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雑誌目次

論文

精神医学8巻1号

1966年01月発行

雑誌目次

展望

児童分裂病概念の変遷

著者: 黒丸正四郎

ページ範囲:P.5 - P.16

I.序
 昭和34年(1959年)著者16)は本誌の第1巻第2号に児童期の分裂病に関する綜説を紹介した。当時のわが国では本症に関する研究はまだ微々たるものであつて,著者の記したものも,諸外国における本研究の歴史と概略の紹介にすぎなかつた。
 ところが,その後,わが国でも幼児自閉症を中心とする乳幼児期および学童期の分裂病が注目されるにいたり,児童精神医学会ならびにその機関誌「児童精神医学とその周辺領域」にもいろいろの研究が発表されるにいたつた。この傾向は従来,児童精神医学の研究と活動に乏しかつたわが国の精神医学界にとつて,まことに好ましいことであるが,一方ややもすると,子どもが少しでも衒奇的な行動をしたり,退嬰的で孤独な態度を示したりすると,ただちに自閉症ないし分裂病というレッテルを付するというように,幼児自閉症とか児童分裂病とかという概念があまりにも無批判にかつ容易に使用される弊害も生じてきた。周知のごとく,脳に器質的障害のある子ども,精神薄弱児,時としては心因性に起こつた問題児などでも,一見,自閉的に見える精神症状を呈することはしばしばであつて,これをただちにnosologicalな意味における真の自閉症と混同することは,いたずらに本研究を混乱せしむる以外の何物でもない。かかる意味からいつても,幼児自閉症や児童分裂病に関する諸概念を現在の時点において,一応整理してみることはけつして無意味ではない。

研究と報告

Pre-schizophrenic Stateとしての境界状態—発病後3年以上を経て境界状態にあつた32例の7年後の予後調査(その1)

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   延島信也 ,   河合洋 ,   岩崎徹也 ,   北田穰之介 ,   武田専 ,   鈴木寿治 ,   鹿野達男

ページ範囲:P.17 - P.22

I.まえがき
 いわゆる境界例に対する組織的な精神療法的接近から,われわれは,これらの症例群に関するさまざまの精神医学的知見を報告し,さらにまた,その概念が含む諸観点を明らかにしてきた。この研究の途上で,いわゆる境界状態(borderline state:Robert Knight)を一種の移行段階(transitionalstate)にあるものとみなして,これから分裂病に進行するか(pre-schizophrenic),神経症的な範囲に回復するか,あるいはすでに分裂病状態を経た一種のpost-schizophrenic stateなのか,を考慮する動的な観点と,その境界状態がきわめて慢性の経過をたどり,たえざる動揺をつづけながらも,一貫して境界状態の範囲にとどまり,むしろこの種の症例を一つのclinical entityとみなすべきであるとする観点(borderline patient:M. Schmideberg)の,二つの観点が"境界例"というコトバに含まれている事実が注目された。すなわちわれわれは"境界例"というコトバを,境界状態(borderlinestate)という意味でだけ用いるべきか,さらにそのなかには境界患者(borderline patient)とよぶべき症例も実在するか,という課題に直面するにいたつたのである。たとえばわれわれが,直接精神療法中の19例の境界例を検討したところ,全例が治療期間を含めると発病後現在まで3年から10年を経ていることが認められる。

一精神分裂病者の描画態度とWZTに関する精神病理学的考察

著者: 入江是清

ページ範囲:P.23 - P.30

1.緒言
 精神病者の絵画に関する研究はTardieu(1872),Simon(1876)らによつてはじめられたといわれ1)2),その後,吉益3)4),徳田5),宮本6),Volmat2)らの紹介にあるとおり多くの研究報告がなされている。とくに精神分裂病者に関しては症状経過と絵画制作との関連性を中心に論じられ最近では絵画療法にまで発展しているのは,周知のとおりである。
 今回,著者は入院初期4ヵ月間で350枚余の絵画制作を行なつた精神分裂病の症例を経験し,著者自身も若干の絵画制作経験を有するので,その症例の描画態度についてWarteggzeichentest(以下WZTと略)所見を加えて精神病理学的考察を行ない精神分裂病者絵画の個人的特徴,WZT所見の絵画療法への応用などに関し私見を述べさせていただき諸氏の御批判を受け今後の研究資料の一つとしたい。

定型および非定型分裂病者の病に対する構えについて

著者: 今道裕之 ,   満田久敏

ページ範囲:P.31 - P.36

 病識がBesinnungの能力によるものであるかぎり,その障害は広く精神障害全体に共通のものであるから,自己の病に対する患者の構えを観察することによつて,その患者の人格が,どのように,あるいはどの程度まで障害されているかを知ることができ,そこからそれぞれの精神障害がもつ特徴的な人格構造をある程度とらえることができるのではないかと考え,まず今回は,定型および非定型分裂病者の自己の病に対する『構え』を比較考察した。
 定型分裂病では,本来fremdatigなものであるべき病的現象を,そのようなものとして受けとる能力が乏しく,また現実と非現実との混同が見られるが,このことはGemeinsirmの喪失,または関心欠如(Interesselosigkeit)を意味し,したがつてかれらには,自己の変化した精神生活への人格的な反応,すなわち精神力動(Psychodynamik)をほとんど認めることができず,かれらにとつて,ただすべての現象は単なる“Geschehnis”として流れ去つていくのみで,“Erlebnis”となつて人格のなかにくみいれられ,それを豊富にすることはない。したがつてそこには,ただ空虚な無関心しかみいだすことができないのである。このような『無関心な構え』にもとつく病識の障害は,まさしく病識の欠如であり,入格の解体によるものとみなすことができる。
 これに反し,非定型分裂病者の『構え』はつぎのようなものである。種々のfremdartigな病的現象を,自己防衛的に加工しようとする(verarbeitend)構え,受診時,または入院時に見られるような,自己の病を認めることに対する極度に否走的(verneinend)な構え,再発した場合,人格の深層においては病識を有しながらも,病的現象によってそれがおおわれ,またはそこなわれていると思われる両価的(ambivalent)な構え——これらの構えは,いずれもかなり了解可能なものであり,このことは健全な人格の残存を意味しており,この種の患者が,たとえ病的現象の活発な時期においてさえも,なおその精神力動が保持されていることを示しているということができる。

精神分裂病の家族面接による環境,とくに幼少期の環境の研究—ヒステリーとの比較

著者: 阿部正 ,   山田隆久 ,   大嶺繁二

ページ範囲:P.37 - P.47

I.まえおき
 精神分裂病の発病について,生育環境を重視したのは,Freud以来Sullivanにいたる精神分析派の人たちであるが,1〜5才までの精神的外傷体験を重視した。それ以来,分裂病患者の家族研究がLidz, R. W. & Lidz, T.12),Lidz, T. ら13)Reichard, S. & Tillman, O14),Wahl, C. W.16)17),Gerard, D. & Siegel, G.10)その他により行なわれた。
 阿部は昭和24年(1949)ごろより分裂病患者を面接により反応性のものと内因性のものとに区別しようとこころみたが,面接してみるとほとんどすべて反応性と考えられた。その後分裂病の精神療法を行ない理論的考察1)2)5)6)をし,集中反応の立場をとるようになつた。分裂病の幼時期については昭和33年(1958)3)に岡本正夫とともに14例について発表し,前掲文献6)の299頁にも述べたが,今回はその後の症例を中心に詳細に論じ,ヒステリーの症例のそれと比較し,両者の症状形成理論にもふれる。

陳旧分裂病に対するdiazepam(Horizon)の「ゆさぶり」の効果について

著者: 松本胖 ,   柳田昭二 ,   中島顕 ,   飯塚正章 ,   福井進

ページ範囲:P.49 - P.55

I.序論
 Chlordiazepoxideは発売以来,とくに精神神経症,あるいは心身症の領域で,その強い抗不安,抗緊張作用のゆえに,非常に広く活用されるようになり,またその副作用の少ないこともあつて,精神科にかぎらず,各科領域で比較的気がるに使用されるようになつている。
 しかし一方,精神分裂病に対しては,本剤はあまり影響力をもたないのではないかという印象が強い。

Diazepam注射薬の精神症状におよぼす影響とその応用

著者: 金子仁郎 ,   藤井久和 ,   武貞昌志

ページ範囲:P.57 - P.60

I.はじめに
 Chlordiazepoxideと近似し,しかも数倍強力な作用をもつdiazepamが開発され1),その臨床的有用性は欧米ならびに本邦での多数の臨床実験で確かめられた2)5)6)。われわれも,すでにdiazepamが患者の不安,緊張,焦躁感に選択的に作用し,精神症状を軽快させること,医師・患者間の疎通性を増大させ,精神療法を容易にすることなどの点で,精神神経症,精神身体症などに対する画期的な治療薬としての価値をもつものであることを報告してきた3)
 すなわち,diazepamはchlordiazepoxideに比し,効果の発現は速効的であり,その作用も強力であり,適応スペクトルもより広いことから,chlordiazepoxide無効例にも,すぐれた効果を示すものがあり,とくに従来の薬物に反応しがたかつた恐怖症,強迫神経症にも有効な症例を認めた。

Diazepam(Cercine)-interviewの基礎的検討に関する臨床経験

著者: 浅田成也 ,   河村隆弘

ページ範囲:P.61 - P.66

I.はしがき
 われわれはdiazepamの静注による効果に関して,EEGないしM. T. 上の影響についての研究に平行して,interviewへの応用を企図し,その可否ないし効用の問題を追究することとした。
 今日までかかる経験は,30例を越えているが,これらのうち,とくにdiazepam-interviewとして,われわれが規定した検討を等しく加ええた例数は,入・外来を通じ,ヒステリーないしヒステリー様症状を主徴とせる例に限つたので,今回は,予報的にではあるが,その16例について,われわれの得た知見を以下に報告する。なお,ここに報告する静注時の所見は,すべて急性期のもので,経過を追つて長期にわたり追究したものは省略する。

資料

精神衛生相談所における相談者の統計的観察—主として所内精神衛生相談を中心にして

著者: 石原幸夫

ページ範囲:P.69 - P.74

 昭和35年4月より5ヵ年間にわたる精神衛生相談所外来相談者について,統計的な調査をこころみ,つぎのような結果をえた。
 (1)外来相談者は,年間平均のべ約3,300人であり,そのうち新相談者は平均1,500人であつた。前半2ヵ年では新相談者が再来者より多く,後半3ヵ年では,再来者が新相談者より多かつた。
 (2)性別では,女性の利用者が男性よりも多く,年齢では30歳代がもつとも多かつた。
 (3)相談内容は,診療保護の問題で来所するものが各年度を通じて第1位であつた。
 (4)相談者(臨床ケース)の診断分類では,神経症がもつとも多く44.9%であり,第2位は精神病(分裂症・躁うつ病・その他の精神病)で15.8%,第3位は精神薄弱で11.2%であつた。
 (5)相談の動機は,マスコミによるものがもつとも多く,来所回数は,45%が1回で終り,6回以上継続して来所しているものは,5.8%であつた。
 なお精神衛生相談助言活動の中心はpsychiatri coutpatient clinic serviceであつたが,精神障害者の社会的治療資源の一つとして,この種施設の重要性を指摘した。

動き

東アフリカにおける精神科医療の現状

著者: 高木隆郎

ページ範囲:P.75 - P.79

I.まえがき
 昨1964年7月から11月まで,私は,京都大学第4次アフリカ学術調査隊に参加して,東アフリカに滞在する経験をもつた。東アフリカとは,ビクトリヤ湖をとりまき赤道をまたぐ旧英領植民地の4力国,ケニヤ,ウガンダ,タンガニイカ,ザンジバルをいうが,タンガニイカは1961年,ウガンダは1962年,ケニヤは1963年それぞれ独立,そしてザンジバルは1964年独立後まもなく一種の革命のごときものでタンガニイカと合併政権を確立,私の滞在中に両国合わせてタンザニヤと改名した(1964年10月)。私にとつてアフリカは二度目の訪問であり,1962年9月から11月まで,西アフリカのナイジェリア(アベオクタの精神病院Aro Hospital),赤道アフリカのガボン(シュバイツァー病院の精神病棟),それからスーダンを経て束アフリカに渡り,このときはタンガニイカにすでに設定されていた京大隊の人類班の基地に約3週間滞在ののち,ピグミーを求めてウガンダに渡つてコンゴとの国境,ルエンゾリの山麓などを少々歩いて帰つた。今回は,日本からの空路の要地であるケニヤのナイロビで前後計1カ月ほどホテル暮しをしたが,他は主としてタンザニヤでのいわゆる現地生活であつた。帰国の直前,南アフリカ(ヨハネスブルグとケープタウン)にまでとび,人種差別のようすに少しばかりふれてからふたたびナイロビに戻り,旅装を整えてカイロ経由で帰国した。

紹介

—Petrilowitsch 著—Abnorme Persönlichkeiten

著者: 木村敏

ページ範囲:P.80 - P.85

 精神病質者あるいは異常人格者をめぐつての問題は,古く,しかもつねに新しい問題である。そして従来から多くの学者がいろいろの角度から——精神病とは一応独立した,先天的あるいは後天的な性格偏倚として,あるいは特定の精神病の病前性格というかたちにおいて——この問題に対する見解を述べてきた。ここに紹介するPetrilowitschの著書は,KruegerおよびWellekによつて代表される,いわゆる「全体性心理学」あるいは「構造心理学」の立場に立つて書かれた唯一の異常人格論であるという意味において,この分野においては無視しえない文献の一つといえるだろう。なお,著者の根本的な立脚点である「構造心理学」の諸概念については,わが国には残念ながら適当な参考書がない。同じ著者の“Beiträge zu einer Strukturpsychopathologie”(Karger,Basel/New York 1958)などを参照していただきたい。
 序論において著者は,「精神病質」Psychopathieという概念が今日あまりにも一般的に使用されており,かつそこに誤つた価値概念が混入してしまつているから,自分はこの概念を放棄して「異常人格」abnorme Persönlichkeitenという表現を用いると述べたあと,本書においては決して新しい体系が試みられているのではなく,K. Schneiderの「精神病質人格」の体系が全体としてはそのまま踏襲されているが,部分的には多少の見解の相異や分類の変更があることを断つている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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