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雑誌目次

論文

精神医学7巻3号

1965年03月発行

雑誌目次

特集 精神分裂病の“治癒”とは何か 第1回日本精神病理・精神療法学会シンポジウム

はじめに

著者: 諏訪望

ページ範囲:P.198 - P.199

 「精神分裂病の治癒とは何か」という題をご覧になつて,皆様あるいは意表をつかれたというような気持,またはどぎもを抜かれたというような感じをもたれたのではないかと思います。私もこの司会を仰せつかり,このようなむずかしいテーマについて,はたしてまとめられるかどうか,まつたく自信がありませんが,本日の演者ならびに討論者の方々は,あらためてご紹介するまでもなく,その道のベテランぞろいですから,おのずから結論めいたものが出ることを予期しているわけであります。見かたによっては,こういうテーマをシンポジウムで扱うのは,非常に大胆なこころみです。いうまでもなく,分裂病の原因というものが不明であり,また分裂病に関する見解が,こんにちまだ一致していないという状況でありますので,分裂病の治癒ということについて議論することは,ある意味においては不可能といつてもさしつかえないかもしれません。
 本日のシンポジウムは,このようなことを前提として行なわれるということを,われわれは最初に確認しておく必要があるのではないかと思います。確認というとちよつと大げさですが,それにはやはり1つの理由があります。つまり何かの形式で話の場というか,枠というものを決めてないと,シンポジウムを行なうことは不可能になるからです。

一般概念ととくにロールシャッハ・テストからみた人格障害の持続について

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.199 - P.202

 この興味津々たる,そしてまた精神医学者にとつておそらく永遠に最大の関心事としてとどまるであろうと思われるテーマを選ばれたことに対し,プログラム・コミティの諸君に敬意を表するとともに,本シンポジウムの参加者として指名されたことに対し強い責任と栄誉を感ずるしだいである。発表時間に制限があるので,極度に圧縮し,抽象化した結論しか申しあげられないのは残念であるが,ご了解のいただけない点はディスカッションを通じて補つていきたいと考えている。
 最初に"分裂病"の概念そのものが明確化されねばならぬのだが,われわれはこんにちまではたして真剣にこの点についてすら討議し合つたことがあるだろうか。その原因もバトゲネーゼも限界の問題もすべてがいぜんとして混沌のなかにあるこんにち,分裂病をめぐるあらゆるディスカッションは,つねに一種の循環論に終始するおそれなしとしないのである。

指定討論

著者: 金子仁郎

ページ範囲:P.202 - P.204

 三浦教授はこの論文では,かなり明確な意見を出しておられるように思います。クレペリンよりもむしろタッペルであられるような感じがします。しかも,三浦教授のお話をうかがつてますと,まつたく同意見で,意見をさしはさむ余地がないような感じもするのですが,よく聞いてみますと,われわれ平生経験しているところから,2,3の疑問点があるので質問させていただきます。
 最初に諏訪教授がいわれたように,分裂病の概念,あるいは限界がはつきりしないということが基本であります。その点で非定型精神病を,分裂病にいれるかどうかということが問題になるが,三浦教授ははつきり,分裂病とはべつの疾患系にはいるとおつしやつています。私はこの問題はきようのテーマにはいらないのではないかと思いますので,これは略します。したがつて,きようの本題は分裂病の定型群,あるいは中核群というものについて申しあげます。

医学的人間学の立場から

著者: 加藤清

ページ範囲:P.205 - P.209

I.はじめに
 精神分裂病の治癒とは何かを論ずるにあたつては,最初からいろいろの困難が予想される。すなわち論じらるべき対象である分裂病の原因ならびにその病因論がなお不明であるのみならず,その単一性および限界に関しても,いろいろの見解があつて統一されていないし,また一方自然にあるいは医学的治療によつて治癒した分裂病者においても,治癒にいたるまでの道筋が完全に判明した症例はほとんどないからである。以上の理由のために,現在の段階では分裂病の治癒の本質を経験的に明らかにすることは不可能に近いといつても過言ではない。しかし,それでもなお現在,分裂病の治癒の問題を主題にし,少しでもその本質を明らかにするように求められるのは,逆にこのこころみを通じて,精神分裂病に関する諸問題解決のための一つの突破口が開かれるように期待されているのかもしれない。いずれにせよ,分裂病の治癒を明らかにするにあたつては,方法論上の考慮のたいせつなことは論をまたないが,なによりもまず注意しなければならぬのは,分裂病の治癒現象がいかに複雑多岐であつても,そこから派生した副次的現象を治癒と見誤つては,その治癒を明らかにしうる最初の確実な手がかりを失つてしまうことである。

指定討論

著者: 安永浩

ページ範囲:P.210 - P.211

 加藤先生は人間学的立場から問題をとらえられましたので,私もなるべくその範囲でと思つたのですが,実際はやはりもつと一般的な立場から話すようになるかと思います。その点初めにおわびしておきます。加藤先生も気楽にお話になりましたので,私も気楽な立場から2,3の疑問ないし感想を述べさせていただきます。
 Wiederkehrende Kernsituationということをお話になりました。その要点は私の理解するところでは,患者が「自分がいままでどう生きていたのだろうか,また自分はこれから何を求めようとしているのだろうか」という,1つの生活史的というか,人生的な理解の構えをとつたということと,その内容がひと口にいえばHeimatlosigkeitの自覚であるという,その二つであるように思われます。そのこと自体は症例も非常に印象的であり,たいへん興味深く拝聴しました。これが,分裂病者が治癒するためには,いつか通らなければならない一里塚のようなものであるという理解は,重要かつもつともなことと思われます。疑問はおもに,それの一般性,ないしその治療的意味に関してであります。

精神分裂病の「治癒」の精神病理学的基準について

著者: 石川清

ページ範囲:P.212 - P.215


 このシンポジアムの標題のなかの括弧には,複雑な意味がこめられているように思われる。
 精神分裂病に対して薬物療法や精神療法,作業療法,あるいは社会復帰療法などの,広い範囲にわたる治療法が行なわれているこんにちでも,精神分裂病はそもそもなおるものなのか,それとも不治なのか,という古くからくりかえされてきた問いの前で,われわれはしばしば返答に窮してしまう。それどころか,この病気に対する医学的,精神病理学的認識が進むにつれて,この二者択一の苦しみはますます深まつてゆくように思われる。また,欠陥分裂病という命名,欠陥治癒という言葉は,現在の精神医学では意識的に忌避されているが,陳旧性の分裂病において,本当にこの欠陥治癒とよぶべき,そうとしか名づけがたいような固定状態が存しないか,換言すれば,どんな長い経過をもつ分裂病者も,治癒に向かう弾力性をつねに内に秘めているとみなされるべきか否かということも,やはりいちがいに決めがたい事柄である。われわれが臨床の場面で「欠陥○○」という言葉を用いたがらないのは,過去の精神医学において,それらがあまりに強調された結果,うつかりすると先入見によつて,観察の固定化をまねき,予後の判定を誤り,治療の意欲を減退させ,ひいては患者の人間性を見失つて病気しかわからなくなる——そうなりかねないから注意しなくてはならない——という道徳的配慮ないしは精神科医としての防御の構えがそうさせている場合もある。したがつてここではあらためて医学的検討が必要になつてくる。

指定討論

著者: 藤縄昭

ページ範囲:P.215 - P.216

 石川先生が,自からに非常に厳格に,伝統的な臨床精神医学の枠を課せられ,分裂病の治癒という困難な問題を記述すべくご苦心された努力に,私はまず率直に敬意を捧げたい。
 しかし,制限された時間の関係上,症例があまりにも簡単に報告されているせいか,先生の提出された概念が,私に十分理解できなかつたのは,残念でした。誤解しているところが多いと思いますが,私の理解しえた範囲で,疑問に感じたことを述べさせていただきます。

精神分裂病の社会的治癒について

著者: 竹村堅次

ページ範囲:P.217 - P.222

I.序言
 近年,社会復帰医学の進展に伴い,分裂病の治療体系が確立されつつあるが,これまで治癒困難とされていたいわゆる疾患過程性の分裂病も,リハビリテーション,アフタケアの観点からはあらためて治癒の可能性が論じられるようになつた。私はこの意味で病院精神医学の立場から,主として分裂病の社会的治癒について述べることにする。
 内因性精神病としての分裂病にも,元来一部に疾患過程の停止や自然治癒のあることは知られているが,一般に治癒の概念は精神医学的にまだ十分に解明されたとはいいがたい。しかし,これを社会的治癒の観点から一応定義づけるならば,つぎのような簡単で常識的な三つの項目に分けられる。すなわち,「疾病の慢性経過に対し長期にわたる医療をほどこしたのち,①自ら働いて経済的に自立し,②家族および他人との対人関係がほぼ円滑に維持され,③一定の個人的生活を楽しむことができる状態」といえるであろう。ただし狭義の精神症状を欠くことが必要条件である。

指定討論

著者: 岡田靖雄

ページ範囲:P.222 - P.223

 演者のお話をうかがつてまして,いちばん強く感じますことは,カニは己の甲に似せて穴を掘るといいますか,分裂病の治癒についての考えかたも,それぞれの臨床的活動の場によつて,かなり違つているということです。私が竹村先生のお話に対し討論ということですが,似たような病院で,似たような考えかたで仕事をしていますと,考えかたも似てきますので,討論になるかどうか,ともかくも分裂病の治癒について,私が考えていますことを2,3述べたいと思います。
 松沢病院の石井毅が,分裂病はなおせるかの問題をどう考えているか,20名ほどのインターン生について調査したところ,その9割が一致して,分裂病に寛解はあるが,完全治癒は絶対にないと答えております。松沢病院には各地の大学からインターン生がきており,この答えは大学でどう教えているかを示すとともに,一般の医師がどう考えるようになるかを示すものだと思います。寛解はあるが,完全治癒はないという,そのいいかた自体は誤つていないと思いますが,ここで分裂病の寛解と完全治癒とがまつたくべつのものとしてとりあげられていることに問題があるように思います。

生活臨床より見た精神分裂病の異常と治癒の概念

著者: 台弘

ページ範囲:P.224 - P.228

I.生活臨床
 精神分裂病の治療の概念は異常の概念と切り離して論ずるわけにはいかない。分裂病的異常とは何かをとりあげることになると,精神病理学的ジャングルのなかに踏み込まなければならない。森のなかにはいると木しか見えないし,自分の踏みあとが道のように思えてくるものである。
 いや,自分の道はたいがい誰かが歩いたことのある道である,そしてその道も大昔は「けものみち」だつたのがもしれない。分裂病者と行をともにすることも意味があるが,またヘリコプターで森の上を飛んで,道の成立の要件を調べ,迷いやすい個所をマークするのも必要である。生活臨床とはそういうやりかたである。

指定討論

著者: 島崎敏樹

ページ範囲:P.228 - P.229

 台教授は行動科学の立場から解析をされました。私も実はbehavioral scienceにはなみなみならぬ関心と期待をよせている1人です。ただしそのやりかたに台教授のと違いがあるのです。ちようど兄と私が兄弟であつて,同じような仕事をやりながら,しかも方法的にまるでべつで右と左から攻めておりますように,台教授とは少年時代以来の友人ですけれども,研究に方法的な違いがありますので,その点で私からも発言させていただきます。
 悪質なる精神病院にまいりますと,……(笑声)……お笑いになることはたぶんそれがあるからだろうと思います。そういう病院にたまたままいりますと,広い柔道場のような部屋に患者さんが,というよりも分裂病者が飼われております,置かれております。

指定討論に対する演者の回答

ページ範囲:P.230 - P.231

 司会(諏訪) それでは各演者に少しずつお答えいただきます。それから分裂病の治癒像について一言ずつおふれいただきたいと思います。
 加藤 安永先生に簡単にただ一つの点についてのみお答えします。このWiederkehrende Kernsituationという治癒状況は,一種の分裂病者の治癒をあらかじめ示すとしても,実際こういう状況を通さなくとも分裂病はなおつていくのではないかという疑問かと思います。これは非常にむずかしい問題ですが,私は結論として,やはり分裂病者が治癒していくときにはこの状況を通して治癒しつづけていくものと思います。実際,分裂病の本当の治癒というものはschweigendに行なわれるものでしよう。このようにmanifestにすることは,何かをかくしてしまうことになつてやはりそこにまちがいが生まれてくると思います。実際,私はかくれたもののうちによりいつそう治癒の秘密がひそんでいると思うのでありますが,しかし「分裂病の治癒とは何か」との答えへの手がかりをえようとすると,その治癒を予示するものとしてこのようにやはりぎりぎりのところで表現をせざるをえないと思います。

一般質疑および追加

ページ範囲:P.232 - P.234

 司会(諏訪) これで一応予定のプログラムは終つたのですが,会員の皆様方にご発言がございましたら。
 島崎 この題は"精神分裂病の治癒"と書いてあります。分裂病の治癒と,それから精神分裂の治癒ということは,語義に非常に大きなへだたりがあります。分裂病の治癒は,Krankheitの治癒です。精神分裂の治癒は,Menschの治癒です。

研究と報告

分裂病領域における人格障害の研究—破瓜病・分裂病後者・境界例のロールシャッハ・テスト知見から

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   馬場礼子 ,   鈴木竜一

ページ範囲:P.235 - P.245

I.まえがき
 E. Kraepelinの早発性痴呆の概念以来,精神分裂病の概念のなかにはBleuler流の精神病理学的な特徴とともに,「慢性の進行的な人格障害の進展」という考えが含まれている。たとえばH. Ey1)は,分裂病を「慢性妄想病」(délire chronique)の観点からとらえるとともに,「分裂病とは自閉的妄想的存在,またはこのような存在に向かう運動と進行性の潜勢力(potential évolutif)をもつ存在」と定義している。この運動は,慢性の経過を辿る人格解体の過程であり,臨床的には人格障害のかたちで観察される。すでに三浦2)(1961)は,このような観点から,とくに発病年齢と予後の関係に注目し,武正3)はこの示唆にもとづいて分裂病の予後と発病年齢との関連を調査し,その人格荒廃の傾向は若年者ほど強い事実を指摘し,同時にこのような人格の解体を示す症例と完全な寛解をきたす症例を,同じ分裂病の名のもとに包括する立場に疑義を提出している。
 一方,最近わが教室では境界例・分裂病領域に対する精神療法的研究4),5)が小此木6),7)を中心にこころみられているが,この接近は,つきつめるとその人格障害の精神療法であるという事実が痛感されている。この課題をたな上げにしては,分裂病の治療を研究することは困難だからである。

自殺未遂者(急性催眠剤中毒による)の生活環境—とくに片親問題を中心として(第2報)

著者: 横井敏夫 ,   黒田知篤

ページ範囲:P.246 - P.250

I.緒言
 第1報4)では自殺企図者は恵まれない社会環境にあり,とくに親欠損者が多いことを強調してきたのであるが,本報では,それではなぜ親欠損者に自殺企図者が多くなるのか,その理由を客観的な方法により,検索しようとしてこころみられたものである。その手段として,自殺企図者と類似の環境にある対照者について,アンケートによる回答ならびに性格テストなどを実施,調査したものである。

いわゆる産後精神病の臨床的研究—I.統計的研究

著者: 加藤誉里子

ページ範囲:P.251 - P.256

I.序論
 すでにヒポクラテス「流行病Ⅰ,Ⅲ」に産後ならびに流産後,悪感発熱をもつて発病し,不眠・不穏状態におちいり多くはせん妄状態などの意識障害をきたし,ついには死にいたる症例が9例記載されている。これらの症例は現在の知識からは,産褥熱による症候性精神病と考えられる。近くは1850年代にEsquirolが産後発病する精神疾患が必ずしも一疾患単位を形成するものではなく,nonpuerperalな他の精神疾患にも見られる病像を呈することを指摘した。1857年,Marcéはこの疾患の原因を,素質,とくに遺伝負因と,出血,授乳,疲労,年齢など出産時の誘因とに求め,約1/3に遺伝負因の認められることを述べている。その後とくに消毒法の発達に伴い,産褥熱のごとき純粋に症候性精神病と考えられるものはしだいに減少し,むしろ内因性精神病類似の病像を示すものが産後精神病の大部分を占めるようになつてきた。またKraepelin以来精神病学が体系化されるにつれて産後発病する精神疾患群もその病像に応じ,分裂病,躁うつ病,利軽症などいずれかの疾患分類にいれられて,あえて特殊な類型として扱われなくなりつつあつた。しかしなおJacobsは産後精神病を特殊な疾患単位とみなしているわけではないが,その一つの特色としてその大部分に"Organic reaction type"の様相が見られることをあげている。すなわちかれはそれらを単純に分裂病あるいは躁うつ病とするには,その病像に,"distressed perplexity"が強く見られ器質性の色彩をそなえている点で問題があることを強調している。

てんかんと交通事故—2例の考察

著者: 原田正純 ,   上妻善生

ページ範囲:P.257 - P.262

 (1)ここに報告された第1例では,けいれんを伴わない・意識障害を主とする発作が,しかもきわめてまれに起こつている。第2例では,分裂病様状態および躁うつ的状態にかるい意識障害を伴う発作と,"めまい"の発作が見られた。第1例ではきわめてまれな意識障害発作のときに,事故をひき起こしている。第2例では自覚されない発作のとぎに,事故を起こしたと考えられる。これらの2例には,てんかん性の性格異常が著明で,脳波にも異常が見られる。第1例ではメジバール賦活に閃光刺激を加えて,もうろう状態が誘発された。一方,第2例では,メジバール75mg賦活で大発作が誘発された。
 (2)交通事故を起こす要因として,意識障害発作のほか,てんかん性性格異常も考慮される。その他,知能障害や,第2例では精神病状態も,事故発生に関係しているものと推測される。
 (3)その他,ふつうのてんかんの場合と異なる点として,分裂病質状態もしくは分裂病様状態の見られること,頸動脈圧迫により発作が起こることなどが,2例に共通して見られている。

Desipramine(Pertofran)の臨床使用経験

著者: 金子仁郎 ,   谷向弘 ,   武貞昌志

ページ範囲:P.265 - P.270

 desipramineを各種のうつ病像患音44例,能動性減退を主症状とする精神病患者7例に試用した結果,つぎの成績をえた。
 すなわち,うつ病像を呈した患者の61%に著効を,23%に有効を,合わせて84%に有効以上の効果を認めた。効果の発現はimipramineに比しかなり速やかで,32%が1週間以内に,62%が2週間以内に反応しはじめ,効果発現に4週間以上かかつた症例はなかつた。
 本剤によつてもつとも影響を受けやすい精神症状は,意志思考抑制にもとづく諸症状で,とくに能動性減退を改善する作用が強く,これを主症状とする精神分裂病および類縁疾患にも好影響を与えた。
 副作用の出現頻度はかなり高いが,重篤なものはなく,本剤での治療に支障をぎたすことはほとんどない。
 以上,desipramineはうつ病像,とくに意志思考抑制面の症状に対して有効な薬剤であつて,imipramineに比し効果発現が速やかである点においてとくにすぐれているといえると思われる。

Desmethylimipramine(pertofran)の使用経験

著者: 藤井健次郎 ,   入江是清 ,   金子耕三 ,   山本英子

ページ範囲:P.273 - P.278

I.まえがき
 向精神薬の進歩はめざましく,続々と薬物が発見され,使用されているが,そのなかで現在使用されている抗うつ剤は2群に大別することができる。一つはフェノチアジン系化合物に類似した構造をもつimipramine,amitriptyline,chlorprothixeneなど一連の薬物で,もう一つの種類はモノアミンオキシダーゼ酸化酵素阻害剤でiproniazid,pheniprazine,isocarboxazide,nialamide,phenelzineなどの薬物である。この薬物は生化学的性質が明らかで向精神作用のうえで興味がもてるのであるが肝障害の危険性があるため,現在その使用は少なくなり,フェノチアジン系化合物に類似の系統が,多く使用されるようになつている。ここに報告するdesmethylimipramineもそれで,化学名は5-(-methylamino-propyl)-iminodibenezyl-hydrochloridである。構造式は第1図のとおりである。それから明らかなようにiminodibenezylの誘導体でありimipramineの側鎖のメチル基(CH3)がHになつたものである。
 Desmethylimipramineは1959年imipramineの代謝産物としてHerrmann, B. ら1)によつて同定された。薬理学的研究ではimipramineと類似した結果が認められたところから母体物質であるimipramineの抗うつ作用も脳内においてその活性代謝産物desmethylimipramineにより発揮されるのではないかと考えられた。しかしimipramineの抗うつ作用がすべてその代謝産物の結果であるとする説は現在まだ仮説の域を出ていないようである。

紹介

HOD testの紹介とその検討

著者: 坪井弘次 ,   松井森夫 ,   藤田慎一 ,   大塚哲哉 ,   水野政康 ,   大原貢 ,   小林伊作男 ,   服部隆夫 ,   高井作之助 ,   小野宏 ,   松橋俊夫 ,   武田徹 ,   鷲見久子 ,   小川玲子

ページ範囲:P.281 - P.290

Ⅰ.緒言
 HOD testとはHoffer-Osmond Diagnostic testの略で,カナダ・サスカチェワンの大学病院精神医学研究所長A. Hofferとサスカチェワン病院長のH. Osmondの共同研究により,Journal of Neuropsychiatryの1961年8月号1)に初めて紹介発表された。その後かれらは,さらに研究を進め,本テストが予後を知るのに,非常な助けとなることを報告した2)。また,若い年齢層に対する本テストの考慮についても報告された3)。そして,欧米においても本テストに関する研究が,他の研究者たちによつて行なわれていることを,A. Hoffer博士との文通によつて知つた。現在のところ完結した報告は知られていないが,すでに米国Princeton, N. J. のNew Jersey Neuropsychiatric Instituteにおいて,用いられてきている。また,Veterans Administration Hospitalにおいても,特殊薬物の研究に関して,用いられている。本テストは文化に関係なく,世界中どんな国でも,読むことのできる人たちには,うまく反応するはずであるという見解が,述べられている。原著者は本テストが,日本でもこころみられ,完成されれば非常に喜ばしい旨の手紙を送つてきた。
 この精神医学的診断をするにあたつての補助的カード択り分けテストと題する論文の冒頭には摘要としてつぎのように述べられている。すなわち分裂病患者を他の診断的カテゴリーや,正常人から分けるように企図され,このテストはしろうとでも,十分客観的かつ簡単にできるもので,スコアーの仕方や解釈は容易である。そしてこのテストは通常,器質性精神病をのぞいては,他のすべての診断的カテゴリーから分裂病を鑑別するうえに役だつことを論証している。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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