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雑誌目次

雑誌文献

精神医学7巻11号

1965年11月発行

雑誌目次

座談会

中国・ソ連における精神医学

著者: 井村恒郎 ,   桜井図南男 ,   加藤正明 ,   岡田靖雄 ,   西尾友三郎 ,   笠松章 ,   林暲 ,   三浦岱栄

ページ範囲:P.950 - P.966

はじめに
 司会(井村) 僣越ながら司会をさせていただきます。なぜ私が司会者に選ばれたのかよくわからないのですけれども,10年ほど前私がソ連圏内の一部にはいつたという,単にそれだけのことらしいんです。それはともかく,今度桜井教授と加藤教授が,それぞれ中国とロシアへ行つてこられました。ソ連の医学,とくに精神医学について私たちはほとんど知らず,書物などで間接的に想像してる程度なので,ぜひ事実を知りたいと思い,今回の座談会を企画したわけです。いろいろ伺いたいことはございますが,その前にまず,どんな目的で,どのくらいの期間,どのように旅行されたかお伺いして,それから本論にはいろうかと思います。桜井先生どうぞ—。
 桜井 ご承知のように,いままで,中国には,特別な招待を受けたとかあるいは特別な関係の人しかはいれなかつた。ところが今年になつてから,ある程度外来の客を受けいれるようになり,客国にそれぞれ枠ができたのです。日本は1年間に2,000人という話でしたが,フランスなどは5,000人と多いのです。その枠のなかでお互いに話し合えるような人たちにきてもらいたいということなんです。今度のことは福岡県の福間病院の院長をしている佐々木さんが非常に努力してくれて,その枠を若干とつてくれました。いままで精神医学の人で行つた人はいないということで,わりあいに優先的に枠がとれたものですから,福岡県の精神病院協会長の大村さんが団長をつとめられて,私は顧問ということで出かけたのです。

研究と報告

失認と妄想の精神病理—とくに錯認(Paragnosie)について

著者: 越賀一雄 ,   浅野楢一 ,   今道裕之 ,   竹内邦夫 ,   松田良一

ページ範囲:P.967 - P.971

 われわれはアルツハイメル氏病と推定される1例の患者について,ゲルストマン症候群に加うるに健忘,失見当識をきたし,実物の認知に粗大な障害はないが,絵画,とくに略図の認知に顕著な失認を呈する図形失認の1例について報告し,同患者が写真の一部分のいちじるしい誤認をきたし,ひいては全体の著明な錯認Paragnosieをきたすことを指摘し,それらの症状を大脳病理学的に抽象的行勁の概念によつて説明し,さらに知覚と行動の不可分な関係に言及し,つぎに同患者に現われた妄想様症状と精神分裂病の妄想との構造の相異について考察し,精神分裂病の妄想では全体が先行し,部分が先行するかに見えるときも,その部分にはすでに変容したかたちの全体が反映しており部分と全体とは相互に移行し合つているに対して,Paragnosieを伴う失認患者の場合,妄想様症状は部分の誤認から部分の誤認へと一方的に付加されて形成され,そこには全体との関連が失われていることを指摘した。

Kleine-Levin Syndromeの1臨床例

著者: 清水順三郎 ,   山崎英雄 ,   田島誠 ,   佐藤壱三

ページ範囲:P.972 - P.976

I.はじめに
 1925年,Kleine1)は破瓜期に初発し,間期性をもつて数日から数週におよぶ病的睡眠発作をくりかえし,同時に異常な精神状態を呈し,かつ異常な食欲増進状態をも伴う症例をまとめて発表し,これをPeriodische Schlafsuchtと名づけた。
 その後,Levin2)3)(1929,1936年),Kaplinsky4)ら(1935年)により,同様の症例報告がなされ,こんにちではKleine-Levin Syndromeともよばれて,外国ではかなり長期にわたる観察例も報告されている。
 一方わが国では1941年に,谷5)が周期性欲眠症として初めて本症と考えられる症例を発表しているが,その後まとまつた文献として発表されたものはきわめて少ない。最近われわれは定型的な本症と考えられる症例を経験したので報告する。

分裂病家族への接近—並行面接から同席面接へ(その2)

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   河合洋 ,   岩崎徹也 ,   北田穰之介 ,   鈴木寿治

ページ範囲:P.977 - P.982

I.はじめに
 本報告(その1)(「精神医学」第7巻第10号掲載)で,われわれがたどつてきた精神医学的な家族面接について,児童の両親から分裂病家族へ,いわゆる並行面接の諸原則や困難,Conjoint Family Therapyや同席面接のこころみなどを述べたが,ここではそれらの接近を,分裂病家族に適用した経験を報告したい。

言語性発作と大脳半球優位

著者: 大橋博司 ,   河合逸雄 ,   菊知竜雄

ページ範囲:P.983 - P.988

 I.はじめに
 てんかんの発作型に言語性発作のあることが諸家により報告されてきた。この発作症状は大別して失語発作(aphasic fit),言語停止発作(speecharrest),言語自動症(speech automatism)に分けられよう。
 Penfield16),Bingley,3)Falconer18),佐藤17)たちの定義にしたがえば,失語発作は文字どおり発作性の失語であり,言語の思考と理解が発作的に障害される。言語停止発作とは言語の単純な停止であり,発作的な構音障害である。この二者の場合は,発作時に意識が失なわれることはなく,発作後に患者自身が覚えている。言語自動症は一般の自動症の一部をなすもので,常同的な語句,意味不明のつぶやきなどを示し,その場の状況と関係のない内容を語ることが多く,健忘を残すのが一般である。Falconer18)はこれに加えて,言語自動症の際は構音障害は決してない,とのべている。

精神病理学と刑法学の境界領域—酩酊責任を中心として

著者: 斎藤義寛

ページ範囲:P.989 - P.993

I.まえがき
 責任能力とは法律上の概念であるが,精神鑑定に関与するものであるので,法律家と精神医学者が互いに協力して研究しなければならない問題である。このことではすべての人々の意見は一致しているのに,わが国ではその両者の意見が交換される機会は少ないようである。しかし私は精神病理学と刑法学は,一見まつたく異なつた領域のように見えるけれども,さまざまな面で類似点をもつているので,双方の学者が共通の論議の場をもつときは,非常に理解しあえる点が多いように思うのである。法律家も精神医学者も互いに他の領域を知るべきであり,そこに新しい進歩や発展がもたらされるものと考える。
 けれども私がこのような立場に立つときは,責任能力の概念の吟味,現行法や精神鑑定のありかたの批判という,きわめて重大な問題に立入ることになる。そしてそれには精神病理学と刑法学という,二つの膨大な領域に対する深い造詣を必要とする。これは私のような若輩のおよぶべきものではないかもしれない。しかしそれにもかかわらずこの論文を書いたのは,このような論議が活発になるための,一つの問題を提起したいと考えたからである。この論文には種々の欠陥が指摘されるかもしれないが,それを指摘されないままに放置されると,私は今後も自信のないままに,いつまでも欠陥の多い鑑定書を書きつづけることになる。これは私の鑑定人としての良心にとつても,堪えられない問題なのである。

最近の向精神薬の治療成績の検討—Taxilanの精神疾患に対する臨床経験を中心に

著者: 田中善立 ,   荒谷道巳 ,   大平常元

ページ範囲:P.995 - P.1001

I.はじめに
 精神障害者に対する精神薬物療法が始められてから,すでに12〜3年になる。事実1952年J. Delaysによつて,Chlorpromazine1)が,精神科領域の治療薬として卓効があることが認められて以来,まつたく,精神医学の臨床治療面に一大転回をもたらした。
 しかしながら,その後応接に暇がないほど類似の精神薬物が続出したが,この1年ばかりはいくぶんおちついてきたようすでもあり,またこの領域の反省期であるともみなしえよう。

精神科領域におけるMH 532(Spantol)の使用経験

著者: 大熊文男 ,   高室昌一郎 ,   後藤彰夫 ,   佐々木司郎 ,   石川鉄男 ,   荒川直人

ページ範囲:P.1003 - P.1008

I.緒言
 1950年Bergerの研究室でLudwigとPiechによつて合成されたmeprobamateは,2-methyl-2-n-propyl-propandiol-1,3のヂカルバミン酸エステルであり(第1図),理論的には,barbitalの分解した構造である抗てんかん剤Prenderolの置換体とも考えられ,強力な筋弛緩剤Mephenesinとも近縁な構造である1)。meprobamateが筋弛緩作用と同時に,抗けいれん作用と鎮静作用を有することはこの点からも理解できる。このmeprobamateと類似の構造をもつ精神安定剤としてはTolseram(3-O-toloxy-1,2-propandiol-carbamate),Nostin(2-ethyl-ciscrotonylcarbamate),emylcamate(1-ethyl-1-methylpropylcarbamate)などがあり,emylcamateについては正橋ら2)の報告が見られる。ところで,Surberら3)はaralkylalcoholのカルバミン酸エステルの系統的研究中,1957年に強力な中枢性筋弛緩作用を有する物質MH532(Proformiphen,Spantol)を発見している。本剤はmeprobamateと同じく筋弛緩作用のほか,抗けいれん作用や適度の鎮静作用を有し,自律神経系に影響をおよぼすことなく精神調節作用を現わすことが知られているが,さらに特異な点は,phenylbutazoneに匹敵する抗炎症作用および解熱・鎮痛作用を有する4)ことであろう。

神経精神科領域におけるγ-Oryzanol(Oliver)の使用経験

著者: 桜田敞 ,   及川光平 ,   秋野睦 ,   古市康昌

ページ範囲:P.1009 - P.1014

I.いとぐち
 γ-Olizanol(Oliver)は,1953年に土屋らにより米糠油および米胚芽油中から抽出された物質である。本剤は動物実験によると種々の生理的ないし薬理的作用から,臨床的に間脳視床下部と大脳辺縁系に選択的にはたらき,それらの機能失調を調整・賦活化する作用があるという想定にもとづいて2)3),最近各科領域で広く使用され,とくに自律神経失調,内分泌平衡障害にもとづく疾患群に対して,すぐれた効果が認められている。
 ところで,最近における向精神薬の開発にはめざましいものがあり,精神神経科領域における治療の主体を占めていることはいうまでもない。しかしながら,とくに身体的・心気的愁訴を中心にもつた患者に対しては,単に向精神薬の投与のみでは満足すべき結果がえられないこともあり,かかる症例の治療にあたつては身体的面からの接近のこころみがかなりの治療効果をあげうることは,臨床上よく経験するところである。

資料

東ニューギニアにおける民族精神医学的調査(その1)

著者: 荻野恒一

ページ範囲:P.1015 - P.1021

I.呪術と妖術の暗闇の世界
 地球が15億年といつた尨大な年代をもつているのに対し,人類の歴史はたかだか60万年を出ないというし1),とくに道具の製作と死者の埋葬という人間固有の営みを行なうhomo sapiensの誕生は,先史考古学者によつては,たかだか5万年前という2)。そして4万年前の策四紀氷河期に,インドあたりに住んでいた人類の一部は,東洋からフィリピンを通つて(インドネシアあたりを通つてという説もあるが)ニューギニアへと,さらにはオーストラリアへと渡つていつたことは,種々なる先史考古学的知見を通じて,十分に想像しうるところであるという2)。また私は以前から「種々雑多な未開の地の文化現象を,時代時代に応じて,あるいは他の土地に伝播していくに従つて変貌していつた文化の層に分類し,より深層へと,すなわちより古代へとさかのぼつて純粋な太古の文化をたどつていこうとするSchmittら,いわゆるウイーン学派の方法」に,深層心理学と類似の方法を見て,興味深く考えていた3)
 こうしたことから,私は,南山大学人類学科のスタフメンバーといつしよに東ニューギニアに旅だつたとき,心のどこかで「この見知らぬ未開の地への旅が,自らの無意識を求めていく旅になりうるかもしれない」というとほうもない期待をいだいていた。

紹介

「ヒポクラテス全集」より—〔第4回〕夢について

著者: 大橋博司

ページ範囲:P.1023 - P.1027

 今回はまたHippocrates全集にかえる。同全集のなかには「生活法」(ΠΕΡΙ ΔΙΑΙΤΗΣ)という4巻からなる大部の著作がおさめられている。直訳すれば,“Überdie Diät”,“On Diet”あるいは“Regimen”で狭義には食餌療法の意であるが,ここでは食餌を含めて広く体練,スポーツなどの生活法,摂生活が説かれ,しかも病者だけでなく健康者への予防医学的配慮がなされている。ここに紹介する「夢について」はこの「生活法」の第IV巻である。
 さて「生活法」の著者についてはすでに古くGalenosの時代においても疑問視されていた。Hippocrates自身の著であるとするものもあつたが,そのほかの著者としてPhilistion,Ariston,Euryphon,PhaonあるいはPhiletasなどの名があげられている。いずれにせよその著者は不明とせねばならない。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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