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雑誌目次

論文

精神医学7巻4号

1965年04月発行

雑誌目次

展望

精神医学と宗教(その1)

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.297 - P.307

I.はじめに
 私は上記表題のもとにたびたび講演をしたり,また記事として雑誌にのせたことがあるが,その大部分は通俗講演であり,または宗教雑誌においてであつて,本来精神医学のくわしいことを知らぬ大衆を相手としたものであつた。多少アカデミックな論文としては,「精神医学最近の進歩1)」に寄せたものがあるだけである。これも与えられた紙数に制限があつたため,この重要なテーマについての単なる形式的の輪廓を示すに終つたいたつて不満足のものであり,肉づけの豊かな論文を書くことは他日にのこされたのであつた。たまたま本紙の展望欄に本題について執筆することになつたのは私にとつて光栄であるとともに欣快とするところであり,今回は"少しはましなもの"が書けるのではないかと思う。
 ひるがえつて考えるに,このテーマの取り扱いかたもいろいろのパースペクチーブから可能であり,そのすべてをここで取り扱うことはできない。展望欄での執筆という制約を考えれば,鳥瞰図(Rundschau)的な,多くの著者らの記述を紹介あるいは批判するのがほんとうかもしれない。これは大変な労を必要とするのであるが,筆者の"性"には合わないし,また多くの文献を渉りようするだけの時間もない。いいわけめくが,これではやはり百科全書的な知識を読者に提供するにとどまり,著者本来の見解がうすくなることはやむをえない。したがつてまた,この後者の点に重点をおく論文もあつてよいと思うのだが,それでは"展望欄の記事"にはふさわしくないかもしれない。そこで私はこの両者の中間をゆくことに決心したが,重点はどうも"著者のパーソナルな見解"を前方におし進めるという方向におかれることになりそうだということをあらかじめお断わりしておく。

研究と報告

分裂病における再発と治療の限界

著者: 新福尚武

ページ範囲:P.309 - P.316

I.はじめに
 この数年,精神病——なかんずく分裂病,躁うつ病——を治療して感ずることが2つある。第1は再発の多いことである。もともとこれらは再発しやすい精神病ではあるが,そのことを考慮してもなおかつ多い感じがする。第2はある程度以上によくならない場合の多いことである。ある程度までは容易によくなるが,それ以上にはなかなかよくならない。したがつて,そこにこんにちの治療の限界があるかのように感じられる。
 これらの感じについて,ほんとうにそうなのか——再発率が高くなつているか,それにはどういう因子が関与しているか,はたして治療上の限界があるのか,あればどこにあり,どんな方法で破れる見込みがあるか——などを考察してみたいというのがこの研究の目的である。

分裂病多発家系における双生児分裂病の症例について

著者: 柴田洋子 ,   矢吹賀江 ,   佐々木道子 ,   金子耕三 ,   入江是清

ページ範囲:P.317 - P.321

I.まえがき
 分裂病における双生児研究はLuxenburger1)3)4)以来多くの報告があり,その一面は遺伝的規定性に関するものであるが,他の一面として発病もしくは病像の差異に着目した環境要因への考察もまた重要である。発病機制に関してこれら二つの面の相互作用が理論的には考えられるのであるが,具体例において両方の作用点を境界づけることはきわめて困難であることはいうまでもない。とくに,一卵性双生児が一致して発病した場合でも,すべてを遺伝に帰することができないことは,すでにKallmann2)が明察したところであるが,私どももこの点について考えさせられる症例に遭遇したので報告したい。さらに,本症例における2人は共生的傾向が強く,folie gémellaireについつも考察する。

精神病院における入院生活の様相について—第2報:精神病院社会の心理学的特徴

著者: 柴原堯 ,   前田正典

ページ範囲:P.322 - P.326

 精神病院の心理学的場が,精神疾患者の精神生活に与える影響について,患者の自己描写をもととして考察を行なった。
 (1)精神病院の入院生活においては,一般社会と比較して,有責性,可能性,自律性の欠除あるいは狭少化,自己評価の低下,自尊心の不在,時間の連続および対人連惜感の稀薄化がもたらされ,このような影響は作業療法を行なつている患者においても認められ,患者の社会生活への復帰とは逆の方向に作用している。
 (2)一方では,この精神病院社会の心理的特徴は,人間関係の単純化,気楽さ,安易さ,日常生活における脱緊張感を患者の内面的生活にもたらしており,これらは急性期における患者の心理学的安定に有効に作用していると考えられる。
 (3)慢性期における作業療法においては,これらの影響を少なくするため,個々の患者の状態に応じて,その作業に自律性,責任を与えなければならず,また急性増悪期経過後の早期退院も十分考慮されねばならない。

自律訓練法による心因性呼吸性チックの治療

著者: 山田治 ,   笠原俊彦

ページ範囲:P.327 - P.330

I.緒言
 Charcot,Gilles de la Toullette以来,わが国でも,チックに関する業績は多いが1)3)4)18)その大部分は,いわゆる心因性チックを,器質的疾患に付随するものから区別15)し,その発生機転に考察を加えたものであり,これに対する治療的手段にまで言及しているものは少ない。その理由は,心因性チックが,けい性斜頸,書けいなど,一群の不思議なけいれん性疾患とともに,その積極的治療が,まことに困難なものであるからにほかならない。
 もつとも,心因性チックは,放置しても,大部分,自然になおるといわれている。とはいえ,本稿でとりあげる呼吸性チックなどの場合,時にその叫声発作のために通学を拒否したり(第1例),吃逆発作のために栄養障害を起こしたり(第2例),どうしても積極的治療の必要にせまられることもある。われわれはこのような2例に対し,自律訓練法17)20)21)(Autogene Training:J. H. Schultz)を応用し,好結果を得たので報告する。

Chlorprothixeneの慢性投与による分裂病患者の脳波変化について

著者: 友成久雄 ,   宮川太平 ,   稲村正志 ,   飯田信夫 ,   豊永啓太郎

ページ範囲:P.333 - P.340

I.まえおき
 TraQuilan,すなわちchlorprothixeneは初め抗抑うつ剤として登場した薬物であるが,精神分裂病にも用いられ,かなりの効果が見られている。われわれも主として陳旧性分裂病に対する効果をさきに報告したが5),その治療経過の途中において全身けいれんを伴う意識喪失の発作を起こした1例に遭遇した。そしてその脳波を検査したところ,著明な徐波の出現が認められ,少量のMegimideによつて発作性異常波が賦活されるのを見た(第2図参照)。この例のけいれん発作や脳波異常がはたしてchlorprothixeneの投与と関係があるか否か,さらに同薬物は一般に脳波上いかなる影響をおよぼしうるかを追求するために,同薬物を投与した分裂病患者50名について脳波検査をこころみた。さらに,対照として他の向精神薬を投与中のもの,および未治療の分裂病患者の脳波を検査し,比較検討を行なつた。

児童チックの脳波所見について

著者: 若林慎一郎 ,   田中厳

ページ範囲:P.341 - P.348

I.まえがき
 児童精神科外来において,チックは学童期を中心にして多数見られる症状の一つである。チックは突然起こつて,不随意的に,ひんぱんにくりかえされる1群の筋肉の無目的な速い運動であるといわれている1)が,その病因や発生機制に関しては幾多の見解が述べられている。一般には非器質性チックまたは心因性チックと器質性チックとに2大別されている。
 しかし,児童においてはその発症要因が明確に把握しがたい場合が多く2)3),心因性の実証が困難な場合がある。Kanner1)もチックは必ずしも特定の事件や特定の環境によつて起こるとはかぎらない。多くは親が厳格だとか不賛成だとかいうことからかもし出された一般的緊張状態で起こると述べている。

Diazepamの精神科領域における使用経験—精神神経症,精神身体症を中心に

著者: 金子仁郎 ,   藤井久和 ,   武貞昌志

ページ範囲:P.351 - P.356

I.はじめに
 Chlordiazepoxideの出現(1960年)以来,精神神経症,精神身体症を主とする情動障害に伴う疾患の治療は画期的な進展を見ている。すなわちchlordiazepoxideは化学的には従来のtranquilizerとその構造を異にし(第1図),薬理学的臨床的にも特異的で,その抗不安・抗緊張作用は強く,その有効なスペクトルムの広いことが確認されてきた。しかし1961年Sternbach1)らによつてbenzodiazepinの誘導体としてdiazepam(7-chloro-1,3-dihydro-1-methyl-5-phenyl-2H-1,4-benzodiazepin-2-one)(第1図)が合成され,Randall2),Sussex3)らによりその薬理作用が検討されるとともに,ひきつづいて行なわれた多くの臨床実験からdiazepamがchlordiazepoxideに比してより広いスペクトルムと強力な作用をもつことが報告された。精神科領域におけるdiazepamの治療効果もまたCollard4),Proctor5),Vilkin6),Difrancesco7),Constant8),Blackmann9),Pianatro10),Towler11),Borenstein12)らによつて報告された。
 われわれもdiazepamを試用する機会をえたので,精神神経症,精神身体症を中心に報告する。

新benzodiazepine誘導体diazepamの精神神経疾患における臨床効果について

著者: 秋元波留夫 ,   田椽修治 ,   後藤容子 ,   黒岩普太郎 ,   佐々木邦幸 ,   豊田純三

ページ範囲:P.357 - P.365

I.まえがき
 われわれは,Roche社が最近開発した新しいbenzodiazepine誘導体,diazepamについてその臨床効果を種々の精神神経疾患について検討したのでその結果を報告する。
 本剤は,1960年SternbachとReeder(chlordiazepoxideの合成者)により新たに合成されたもので,化学名は7-chloro-1,3-dihydro-1-methyl-5-pheryl-2H4,4-benzodiazepin-2-one,その構造式は第1図に示すごとく,chlordiazepoxideに近似のものである。一般名はdiazepam,Roche社からの商品名はValium,本邦ではHorizon(山之内)またはCercine(武田)とよばれる。

神経症に対するdiazepamの治療効果

著者: 和田豊治 ,   桜田敞 ,   及川光平 ,   荒井紀久雄 ,   秋野睦

ページ範囲:P.367 - P.372

I.緒言
 1960年,スイスのRoche研究所から従来の精神安定剤や自律神経遮断剤とは化学構造式のうえからまつたく無関係で,薬理学的にも興味深い作用を有する新しい型の鎮静剤chlordlazepoxideが開発され,とくに不安・緊張の緩和にその偉力を示し,いまや数々の臨床成績が報告され,精神科領域,なかんずく神経症の治療に欠くことのできない座を占めるにいたつている。
 ところがさらに1961年,同研究所のL. SternbachおよびE. Reederによつて,chlordiazepoxideと同じく,いわゆるminor tranquilizerに属する向精神薬として,新しいbenzodiazepine誘導体のdiazepamが合成された(第1図)。

不眠に対するdiazepamの臨床効果

著者: 島崎敏樹 ,   小林健一 ,   小見山実

ページ範囲:P.373 - P.379

I.まえがき
 Chlorpromazineを主体とするphenothiazine系誘導体の出現以来,多数の向精神薬が開発され,精神疾患治療における薬物療法はますます強力なものとなりつつあるが,数年前Roche研究所によつて開発された新しい型の鎮静剤chlordiazepoxideは不安,緊張を初め情動障害を中心としてきわめて広い適応範囲をもち,従来のいわゆるminor tranquilizerにとつてかわつて,もつとも強力なtranquilizerの一つとして広く用いられ評価も十分定まつた。
 さらに最近1960年,chlordiazepoxideと同じくbenzodiazepine族に属する新しい向精神薬diazeparn(7-chloro-1,3-dihydro-1-methyl-5-phenyl-2H-1,4-benzodiazepine-2-one)がF. Hoffmann-La Roche研究所のSternbachおよびReederによつて合成された。Randall6)らの研究によると,本剤は薬力学的にはchlordiazepoxideとほぼ同様のスペクトラムを有しているが,動物実験ならびに臨床試験の結果によると,より強力な作用をもち,chlordiazepoxideに比べて鎮静および筋弛緩作用は約5倍,抗けいれん作用は10倍強力であり,しかも毒性はほぼ同じであるという。

資料

わが国主要研究機関における脳波分析器の使用現況—アンケート調査を中心として

著者: 森靖博 ,   金田良夫

ページ範囲:P.381 - P.384

はじめに
 最近,各専門誌にAnalyserによる研究発表が数多く見られるようになつたが,研究者それぞれ独自の帯域区分による濾波器を用い,また分析部位もまちまちであるのに気づく。そのためそれぞれの研究を一貫して比較するうえに,いろいろな問題が考えさせられるとともに,今後,その解明につとめる必要があろうと思われる。そこでわれわれは,各関係方面に下記のごときアンケートを出し,各研究機関ではどの程度の興味・関心をもつているか,また現在研究されているところでは,どのような方法をとつているか,その理由はなどの解答をお願いしたが,このたび概略の整理ができたので,ささやかながら同学の方がたの参考になれば幸いと考え報告する。
 アンケートの対象は全国大学精神神経科およびAnalyserによる研究をされていると聞きおよんだ心理・生理学部関係——計58機関である。

動き

日本精神病理・精神療法学会第1回大会を顧みて

著者: 足立博

ページ範囲:P.386 - P.387

 日本精神病理・精神療法学会の第1回大会は,昨秋11月9,10両日,東京信濃町束医健保会館で開催された。この学会の意味するものの深さ,その使命の大きさを考えるとき,ここにいたるまでの学会設立の経緯にふれないわけにはいかない。
 精神療法学会設立の機運が村上仁,井村恒郎,諏訪望,懸田克躬,島崎敏樹,桜井図南男らの諸教授の間で実際に具体化してきたのは昭和38年暮ごろからである。特筆すべきことであるが,当時は精神病理・精神療法学会という名のものではなく,純粋に精神療法の学会をつくろうとされていたのである。当時の記録によると「少人数でいい,むしろ小さな学会のほうがいい精神医学を学んだ人たちのなかで,実際に精神療法をまじめにやつている人たちが十分に話しあえる学会がほしい。それは純粋で質の高いものでなくてはならない」というのが一致した意見であった。そしてこのような学会は若い精神科医の努力によつて生まれねばならぬという機運がたかまってきた。土居健郎,石川清,加藤清,笠原嘉,小此木啓吾,西園昌久,高臣武史,畑下一男,藤田千尋,荻野恒一,阪本健二,藤縄昭,辻悟,宮本忠雄らがさきの諸教授と京都,東京でいくたびか談合した。日本精神神経学会や日本分析学会との関係も論じられた。精神病理・精神療法学会という名が提案されたのはそのとき,昭和39年2月16日の集まりにおいてである。

紹介

—Lipot Szondi 著 佐竹隆三 訳—ソンディ・テスト 実験衝動診断法

著者: 小此木啓吾

ページ範囲:P.390 - P.391

 こんにち,“ソンディ・テスト”の名を知らない人は少ない。同時に“Szondi”というと,私たちは,“運命分析”というコトバを思い出す。しかし,それが,どんな理論に立脚し,どんな方法論をもち,実際にどんなテストなのかと問われると,意外にその真相を知る人はまれなのではなかろうか。
 これには,いくつかの理由をあげることができる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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