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雑誌目次

雑誌文献

精神医学7巻8号

1965年08月発行

雑誌目次

展望

アルコール中毒に関する諸問題

著者: 堀内秀

ページ範囲:P.673 - P.682

I.まえがき
 アルコール中毒の問題は,精神科領域では,Jellinekの言葉を借りると,「部分的な議論,しかし明らかに重要な部分的な議論」である。内因性精神病のように,現在の考えかた,疾病概念や分類法を根底からくつがえすような,新しい考えかた,新しい疾病概念の生まれる可能性は何もない。アルコール中毒は,その病因も,病理も,治療法についても,ほとんど,およそのかたちを与えられていて,それにつけ加えられるのは部分的なものにすぎない。これは,ある意味で確かなことである。
 しかし,アルコール中毒の問題が,学問的に,およそ解決のついた問題であつても,社会的な問題としてのアルコール中毒が,すでに解決済であるということは,いえない。それどころか,そのような実際的な,実践の面にこそ,大きな問題が横たわつているといえるのである。

研究と報告

ある分裂病少女に見られた唾の変容—分裂病者におけるLeibの病態(1)

著者: 小見山実

ページ範囲:P.685 - P.690

 I.
 分裂病者において病的現象はさまざまな現われかたをする。たとえば患者が「唾を吐くこと」もその一つの現象といえる。これは注意して見れば日常の臨床でかなり観察されるものであるが,多くは無意味なこととして見すごされてしまう。また文献上でもこの問題をとりあげたものはほとんど見あたらない。筆者の知るかぎりでは,Sullivan5)が唾を口内にためている,ある分裂病患者を記載し,短い推論を加えている。たまたま筆者は唾に特異な体験を呈した,ある分裂病の少女を観察する機会をえたので,ここで分裂病者に出現する唾の現象を論じたいと思う。おもにこの症例を中心にして考察を進めるが,そのさい分裂病者におけるLeibの問題にたちいらざるをえない。
 分裂性現象としての「声」や「まなざし」の問題はこれまでかなり論じられている。ところで分裂病者には,そのほかにもさまざまなLeibの現象が現われるが,従来あまりかえりみられていない。しかしそれは見逃がしであつたかに思える。

臨床場面における自殺の予知について—精神科受診後の自殺企図症例の分析

著者: 古荘和郎 ,   藤井久和 ,   金子仁郎 ,   辻悟 ,   高橋京子

ページ範囲:P.691 - P.695

I.はじめに
 自殺は社会的,心理的,生物的要因がからみあつた複雑な行為であり,その定義をくだすことさえ困難な行為である。そして,その治療,予防となると,精神科の臨床場面という狭い範囲にかぎつてみても,なお至難のわざであるかの感をいだかしめるものがある。しかし,日常,臨床場面において,自殺の問題に直面するわれわれ精神医は自分たちの手のとどく範囲で,多くの患者たちが自ら死を求めて行為していく事実を手をこまねいて見すごしているわけにはゆかない。そこで,臨床場面において,自殺企図の可能性をいちはやく察知することの必要性が痛感されるのである。
 このような要請から,われわれは,われわれの臨床を訪れた後に自殺を企図する症例を掌握することにつとめ,昭和32年から現在にいたる間にその数は50症例の多きに達したので,これらを自殺企図の臨床場面における予知という見地から分析したいと考えた。

長期入院患者の自己の退院に対する態度

著者: 柴原堯

ページ範囲:P.697 - P.700

 精神病院における長期入院患者の自己の退院,社会復帰に対する自己描写を述べ,あわせて長期入院患者の退院,社会復帰を促進する三人称治療としての祉会復帰療法について考察した。
 (1)長期入院患者の自己の退院に対する態度は病前の社会的環境を選ぶことには多く困惑,回避的であり,それよりも低次,単純な心理学的構造の社会的環境に親和性を示している。
 (2)この様相は,社会的態度の強制による精神病院内社会の心理学的特長,すなわち,本質性,可能性,自律性の欠除などの特殊な様相を示す心理学的閉鎖社会での長期間にわたる入院生活の影響によるものであり,患者は退院にさいしてもこの精神病院風土の延長を望んでいる。
 (3)長期入院患者に対する治療としては,二人称治療としての薬物療法,個人的精紳療法だけではなく,精神病院における治療体系の最終段階の一つとして,生活作業療法を集団のなかでの自己実現を目的として行なう三人称治療が行なわれ,これによつて患者の対人交通能力の回復が十分に行なわれなければならない。

森田療法の実際における二,三の変化について

著者: 近藤喬一 ,   大原健士郎 ,   藍沢鎮雄 ,   清水信 ,   坂口実 ,   阿部亨 ,   山崎恒夫

ページ範囲:P.701 - P.704

 I.
 昨年11月に第1回精神病理・精神療法学会が東京で開かれた。そのおり,われわれは高良興生院における森田療法の実際を紹介し,合わせて2,3の技法上の変格について論じたが,討論の労をとられた九大の西園氏より質疑が提出され,また懸田教授よりも同様主旨の発言があつた。この問題については,当日午後行なわれたシンポジウム「精神療法の限界と危険」においても,九大桜井教授と慈大藤田との間に討論があり,さらに西園氏より紙面での発表を要望された。今回,発表論文を精神医学に掲載する機会をえたので,それに答え,かつ,われわれの立場を明らかにする意味から,合わせていささか以下に論じてみたい。

てんかん患者の結婚について

著者: 野村章恒 ,   柄沢昭秀 ,   松村幸司 ,   篠崎治郎

ページ範囲:P.705 - P.711

 既婚てんかん患者66例と30歳を過ぎて未婚の状態にあるてんかん患者を対象とし,本人および家族との面接による調査を行ない,結婚問題に関連してつぎの結果をえた。
 (1)一応の生活能力がたもたれ,反社会的行為を伴わぬこと,すなわち一般社会生活適応能力があるということが結婚生活にも基本条件であるといえる。男性ではこの基本条件が満たされていれば,発作抑制などに不十分な点があつても結婚生活に大きな障害をもたらさないが,女性ではさらに疾患に対する周囲の無理解が時として障害の原因となるのが現状である。しかし,全体として見れば対象の8〜9割がとくに重大な困難もなく結婚生活を維持している。
 (2)結婚したてんかん患者の半数以上は結婚後もとくに症状の変化を見ない。男性では結婚後発作頻度が軽度に増加したものが約2割に認められ女性ではやや多いが,その大部分は妊娠分娩に伴う悪化である。性行為が直接悪影響をおよぼしたと認められる例はなかつた。一方発作の減少,性格面の改善を見た例も少数だが認められた。
 (3)妊娠の影響を受けるのはおもに結婚前発病群で発作の再燃悪化というかたちをとり,一方分娩は結婚後発病群の女性における発作初発の誘因として注目される。

甲状腺剤含有の“やせ薬”の連用による精神障害

著者: 原田正純 ,   上妻由紀子 ,   三好公明

ページ範囲:P.712 - P.716

 (1)甲状腺剤含有“やせ薬”連用によつて起こったと考えられる精神障害例3例を経験した。患者はすべて女性で,24歳から35歳であつた。やせ薬の服用は1日2〜6〜8錠(Thyroid 40〜120〜160mg)で,やせるため,または便秘をなおすために用いられている。服用期間は6ヵ月から3年の長期にわたつている。
 (2)“やせ薬”の服用中には,頭痛・めまい・耳鳴・不眠などの症状が見られる。服用を中止して後に,精神症状および軽度の粘液水腫様症状が現われた。基本的の精神症状としては,第1例・第2例は分裂病様状態を,第3例はうつ状態を示した。3例に共通した症状として,離人症その他の自我障害症状,不安・焦躁状,一方的でききわけがなく・あまえ・依存的で子どもつぽく未熟な精神状態などが認められた。
 (3)症状は慢性の経過をとり,薬物中止後1年から1年7ヵ月も継続している。
 (4)向精神薬物では十分な治療効果は期待できない。甲状腺剤で症状は消褪するが,投与量・方法・投与期間などについては慎重な考慮をはらわなければ症状を悪化させる可能性がある。第1例では電撃療法が著効をおさめた。

精神分裂病に対するPropitan(Dipiperon)の臨床効果

著者: 桜井図南男 ,   西園昌久 ,   中沢洋一 ,   疋田平三郎

ページ範囲:P.717 - P.724

I.はじめに
 1952年Denikerらによつて,chlorpromazineが精神病の治療薬として効果があることが明らかにされて以来,こんにちまでおびただしい向精神薬が登場してきた。しかし,それらの多くは,chlorpromazineが属するphenothiazine系化合物で,その側鎖をいろいろに変えたものであるか,あるいはphenothiazine核の変型をねらつたものである。ことに精神分裂病に対する精神治療薬のほとんどすべてはphenothiazine系化合物であつた。したがつて,誘導体の違いによつて,おのずからその作用に量的,質的な差異があるにしても,これらは治療薬としてのphenothiazine系化合物のもつている大きな特徴と限界の枠のなかでの違いなのである。
 したがつて,phenothiazine系化合物やphenothiazine類似のものとまつたく異なる化合物で向精神作用が強く,上記の限界をこえる効果をあげるものが現われることが期待されていた。ベルギーのJanssen社はphenothiazineとはまつたく異なるbutyrophenone系化合物を合成し,そのうち,10数種のものは,いちじるしい向精神薬的な臨床効果があると発表している。

抑うつ状態に対する7162 R. P.(Surmontil)の臨床治験

著者: 野村章恒 ,   遠藤四郎 ,   清水信 ,   佐々木三男 ,   与良健

ページ範囲:P.727 - P.731

I.緒言
 内因性うつ病・反応性うつ病などの抑うつ状態に対する薬物療法としては,過去に阿片療法,臭素剤および持続睡眠療法が用いられていた。しかし,chlorpromazineに始まる一連のphenothiazine系向精神薬の出現により,抑うつ状態に対する薬物療法もしだいに変遷し,chlorpromazine,levomepromazineの静穏化・催眠作用を応用したりperphenazineの運動促進作用を応用したりする方法がとられたが,いずれも対症的な効果の域を出なかつた。ついで中枢刺激剤,MAO阻害剤などが一時話題となつたが,精神賦活作用や感情の多幸化は早期にえられても,反面,焦躁・苦悶感や不眠の増強が認められ,さらに重篤な肝障害を惹起する症例も出るにおよんで,現在は一般に用いられることも少ないようすである。
 抑うつ状態に対する薬物療法が画期的に進歩したのは,iminodibenzyl誘導体であるimipramine(Tofranil)が出現して以来であろう。imipramineによつて,これまでなにかと問題はありながら,なお,抑うつ状態の治療に枢要な位置を占めていた電撃療法が,ようやく薬物療法におきかえられたといえよう。そしてThymolepticumまたはAntidepressantという名称が一般に使われるようになつた。現在,わが国ではimipramine(Tofranil),amitriptyline(Tryptanol)が用いられている。

資料 沖縄の精神衛生

沖縄における精神衛生の現状と問題点

著者: 平安常敏 ,   屋良澄夫 ,   仲宗根泰昭

ページ範囲:P.734 - P.739

1.はしがき
 敗戦によつて祖国から分離された沖縄には,公衆衛生に限つても問題点が多いが,精神衛生はいまやその緒についたばかりといつてよい。本土では「もはや戦後ではない」といわれたのは数年前となり,国家のたちなおり,なかんずく,経済のいちじるしい伸長で,民生も安定しつつあり,あるいいかたによれば「大国」であり,国際的にも先進国の列に連なろうとしている。
 しかしながら,沖縄では,いまなお「戦後」であり,20年前のあのいまわしい焼土殺りくの傷跡は,人々の心に強く印され,いたるところに戦禍のあとを見ることができる。

沖縄の精神衛生事情

著者: 鈴木淳

ページ範囲:P.740 - P.747

I.はじめに
 沖縄は珊瑚礁に囲まれた大小140あまりの島々からなり,鹿児島から弓状の弧をなして,台湾にのびている。戦前は沖縄県として統治されていたが,現在,北緯27゜線以南が米軍によつて支配されている。亜熱帯に属するこの地方の年間平均気温は22.1℃で,モクマオウ,ソテツ,デイゴ,ガジュマルが見られ,パインアップルやバナナがみのる土地である。
 だが,その歴史はさまよえる悲劇の連続であつた。あるときは島津から,あるときには明や清から圧力が加えられ,島内はつねに二派に分かれて相争い,明治になつても皇恩うすく,ハワイや南米移民が唯一の希望の光であつた。
 20年前,戦禍は一樹の影すら失わさせるほど熾烈をきわめた。白百合の悲劇は動員女子学生ばかりでなく,全島民おのおのの身近かなありふれた事件であつた。
 私は昭和39年度沖縄医療援助第1回派遣専門医として6カ月間滞在し,精神障害者の診療業務に従事した。その間に経験し,見聞したことや,えられた資料を基礎として,沖縄の精神病院や精神衛生の現状について卑見をまとめてみた。

動き

西ドイツの精神医学事情

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.748 - P.750

 The American Journal of Psychiatryの本年5月号にThe Situation of Psychiatry in West Germanyと題して私どもにとつてもたいへん参考になる記事がのつている。著者はJ. E. Meyer M. D. とあるだけでどこのどういう人か私は知らない。しかし記事は簡潔でいたつて公平(?)に西独精神医学の最近の変遷を伝えているように思われるので(昨年西独を視察してきた私どもの牧田助教授の話とだいたい一致している),要点のみを紹介してみよう。
 お家芸であつた精神医学におけるethiologyとかnosologyの進歩には見るべきものはないが,治療学の進歩が最近のドイツ精神医学を急激に変貌させつつあるということができよう。もちろんこの治療学の進歩というのは主としてdrug therapyによるものであり,E. S. は完全に廃棄されてはいないもののいちじるしく減少した。しかしこのpharmacotherapyの隆盛は単にdrugsの開発に全面的に依存していると考えるのは誤りでmodern milieu therapyを除外しては確立しなかつたろうと最初に述べている。

紹介

—H. W. Gruhle,R. Jung,W. Mayer-Gross,M. Müller—現代精神医学 第1巻1分冊B 精神医学の基礎的研究(第2回)

著者: 小林健一 ,   仮屋哲彦

ページ範囲:P.751 - P.754

 今回は前回にひきつづき精神医学の基礎的研究を取り扱つた分冊BからG. Huberの「神経放射線学と精神医学」,W. A. Giljarowskyの「条件反射学説とロシヤ精神医学におけるその発展」の2篇を紹介する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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