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雑誌目次

雑誌文献

精神医学7巻5号

1965年05月発行

雑誌目次

展望

精神医学と宗教(その2)

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.397 - P.405

I.“狂信者”の精神医学的考察
 狂信者Fanatikerというのは何も宗教の信者にのみ限つているわけではないが,宗教信者に最も多いことは周知の事実であり,ここではもつぱら“宗教的熱狂者”の精神病理を取扱うことにする。
 Guiraudはその著Psychiatrie Clinique30)において“熱狂性精神病”psychose passionelleを記載したが,広い意味ではパラノイアに入るものもあるし,またKurt Schneiderの“熱狂性精神病質”fanatische Psychopathenに入るものもあろう。政治的・社会改良的・発明的その他いろいろあるが,宗教団体,ことにいわゆる“新興宗教”団体に属しているものに最も多くみられる。一時的のこともあり,終生つづくこともあるが,psychosepassionelleと呼ばれるものは,もちろん終生つづくものを指している。いずれにせよ常人でないことは明らかであるが,これはまた教祖の問題にも関連があり,精神衛生学的にはいたつてデリケートな幾多の問題を包擁している。そしてまた,宗教に限つてこの問題を論じようと思つたら,さらに“宗教精神病理”Religionspsychopathoiogie一般について知るところがなければならない。

研究と報告

入院分裂病者の他患者との人間関係による病識発現について

著者: 藤田聞吉

ページ範囲:P.407 - P.412

 (1)病識・病感発現の機制としては,病院内の患者関係がまず第1に確立され,ついで従来強調されてきた医師-患者関係が成立すると思われる。
 (2)比較的新鮮な症例と,慢性の人格崩壊があると思われる患者とでは,患者の相互関係にも,かなりの差が認められる。

米国における日本留学生の生活適応—精神医学的立場よりの考察

著者: 稲永和豊 ,   土屋直裕 ,   長谷川和夫 ,   近藤喬一

ページ範囲:P.413 - P.418

I.はじめに
 われわれは,自ら留学生としてあるいは旅行者として,海外生活を数年,もしくは数カ月体験してきたが,その間に起こつた自らの精神的変化,および知り合つた多くの留学生,あるいは海外勤務者の観察から,日本人の海外における生活適応の問題を精神医学の立場からとりあげることは,きわめて興味深いことであると考えるにいたつた。国際間の人間の交流がますますさかんになりつつあるこんにち,異なつた文化社会に人間がおかれた場合,どのような適応困難が起こつてくるかを予測することは精神衛生上重要な問題である。米国においてもこの問題に関心をもつ人々が民間人にも,また精神科医にもあることを知つた。
 しかしながらこの研究課題をとりあげるにあたつては,研究の方法において多くの困難に遭遇する。とくに海外において適応困難におちいつた人人の症例研究を行なうためには,現地において直接に面接を行なう必要がある。しかし実際には,いつ,どこで,誰が発病するかわからないのに,長期間現地において発病者を待つということはできない。またすでに海外生活中に適応困難におちいつた人々を調査するという方法をも考えてみたが,プライバシーの問題とからんで容易でないこともわかつた。しかし将来はこのような現地調査(field study)も行なうこととして,さしあたつてすでに海外留学,あるいは海外勤務の経験のある人々に対して,アンケート方式によつて調査を行ない,いくつかの問題点を明らかにしようと企てた。

いわゆる「睡眠薬遊び」について

著者: 大原健士郎 ,   奥田裕洪 ,   小島洋 ,   有安孝義 ,   湯原昭

ページ範囲:P.419 - P.425

I.はしがき
 いわゆる「睡眠薬遊び」は,昭和35年5,6月ごろより発生し,漸次その数を増しているといわれる。警視庁防犯部少年課の調べでは,昭和37年度の月平均は36年度に比して2.7倍となつており,台東区を中心として,渋谷区,新宿区などの多発地区も指摘されるようになつてきた。睡眠薬は主としてキナゾロン系睡眠薬(ハイミナール,ネネなど)が使用されているが,その乱用が犯罪に結びつく場合が多く,しかもロウ・ティーンにも比較的に多く見られることから各界から注目をあびている。われわれは,主として社会精神医学の立場から,これらの少年についての調査を行なつているが,この論文では,その実態を報告したいと思う。

神経症患者の統計的観察—とくに薬物療法の推移について

著者: 柴田洋子 ,   藤井健次郎 ,   金子耕三 ,   高橋圭子 ,   加藤能男

ページ範囲:P.426 - P.434

 昭和33年より5ヵ年にわたる当院神経症患者(外来)について調査し,同じく当院における過去の資料と比較検討のうえ,つぎのような結果を得た。
 (1)新しい薬物(主としてC. D. P.)による治療の遠隔成績について検討した結果,治癒率はかならずしも向上してはいない。
 (2)神経症患者においては,長く通院している者も,短期間に中止した者も,なんらかの形(ある場合は宗教ないしは自己調整による)で精神療法の効果が主流をなしていることが確認された。
 (3)原因となつた葛藤を分析すると,男子では職場関係が,女子では家庭関係が多いという性別特徴がみられた。また概して葛藤の明らかなもののほうが改善傾向が強い。
 (4)臨床検査との関連で,脳波に異常を示すものが15.4%あり,診断上の疑議が呈示された。メコリール・テストの結果では,P型においてC. D. P. による改善傾向がやや優位であつた。

Diazepamの治療効果と,その臨床作用に関する二,三の考察—とくに「うつ状態」に対する効果について

著者: 笠松章 ,   平井富雄 ,   大塚ひろみ

ページ範囲:P.435 - P.440

I.はじめに
 神経症の治療においてもつともたいせつなのが精神療法であることは論をまたない。しかしその治療の初期には,患者の不安・焦躁感の除去が必要で,これによつて医師-患者の信頼関係が好ましいかたちで成立し,精神療法の進展がはかられやすくなることもしばしば経験される。Chlordiazepoxideの臨床実地への応用により,神経症の治療が容易になつたことは,このような事情にもとづくところが多いと思われる。
 近年chlordiazepoxideと類似した構造をもつdiazepamが開発され,神経症の治療上新しい武器となつていることは,多くの国外文献の報告によりほぼ確認されたといつてよい。これら文献を通覧すると,本剤の精神緊張(不安など)緩解作用,鎮静作用などの精神安定作用が指摘され,chlordiazepoxideに比し,より強力であるばかりでなく,臨床上さらに広いスペクトラムをもつことが報告されている。また動物における薬理実験のうちには,本剤が動物の馴化のみでなく,刺激作用を呈する事実を指摘しているものもある。臨床上では,抑うつ反応,精神分裂病の一部,境界症例などに対しては,本剤がenergizerとしての作用を発揮し,この点でchlordiazepoxideと異なるenergizer typeの作用をもつという報告(Feldman R. S. ら)もある。

精神疾患に対するdiazepamの臨床治験

著者: 三浦岱栄 ,   伊藤斉 ,   開沢茂雄 ,   三浦貞則 ,   山県博

ページ範囲:P.443 - P.457

I.緒言
 Chlordiazepoxideにつづいて新しいbenzodiazepine誘導体としてHoffman La Rôche社において開発されたdiazepam1)2)は,新しい向精神薬としてchlordiazepoxideにまさる効果を有することが欧米において認められている。
 本剤はValiumの名で,欧州ならびに米国にて発売されているが,その適応範囲は,主としてminor tranquilizerとして不安・緊張解消作用,自律神経安定作用,鎮静,催眠作用を有し,その他chlordiazepoxide同様,抗けいれん作用と筋弛緩作用を示し,これらの諸臨床効果はchlordiazepoxideより数倍強力であるが,さらに本剤は従来のminor tranquilizerと異なり,急性の幻覚妄想状態にも有効であるという報告もなされている。

Diazepamの睡眠効果とPlaceboを用いた二重盲検法による治験

著者: 高畑長吉 ,   津久江一郎

ページ範囲:P.459 - P.465

I.はしがき
 精神神経科領域において,とくに神経症に用いられる薬物は,ここ2〜3年来真のtranquilizerであるといわれているchlordiazepoxideが主流をなしている趣がある。その他の薬物は格段の差をもつて,meprobamate,chlorpromazine,perphenazine,prochlorperazine,levomepromazine,fluphenazine,benectizine,chlorprothixene,thioridazineなどが,わずかに用いられる程度となつている。その他に合剤であるVegetamine,Bellergalなどがあり,これらもある程度は使用されている。
 Chlordiazepoxideについては,わが教室では,すでに児玉1)2),高橋3)が報告しており,その後の種々の治験においては,良い結果を得てはいると思われるけれども,その使用は,要するに精神安定上のなんらかの効果を期待できればというのと副作用の少ないということの気やすさから,臨床各科においていささか濫用の気味がありはせぬかと惧れられる。

精神科領域におけるdiazepam(Horizon)の使用経験

著者: 小柳新策 ,   稲月作之助 ,   増村幹夫 ,   田宮崇

ページ範囲:P.467 - P.471

I.緒言
 神経症治療の薬物的な面は,スイスのロッシュ研究所で,chlordiazepoxideが開発され,そのとくに不安・緊張状態,心気的状態,抑うつ気分に対する優れた臨床効果が一般に認められるにおよび1)〜6),飛躍的な発展がみられた。そしてそれまで用いられて来たMAO-抑制剤,メプロバメート,バルビツレート,クロールプロマジンなどに代わり,chlordiazepoxideが神経症治療の主役を演ずるにいたり,今日におよんでいることは,周知の事実である。
 最近,同研究所でふたたびchlordiazepoxideに類似の構造を有するdiazepam(7-chloro-1,3-dihydro-1-methyl-5-phenyl-2H-1,4-benzcdiazepin-2-one)が合成された(第1図)。薬理学的には,Randallら7)のマウスによる実験では,LD50は経口投与で720mg/kg(chlordiazepoxideは620mg/kg)であり,筋弛緩作用は傾板法で,また鎮静作用はfighting miceの馴化作用で,chlordiazepoxideのの約5倍,電気ショック,メトラゾール,ストリキニンに対する抗痙攣作用は,5〜10倍の効果を有している。臨床的には,不安緊張状態に対し少量で速効性が期待され,またFeldman8)も指摘しているように,抑うつ気分,分裂症等にも効果が期待される。

from Discussion

「精神分裂病者の自殺」への討論

著者: 大原健士郎

ページ範囲:P.474 - P.476

 自殺という課題をとりあげる時,研究者の立場によつて種々の研究方法がとられることはいうまでもない。これまで私は,いわゆる実証的方法に基いて研究を進めてきた。つまり,あらゆる仮説は自ら求めた資料によつて作られるとするものである。しかし,経験上,人間一人一人の自殺行動を浮き彫りにする困難さは常に痛感している。この意味から,梶谷氏のとる主張は,私にとつて非常に魅力的なものであつたし,学ぶ点も多かった。
 梶谷氏の「精神分裂病者の自殺」に関する論旨は,第1回精神病理・精神療法学会で発表され,私が指定討論者として討議した関係上,また,精神医学誌第7巻第1,2号掲載論文中に私の仮説に対する批判が幾箇所か見られることから,あえてこの討論を提出することとした。

資料

壱岐の島における飲酒行動について

著者: 挾間秀文 ,   梅末正男 ,   出田哲也 ,   向井彬 ,   一木子和

ページ範囲:P.477 - P.483

I.はじめに
 飲酒態度あるいは飲酒に対する考え方は個人的な諸要因によつて決定されるばかりでなく,社会的ないろいろな要因に影響される。時代的にみても現代では,前近代的なfolk societyにおけるよりも飲酒はより広汎なものになつているし,多くの飲酒が「外」でなされ,集団儀礼的なものから,より個人社交的となつている。住民の都市化は人口の集中化とともに飲酒者の集中化を意味しており,工業化された労働はその機械的条件がますます強化され,個人の欲求不満やmaladjustmentをきたしやすくさせ,疲労や社交のための飲酒行動を複雑にしている。
 われわれはこれまでに,このような社会文化的条件が飲酒行動や習慣におよぼす影響について知るためにいろいろな調査をおこなつてきたが,このたびは特殊な地域社会として長崎県壱岐の島住民を対象として飲酒行動に関する調査をおこない,その離島における特殊性について考察したい。

動き

精神医学と心理学の専門職の間の基礎的な相互訓練的関連の原理について—アメリカ精神医学大会の態度声明(1964年2月)

著者: 秋谷たつ子

ページ範囲:P.485 - P.487

アメリカ医学会A. M. A. とアメリカ精神医学会A. P. A. の基本的な立場
 心理学者に対するA. P. A. の基本的考えは,1960年6月16日にA. M. A. の委員会により採択された報告と一致する。その報告から適当に引用した当面の問題点はつぎのごとくである。
 1…"急速な科学の進歩のために,患者の看護には多くの人々があたることが必要となり,そのために新しく,社会的・経済的・教育的・法的な諸問題が生じるようになった"。

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相馬事件(1)—相馬事件とは?,他

ページ範囲:P.405 - P.405

 本号と次号にわたり「精神衛生法をめぐる諸問題」(松沢病院医局病院問題研究会,1964年7月)から相馬事件の全文を紹介する

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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