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雑誌目次

雑誌文献

精神医学8巻3号

1966年03月発行

雑誌目次

特集 精神活動とポリグラフ

はじめに

著者: 藤森聞一

ページ範囲:P.181 - P.181

 脳波が脳のはたらきの鋭敏な指標であることはいうまでもないことであるが,それは複雑霊妙な脳のはたらきの一つの指標であるということであつて,他にも脳のはたらきをよく表わす体性,自律性の指標のあることが知られている。
 それらのいくつかの指標を組み合わせて,脳のはたらきを総合的,系統的に観察しようとするゆきかたは,たしかに実り多いゆきかたとみなされ歴史的にはすでに1940年代に,脳波を含めたいくつかの現象を同時記録したドイツのJungの美しい写真が想起される。

人間の睡眠における脳波と皮膚電気反射

著者: 古閑永之助

ページ範囲:P.182 - P.188

I.はじめに
 筆者らは数年来ポリグラフ的方法による睡眠の研究を行ない,同時に方法自体の検討と開発につとめてきた8)〜14)。ポリグラフという名称あるいはその方法(多現象記録,多素子記録などともいう)はこんにちすでに新しいものではなく4)〜7)13)18),医学や近接領域,なかんずく生理学や心理学における業績は少なくない。しかるにこの方法の特徴,積極的意義,適用すべき対象,今後の発展の方向などについての批判および認識はなお一般に乏しい現状である。
 まず初めに,この方法についての筆者の考えかたを述べ,ついで睡眠脳波の新しい解析法の開発について11)12)14),最後にこれらの方法によつてみいだされた一つの新しい睡眠状態について述べる。

精神活動と筋電図

著者: 金子仁郎

ページ範囲:P.189 - P.195

I.まえがき
 精神現象を対象として研究する場合,情動状態を反映しているといわれる自律神経系と同時に,筋肉系の観察,ことに精神生理学的研究は重要である4)
 筋肉系は人間行動の基礎であり,意志が直接反映される手段として古来注目されてきた。筋肉系と精神現象との関係に関するわが教室における研究は,堀見教授の時代から行なわれていて歴史が古い。細川7)は権威者の前において臨床重要反射が亢進あるいは逆に減弱したり,消失したりする事実を報告した。浅井1)は心理的圧力の場において著明な筋緊張増加を示す患者を筋緊張型(MR型)と名づけ,面接,投影法その他の心理テストによつて抑制が強く,きちようめんで対人,対社会適応の幅が狭いなどの共通した性格特徴をみいだしている。その他三谷13)の書痙の研究,浜中のチックの研究など神経筋肉系の心身症に対する心理,臨床的側面からの研究は多い。

Microvibrationと脳波

著者: 稲永和豊

ページ範囲:P.196 - P.201

I.はじめに
 Microvibrationと脳波が,精神活動の指標としてどのような意味をもつているかを考えてみよう。ただ脳波についてはいままでにも精神活動との関連について多くの研究があり,ここでは筆者が最近研究しているかぎられた問題についてのみふれることにした。またMicrovibrationについては他にくわしく報告しているので,その大要のみについて述べることにした1)2)12)

テレメーター

著者: 斎藤正男

ページ範囲:P.201 - P.202

 無線テレメーター技術を中心にして,最近の電子工学の発達は,わずかながら脳波計測の技術に影響を与えつつある。脳波計そのものの小型化は急速に進められつつあるが,測定方法に革新をもたらすことはないであろう。これに対して脳波用のテレメーターは,現在のところ,脳波計のJIS規格を厳密には満たさないが,小型の電子装置を被検体に装着し,記録器などの本体から絶縁することにより,誘導雑音その他アーチファクトを容易に除きうるようになり,また同時に対象を無拘束の状態において観察しうるようになつた。
 電子工学における装置の小型化の傾向は,とり扱う信号を多重化する可能性を意味し,多誘導の脳波あるいは他の種類の現象を同時に伝送することが考えられる。この後者の事情はまた,種々の現象に対する変換器と測定方法についての研究を要請している。

脈波その他の自律神経機能

著者: 高木健太郎

ページ範囲:P.202 - P.202

 人の頭皮上脳波から得られる情報は主として大脳皮質の活動水準であつて意識という複雑な現象をただこれだけから推測することは不可能であるが,脳波を一応の規準として他の自律機能との相関を観察した。自律機能のうち,人において外部から運続的に量的に意識水準を乱さないで観察しうるものは少なく,しかも各現象の速度に大きい差異があることも対応研究を困難にしている。
 今回は教室で開発された小型軽量の反射光電式プレチスモグラフ(RPP)による指尖脈波の水準変動と抵抗湿度計による発汗量の連続記録と脳波との関係を種々の意識状態において観察した。

精神活動と眼球運動

著者: 島薗安雄

ページ範囲:P.203 - P.210

I.まえがき
 脳波がてんかんその他の器質的脳疾患や睡眠,麻酔などのさいに明らかな変化を示し,これが脳波の臨床検査上の価値をたかめていることは周知のとおりであるが,これにひきかえ,種々の精神状態や心理的変化における診断的意義は高いとはいえない。たとえば脳波は緊張や「くつろぎ」といつたような比較的非特異的な心理的変動はかなりよく反映するが,より微妙な情緒的変動などに対しては鋭敏な指標とはいえないし,また精神分裂病や躁うつ病のようないわゆる内因性疾患では,いちじるしい精神症状があるにもかかわらず,変化に乏しいのである。
 これらのことから,筆者は脳波以外の現象を同時記録することにより,脳波だけでは十分につかみえない脳や生体の動きをとらえることをくわだて,約10年前,古閑らとともに,ポリグラフィの研究14)を始めたのであるが,最近は,とくに覚醒閉眼時の眼球運動について若干の興味ある知見を得ているので,主として脳波と対照しつつ,これについて述べてみたい。

研究と報告

分裂病の診断

著者: 立津政順

ページ範囲:P.211 - P.218

I.まえおき
 どういうものか分裂病の症状が年代とともにしだいに変わつてきたことは,注目すべき現象である。高度の衒奇症・激しい緊張病興奮・躁病様興奮・教科書的の昏迷状などが,第二次世界大戦後だんだん見られなくなつてしまつた。いいかえれば,症状が一般にかるくなりめだたなくなつてきている。そのうえ,向精神薬が使用されるようになつてからは,患者の精神像におけるあや(文)や高低や中軸部が不明瞭となつたばかりでなく,筋硬直や異常脳波などの身体症状が多くの患者に見られるようになつた。したがつて,分裂病の診断は,だんだんむずかしくなり慎重を要するようになつてきたといえる。
 分裂病の診断は,多くの面からの検索結果を総合して,決められるべきであろう。しかし,以下の文中でとくに,患者が現在示す状態のなかで診断上いかなる症状がもっとも重要であるかということの論旨と,またこの問題の解決の方法とに対し,ご批判いただければ幸いである。

精神分裂病患者における側頭葉電気刺激と記憶

著者: 堀浩 ,   佐藤愛 ,   宮井理広 ,   菅原幸也 ,   岩田宏夫 ,   果山保男

ページ範囲:P.219 - P.224

I.緒論
 人脳側頭葉の皮質あるいは深部の電気刺激にさいして種々な精神現象が出現することは,すでにPenfield1),Jasper2)あるいはDelgado3)らによつて述べられている。このさいに幻覚様知覚現象が認められることがある。これらはてんかん患者について観察されたものであつて,電気刺激によつて局所の発作発射を伴うのであるから,この幻覚様知覚現象はてんかんの自然発作すなわち,この場合は側頭葉てんかん発作の人工的再現であると考えることができる。
 ところで同様な現象が精神分裂病患者の側頭葉においても惹起されるかどうかという疑問が生ずるが,またたとえこのような現象が認められたにしても,てんかん脳の場合と同じ解釈が成り立つであろうか。すなわち電気刺激による側頭葉てんかん自然発作の再現と同様の意味で,分裂病の固有の幻覚の再現であるかどうかという問題がある。

向精神薬長期服薬者の肝機能について

著者: 松本淳子 ,   村崎光邦 ,   星昭輝 ,   小口徹 ,   浅井昌弘 ,   馬場謙一

ページ範囲:P.225 - P.232

I.はじめに
 Phenothiazine系薬物を中心とする向精神薬が,わが国において用いられるようになつてから,もう10年以上を経ている。昭和30年ごろよりの実験的試用に始まり,昭和32年からは電気ショック療法,インシュリンショック療法に代わつて精神科治療の王座を占めるにいたり,精神病患者に対しては何をおいてもまず,向精神薬を投与するといつた形式にまで発展してきている。
 この間,その卓越した向精神作用と同時に幾多の副作用についても報じられている。すなわち,かなり重篤な黄疸をきたした報告例を初めとして6)11),死亡にいたらない黄疸の報告例は枚挙にいとまがないし,顆粒球減少症を初めとする血液像におよぼす問題も多々論じられている3)〜5)7)9)17)。しかしながら,これらの副作用についての報告例は,使用開始後比較的早期に急性に発現してくるものであり,かつほとんどの患者においては,これらの副作用はまつたくなく安全であるといわれてきた。そのうえ最近にいたつては,そうした早期の副作用についてもほとんどその声を聞かなくなり,長期にわたつて無批判的に使用されつづけている。

Floropipamide(Propitan)の使用経験

著者: 島崎敏樹 ,   中島晋

ページ範囲:P.234 - P.239

I.はじめに
 Floropipamide(Propitan,Dipiperon)は,ベルギーのP. Janssenらによつて開発された一連のbutyrophenone系薬物の一つであつて,1960年以来,西独を中心とする欧州で治療経験がつまれており,わが国でもぼつぼつこれの臨床報告が見られはじめた。われわれもこのたび,エーザイ株式会社の協力により,本薬物を使用する機会を得たので,その結果を報告する。
 Janssenによれば,floropipamideは選択的中枢神経薬(CNS-drug)であつて,少量では鎮静効果,tryptamine拮抗作用,大量では典型的なneuroleptic effectを示し,何よりもまず気分を調整する薬物として,精神分裂病やうつ状態に用いられ,同時にまたおもい不眠症にも有効であるという。分子式はC21H30FN3O2,分子量は395.47,融点124.5℃〜126℃で,第1図のような構造式と化学式をもつ。

Butyrophenone系誘導体Methylperidolの臨床的使用経験

著者: 松本胖 ,   十束支朗

ページ範囲:P.243 - P.248

I.まえがき
 Butyrophenone系誘導体は,薬理学的作用がJanssen3)により研究され,Divry,Delayらにより臨床的応用が行なわれて以来,向精神薬剤としての実用性が確立されるにいたつた。これらの一連の薬物はNeuroplegicaとしての臨床作用をもつが,thioproperazine,perphenazine,fluphenazineなどに近似しているといわれている。しかし,同一Butyrophenone系の薬物であつても,Haloperidol,Triperidol,Benperidolなどそれぞれ臨床上異なつた特徴を有していて,当然のことながら,その使用にあたつて適応を十分考慮しなければならない。
 本稿では,Methylperidolの臨床経験について報告する。本薬剤の構造式は4-(P-tolyl)-1-〔3'-(P-fluorobenzoyl)-propyl〕-piperidinol-(4)-hydrochlorideである(第1図)。

資料

森田療法(入院式)の現況—10病院・診療所のアンケート調査から

著者: 大原健士郎 ,   藍沢鎮雄 ,   小島洋 ,   岩井寛 ,   宮田国男

ページ範囲:P.249 - P.258

I.はしがき
 森田正馬教授が森田療法を創始されたのは,いまから40数年前といわれる。われわれは森田療法が現在,どのような場で,いかに継承されているかを知るために,一連の調査をつづけている。現在,森田療法については,それを入院治療と外来治療とに二大別する学者もあり,一方では,森田療法とは本来,入院治療のみをさすべきものであつて,外来でのそれは,外来式森田療法または外来治療における森田療法的アプローチとよぶべきである,と主張する学者もあつて一定しないが,ここでは入院式森田療法のみをとりあげた。
 調査は主として,各病院,診療所などに質問用紙を送付し,種々の項目について回答を求めるという,いわゆるアンケート形式をとつた。もちろん,このアンケートによる調査には自ら限界があり,これをもつてすべての実態が明らかにされたとするものではなく,むしろ,さらに突つこんだ脊後の調査の足がかりを得るための基礎資料となるものである。しかし,アンケートによる利点も認められないわけではなかつた。というのは,幾項目かにわたつて,文字になつて現われた回答から,簡潔で率直な治療者側の意見が,一定の枠内においてとらえられ,比較を可能にせしめたように思えるからである。もしも,各治療者との面接,各治療場面における見学などにもとづいた調査のみでは,おそらく,質問に対する明確な回答が得られなかつたであろうと思われるいくつかの項目がある。絶対臥褥,不純型の問題,遊戯およびレク療法,各機関の悩みなどにしてもこのことはいえると思う。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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