icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学8巻4号

1966年04月発行

動き

回想のLudwig Billswanger—その生涯と思想

著者: 宮本忠雄1

所属機関: 1東京医科歯科大学神経精神医学教室

ページ範囲:P.348 - P.352

文献概要

 世界の精神医学界のおそらく最年長の世代に属しながら,つねにその最先端をあゆみつづけてきたスイスの精神科医Ludwig Binswangerが去る2月5日ついに85歳で永眠された。この数年間にH. W. Gruhle,W. Mayer-Gross,C. G. Jung,E. Kretschmerら老世代の代表的精神医学者の死を見送つたわれわれは,いままたここに,かれらに勝るとも劣らぬ輝かしい星が眼前から消えていくのを見とめた。すでに10年まえの1956年,Binswangerはそれまで45年間にわたつてつづけてきた精神病院の院長の地位を息子のWolfgangにゆずつて,研究面ではともかく,少なくとも診療の面では第一線をしりぞいており,さらに最近の数年間は訪問者をもなるべく避けてひたすら静養を心がけておられたことは,かねて耳にしていたが,今回,未亡人からの思いがけない訃報に接して,かれの傑出した生涯がついにここに完結したという感慨をいだくと同時に,巨大な人物の残した欠落のあとをいまさらのように惜しまないわけにはいかなかつた。このあとは,ほかのだれによつても埋められるものではない。
 かれがこんにちまでにあらわした数々の著作やヨーロッパの各地で行なつた多くの講演から明瞭に感じとれるところの,該博な人文的教養の広さ,衰えを見せぬ明晰な思考力,安定して旺盛な生産性,そしてなによりも,60年にわたつて精神病者とともにすごした臨床的経験の厚み……,これらのどのひとつをとつてみても余人のよく比肩しうるところではないが,Binswangerの場合には,それらが85歳というながい生涯にわたつて堅実に積みあげられ,その不偏の累積と統合から豊かな業績がみのつていつた。生物学的長寿のみでなく,学問的長寿をも全うして,両者のみごとな調和をわれわれに示してくれた点で,かれほど顕著な例はない。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら