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特集 宗教と精神医学 第63回日本精神神経学会総会シンポジウ厶
信仰と幻覚
著者: 小田晋1 宮本忠雄2
所属機関: 1東京医歯大犯罪心理研究室 2東京医歯大神経科
ページ範囲:P.919 - P.923
文献購入ページに移動I.はじめに
宗教病理学的幻覚論は,われわれに二つの課題を呈示する。その一つは,精神病理学的現象としての幻覚における信仰の病態であり,もう一つは,宗教的な体験としての「幻覚」に対する精神病理学的な研究である。第1の課題が精神病理学の対象であることは疑いなく,小論でわれわれが採用する方法論は,この第1の課題を解くことによつて第2の課題に対して間接的な照明を与えようとするものである。第2の問題については,少なくとも直接には,精神病理学は手を触れることが困難である。それは,幻覚が対象なき知覚(Perception sans objet, Ball)であることからして,宗教的な体験としての「幻覚」とされている現象のすべてについて,実際に対象が存在しないということは,一つの認識論的立場を前提としないかぎり,いえないからである。すでに精神病理学的な意味での幻覚であることを確定しえない事柄について,精神病理学的な分析を加えるということは,方法論的に越境をおかすことになると思われる。したがつてここではまず第1の課題について,いわば疾病学的,現象学的,人間学的な三つの側面から検討を加えるにとどめることになる。幻覚論に宗教病理学的角度から接近することによつて,一つには幻覚発生における心因論の問題,宗教体験の真偽決定論の問題に近づくことになる。さらに,上記の三つの側面が内的な連繋をたもちながら,一つの「幻覚する人間」の構造をつくりあげている様相を認識するなかで,内因性精神病の宗教的幻覚も,単なる病像決定論の範囲をこえた意味をもつものとして考えることができよう。
宗教病理学的幻覚論は,われわれに二つの課題を呈示する。その一つは,精神病理学的現象としての幻覚における信仰の病態であり,もう一つは,宗教的な体験としての「幻覚」に対する精神病理学的な研究である。第1の課題が精神病理学の対象であることは疑いなく,小論でわれわれが採用する方法論は,この第1の課題を解くことによつて第2の課題に対して間接的な照明を与えようとするものである。第2の問題については,少なくとも直接には,精神病理学は手を触れることが困難である。それは,幻覚が対象なき知覚(Perception sans objet, Ball)であることからして,宗教的な体験としての「幻覚」とされている現象のすべてについて,実際に対象が存在しないということは,一つの認識論的立場を前提としないかぎり,いえないからである。すでに精神病理学的な意味での幻覚であることを確定しえない事柄について,精神病理学的な分析を加えるということは,方法論的に越境をおかすことになると思われる。したがつてここではまず第1の課題について,いわば疾病学的,現象学的,人間学的な三つの側面から検討を加えるにとどめることになる。幻覚論に宗教病理学的角度から接近することによつて,一つには幻覚発生における心因論の問題,宗教体験の真偽決定論の問題に近づくことになる。さらに,上記の三つの側面が内的な連繋をたもちながら,一つの「幻覚する人間」の構造をつくりあげている様相を認識するなかで,内因性精神病の宗教的幻覚も,単なる病像決定論の範囲をこえた意味をもつものとして考えることができよう。
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