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雑誌目次

論文

精神医学7巻12号

1965年12月発行

雑誌目次

第2回精神医学懇話会 主題報告

Paranoiafrageについて

著者: 千谷七郎

ページ範囲:P.1033 - P.1041

 精神医学の歴史とともにあるといつて過言でないと思われるParanoiafrageをここでとりあげるにあたつて,すでに確認ずみと思われる2,3の前おきをしながら焦点の解明を試みたいと思う。

Paranoiafrageについての討論

著者: 荻野恒一

ページ範囲:P.1041 - P.1043

 パラノイア問題というきわめて広範かつ困難な主題をとりあげて,千谷教授は,正統的な立場から,すなわち半世紀以上にわたつてドイツ精神医学界において論ぜられてきたこの主題の歴史に沿つて,しかも同教授独自の精神医学的立場を表明しながら報告された。私はまずこの報告によつて多くのことを教えられ,また考える機会を与えられたことについて,同教授に謝意を表したい。そしていま,この報告のなかで述べられている事柄のうち,必ずしも千谷教授がもつとも力説されたことではないかもしれないが,少なくとも私個人にとつて重要と思われる二,三の事柄を整理したい。
 まず千谷教授は,パラノイア問題をとりあげるにさいして,初めにドイツ語Wahnの語義的沿革をたどり,この言葉が初めはHoffnung,Erwartungといつた主観的な,多少とも願望的な思念Meinungを意味しており,邪推,狂気といつた非難的な意味はなく,現在のいわゆる真性妄想の概念,すなわち了解をこえた,正気を欠いたグロテスクな観念といつた妄想の概念は,ずつとのちに近世ドイツ語としてWahnsinnという合成語が成立して以後にできてきたことを詳細に述べておられる。

「Paranoiafrage」についての討論

著者: 小木貞孝

ページ範囲:P.1043 - P.1045

 まず千谷先生の該博な展望に対して敬意を表する。私は以下,先生への質問という意味を兼ねて,私なりの意見を述べてみたい。
 パラノイア問題は,結局のところ以下の3点に整理できるように思える。すなわち,パラノイアという概念が何をさすのか,パラノイアの症候論的位置とは何か,パラノイア問題と妄想論との関係はどうなつているのかということである。

Paranoiafrage—第2回精神医学懇話会

著者: 島崎敏樹 ,   千谷七郎 ,   荻野恒一 ,   小木貞孝 ,   三浦岱栄 ,   高良武久 ,   金子嗣郎 ,   赤田豊治 ,   宮本忠雄

ページ範囲:P.1046 - P.1058

 島崎(司会) それではこれから第2回目の精神医学懇話会を始めさせていただきます。
 今回のテーマはParanoiafrageでして,初めに報告者の東京女子医大の千谷教授からお話を願います。それから後,指定討論者として南山大学の荻野教授と東京医科歯科大学の犯罪心理研究施設の小木助教授に,ディスカッションをお願いいたします。それがすんだあと,報告者と討論者にそれぞれもう一度,意見の交換をお願いし,つづいて参集の皆様方から自由討論をお願いしたいと思います。

研究と報告

機能変遷と破局反応

著者: 越賀一雄 ,   浅野楢一 ,   今道裕之 ,   西浦信博 ,   松田良一

ページ範囲:P.1061 - P.1065

 以上今回は錯認(Paragnosie)を伴い妄想様症状を活発に呈した失認,とくに図形失認の患者,つぎに運動性失語を示す症例,さらに典型的な井村教授のいう語義失語患者の3例について,それぞれ病巣症状の大略を述べ,機能変遷と破局反応との関係について報告し,両者が平行関係にあること,換言すれば,機能変遷を呈する症例では患者は容易に破局におちいり,破局反応を呈しない症例では機能変遷も認められず,問題によつてその機能に変遷を示す愚者は口常生活においても特別な状況におかれるとき,時に破局反応を呈することもあることを指摘した。
 さらに各患者の相貌認知の能力,あるいは象徴理解の能力について検討しParaphysiognomisierung,Parasymbolie,Aphysiognomisierung,Asymbolieなどの概念を用いてそれらの所見を説明し,それらの能力が保持されていることが少なくとも患者に漠然としてであつてもなんらかの病感,あるいは病識のたもたれるためのきわめて貢要な要因であることについて簡単にふれた。

Phenylketone尿症家族内に見られた精神神経症状調査

著者: 台弘 ,   五十貝いち

ページ範囲:P.1066 - P.1068

 Phenylketone尿症患者67名を含む50家系につき,その近親者における精神利経症状,同病の部分症状の調査を行なつた。知能障害は両親にやや高率に認められたが,その他の症状を呈する者の数は多くなかつた。

老年期における神経症患者の予後(その2)—症例の検討

著者: 大原健士郎 ,   清水信 ,   藍沢鎮雄 ,   吉沢勲

ページ範囲:P.1069 - P.1076

I.はしがき
 さきに著者ら18)は,老年期における神経症患者の予後を推計学的に検討し,予後不良群に家庭内葛藤をもつ者が多いこと,孤独感を訴えたり隠居をしている者が多いこと,配偶者との死別期間の長い者ほど予後が悪いことなどを指摘した。この論文ではこれらの症例を臨床的に再検討し予後良好群,やや良好群,不良群の間にどのような差があるかを比較することを目的とした。
 なお,予後の判定基準はさきの論文において詳述したのでここではふれない。

非行児に対する塩酸Thioridazine(Melleril)の使用経験について—その脳波におよぼす影響

著者: 白木彌三一 ,   高井作之助 ,   工藤勉

ページ範囲:P.1077 - P.1082

I.序
 現在非行児あるいは問題児に関する研究は,医学,心理学,社会学などの立場から活発に行なわれている。従来より非行児として一括されている者のなかに性格異常,知能障害,種々の神経学的異常を示す者が比較的多く,その点より古くはLombross, C. の唱えたdelinquente nato(生来性犯人)の学説を初め精神生物学的見地よりする業績はこんにちまで多数にのぼつている。非行児の脳波的研究も1937年のSolomon, JasperおよびBradley1),らの研究を初め活発に行なわれ,異常脳波の出現率が正常対照群に比しかなり高率を示すことがあげられ,脳成熟遅延あるいは,てんかん性異常と非行とを関係づけたり2),前頭部あるいは後頭部徐波と非行児の性格との関係を論じたり3),また異常脳波が,間脳あるいは上部脳幹部の機能異常を示唆するものが多いところからそれらの部位と非行性とを関係づけようとするこころみ4)もあるがまだ結論を出すまでにいたつていない。
 一方これら非行児に対する処遇は環境の改善,教護人との共同生活による適応調整への努力,また最近脚光をあびてきた力動的精神医学に基礎をおき,深層心理学的,発達史的に児童を理解し,その非行あるいは異常行動の成立過程をdynamicに理解し,児童の人間関係を正常化せしめようとする努力などが行なわれている。しかし非行発現の要因は遺伝,身体生理,知能などを含む生物学的素因と,児童の人間関係とくに親子関係を主とする環境条件との相互作用として生ずるものであり,脳波所見を含む身体的な基底をなすものに対する薬物投与,手術などの処置と相まつてその効果はいつそう輝かしいものになることと思われる。

抑うつ状態に対するNortriptylineの使用経験

著者: 増村幹夫 ,   佐藤幸 ,   田中政春 ,   鈴木雄二

ページ範囲:P.1083 - P.1086

I.緒言
 抑うつ剤に対する関心は1957年R. KuhnがImipramineを試用してから急速にたかまり,抑うつ状態の薬物療法に対して期待ができるようになつた。その2年後Merk研究所よりAmitriptylineが合成され臨床的に抗抑うつ剤として有効であることが認められた。
 われわれはこのAmitriptylineの誘導体であるMonomethyl amitriptyline(Nortriptyline)を試用する機会をえたので,その成績を報告したいと思う。

新抗けいれん剤3-Ethoxycarbony1-5,5-Diphenylhydantoinの臨床経験

著者: 佐野新 ,   長谷川和夫 ,   松村幸司 ,   高橋義人

ページ範囲:P.1087 - P.1092

I.はしがき
 こんにち,抗けいれん薬としてもつとも広く使用されている薬物はphenobarbital(Luminal)と5,5-diphenylhydantoin(Aleviatin)である。とくに後者は1938年にMerrittらによつて開発されたすぐれた抗てんかん薬としてゆるがぬ定評があるが,それでもなお発疹・めまい・複視・歩行失調・眼振のほかに,長期間の連用によつて歯肉増殖,体毛増生などの副作用が認められ,とかく治療の妨げともなりやすく,その改良が強く望まれていた。
 このため,いつそう副作用の少ない,そしてさらに強力な抗てんかん薬の開発がこころみられ,多数のhydantoin誘導体がスクリーニングされたが,そのなかでも5,5-diphenylhydatoinの3Nの位置をethoxycarbonyl基で置換した3-ethoxycarbonyl-5,5-diphenylhydantoinが強力な抗てんかん作用を保持しながら副作用が少ないという特徴を有していることが認められてきた。

資料

東ニューギニアにおける民族精神医学的調査(そのⅡ)

著者: 荻野恒一

ページ範囲:P.1093 - P.1099

I.特殊の精神病と神経症
 ニューギニア全体,とくに海岸地方における精神病と神経症に関する民族精神医学的報告は少なくない。だがここでは,東ニューギニア,とりわけその高地に限局し,最近報告され,比較的資料も確実なもの二,三をとりあげ,これら特殊の精神病と神経症を,いままで述べてきた種々なる民族精神医学的課題との関連において考察してゆきたい。

from Discussion

「Tofranil定式療法による抑うつ患者の治療について—木村敏,石田千鶴子,河合逸雄氏」を読んで

著者: 高橋良 ,   佐藤倚男

ページ範囲:P.1101 - P.1102

 私たちは精神科薬物療法の効果判定法に大きな関心をもち,分裂病に対する薬物療法の客観的効果判定法については一部その研究成果1)を発表したが,うつ病についても共同研究をつづけているので,精神医学(9月号)に発表された木村敏氏ほかの上記論文を上記の観点から少なからぬ興味をもつて読んだ。論文に盛られている著者らの意図すなわちうつ病の薬物療法においても,心理療法的接近の重要性の主張には大いに賛同するのであるが,本論文の主題であるTofranil定式療法の効果判定については若干の疑問点をいだかざるをえなかつた。それらの点について私見を述べてみたいと思う。

紹介

「ヒポクラテス全集」より—〔第5回〕「人間の本性について」ほか

著者: 大橋博司

ページ範囲:P.1103 - P.1109

 今回はやはりCorpus Hippocraticumから「人間の本性について」「風について」の一部を紹介する。

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精神医学 第7巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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