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特集 精神療法の限界と危険 第1回日本精神病理・精神療法学会シンポジウム 講演
治療者の個人的因子
著者: 井村恒郎1
所属機関: 1日本大学精神科
ページ範囲:P.95 - P.97
文献購入ページに移動 たいていの医学的治療は,治療者,技法,患者の相互に関連した3因子から成りたつている。ひらたくいうと,「誰がどんな方法で誰をなおすか」ということであるが,精神療法では,この命題の主語にあたる「誰が」という因子の治療効果におよぼす影響が大きい。他の医学的治療法たとえば電撃療法や薬物療法でも,治療者個人の役わりを無祝することはできないが,精神療法に比べればずつとかるい。電気衝撃の方法や投薬の仕方といつた技法は,誰がこれを行なつてもさして違いはないようにきめられ,精神医学の予備知識があれば誰でも容易にできるようになつている。そして治療効果も,技法に適当した対象を選ぶことによつて,つまり適用症(indication)に注意することによつて,大きなまちがいはなくてすむ。治療者の個人的な巧みさよりも,技法の術式の精密化が優先する傾向があり,この点では精神療法よりはずつと科学的に技術化されている。かえつて治療者個人という因子が疎外されすぎているという憾みさえあるが,その点はここでは問題にならないので割愛する。これらの狭義の医学的治療では,治療法の限界と危険もわりにはつぎりしている。というのは治療の限界は適用の範囲ということになり,治療に伴う危険は副作用の点を考慮にいれたうえでの適用の誤まりに帰因することになるからである。
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