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雑誌目次

雑誌文献

精神医学8巻2号

1966年02月発行

雑誌目次

展望

集団精神療法の発展と現況

著者: 池田由子

ページ範囲:P.91 - P.104

I.まえがき
By the crowd have they been broken,By the crowd they shall be healed
(Cody Marsh)
 集団の力を用いて人のこころをいやすことは,はるか昔から行なわれていた。また原始社会にあつてはその治療が宗教と結びついて,家族ぐるみ,部族ぐるみという集団のかたちをとりやすいことも,人類学の文献に見ることである。しかし,集団精神療法が近代医療の一体系としてのあゆみを始めたのは,わずか半世紀前のことにすぎない。それはいまなお,さまざまの質問を自らに投げかけながら,流動し,発展しつつある治療と研究の若い科学である。
 集団精神療法の展望という課題に対して,私は私自身いままでに書かれているような客観的,図式的な一文をとうてい書くことができないことはよく知つている。なぜなら私は集団精神療法に対して投げかけられた質問の多くにまだ十分答えられるだけの経験もないし,私が集団精神療法に接した経験はまだあまりに近く,生々しいからである。

研究と報告

ドイツにおける嗜癖の問題

著者: ,   秋元波留夫

ページ範囲:P.105 - P.111

 ここに掲載する Panse教授の論説は,昭和40年11月16日,東大医学部総合中央館において,関東精神神経学会および東大精神医学教室の協催で,開催された東京医学会第1046回集会における講演の全訳である。
 Panse教授は,現在のドイツ精神医学界の長老の一人であり,昨年から,全ドイツ精神神経学会の会長の任にある精神医学者である。
 同教授は,1899年Essenに生まれ,MünsterとBerlinで,医学を学んだ後Bonhoeffer教授のもとで精神医学を学び,Charitéのクリニックの講師をつとめた後,第二次大戦後に新しく設立されたBonnのライン州立頭部傷害者療養所の所長をつとめ,1950年からDüsseldorf精神医学教室の主任となり,現在にいたつている人である。
 同教授の業績は,多方面にわたるが,失語症,その他の脳病理学的研究,器質的脳疾患,あるいは嗜癖などの社会精神医学的問題,精神病院管理などである。日本滞在中は,東京,名古屋,大阪の客地で講演し,口本での歓待を感謝しつつ,11月末に帰独した。同教授は来年9月初めDüsseldorfで全独精神神経学会が開かれるので,日本からぜひ多数の精神医学者が出席するよう私から日木の同僚に伝えてほしいと希望していたことを付言する。

拘禁反応と訴訟能力

著者: 中田修

ページ範囲:P.113 - P.118

I.はしがき
 筆者はかつて東京拘置所に勤務していたとき,被告人が長期にわたつて偽痴呆,昏迷などの拘禁反応をしめし,裁判審理が中止されて勾留執行停止となり,精神病院に送致されるか社会に釈放され,精神病院に送致されたものは軽快して拘置所にもどると再び同様な拘禁反応をしめし,社会に釈放されたものはすぐに罪を犯して再び拘置所にもどると同様な拘禁反応をしめす,すなわち,並禁—拘禁反応—精神病院送致—拘禁—拘禁反応という経過をとるものや,拘禁—拘禁反応—釈放—再犯—拘禁—拘禁反応という経過をとるものが少なくないことを経験した。筆者はこの種の定型的な事例を,詐病と疑わしい拘禁反応の症例として報告したことがある19)。また,この種の事例に対する対策の一つとして,訴訟能力の問題をとりあげ,十分な文献的知識なしに,つぎのような意見を発表した18)。「かれらは犯行時は責任能力はあり,刑法第39条の心神喪失に該当しないものであるゆえに,証拠が十分であれば当然刑を言渡されるべきものである。しかし現在の精神状態より訴訟能力の点において問題になると考えられる。団藤教授によれば,訴訟能力は意思能力であり,具体的には被告人としての重要な利害を理解し,それによつて相当な防御をすることのできる能力であるという。拘禁性精神病のなかには訴訟能力があると判定される例もあるが,偽痴呆や昏迷の状態では弁論能力も欠陥があり,その状態が完全に意識的な詐病でないゆえに,意思能力においても十分であるとは考えられないのである。

精神安定剤,催眠剤の薬物依存に関する臨床統計的研究—とくに身体依存成立にあずかる要因について

著者: 加藤正明 ,   高橋伸忠 ,   宮川建平 ,   田内堅二 ,   藤田栄一 ,   鈴木正 ,   今田芳枝

ページ範囲:P.119 - P.128

I.調査の目的
 精神安定剤や非バルビツール酸系催眠剤の進歩にはめざましいものがあり,とくに精神神経科領域の治療に大きな寄与をしている。しかし反面,ここ数年間の外来および入院患者の統計を見ると,こうした薬の濫用の結果,医療を求めて来院する患者の数は年とともに増加している(第4表)。その受診理由を見ると,いわゆる「睡眠薬遊び」による反社会的行動が問題になつているもの,こうした遊びから習慣性を得てなかなか薬をやめることができなくなつてしまつたもの,量はさほど大量ではないが長期間にわたつて薬物を使用しつづけ,まつたく薬に依存しきつているもの,はては驚くほどの大量を使用して,その結果禁断時にけいれん,せん妄といつた重篤な禁断時症状を示したものなど,さまざまな理由から受診してきている。こうした現状からわが国でも薬物濫用に関する数多くの報告がなされるようになつた。しかしそのほとんどが症例報告を主体としたものであつて,数多くの症例について心理的,社会的,身体的な側面から綜合的な検討を加えたものはない。そこで今回われわれは,こうした薬物濫用の現状を広くとらえ,その各要因を探り,治療上の参考にするだけでなく,すぐれた効果をもつこうした薬物を,正しく使用するにはいかなる点に留意すべきかを知るために,今回の全国調査を計画した。

Clinical entityとしての境界患者—発病後3年以上を経て境界状態にあつた32例の7年後の予後調査(その2)

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   延島信也 ,   河合洋 ,   岩崎徹也 ,   北田穰之介 ,   武田専 ,   鈴木寿治 ,   鹿野達男

ページ範囲:P.129 - P.133

VI.調査結果(その2)
 前号掲載の(その1)で述べたように,7年前に武田が境界例として記載した32例中,調査可能だつた30例の現在の状態像に関する調査結果は,
 破瓜・欠陥状態…………………………8例
 依然として境界状態……………………15例
 神経症状態………………………………1例
 治癒状態…………………………………6例
であつた。
 本報告では,前号の第I群にひきつづき,まずその第II群である,“依然として境界状態をつづけていた症例群”の調査結果を述べたい。

精神病院における病棟管理形態の治療的意義について—閉鎖および開放管理の入院患者に与える影響

著者: 柴原堯 ,   井口芳雄

ページ範囲:P.135 - P.139

 洛南病院における入院患者の管理形態である閉鎖開放管理の病棟について,その心理学的風土,ことに対人接触の濃度の落差について,症例をあげ,それに対する患者の反応について考察した。
 (1)閉鎖—開放管理により象徴される病棟内雰囲気の差異は主として対人接触の面において現われ,閉鎖病棟において長期間入院生活をつづけていた患者は,その単調な風土,稀薄な対人接触.に慣れ,開放病棟に移動すると急速に心的水準の相対的低下を示し,集団に適応しえず,容易に再燃状態を示す。
 (2)このような患者の病像の変化は,閉鎖—開放病棟における対人接触の濃度の落差が大きいほど著明に出現する。
 (3)したがつて再燃,病像の悪化を防ぎ,患者の社会復帰,退院を促進するためには患者の開放病棟への移動にさいして患者の社会的水準について十分な考慮がなされるとともに,それぞれの病棟間の対人接触の濃度の差異をできるだけ少なくするように考慮がはらわれねばならない。
 (4)精神病院における病棟管理にあたつては,病棟に心理学的な多様性をもたすため,少なくとも3〜4個の病棟を開設する必要があり,また最終段階の開放病棟においてはその心理学的風土をできるだけ一般社会に近づける必要があると考えられる。

側頭葉優位側切除例(てんかん)の1例

著者: 山上竜太郎 ,   後藤彰夫 ,   村瀬孝雄 ,   阿部啓一

ページ範囲:P.141 - P.145

I.まえがき
 側頭葉機能は,大脳生理学,脳外科学的研究,側頭葉腫瘍,側頭葉Pick病などの臨床的研究の進歩とともにしだいに解明されつつあるが,なお精神医学領域において,幾多の未解決の疑問を蔵している分野である。近時側頭葉てんかんの発作焦点が脳波学的にさまざまに検討されるにおよんで,側頭葉機能の重要性がクローズアップされるにいたつた。Bailey1)およびPenfield2)らが,1947年,精神運動発作型てんかんが側頭葉切除術によつて治療されうることを報告して以来,わが国においても追試の数々が報告されている。1953年以来こころみられた両側,および一側の切除例については,佐野9)らが脳外科的見地より報告しており,1958年,精神神経学総会シンポジウムに「側頭葉機能」の問題がさまざまな角度から討議されたことは,いまだわれわれの記憶に新しいところである。側頭葉切除後に見られる残遺症状に関しては長谷川19)がくわしく研究しているが,術後の長期予後に関する資料は必ずしも十分であるとはいえない。それは手術までした患者が,たとえその予後が不良なものがあつても,ふたたび医療を求めて来院しないことによるであろうし,また手術により一応問題になる易怒性,爆発性が消失しその必要がなくなることにもよるであろう。
 著者らは術後15年を経過した側頭葉優位側切除例で,なお問題行動があるために精神科に入院中であり,しかも明らかに術後の精神的変化を合併していると考えられるてんかん患者を観察する機会をもつたので報告してみたい。

抗うつ剤Nortriptylineの使用経験

著者: 刑部侃 ,   安藤克己 ,   柳沢義博

ページ範囲:P.147 - P.153

 金沢大学神経精神医学教室ならびに関係諸病院においてamitriptylineのmonomethyl誘導体であるnortriptylineを試用し,つぎの結果を得た。
 (1)各種抑うつ状態を呈する患者25例に2週間以上投与して,5例にいちじるしい改善,8例に改善,あわせて13例,52%にかなりの改善が見られた。病型別では,退行期うつ病を含めた内因性うつ病では13例中8例,62%,それ以外のうつ状態では12例中5例,33%が軽快した。
 使用対象を病状のおもさが,中等度以下の症例(DRSS80以下)にかぎると,13例中11例,85%に改善がみられ,本剤の使用を選ぶ場合には,症状だけでなく重症度をも考慮することが重要であると思われた。
 (2)効果の発現に要した期間は,他の抗うつ剤に比較してかなり早く,改善例13例中明らかな改善(DRSS70以下)を示した時期が,1週間以内のもの6例,2週間以内が4例であり,早いものでは2〜3日で効果が見られた。このことは,2週間おそくとも3週間以内にかなりの改善がもたらされない場合,それ以上本剤を継続しても,あまり効果が期待できないことを示している。
 (3)個々の症状の推移では,心気症状をのぞいて,抑うつ気分と抑制,その他の症状はほぼ平行して改善される傾向が見られた。
 (4)有効投与量は30〜75mg/日で十分であり,大量にすると副作用が現われやすく,また,それだけ効果があがるとはいえなかつた。
 (5)副作用としては,程度は強くないがほとんどの例になんらかの訴えが見られ,とくに口渇,頭重,軽度の睡気,便秘などが多かつた。大量投与では,振戦,筋緊張亢進を中心とした錐体外路症状を一過性に呈したものが1例あつた。
 (6)感情鈍麻,無為,自閉などを主症状とする陳旧性精神分裂病患者12名に150mg/日を4週間にわたり投与した結果,軽度ではあるが5例に挙動の増加,4例に作業意欲の向上を認めた。しかし,病的体験に対してはまつたく効果がなかつた。

静注法によるオロチン酸クロロキンの臨床脳波への影響について

著者: 木村靖 ,   奥山保男 ,   荒谷道己 ,   田中善立

ページ範囲:P.155 - P.162

I.緒言
 旧来クロロキンは抗マラリヤ剤として用いられたが,最近になつて抗膠原病剤として脚光をあびた薬物である。さらに本剤が抗てんかん剤として用いられたのは1953年Mendez1)によりアテブリンが小発作に有効であるとの報告があり,ついで1959年Vasquez2)がアテブリンと類似の作用をもつクロロキンを小発作てんかんに試用したところ有効であつたとの報告に始まる。
 最近,和田3),田椽4)らは比較的難治のてんかん患者に対し,従来用いられている抗てんかん剤と本剤との併用による臨床応用をこころみたところかなりの効果を得,従来の他種抗てんかん剤の付加剤としての有用性を提唱した。

肺結核合併精神障害者に対するCycloselineの使用経験

著者: 高塩洋 ,   高山光太郎 ,   市川達郎

ページ範囲:P.163 - P.167

I.緒言
 Streptomyces orchidaceusから得られる抗生物質Cycloserine(D-4-amino-3-isoxasolidone)の抗結核作用については,1955年Welchら1),Epsteinら2)により基礎的,臨床的研究が発表されて以来にわかに注目され,これまでに多くの研究が発表されている。わが国でも1957年堂野前ら3)によつてCycloserine(以下CSと略)の肺結核症に対する治療効果が発表され,結核予防法に採用されてから広く実用に供されている。CSの副作用として精神神経障害が起こることについては,Epsteinら2)4)の論文にもすでに示唆されていたが,その後の諸氏の研究5)〜9)から精神神経障害がCSのおもな副作用であることが明らかにされた。これらの研究によれば,頭痛,めまい,不眠など不特定の神経症状のほか,記憶障害,注意力減退,思考不纒,傾眠,嗜眠などの意識障害,てんかん様けいれん発作,多幸,抑うつ,興奮および精神分裂病様病像を呈する精神障害などがあげられており,これらの諸障害の発生頻度は報告者により異なるがCS服用患者の10〜60%に見られている。CS投与によると考えられているこれらの精神神経障害は,多くの場合可逆的であるが不可逆性のものもあり4)10)11),精神分裂病あるいはうつ病様病像を呈するものについては,精神分裂病あるいはうつ病が誘発されたと考える著者もある4)10)11)

動き

日本におけるFrankl教授—その業績と影響

著者: 小田晋

ページ範囲:P.168 - P.173

1)Frankl教授の業績とその成立
 Victor Emil Frankl教授は,戦後日本で知られるようになつた西欧の精神医学者のなかでも,もつとも親しまれ,敬愛されているひとりである。その影響はただ神経症論,心理療法技法論,実存分析の理論などの学問的方面にとどまることなく,多くの読者たちの人生の導き手として,人間性喪失の危機に立たされている現代人の心の支えとしての役割をはたしてきたといつていい。その意味で,未見の教授を敬愛する日本の読者たちにとつては,単に活字を通じてではなく,直接その人柄に接したいという希望が特別に強かつたといえる。その機会がおとずれた。教授は何度目かの世界一周の講演旅行の途中,昨年(昭和40年)10月13日から4日間,日本に立ち寄り,名古屋,京都,東京での3回の講演を通じて日本の読者たちに直接語りかけて,霜山徳爾教授の司会の言葉をかりると,それはまさにweder Wahn noch Halluzinationとしてかれらの期待を満たしたのである。
 ここではFrankl教授の日本での講演の要旨を紹介するとともに,その業績と理論の成立について簡単にふれておきたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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