuntaryjerking of the lower jaw)および下顎の異和感の訴えが見られ,読書をさらに継続すれば全身けいれん,意識消失などの発作へと移行するタイプの症例群であつた。これに反し,他のタイプは読書が特異的誘発刺激でなく,他の刺激でも誘発され,例の“下顎運動”も見られず,閉眼覚醒時すでに異常脳波が見られる症例群であるという。その後,“Reading Epilepsy”としての症例報告は相ついで現われ,こんにちまでに29例におよんでいる。これらはまだ症例報告の段階にあり,その機序については定説を見ていないようである。われわれも最近Bickfordによるいわば第2のグループにはいると思われる症例を経験したので本症の報告を行ない,あわせて若干の文献的考察をこころみた。

新向精神薬剤haloperidol(butyrophenone誘導体)の使用経験

著者: 三浦岱栄 ,   伊藤斉 ,   三浦貞則 ,   高橋進 ,   斎藤正道 ,   佐藤恒男 ,   川上伸二

ページ範囲:P.79 - P.85

I.まえがき
 Haloperidolの出現は,精神病の薬物療法にとつて,きわめて重要な意義をもつものと思われる。その理由は主としてつぎの2点による。
 1.もつとも強力かつ急速な向精神作用を有する。
 2.化学構造上まつたく新しい系統に属し,その後につづく数々のbutyrophenone誘導体の発端となつた。
 本剤は,Janssen研究所にて合成され,Divryら(1958)によつて初めて臨床に導入されたが,以来多くの関心を集め,欧米では,優秀な向精神薬剤としての確固たる地位を占めつつある。しかしながら,本邦の臨床報告はまだきわめて少ない。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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