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研究と報告
ナルコレプシーの治療経過中に生じた幻覚症について
著者: 西山詮1 本多裕1 鈴木二郎1 高橋康郎1
所属機関: 1東京大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.485 - P.491
文献購入ページに移動(2)幻覚は幻聴を主とし,外界に定位され,実在感を伴つた。いいかえれば,それはただちに身近かな具体的人物の声として受け取られ,これに支配された行動が見られた。なお1例において異常体感を呈した時期がある。妄想は内容および発現が幻覚に密接に関係しており,その一次的意義は認められない。そして幻覚体験に対する病識欠如とともに遷延する傾向が認められた。
(3)われわれの症例は,台の報告例と異なり,一種の夢幻状態を背景とした入眠幻覚の妄想的発展とは異質な病像である。
(4)病像の構成や薬物との時間的関係において,その経過を分析することにより,それが本質的には中枢刺激剤による幻覚症に属し,初期の一時期にのみ入眠幻覚が加わって錯綜した病像を呈したと考える。
(5)家族歴,既往歴に明らかな精神疾患の負因および外的要因をみず,病前性格にもとくに病的傾向は認められなかつた。この点分裂気質や潜在的な内因性精神病が薬物により幻覚妄想状態として誘発されたのであろうという従来の見解には,にわかに賛成しがたい。
(5)頻度は中枢刺激剤により治療したナルコレフ。シー約150例中3例と低く,他の幻覚症と軌を一にする。この点個体の側の特殊な準備性を考えさせるが,これについては従来の素因論による説明では不十分であり,中枢刺激剤の薬理作用の解明なしには論じがたいと考える。また第3例はamphetamine系に属さないmethylphenidateのみによつて同様の幻覚妄想状態を呈した点,注目すべき事実であろう。
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