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雑誌目次

雑誌文献

精神医学7巻9号

1965年09月発行

雑誌目次

展望

運命心理学

著者: 佐竹隆三

ページ範囲:P.762 - P.771

I.運命心理学のあけぼの
 最初にソンデイ理論の発生に関する歴史的なエピソードを紹介しよう。いかにしてSzondiがこのような見解に達したかということについては,1937年のContributions to Fate Analysis. Analysis of Marriage. An attempt at a theory of choice in love. Acta Psychologica, Vol. Ⅲおよび1944年のSchicksalsanalyse. Erstes Buch. Wahlin Liebe, Freundschaft, Beruf, Krankheit und Tod-Benno Schwabe, Baselの2つの業績のなかで,かれ自身によつて述べられている。
 かれの理論は,つぎに述べるように,かれ自身の臨床的な経験から生まれたものである。

研究と報告

精神分裂病患者に関する二,三の臨床的経験

著者: 石井翼

ページ範囲:P.773 - P.778

I.緒言
 近年,病院精神医学の表題で,精神病院における主に分裂病患者の処置が活発に研究されるようになり,全国的に精神病院の改革運動が広く発展している。そこで主張されていることは,ほぼつぎの三項目に要約できるであろう4)
 1)開放管理,2)生活療法,3)社会復帰

心因性チックの自律訓練併用精神療法

著者: 阿部正 ,   石橋泰子

ページ範囲:P.779 - P.783

I.緒論
 心因性チックの精神力動については,Ferenczi1)はリビドーの筋エロティスムスへのおきかえ,Abraham2)は敵意と性的要素が関与するとし,Magaret, Gerard3)は驚愕体験からの本能欲求の抑制と部分満足とし,Mahler4)は素質的運動因子の過度制約と刺激によるとし,Levyは衝動の部分的現われまたは危険防衛の身ぶり,Fenichel5)は前性器期的転換で感情の代理物であるとした。浜中6)は快楽獲得の方途として条件づけられ抑圧された活動の唯一の放出状態であるとした。阿部7)らは14例の心因性チックと12例の心因性顔面けいれんの精神力動を調べ攻撃および運動衝動の刺激および抑圧であるとした。なお奥田ら8),多米9),牧田ら10)の研究報告がある。
 本症の治療としては精神療法がもつとも中心であるにかかわらず,精神療法の詳細な報告はわが国ではこんにちまでほとんどなかつた。

高校生の自殺企図例

著者: 大原健士郎 ,   増野肇 ,   松村幸司

ページ範囲:P.784 - P.788

I.はしがき
 未成年者の自殺は各研究分野にわたつて多彩で種々の内容がまざりあつている。この年齢層から自殺者が激増し,日本の自殺の一特徴といわれる青年期の高い自殺率を示すことは周知のとおりである。この年齢では,心理学的にいつても独立と自由を獲得し,人間としての自覚を身につけようとする時期である。しかし,それとともにかれらは大きな孤独と葛藤を経験する。かれらは,人格の完成への途上において,環境的な影響を受けることも多くなるし,生物学的にいつても自殺と関係の深いうつ病を初めとして,精神分裂病,易感性関係妄想,精神病質などの好発時期でもある。かれらの自殺の特徴をつかむため,対象を高校生に限定し,症例を中心として考察してみたいと思う。

不安神経症における不安についての二,三の考察—医師の不安神経症例の検討

著者: 鈴木知準 ,   熊野明夫

ページ範囲:P.789 - P.795

I.はじめに
 神経症は主観的体験世界における障害であり,神経症における不安の研究は,主として神経症者自身の内省観察をもとにしてなされねばならない。医師は職業がら,自己の肉体および精神状態に関する観察と内省は,一般に他の職業の人たちよりすぐれていると考えられるので,医師の神経症例は多くの示唆を含んでおり貴重である。心臓・呼吸器症状を呈する不安神経症においては,その症状の成立・固定化の要因に関して,操ら1)は医因性因子を強調し,塩入2)は医因性因子と同時に患者の側の受け取りかたに問題があるとしている。いずれにせよ医因性因子の関与が大であることは明らかであり,医師の不安神経症例における医学的知識と不安症状の発展・固着との関係,さらにその解消経過は興味深い。
 不安神経症を経験し,鈴木のもとで入院森田療法を受け,退院後6〜7年を経過した3人の医師(内科医2名,産婦人科医1名)の症例につき検討し,上記の諸点に主眼をおいて考察を行なつた。

更年期ないし初老期に初発する抑うつ状態について—更年期うつ病をめぐつて

著者: 後藤彰夫

ページ範囲:P.797 - P.804

I.はじめに
 更年期ないし初老期に初発する抑うつ状態は広く更年期うつ病とよばれているが,これらのうちに躁うつ病圏のうつ病と異なる特殊な疾患が存在するか否かについては多くの議論がある1)〜22)。また,われわれが臨床場面でこれらの抑うつ状態を診たとき,その症状や経過が多彩なためその診断や処置,さらに予後への見通しが十分につかず,対症的な療法に終始することが多い。このような多彩な抑うつ状態を病像の詳細な観察により整理し,予後への適確な見通しをうる目的でこの研究を行なつた。

Tofranil定式療法による抑うつ患者の治療について

著者: 木村敏 ,   石田千鶴子 ,   河合逸雄

ページ範囲:P.805 - P.809

I.序論
 Iminodibenzyl誘導体Imipramin(Tofranil)は1957年R. Kuhn2)によりその特徴的な抗うつ作用を確認され,わが国にも1959年に導入されて以来,われわれにとつて不可欠の薬品となつている。ただ本剤のすぐれた抗うつ作用に関しては諸家の一致して認めるところであるにもかかわらず,本剤によつてうつ病の何パーセントが治癒せしめうるかに関しては,諸報告の問にかなりの差が認められる(第1表)。この表からただちに眼につくことは,本剤のわが国における有効率が諸外国のそれに比していちじるしく低いことである。わが国における最高値(神岡らの44%)をとつてみても,外国における最低値(Azima et Vispoの56%)におよばない。この現象は単に数値のうえだけでなく,著者らの1人木村がドイツ滞在中に実際に体験した事実とも一致する。そこに当然存しなければならぬ原因の考察は,われわれのTofranil使用法に対するいくつかの反省を必然的に導いてくれた。
 第1に,Tofranilのみならず広く向精神薬一般について考えらるべきことであるが,われわれは精神疾患にある化学物質を投与するさい,従来ともすれば,その疾患があたかもその物質の欠乏に基因しているかのごとき,すなわちビタミン欠乏患者にビタミンを投与するかのごとき,画一的な分服法を用いてきたのではないか,精神薬剤の投与ということがいかなる意味をもつものかという当然なさるべき反省が,はたしてなされてきたかということである。

難治性てんかんの一断面—Forced Normalizationの症例について

著者: 下田又季雄 ,   難波昌弘 ,   芦田泰 ,   北川達也

ページ範囲:P.811 - P.818

I.はじめに
 てんかんの薬物治療にあたつて,薬物のもつ副作用を考慮することは無論大切なことであるが,抗てんかん薬持続服用中ときとして発作の消失ないしは改善とともに,気分の変調,乱暴,兇暴性,抑うつなど多彩な精神症状を呈し,そのために発作自体よりも家族隣人にとつてより困惑する事態となることがある。
 1953年Landoltはこのような現象の発現と異常脳波波型の改善との密接な関係をみいだし,この現象をとくにForced Normalizationと呼び報告している。一般にこのForced Normalizationは側頭葉てんかんなどのように脳波上Focusを持つてんかんにしばしば認められ,Focusのないてんかんにおいては比較的まれであると考えられているが,実際臨床上詳細に一般のてんかん患者の経過観察を,脳波検査と平行して注意深く行なえば決していままで考えられているほどまれなものではなく,日常てんかん患者治療中しばしば遭遇する現象ではなかろうか?と,われわれは考えるにいたつた。すなわちわれわれは以上の観点から長期にわたり,いわゆる難治性てんかん患者の治療ならびに経過観察を詳細に行ないすでに多数の本症例を経験しているが,今回はそのうちとくに著明なForced Normalizationを呈したものについて,Landoltの報告と比較検討を行なつたのでその結果について述べる。

新しい精神病治療薬PZ 1511(Defecton)の臨床試験

著者: 藤田貞雄 ,   由良了三 ,   西願寺弘通 ,   後藤基裕 ,   出口武夫

ページ範囲:P.821 - P.824

I.はじめに
 PZ1511(carbadipimidine)は吉富製薬で新しく開発された薬物でつぎのごとき構造をもつ。すなわちimipramineの核にdipiperoneの側鎖のついたもので,薬理実験でimipramine様の作用のあることが示されている。
 しかしbutyrophenone系の薬物様の効果も期待されたので,適応症状を一応,抑うつ気分,欲動減少と予想し,ここ6ヵ月にわたつて種々の精神病に試用してみた。
 試用実験は健康人から始め,つぎに少数の,あらゆる治療に抵抗した重症分裂病について行ない,作用のだいたいのオリエンテーションをつけて少しずつ対象の範囲を拡大し,現在試用例数がすでに100名をこえた。
 ここに現在までの成績をまとめて報告する。

PZ 1511(Carbadipimidine)の臨床経験から

著者: 笠原嘉 ,   藤縄昭

ページ範囲:P.825 - P.827

 約1年半前からこんにちまで計47例の精神疾患者にこの薬物を投与した。その経験の一部はすでに筆者のひとり藤縄が39年3月に発表しているが,今回は以後1年の経験をこれに加える。結論を先取すれば,こんにちなおわれわれはこの薬物の投与さるべき適応症候,効果などについて積極的な発言を行なえる段階にいない。しかし以下にも述べるように,この薬物によつて治癒とはもちろん称しがたいにしても,長い拘着状態からひとまず脱却することのできた何人かの患者のあることを見たので,一応こんにちまでの使用経験の範囲から考えられるところを暫定的にまとめて述べたい。
 上記47例の診断学的内訳は,分裂病群33例,神経衰弱ないしはそれに準ずる状態12例,その他2例となる。もつとも,分裂病といつても荒廃状態を含めた陳旧性のもの,あるいは2ないし5年の経過をもつた破瓜ないし単純型がもつぱら選ばれており,神経衰弱状態としたものも軽うつ,離人,心気症などを長年にわたつてもちつづけた慢性例がすべてであり,そのなかの幾人かはいわゆる境界例とよんでもよい。急性状態,妄想幻覚状態には1例も使用していない。使用対象を以上にかぎつたのは,藤田(貞)の示唆に従つたからである。その他の2例とは,対照の意味で無為寡動の進行麻痺者と頭部外傷後の人格変化を呈している者それぞれ1例に使用したものである。

PZ 1511の陳旧性分裂病に対する使用経験

著者: 岡本重一 ,   木村定 ,   阪口起造 ,   亀廣市右ヱ門

ページ範囲:P.829 - P.838

I.緒言
 精神分裂病に対する薬物療法は,近年長足の進歩を示しているが,今回,欠陥分裂病に特異的な効果を示すといわれている(Krankheitspezifisch)PZ 1511を使用する機会をえ,すでにその一部使用経験を発表したが,その後さらに症例数も増え,また他の発表にはほとんど見られなかつた本剤の大量療法をも平行して実施したので,あらためてここにその綜合成績を報告する。ちなみにP Z1511の構造式は第1図のごとくで,抑うつ剤imipramineの核に,Haloperidol,Benperidol類似のDipiperonの側鎖がついている。

資料

肺結核合併精神患者の管理について

著者: 時沢哲也 ,   森靖博 ,   金田良夫

ページ範囲:P.839 - P.848

I.はじめに
 精神障害と結核の関係については1)〜5),これまでいろいろ論じられ,さらに精神障害者の結核管理についても,個々の病院を中心としたものは,二,三報告されている6)〜8)
 結核管理とは,患者を発見しこれをふたたび社会へ復帰させるまでの一連の手段をいうが,精神障害者の結核管理は,一般のそれよりいろいろ複雑な因子が加わつていつそう困難である。
 そこで,われわれはこの困難な精神障害者の結核管理上問題になる点を明らかにし,さらに,その対策をたてるための第一歩として,全国の精神病院における実情を調査したが,その結果の報告とともに若干の考察を述べたい。

紹介

最近の精神医学史

著者: 神谷美恵子

ページ範囲:P.849 - P.851

 Zilboorg, G. が大著"A History of Medical Psychology"5)を著わしてから,すでに四半世紀になろうとしている。歴史というものは,つねにある時間的距離をおいてながめなければ,こみいつた事象の流れの全貌を,かたよりなく見きわめたものとはなりえないにしても,この24年の問には,だれの眼にも明らかな,きまざまの変化が精神医学自体のなかにも,また社会における精神医学のありかたのうえにも,起こつてきている。そのうえ,精神医学史的意識もめざめてきて,精神医学史というものの意義について,その性質について,その方法論について,論議されることが以前よりずつと多くなつてきた。これを精神医学における歴史哲学の出現とよんでみてもよい。そのためでもあろう,精神医学教育の一環として,精神医学史が,大学教育のいろいろなレベルで,とりいれられるようになつてきた。
 以上のような事態にうながされて,戦後になつてから精神医学史に関する書きものが少なからず現われてきた。それらはZilboorgの仕事を,はるかに高い密度で補い,訂正するものである。そうした精神医学史自体の歴史,およびその歴史哲学については他に述べたので3),ここでは最近の精神医学史のおもな単行本を,それも1960年代に英,独,仏語で出版されたものにかぎつて紹介したいと思う。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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