文献詳細
展望
文献概要
I.序
昭和34年(1959年)著者16)は本誌の第1巻第2号に児童期の分裂病に関する綜説を紹介した。当時のわが国では本症に関する研究はまだ微々たるものであつて,著者の記したものも,諸外国における本研究の歴史と概略の紹介にすぎなかつた。
ところが,その後,わが国でも幼児自閉症を中心とする乳幼児期および学童期の分裂病が注目されるにいたり,児童精神医学会ならびにその機関誌「児童精神医学とその周辺領域」にもいろいろの研究が発表されるにいたつた。この傾向は従来,児童精神医学の研究と活動に乏しかつたわが国の精神医学界にとつて,まことに好ましいことであるが,一方ややもすると,子どもが少しでも衒奇的な行動をしたり,退嬰的で孤独な態度を示したりすると,ただちに自閉症ないし分裂病というレッテルを付するというように,幼児自閉症とか児童分裂病とかという概念があまりにも無批判にかつ容易に使用される弊害も生じてきた。周知のごとく,脳に器質的障害のある子ども,精神薄弱児,時としては心因性に起こつた問題児などでも,一見,自閉的に見える精神症状を呈することはしばしばであつて,これをただちにnosologicalな意味における真の自閉症と混同することは,いたずらに本研究を混乱せしむる以外の何物でもない。かかる意味からいつても,幼児自閉症や児童分裂病に関する諸概念を現在の時点において,一応整理してみることはけつして無意味ではない。
昭和34年(1959年)著者16)は本誌の第1巻第2号に児童期の分裂病に関する綜説を紹介した。当時のわが国では本症に関する研究はまだ微々たるものであつて,著者の記したものも,諸外国における本研究の歴史と概略の紹介にすぎなかつた。
ところが,その後,わが国でも幼児自閉症を中心とする乳幼児期および学童期の分裂病が注目されるにいたり,児童精神医学会ならびにその機関誌「児童精神医学とその周辺領域」にもいろいろの研究が発表されるにいたつた。この傾向は従来,児童精神医学の研究と活動に乏しかつたわが国の精神医学界にとつて,まことに好ましいことであるが,一方ややもすると,子どもが少しでも衒奇的な行動をしたり,退嬰的で孤独な態度を示したりすると,ただちに自閉症ないし分裂病というレッテルを付するというように,幼児自閉症とか児童分裂病とかという概念があまりにも無批判にかつ容易に使用される弊害も生じてきた。周知のごとく,脳に器質的障害のある子ども,精神薄弱児,時としては心因性に起こつた問題児などでも,一見,自閉的に見える精神症状を呈することはしばしばであつて,これをただちにnosologicalな意味における真の自閉症と混同することは,いたずらに本研究を混乱せしむる以外の何物でもない。かかる意味からいつても,幼児自閉症や児童分裂病に関する諸概念を現在の時点において,一応整理してみることはけつして無意味ではない。
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