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雑誌目次

雑誌文献

精神医学8巻5号

1966年05月発行

雑誌目次

展望

比較文化的精神医学の諸問題

著者: 寺嶋正吾

ページ範囲:P.361 - P.373

I.精神医学の特異な一領域
 最近20年くらいの間に,精神障害と社会文化的環境との相互の関係に関心がもたれるようになつてきたが,元来,この領域は社会学者,心理学者,とくに文化人類学者の開拓分野でBenedict3),Sapir51),Mead37)らの先駆的業績が30年も前に樹立されている。研究的関心は大きく分けると2つに区別できる。1つは生態学,社会階層,職業,民族集団との関係で精神障害の疫学的研究をめざすもの,他はコミュニティ全体の研究で,コミュニティの構造および文化の諸要因と精神障害との関係を追求している研究である。米国におけるこれらの研究がつねに比較ということを目標にしているのもゆえなしとしない。それは米国自体が移民の歴史によつて始まり,多人種によつて構成されていて,白人といつてもアイルランド系,東欧系,西欧系,イタリヤ系,その他のラテン系などとけつして一様ではない,いわゆる,multiracialsocietyをなしている。そのうえ,伝統,習俗をまつたく異にする集団,アメリカ・インデアンもいる。そのインデアンももつとも調査のいきとどいている種族をあげただけでも,ナバホ,ヅニ,セミノール,ホピ,イロクオイ,ウート,オジブワなどきりがない。さらに言語系列の異なつた言葉で生活している集団もあるし,宗教差もいちじるしいといったように,heterogeneous populationである(その点では,日本はごくまれな等質な国であるといわれる)。

研究と報告

精神分裂病患者の自己概念—Qテクニックの臨床的応用

著者: 山上竜太郎

ページ範囲:P.375 - P.382

I.まえがき
 分裂病研究の歴史において,著者は分裂病患者の自己像に関する系統的研究に接したことがほとんどない。近時分裂病の心理療法に対する関心がたかまり,分裂病患者の現象を一つの生活史的事象のなかでとらえようとする立場が強調されるようになるにしたがつて,患者の自己概念(Self Concept)の問題が,対入関係理論の問題とともに必然的に重視されてきた。
 元来,われわれ精神科医はFromm-Reichmanの言葉を借りれば,「精神医は精神障害者のコミュニケーションの内容をよく聴き,その意味を了解すべく努力しなければならない」のである。

分裂病様の症状を示したてんかん—症例ならびに臨床症状,脳波所見についての検討

著者: 島田武

ページ範囲:P.383 - P.387

I.緒言
 てんかんのあるもの,ことにいわゆる側頭葉てんかんが分裂病様の症状をていすることがあり,またてんかんと分裂病との関係についてはいくたの論議がなされてきた3)4)
 ここでは明らかにてんかんと考えられる症状経過を示し,かつ挿間性の経過で分裂病様の症状をていした症例を報告し,その症状経過について考察を加えた。

3歳児健診における発達検査による精神医学的研究

著者: 鈴木貞雄 ,   迎昶 ,   川原ルリ

ページ範囲:P.389 - P.396

I.はじめに
 われわれは江刺市保健所の昭和39年度の3歳児健診のさい,主として精神発達について,適切なスクリーニングテストを使用し,対象児中から発達遅滞者を発見したいと考えた。
 そこで集団健診とスクリーニングに適するという点から遠城寺式乳幼児分析的発達検査1)を使用することとし,1)発達遅滞者の発見,2)3歳児の発達状況における地域的特徴の把握,3)遠城寺式発達検査のスクリーニングテストとしての有効性の検討といつた3点を目標としてこの問題にとりくんだ。

Huntington舞踏病の精神症状について—2剖検例に関しての考察

著者: 松本胖 ,   十束支朗 ,   緑川隆

ページ範囲:P.397 - P.402

I.はじめに
 Huntington舞踏病は,不随意性の舞踏病運動,進行性の痴呆,遺伝因子の存在および病理解剖上基底核を主座とする神経細胞の変性脱落などにより特徴づけられている1)3)。しかしまれには,幻覚,妄想などの精神分裂病類似の症状をていするものがあり,精神医学的にも興味のあるところである。他方,これまで病理組織学的検索はしばしば詳細になされている3)4)5)11)が,本疾患に特有な性格変化ないし病的症状に関する臨床病理学的な考察にいたつてはきわめて少ない。このことは,すべての器質的疾患についてもいえることであるが,はたしてそれぞれの疾患における病的精神症状を個々の脳病変によつて十分説明しうるかという方法論上の命題にぶつからざるをえない。
 このように究極的には非常な難問題に到達するのであるが,それ以前の段階において,Huntington舞踏病をも含む変性疾患に見られる精神症状について,なおいつそう注目する必要があると考える。著者らは,幻聴,妄想をていした症例を含むHuntington舞踏病の2例を経験したのでその精神症状に着目して文献的に考察し,この方面の研究に寄与したいと考える。

精神分裂病様の症状を呈した粘液水腫の3例

著者: 前田利男 ,   長谷川渙 ,   宇土沢光徳 ,   佐藤利

ページ範囲:P.403 - P.407

I.序言
 粘液水腫と精神症状発現の関係は古くから報告されている。内分泌学の発達に伴い,粘液水腫のさいの精神症状発現が,甲状腺ホルモンと関係しているらしいという見解のもとにいろいろな研究も行なわれているが,しかしまだその機序は明らかではないようである。
 われわれは最近3例の粘液水腫の患者にいろいろな精神症状の発現するのを観察し,しかもその3例ともL-triiodothyronineの投与により劇的に精神症状が改善されるのを見た。ここにその3例を報告して若干の考察を行ないたい。

拘禁反応を起こして治癒せしめた森田神経質症

著者: 足立金三

ページ範囲:P.409 - P.414

 満2年間,神経症に苦しんでいた森田神経質と考えられる症例に,監禁療法ともいうべき治療法により完全治癒せしめた。
 その治癒機制の要因は,森田神経質を転換して被毒妄想状態を形成せしめ,この被毒妄想状態を取りのぞくことによつて,精神的調和の状態を取り戻したと考察した。

精神分裂病に対するFluphenazine Enanthateの臨床治験

著者: 佐野新 ,   長谷川和夫 ,   後藤寿朖 ,   岩淵純男 ,   佐藤春夫 ,   大田博

ページ範囲:P.415 - P.419

I.緒言
 精神病患者に薬物療法を行なうにあたつては,拒薬を示すものがあって,治療上の困難さを経験することがしばしばである。今回われわれはK. K. スクイブ・ラボラトリーズの協力により,Fluphenazine Enanthateを試用する機会を得たが,本剤はいわば向精神薬のDepot剤ともいうべきもので,上記の拒薬という観点からも注目すべき特色を具備している。
 すなわち本剤の化学構造式は第1図に示すように,通常のFluphenazine塩酸塩と異なり,Fluphenazineのエナンシル酸ニステルであり綿実油に溶解してある。

Magnesium α-Amino-Glutarate Hydrobromide(Psycho-Soma)の使用経験

著者: 松本胖 ,   吉川武彦

ページ範囲:P.421 - P.425

I.はじめに
 こんにち精神科領域に使用される薬剤はきわめて多種におよんでいるが,昨今の精神科薬物療法の隆盛をまねいたのは,クロールプロマジンを代表とするフェノチアジン系薬剤に負うところが多い。しかしクロールプロマジンが臨床に使用される以前にも鎮静剤,就眠剤としてバルビタール系薬剤が使用され,精神科領域においても有効とされるものが多くあつた。フェノチアジン系薬剤出現以来,ともするとこれらバルビタール系薬剤は等閑視されがちとなり,憂慮されたが,このたび1959年にスペインのFerrer社により合成・開発されたMagnesium α-amino-glutarate hydrobromideを試用する機会を得たのでその成績を報告する。
 Psycho-Somaは第1図で示すような構造式を有し,α-アミノグルタル酸にBrとMgが結合したもので,旧来のブロム系の鎮静効果とマグネシウム系の鎮静効果をアミノ酸を介在させ相乗させるといつた興味ある薬剤である。

紹介

—Reinhart Lempp 著—早幼児期脳障害とノイローゼ—子どものノイローゼと環境反応性行動異常の成立に対する早幼児期外因性精神症候群の意義

著者: 野本和男

ページ範囲:P.429 - P.434

 著者Dr. R. LemppはTübingen大学医学部神経科のOberarztでありKinder-Abteilungの主任をされている方である。私が1961年11月から1965年までかれの主宰するKinder-Abteilungの隣りの脳研究所で働いていたころからかれの仕事に興味をもち,かれの講演もしばしば拝聴した。昨年11月の東京における国際小児科学会のため来日した折,東大で表題について講演され日本の聴衆に多くの興味を与えた。そのさい私が通訳の役をひき受けた関係上,かれが帰国にさいしこの書物を贈与され,日本における紹介を希望されたのでここに紹介することにした。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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