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雑誌目次

雑誌文献

精神医学7巻10号

1965年10月発行

雑誌目次

展望

プラセボーに関する諸問題

著者: 桜井図南男

ページ範囲:P.858 - P.866

I.はじめに
 近ごろ,プラセボーPlaceboに対する関心がたかまりつつあるようだが,これはShapiroが,1957年に,この問題に関する綜説を書いたのがきつかけになつたといわれている。その後,プラセボーを使つた二重盲検法double-blind methodが薬物の効果判定に,ひろく導入されるようになつたが,10年前には,プラセボーを対照にした臨床実験はほとんどなかつた。
 現在では,二重盲検法を行なわない薬物の効果判定には,十分の信頼性がないとさえいわれているが,この二重盲検法について,Inteurはその名前がよくないから,controlled methodというべきであると提案しているし,また,Sainzは二重盲検でも,まだ,満足できない。三重盲検法tripple-blind methodをこころむべきであるという。

研究と報告

分裂病家族への接近—並行面接から同席面接へ(その1)

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   河合洋 ,   岩崎徹也 ,   北田穰之介 ,   鈴木寿治

ページ範囲:P.867 - P.872

I.まえがき
 精神医学にとつて,家族研究が重要な課題になつてきたことは周知のとおりである。歴史的にまず児童精神医学の領域に始まつたこのこころみは,近年分裂病の治療と精神病理の解明に大きな役割をはたすようになつた。そして最近は,わが国でも分裂病の家族研究のかたちで精神医学者が家族研究を行なう勁きが活発になつているが,その方法論をめぐつて,精神医学の立場からつぎのような問題をあげることができる。
 1)家族研究は,それが精神医学的な家族研究である以上,あくまで精神医学的な病態(psychopathology)の治療と研究を目標にして出発している。この場合の病態とは,患者の場合(Ackerman1)のいわゆるprimary patientのpsychopathology),家族全体(family as a whole)の場合(Ackermanのいわゆるsocial psychopathology)もあろう。いずれにせよこの病態の治療と研究を離れた,単なる客観的な家族研究は,社会学者にまかせておけばよい。

精神分裂病者の外勤作業療法について(第1報)

著者: 井上正吾

ページ範囲:P.873 - P.881

I.緒言
 外勤作業療法とはつぎのごとき要件をそなえたものをさしている。すなわち,精神病院で a)治療を受け,b)生活をしていながら,c)だいたい昼間8時間ほどを院外の一定の作業場などにおいて継続的に作業をなし,d)これを通じてより高度の医学的社会的リハビリテーションを可能にすることを意図している。
 a)院内における治療は,病初期に行なわれる大量の向精神薬の投与,インシュリンや電気衝撃療法などは一応終了しており,薬剤は普通少量の維持量が与えられて,ときどき精神療法(集団や佃人的)やリハビリテーションのための社会復帰教育がなされている。
 b)院内生活においても日常生活のペースは普通世人のそれに近く,自主的自律的に行なわれる段階である。また仙人との協同もほぼ円滑を期しえられ,自治会活動,クラブ活動なども行なつている。
 c)1日8時間の作業がふつうであるが,通勤時間などを計算にいれると,午前7時から午後6時ごろまでは院外にあることとなり,昼食などは弁当として携行している。1週6日または5口制であり当院としては,金曜日を集団精神療法,佃人精神療法やレクリエーションなどにあてているしまた月1回ほどは作業先の業者の懇談会を催して受けいれ側の理解を深めまた協力を得るべく努力をしている。
 d)また,私たちの外勤療法を他の療法などと比較するに

頭部外傷後の神経症症状形成における社会的心理的要因の意義(第3報)—時代的変遷と病像の変化

著者: 諏訪望 ,   森田昭之助 ,   稲津正也

ページ範囲:P.882 - P.890

I.はじめに
 われわれが取り扱う頭部外傷は亜急性ないし慢性の後遺症が大部分である。しかもその大半が閉鎖性のもので,患者の自覚的訴えと神経学的所見との相関を明らかになし得ないものも少なくない。
 この問題をめぐり,すでにErichsen(1886)がその本態を脊髄およびその被膜の慢性の炎症に求め,さらにOppenheim19)(1889)は,解剖学的変化でも顕微鏡学的に証明される変化でもない脳における機能的障害(cerebrale functionelle Störung)が重要な意味をもつとし,外傷性神経症という名称を初めて用いたことは周知である。その後Charcotらの心因論が大きな勢力となり,1916年のドイツ精神医学会で,いわゆる外傷性神経症がヒステリー学説を基盤とする心因にもとづくものであるとする考えが大勢を支配し,いわゆるWunschtheorieがある程度不動のものとなつた23)

頭部外傷後人格変化症例の治療経験

著者: 太田幸雄 ,   川端利彦

ページ範囲:P.891 - P.895

I.はじめに
 われわれ(太田ら2))は,さきに成人の頭部外傷後遺症として,人格面での変化が数のうえからいつても多く(われわれの1,168名の統計では5.8%),重要な後遺症状の一つであることを報告した。
 さて,つぎに起こる問題は,こういう患者の治療の問題とともに,非常に長い期間の後に患者がどういう経過をたどるかということである。しかし,長期にわたつてこういう患者を治療し観察しつづけることはきわめて困難である。患者自身に病識が乏しいことも大きな困難の原因の一つであるが,そのほかにも,患者の家族,勤務先の理解,経済的支持が必要であると同時に,健康保険や労災保険の面での問題も大きい。
 われわれは,ごく少数例ではあるが以上のような点で好条件に恵まれ,きわめて長期間治療でき,しかもかなり良好な経過をとりえた3例について報告したいと思う。しかし,これらはいま述べたように,きわめて限定された好条件のもとに治療と指導を行ないえた症例で,しかもきわめて少数例であるので,この論議が人格変化症例の全般についてのものではないことを前もつて,おことわりしておく。

躁状態様病像を呈した全身性エリテマトーデスの1症例

著者: 清水英利 ,   大森勇 ,   仁木繁

ページ範囲:P.896 - P.900

I.緒言
 1875年に,Kaposi & Hebra1)により,エリテマトーデスに精神症状が見られることが最初に記載されて以来,多数の報告が行なわれてきた。エリテマトーデスにおいては,かなり高率に精神症状を発呈するとされ,その病像も,単なる意識障害から,大精神病の症状を呈するものまで,あらゆる精神症状が知られている。最近私たちは,内因性の躁病を思わせるようなエリテマトーデスの患者に接することができたので,この症例について詳細に報告したい。

光原性自己誘発てんかんの1例

著者: 中尾弘之 ,   青木功 ,   笹田稔 ,   松田伯彦 ,   長谷川豊

ページ範囲:P.901 - P.905

I.はじめに
 日常のありふれた光のゆらぎによつて,てんかん発作が誘発されることはむかしから知られており,これは光原性てんかんといわれている。これは非常に少ないが10),このうち,患者自身で光原性てんかんを起こす光原性自己誘発てんかんはさらにまれである。外国では1962年に約60例の集計の報告があり1),わが国では4例の報告がある。最近われわれは光原性自己誘発てんかんの1例を見たので,それについて報告する。

精神病院における音楽療法の経験と技術的な二,三の考察

著者: 西形雄次郎 ,   深沢文彦

ページ範囲:P.907 - P.912

I.発端
 声をあげて歌をうたいたくなることは,誰にでもある。そして,このような人々が集まつたときに,声をそろえて歌声が起こることは,よくあることである。また逆にみんなでうたうことによつて,その場に共通なある雰囲気をつくり出すこともできるのである。
 しかしわれわれの精神病院では,いずれの場合も歌声は少ない。むろん,作業をしながら歌ともつかない鼻歌をうたつていたり,病室のテレビにふと声を合わせていたりする人を見るときもあり,時には高歌放吟しながら徘徊する人を見受けることもある。しかしそれとても数は少ない。また茶話会や,四季の演芸会などに,たれかののど自慢があつても手拍子はすぐには起こらず,まるで無関心であるかのように,出された菓子を食べている。これは深い意味をもつ事柄であり,これには疾患の本質と精神病院環境のありかたの両方がかかわつている。

PZ 1511の臨床精神薬理作用について

著者: 桜井図南男 ,   西園昌久

ページ範囲:P.913 - P.917

I.はじめに
 PZ 1511は吉富製薬によつて新しく開発された向精神薬で,その臨床作用についてはすでにいくつかの予報的見解が発表されている。それによると,欠陥分裂病に特異的な効果があり,その目標症状は抑うつ気分,不安,緊張,衝動減退であつて,一般に欲動亢進的作用が前景に現われるという。また,少数例に急性期分裂病に見るような幻覚妄想状態を呈するものがあり,その作用機制は,phenothiazineの場合とは異なるという。
 このたび,私たちは,そのような報告を参考にして,わが国で初めて開発されたという抗精神病作用をもつと考えられる薬物,PZ 1511の臨床作用について検討を行なつた。いろいろの事情により,今回対象とした症例が比較的に数少なかつたことは残念であつたが,各症例については,かなり長期にわたり観察を行なうことができたので,PZ 1511の臨床作用について,いままでに私たちの経験した事実を,一応ここでまとめて報告しよう。

PZ 1511の精神分裂病に対する使用経験

著者: 山口昭平 ,   室伏君士 ,   鎌田祐子 ,   高橋俊哉 ,   間島竹二郎 ,   小河原竜太郎 ,   三橋康夫

ページ範囲:P.919 - P.927

I.はしがき
 1952年,Delay, J. らによつてphenothiazine誘導体を初めとし,種々の向精神薬が開発され精神科領域の治療に導入されて以来,薬物療法が内囚性精神病に対して大きな治療効果をおさめていることは,よく知られている。しかし,精神分裂病,とくに陳旧性病像のものや欠陥分裂病に対する薬物療法の効果については十分なものは少なく,かれらをしてすすんで作業療法やレクリエーション療法に積極的に有効に参加させ,または社会生活面における活動におもむかしめるためには,各種の向精神薬をもつとしても十分な成果をあげているということはできない。
 吉富製薬K. Kの開発した新薬PZ 1511は,これらの陳旧性の分裂病像に対し興味ある若干の知見を示しているので,その治療効果を見るという見地よりも,興味ある病像の変化に着目してわれわれの経験を報告する。PZ 1511の構造式は第1図のごとく抗うつ剤imipramineの核にDipiperone側鎖をもち,その薬理学的作用はほぼimipramine様の作用を有し,その毒性は弱いといわれている。

付記—PZ 1511について

著者: 懸田克躬

ページ範囲:P.927 - P.927

 臨床精神医学の領域に,真の意味で特殊薬物療法といいうる療法が導入されたのは,すくなくも内因性精神病に限つていえば1952年のchlorpromazine導入以後のことであるといえよう。年月としてはながいことではないが,今日では薬物療法がインシュリン療法や電気衝撃療法を越えて治療の主導的地位を占めることは誰も否むことはできないと思う。
 その後のいわゆるpsychotropicあるいはantipsychoticな薬物の開発は目ざましい。chlorpromazineがそのひとつであるようなphenothiazine核を中核とするものについてみても下図のR1やR2の置換につれて,薬効の質と強さとに変化がみられることの指摘などもあり,さまざまの誘導体がわれわれの欠きえない武器となつている。ただに,このようなphenothiazine系のNeurolepticaのみではなく,抑うつ症に対するThymolepticaやPsychotonicaなどについても事態は同様で,さまざまのAntipsychoticsが開発され,詳密な観察と標的症状の探究がなされていることはわれわれのよく知るところである。

from Discussion

「精神分裂病者の自殺への討論」にこたえて

著者: 梶谷哲男

ページ範囲:P.929 - P.931

 私は「分裂病者の自殺」という小論において,分裂病者(以下病者と略す)の自殺心性をできるだけ了解しようとし,とりあえず病識との関係を手がかりに選んだ。その結果,病者の自殺のなかにも了解可能なものがあり,これを一括して偽似自殺としてはならないこと,また病識があまりにも鮮やかな場合は自殺の危険性の多いことを述べた。また人格にある程度統合性がありながら病識のない病者の自殺において,病態のなかに主体の能動的なはたらきを見いだす場合,なぜその病態に圧倒されて自殺に追いやられるかを問いかけながら,結局それらの多くは,病態によつて直接自殺行為に追いこまれるのではなく,病によつても救いえなかつた不安,つまり防衛の閾をこえた破局的事態があらかじめそこにあつたのではないかと考えた。そしてこの場合,死への不安が,不安による死へと転換された人間存在の特殊性に注目した。
 これに対して,斯界の権威の一人である大原氏より討論をいただいたのは光栄であり,また大いに反省の機会ともなつた。しかし,立場の相違,細部における意見のくい違いのほか,全般的にはやや討議が枝葉にはしり,上記の私の主題からずれているという不満を感ぜざるをえなかつた。それというのも,私が小論のはしがきにおいて氏の考えかたをいくらか批判していたので,自然に討議の中心がそこにおかれざるをえなかつたという事情もあつたであろう。

動き

東ニューギニアにおける民族精神医学的調査

著者: 荻野恒一

ページ範囲:P.933 - P.938

I.はじめに
 ニューギニアは,世界で2番目の広大な島であるが,現在これが2分されて,東半分はオーストラリア政府によつて,西半分はインドネシア政府によつて統治されている。南山大学束ニューギニア学術調査団6名は,文部省大学研究助成金により,昭和39年8月から12月にかけて約110日間,オーストラリア政府によつてTerritory of Papua and New Guineaと命名されている東ニューギニア,とりわけ高地を中心に,文化人類学的調査を行なつた。そしてこの調査団の一員荻野は,社会精神医学的ないし民族精神医学的観点からの調査に従事したので,ここにその結果の概要を報告する。なおここに報告する事柄に関する具体的資料および文献のうち,とくに興味深く思われる若干の個別的テーマは,本誌における〔資料〕欄に次号以下2回に分けて報告する。

紹介

—Rufus Ephesius 著—「問診法」ほか

著者: 大橋博司

ページ範囲:P.939 - P.943

 一昨年,昨年の「精神医学」誌上に数回にわたり古代ギリシャ・ローマ医学の精神医学的文献を紹介したが,介年も3回ほどこのつづきを書くことになつた。今回はRufus Ephesiusである。かれのテクストはDaremberg et Ruelle(1879)によつてまとめられているが,そのリプリント版(1963)が出ている。
 Rufus('Poυφos)は有名な医家であるがその生涯についてはほとんど知られていない.Ephesosの出身であり,2世紀(A. D.)前半に活躍した。おそらくローマに居住したと思われるが,確実な資料はないとの乙とである。ただかれの著作(問診法)のなかにはしばらくの間エジプトに滞在していたことが記されている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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