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雑誌目次

論文

精神医学8巻10号

1966年10月発行

雑誌目次

特集 地域精神医学—その理論と実践 第63回日本精神神経学会総会シンポジウム

討論

ページ範囲:P.799 - P.800

 中川四郎(精研) 本年2月から3月にわたり沖縄を訪れ,平安先生のご案内で平安座島を拝見させていただきました。いまの報告にありましたように,精神障害者が島のなかでよく適応している。しかも,島の住民がそれをよく受けいれている。これがわずか那覇から1〜2時間のところで海上トラックで行ける。そういう近くの島でありながら,なにかそういう特殊な雰囲気ができていて,精神障害者の楽園というような感じがした。これははつきりいつて,精神障害者の地域社会での受けいれかた,ありかたというものに,非常に示唆を与えられた。これにはいろいろな条件が関連すると思われるが,一つにはさきほど報告があつたように,若い人が那覇のほうへ出てしまつて,年寄り,子どもが残つているという条件が,精神障害者を受けいれやすくしているのかもしれない。また精神障害者に適当な仕事がある,たとえばサトウキビなどのいろいろな加工などの仕事があることも関係があると思う。これはある意味で,われわれが非常に参考にしていいことだと思う。

特別講演

日本におけるコンミュニティの概念について

著者: 羽仁五郎

ページ範囲:P.823 - P.836

1
 精神神経学会における地域精神医学の分科集会の特別講演として私の所見を述べることは,非常の光栄であります。
 実は,この問題について相当の悪口を申しあげるつもりでまいつたのですが,入口のところに立つていますと,内村祐之教授が立つて席をゆずつてくださつて,やはり精神病の専門家ですから,ぼくの顔をご覧になつて,これはよほど頭にきているようだから,少し気をしずあてやろう,とお考えになつて,席をゆずられたのでしよう,いささか鋭鋒をくじかれた感じでしたが,しかし,やはり遠慮なく申しあげたほうがよい,と思います。

研究と報告

約3年の経過で社会復帰可能となつたCO中毒の1症例

著者: 熊野明夫 ,   佐々木雄司 ,   平井富雄 ,   上出弘之

ページ範囲:P.839 - P.843

I.はじめに
 近年大規模な炭鉱爆発事故が相ついで発生し,多くの犠牲者を出したが,このさい重要な課題のひとつは,CO中毒の後遺症の問題である。重篤なCO中毒後遺症は,しばしば知的機能の障害や,人格水準の低下をもたらし,社会復帰に対する予後は悲観的に考えられがちである。われわれが経験した症例は,都市ガス吸引によるCO中毒例であるが,重症の遷延例であり,気脳術・脳波などにより脳器質障害の存在が実証され,一時は予後不良と予想されたが,幸い回復し,社会生活に復帰しえた点が特異であり,示唆するところが多いと考えられるので,ここに報告する。

ヒステリー患者の脳波異常

著者: 稲垣卓 ,   井上照雄 ,   内田又功

ページ範囲:P.844 - P.850

I.はじめに
 Brazierら1)は神経症患者の周波数分布曲線が二峰性になり,うち速波優勢は不安神経症に多く見出され緩徐波優勢はいずれの型の神経症にもみられるとし,岡嶋2)はヒステリー・制縛状態群ではα波が緩徐化する傾向がみられると述べ,大熊3)はヒステリーには,後頭部徐波が出現する場合がかなり多く,pentazol,光-pentazol賦活に対する閾値の低いことに注目した。また,中沢ら4)は徐波を示したヒステリー2例を報告し,小川ら5)は徐波傾向を示した小児ヒステリーの1例を報告した。
 われわれの臨床においても,脳波異常を認めながら,どうしてもヒステリーと診断せざるをえない症例にときおり遭遇するので,過去において鳥取大学神経精神科でヒステリーと診断された患者の脳波所見の調査をこころみた。

聾唖者の一精神鑑定例

著者: 吉田偕迪

ページ範囲:P.851 - P.853

I.いとぐち
 現在,わが国においては刑法改正の動きがあり,法務省法制審議会特別部会においてその事業が進められている。これに対して,日本精神神経学会では数年前から刑法改正問題研究委員会が設けられ,精神医学の立場から刑法改正問題をとりあげ,刑法改正に関する意見書(案)が発表された3)。また,第63回日本精神神経学会総会の分科集会においても,精神鑑定の問題点と題して討議がなされた。
 改正になる問題点の一つとして聾唖者の責任能力があげられているが,最近,聾学校という特殊な環境のなかで起こつた聾唖者の殺人事件を鑑定する機会を得たので,鑑定の概要を述べるとともに聾唖者の責任能力についてもふれてみる。

Fluphenazine enanthateの臨床経験—生活療法との併用の見地よりみた評価

著者: 三浦岱栄 ,   伊藤斉 ,   鈴木恵晴 ,   三浦貞則 ,   八木剛平 ,   松井紀和

ページ範囲:P.855 - P.865

I.はしがき
 Fluphenazine enanthateは米国のThe SquibbInstitute for Medical Research, Division of OLINMATHIESON CHEMICAL CORPORATIONにおいて開発された新しいタイプのmajor tranquilizerであり,その特色は長期持続性効果を期待しうるいわばDepotとも称すべきものである。その化学構造の母体はfluphenazineであるが,従来より使用されているfluphenazine(dihydrochlorideまたはmaleate)より分子の大きいenanthic acid(heptanoic acid)のesterになつたもので,難水溶性,易油溶性である性質上sesame oil(胡麻油)に溶解せしめた注射薬のかたちをとつている。ちなみにその化学構造は第1図のとおりである。
 薬理実験において,動物の条件回避反応や,apomorphineの催吐作用その他に対する抑制効果がfluphenazineに比較していちじるしく長期持続性であることが証明され6),さらにKinross-Wright3)7)その他による臨床予備実験がこころみられた結果,fluphenazineの経口剤と本質的に同じく強力な抗精神病作用を有し,さらに効果が持続性であるため,いわゆるDepotとしてほぼ2週間に1回の注射施行により満足すべき結果が期待されることが観察された。

回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・4

松沢病院の2年間

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.867 - P.873

 規格にはまつた,乾燥した大学の授業から放たれ,読み,また耳に聞いたことを,実地に検討し,身をもつて体験することのできる医局生活は,すばらしい魅力に満ちたものだつた。私は,むさぼるような気もちで,患者に接し,文献を読み,また脳の顕微鏡をのぞいた。それから以後の数年間は,まるで乾いたスポンジが音を立てて水を吸い込むをうな勢いで,新しい知識が身内に入り込んで来るのを感じた。それは,自由に学問のできる環境が与えてくれた特権であつたが,また,あの時代に医局生活に入つた者の幸連でもあつたと思う。
 と言うのは,後に詳しく説明するが,この時代は,第一次大戦と,これに続く混乱が,ようやく収まつた時期に相当し,あたかも欝積した学問的エネルギーが一時に発散したかのように,有力な新研究が相次いで発表されたからである。今日から顧みても,この時代ほど,精神医学と神経病学との領域で,大きな転回点を画した時期を私は知らない。

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第17回 日本医学総会 風見鳥ニュースNo. 7

ページ範囲:P.876 - P.876

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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