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雑誌目次

雑誌文献

精神医学8巻4号

1966年04月発行

雑誌目次

特集 精神分裂病の家族研究

一般討論

ページ範囲:P.304 - P.308

 司会(黒丸) 以上で演者と討論者のdiscussionは終りまして,これからフロアーの方から適切なご質問をいただきたいと思いますが,その前に討論者ないし演者の中で今は1人の演者に対し定められた1人の討論者が討論したわけで,別な演者に対してまた聞きたいことがございましたら,討論者の方から演者に対し,または演者同士でご質問がありましたら,どうぞ。
 白石 藤縄先生にお尋ねします。第Ⅰ型と第Ⅲ型と見ますと,男と女とがどちらかに偏つてしまつているようです。これは症例数が少ないから,偶然そうなつたと思われるでしようか。それとも必然性があるのでしようか。

シンポジウム「精神分裂病の家族研究」に対する指定討論および一般質疑

講演1に対する指定討論

著者: 白石英雄

ページ範囲:P.296 - P.297

 分裂病者の家族の力動はだいぶん明らかになつてきています。そしていまや類型的に検討された家族力動の把握へと移つてきています。これは家族研究および療法の過程からもたらされましたし,そしてさらに有効な家族療法を行なつてゆくうえで必要なことであります。
 今回私は家族療法の実施局面に焦点をしぼつて討論を進めたいと思つています。その前に少し前置を述べます。

講演2に対する指定討論

著者: 北岡修

ページ範囲:P.298 - P.299

 私どもの教室でも,とくに小児分裂病の家族研究を行なつておりますが,研究にあたつては家族メンバー個々の性格特長だけでなく,さらに家族内対人関係の基本的力動をもとにして,family as a whole家族全体の力動性を明らかにすることをこころみております。その意味では,先生が臨床的経験をもとに患者—家族—治療者間の相互関係を具体的に把握されたことに,まつたく賛同するものであります。したがいまして,反論というよりは,むしろもう少しくわしくご教示願いたい点がございますので,われわれの症例を追加しつつおうかがい致したいと思います。
 先生は,分裂病者の家族状況を三類型に分けられましたが,I型の画一型を聞いておりますと,われわれが「小児分裂病の家族研究の一側面」(児並精神医学とその近接領域,vol. 5,No. 2)の論文のなかで扱いましたKanner typeの小児自閉症の家族構造と大変似かよつているように感じました。

講演3に対する指定討論

著者: 安永浩

ページ範囲:P.300 - P.301

 分裂病の対人関係に関する一連の地道なご努力にはかねがね敬服しておりましたが,今回もたいへん興味ある所見を示してくださいました。いずれも思わず“おや”と思うような結果であり,この独創的なテストによらなければ発見できなかつた所見であると思います。つぎにだいたい四つに分けまして,討論――も含んでおりますが,むしろお教えいただきたいこと――を述べます。
 1.まずI. C. L. の成績ですが,この意味あいについては,演者ご自身もお述べになりましたように,これがはたして「患者の理解力のよさ」を示すかどうかには,いくらか検討を要する点があります。たとえばその一つの点ですが,元来「わかる」「わかられる」は相対的なはたらきですから,わかるほうの「わかる力」ばかりでなく,わかられるほうの「わかられやすさ」も問題であるはずです。つまりこのテストの結果も,実は家族の側の「わかられやすさ」(意識と態皮の一致,単純さ),患者の側の「わかられにくさ」(意図と態度の矛盾,複雑さ)を意味していはしないか,という疑問が一応わきます(実際上これはありそうなことなので)。

講演4に対する指定討論

著者: 辻悟

ページ範囲:P.302 - P.303

 初めに,三浦教授が報告されました広汎な貴重な成績に心から敬意を表したいと思います。それに対して討論者の経験はまだ日も浅く,きわめて素朴な段階にとどまります。したがつて,本討論者の討論は,ご報告の全般に対する的確な討論というよりも,末梢的な討論になることを恐れますが,まず討論者の立場を,1)教授のご報告では,projective methodを中心とする心理テスト・バッテリーが,重要なアプローチの一つとなつており,それに対してわれわれは相当以前からいろんな方面にわたつて経験をもちえたこと,および 2)素朴な研究は,素朴であるがゆえにまた棄てがたいよさをもつという点に定位して,二,三の意見を申し述べ,討論者の責をはたしたいと思います。
 1.まず第1に,この種家族力動に関する研究は,それに関係する要因の複雑さのために,比較的客観的なものとしてとらえることが困難であり,したがつてプロジェクティブ・メソッドを中心とする心理テストが今後も研究方法として重要な位置を占めると考えられます。それに対してご報告は,まず各種心理テストの綿密な位置づけの検討をされました。これは心理テストの適用にさいして基木的に重要な作業であり,その点を明確にしていただいたことは非常にありがたいことだと思います。報告されました各種テストの位置づけは,だいたいわれわれを納得させてくれます。ただTATに関しましては「意外に家族像の把握が乏しく」として,病者の家族の人格特徴を明らかにするには,あまり役だたないかのことくに評価されましたが,われわれの経験では,「家族像の把握が乏しい」点に,精神分裂病家族の人格上の障害の重要な特徴が現われていると考えます。したがつてTATに見られるこの特徴は,ロールシャッハ・テストに見られる特徴について重要であると思います。

演者回答

ページ範囲:P.297 - P.303

 高臣 まず第1の患者と家族を誰が担当治療するかという問題ですが,私たち精神衛生研究所には,医者,心理学者,PSWがおります。心理学者,PSWはそれぞれがベテランです。たとえば心理学者もいわゆるRogerianの草分けの方々がいるし,テストもRorschach,TATその他が中心になつている人たちです。そのためその誰が受持ち,誰がいけないということは現在ありません。医者が治療の責任をもち,投薬するのは当然ですが,Rogerianが患者を診ている場合には医者が家族を,医者が患者を診ている場合にはPSWが家族をというようなかたちです。そのなかでどれがいいか,私には現在わかりません。あるいはこのような答えでは非常にご不満かと思いますが,現状はこのとおりです。第2の家族療法を行なうにあたり,どういう家族を選ぶか,だいたいの構想をもつていなければ治療が進行しないのではないか,そして危険なのではないかということ,これはたしかにご指摘のとおりだと思います。しかし,現在私たちは家族の特徴によつてとくに選択しておりません,私たちは主として国立国府台病院を退院しました患者,ことに地域の患者さんを治療し,家庭訪問し,そして調査をしております。
 この人たちのほかに,退院をひかえて病院の先生から私たちのほうに紹介してきた入たち,あるいはわれわれのところに個人的に紹介されてきた人たちが対象です。

研究と報告

精神医学領域における比較家族研究的接近(その1)—その方法の概要

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   馬場礼子 ,   北田穰之介 ,   延島信也 ,   河合洋 ,   岩崎徹也 ,   北田穣之介 ,   鈴木敏生 ,   川上伸二 ,   内藤春雄 ,   馬場謙一 ,   武田専 ,   鈴木寿治 ,   鈴木竜一 ,   玉井幸子 ,   牧田清志 ,   田中麻知子 ,   南坊満里子 ,   滝口俊子 ,   馬場礼子 ,   山本久仁子 ,   深津千賀子 ,   山木允子 ,   玉井仁子 ,   餅田彰子 ,   吉田直子 ,   今野明子 ,   民野直子 ,   牧田玲子 ,   梶原達観 ,   笹倉勝裕 ,   小川朋子 ,   福島梯子 ,   服部健 ,   金井健郎 ,   大原知子

ページ範囲:P.309 - P.316

I.まえがき
 われわれは,一方で分裂病患者の家族に,一方で児童患者の家族に接近しながら,しだいに精神医学的な家族研究の方法論を整備し,同時に,対象の拡大を行ない,第1表のような各対象の家族群の比較研究を試みている。なにぶんにも本研究は別記のように多数の精神科医,臨床心理学者,家裁調査官,social workerが参加した成果でありきわめて膨大な資料を整理した結果であるから,何回かに分けて発表しなければその全貌を紹介することはむずかしい。しかし本号に,分裂病家族のシンポジウムが掲載され,その一環としての破瓜型分裂病患者の家族の知見が報告されるので,とにかくその研究の背景をなす,比較研究についてもその概要を伝えなければならない。こんな事情から,とりあえず今回は昭和40年10月の第2回日本精神病理・精神療法学会に報告した時点でのその概要をまとめて報告することにする。

医療扶助患者の精神医学的調査(第1報)—とくに神経症を中心として

著者: 三好敬一郎

ページ範囲:P.317 - P.324

I.緒言
 神経症が社会病あるいは現代病といわれ,社会的条件と関係ある側面を有することは,すでに多くの学者により指摘されているところである。複雑な現代社会が,神経症の発現に影響を与えていることは,各国に共通のことであろうが,とくに日本においては,敗戦という国民にとっては初めての経験と,それに伴う社会的文化的構造の大きな変革が急激に起こった。
 他面また敗戦後,医療保険,労働保険などの医療保険制度の普及や,種々の年金などの,社会保償の制度が徐々に確立されつつある1)。このような事情を考えれば,わが国において戦後の神経症の増加の要因には敗戦に伴う社会構造の変化というような条件を考えねばならぬだけではなく,種々の保険制度の普及,社会保償の確立というような社会制度の発展,あるいは医学その他の技術革新に伴う社会状勢の変化も考えなければならない。著者はこの最後の点についてすでにべつの機会に論じたが,そのさいいわゆる保健薬の常用者が健康人に意外に多く,その服薬の動機その他の事情にもとづき,考えられる心理機制に神経症発生の一つの条件があるのではないかと結論した2)。このような推測は,近時向精神薬が数多くつくり出され,神経症に対してもこの種の薬剤が投与されているにもかかわらず,実際臨床面においては,薬剤による軽快率の上昇が認められないというような報告によつても裏づけられている3)。このような事実には,日本人の間に長い問培われてきた治療ということに対する共通した考えかた,治療すなわち薬剤という誤つた考えかたにあることがうかがわれる。

Diazepam(Cercine)静注負荷による脳波像について

著者: 宮地秀幸

ページ範囲:P.325 - P.332

I.はしがき
 本薬剤の研究はすでに,1961年L. O. Randallによりその実験的ならびに臨床薬理学的報告がなされて以来,その作用に多大の関心が寄せられ,欧米はもとより本邦においても多方面で研究され,報告がなされ1)8)9)10)11)12)13),わが教室においても,すでに津久江2),高畑3)らがそれぞれ,その臨床治験および鎮静作用を中心に報告している。
 われわれは,本薬剤の急性投与時すなわち静注時の薬理学的効果を調べるにあたり,脳波上の異常波に対しての影響(効果)を見る目的でこの研究に着手したが,今回これを表題のごとくにまとめて報告することとした。

てんかん性興奮,衝動性などに対するChlorprothixeneの効果について

著者: 小野和雄

ページ範囲:P.333 - P.338

I.序言
 近来,精神科領域における薬物療法は長足の進歩をとげ,各種のいわゆる向精神薬が用いられるようになつたが,その多くは精神分裂病や躁うっ病などを対象としたものであり,てんかん性の精神障害に対するものは少ない。ロシユ研究所によつて発見されたchlorprothixeneは,chlorpromazineと類似の構造式を有し,臨床的には1958年以来使用され,精神分裂病,躁うつ病,精神神経症と広範囲にわたる適応症を認められていたが,P. Fournial et al.,岩谷により,本剤はてんかん性の精神病に有効なことが認められている。著者は慈雲堂病院において,衝動興奮のいちじるしいてんかん性精神病,精神分裂病若干名に使用して,みるべき成績を得たので報告するしだいである。

From Discussions

ふたたびTofranil定式療法について—高橋良,佐藤倚男両氏の討論に答える

著者: 木村敏

ページ範囲:P.343 - P.345

 著者ら(木村,石田,河合)が本誌7巻9号に発表した「Tofranil定式療法」に対し,高橋良,佐藤倚男の両氏(以下「討論者」)からの討論が本誌7巻12号に寄せられた。討論は精神科領域における薬物使用のあり方についての本質的な問題を含むものであるが,討論者はこれを,著者が以下に要約した5つの論点にまとめているので,著者としてもまずその一々について答えるのが至当だろうと思う。
 1)著者らが欧米と我国とにおけるTofranil治療の成績の差を示すものとして引用した藤沢薬品作製の統計は,そこに含まれる各報告において効果判定基準が一定せず,そのまま治療成績の差を示すものとはいいえない。

動き

回想のLudwig Billswanger—その生涯と思想

著者: 宮本忠雄

ページ範囲:P.348 - P.352

 世界の精神医学界のおそらく最年長の世代に属しながら,つねにその最先端をあゆみつづけてきたスイスの精神科医Ludwig Binswangerが去る2月5日ついに85歳で永眠された。この数年間にH. W. Gruhle,W. Mayer-Gross,C. G. Jung,E. Kretschmerら老世代の代表的精神医学者の死を見送つたわれわれは,いままたここに,かれらに勝るとも劣らぬ輝かしい星が眼前から消えていくのを見とめた。すでに10年まえの1956年,Binswangerはそれまで45年間にわたつてつづけてきた精神病院の院長の地位を息子のWolfgangにゆずつて,研究面ではともかく,少なくとも診療の面では第一線をしりぞいており,さらに最近の数年間は訪問者をもなるべく避けてひたすら静養を心がけておられたことは,かねて耳にしていたが,今回,未亡人からの思いがけない訃報に接して,かれの傑出した生涯がついにここに完結したという感慨をいだくと同時に,巨大な人物の残した欠落のあとをいまさらのように惜しまないわけにはいかなかつた。このあとは,ほかのだれによつても埋められるものではない。
 かれがこんにちまでにあらわした数々の著作やヨーロッパの各地で行なつた多くの講演から明瞭に感じとれるところの,該博な人文的教養の広さ,衰えを見せぬ明晰な思考力,安定して旺盛な生産性,そしてなによりも,60年にわたつて精神病者とともにすごした臨床的経験の厚み……,これらのどのひとつをとつてみても余人のよく比肩しうるところではないが,Binswangerの場合には,それらが85歳というながい生涯にわたつて堅実に積みあげられ,その不偏の累積と統合から豊かな業績がみのつていつた。生物学的長寿のみでなく,学問的長寿をも全うして,両者のみごとな調和をわれわれに示してくれた点で,かれほど顕著な例はない。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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