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雑誌目次

雑誌文献

精神医学9巻10号

1967年10月発行

雑誌目次

展望

向精神薬による現在の抗うつ療法—スイスにおける現況

著者: ,   橋本禎穂

ページ範囲:P.718 - P.727

 抑うつ状態の治癒にたえず,新しい抗うつ剤が導入されるにつれ,治療法は容易になるどころか逆にますますむずかしくなつてきた。そのうえ,外来通院もしくは入院治療のいずれを選ぶべきかの決定も医師が負わねばならない。この決定にあたり,なによりまず重視せねばならないのは,疾病学的診断ではなく―内因性うつ病ではとくに自殺の危険率がたかいのはもちろんであるが―自殺可能性の評価である。うつ病患者の自殺可能性の評価にさいし,われわれがRinger,StengelおよびIM Oberstegと同一見解をもつて,重要とみなす諸因子を第1表に示した。
 これら因子の出現頻度が高いほど,ことに抑うつ状態に不安,動揺の症状,頑固な不眠,罪責感,心気症などが強く伴うほど(激越性うつ病,混合状態,更年期うつ病),自殺の危険は大きく,入院治療の必要も大きくなる。自殺のおそれのある患者に発動性を亢進させる抗うつ剤を投与すべきではない。逆にこれらの患者には自己破壊的傾向を抑制するため,まず不安緩和剤および鎮静剤を投与すべきである。もし自殺念慮のある患者に発動性亢進をもたらす薬物を与えると,抑制除去のため患者の企図を実行に移させる危険がある。

特別講演

てんかんの精神障害と治療・社会対策

著者: ,   小笠原暹 ,   和田豊治

ページ範囲:P.729 - P.734

 てんかんの慢性精神障害の問題は,きわめて複雑ですが,この疾患の原因を考えれば,それは当然のことであります。てんかんの精神障害の原因は4つあり,それら4つが同時に関与することもあります。
 1.脳損傷の結果としての精神的変化。
 2.脳機能不全の結果としての精神的変化。
 3.自分がかかつている慢性疾患と,周囲の人々の誤つた態度に対する神経症反応。
 4.外因性に規定された,養育上,教育上,職業上の被害(社会的地位,収入面での損害,家族内でのいざこざなど)。

研究と報告

妄想形成過程の書簡に基づく追跡—敏感関係妄想を通じて

著者: 林尚秀 ,   佐々木幸雄

ページ範囲:P.735 - P.740

Ⅰ.まえがき
 妄想形成がある心因にもとづき,経時的に発展してきたと考えられる1症例について,昭和37年5月より昭和41年1月までの間に,東京で遊学中の娘に宛て書き送られた書簡49通にもとづき,その妄想形成過程を,とくに,Kretchmer, E. 1)の敏感関係妄想との関係において分析する。
 書簡はその性質上,原則として秘密が確保されているため,ふつうの対話では容易に露呈されないような深い心的内面がその赤裸々な姿を現わす場合もけつして少なくないし,相当複雑微妙な感情や思想であつても,正確詳細な伝達手段としての役割をはたしうるものである。本症例のごとく,書簡が母娘間の閉鎖された関係に限定されている場合は,なおいつそう包み隠しのない心情の交流がなされるわけであるし,さらに日常の生活様式とか,性格特性,知的水準なども,おのずから察知しうるわけである。しかし医師・患者間の対話によつて得られた内容に比較した場合には,やはりKretchmer, E. も敏感関係妄想日本版序文で,医師が患者と幾時間も向かいあって,用心深く対話を進めることによつてのみ,パラノイア患者の内部状況についての理解を手にいれることができたと述べているごとく,特定の事象についての深いつつこんだ理解は不可能である。書簡がこの欠点を補いうる利点は,過去の体験,心的内部状況がその時点で正確に記載されていることである。

刑法改正に関する私の意見 第1篇 責任能力(その2)—英国篇

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.741 - P.744

Ⅰ.M'Naghten Rule(M. N. R. と略記)
成立まで
 英国で精神病が免責の理由として最初にとりあげたのは,Edward Ⅰ世(1272〜1307)時代といわれる。13世紀に,精神病者の定義を初めてしたひとりといわれるBractonは精神病者を精神や理性に欠けるところがあり,自己の行為に対する認識がなく,家畜と大差ない者としている。17世紀の初めごろまでは,精神病による免責は非常に厳格であつたようで,Alfred大王時代には,王を殺害したり,またはこれを企図する反逆罪は精神病者であつても免責されなかつた。
 1)E. Coke 17世紀の初めBevery事件で,Cokeはつぎのごとく規定した。重罪行為や殺人は犯意(Mens rea)がなければ犯罪とすることができない。もし,ある人が理性を喪失し,人よりも動物に似てくれば,犯意をもつことができないので,有罪とすることができない。Cokeは正気を失つた人(Persons non compos mentis)をつぎの4つに分けている。(a)白痴または先天性精神薄弱,(b)完全な記憶をもつた人が天罰によつてこれを失つた人,(c)軽快時期のある精神病者(lunatics qui gaudet lucidis intervallis),(d)酩酊などのように自己の行為により正気を失つた人。

精神医学領域における比較家族研究的接近(その3)—知見の概要とその考察(Ⅱ)

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   馬場礼子 ,   田中麻知子 ,   北田穣之介 ,   林田基 ,   鈴木寿治 ,   梶原達観 ,   瓜生武

ページ範囲:P.745 - P.755

Ⅰ.まえがき
 今回は,前回報告した擬似統合型とともに破瓜病家族で注目された統合不全型および未成熟型を,それぞれ破瓜病と強迫神経症,破瓜病と幼児自閉症,非行などについて,比較検討し,つぎに,それらと正常家族の比較を行ない,2回にわたつた本報告を終りたいと思う。

環境要因の著明な小児精神分裂病の1例

著者: 奥村晶子 ,   佐竹良夫

ページ範囲:P.757 - P.760

I.はじめに
 精神分裂病における精神力動ないし発病にいたるまでの歴史が,精神分析学的,自我心理学的に注目されるようになつてきたのは最近のことであるが,これとともに小児分裂病,自閉症といわれる症例についても同様の観点から解明していこうとする試みが,しだいに多くの学者によりなされるようになつてきている。
 小児の精神分裂病ないし自閉症についてはL. Kanner以来多くの報告があるが,今なお問題の多いところであり,ここに報告する症例にも多くの疑問が含まれている。しかし現在の病像にいたるまでの経過をみるとき,環境的要因および母子関係において興味ぶかいものがあると思われるので,その概要を報告し若干の考察を加えたい。

精神分裂病者の外勤作業療法について(第2報)—全国的調査の結果を中心として

著者: 井上正吾 ,   渡辺朝子 ,   萩下洋一 ,   中垣望史 ,   川井満紀代

ページ範囲:P.761 - P.767

I.はじめに
 著者のひとり井上は第1報1)において高茶屋病院における外勤作業療法の経験について述べたが,今回は全国調査の結果を中心として,精神分裂病者の外勤作業療法について考察した。

抑うつ状態に対するamitriptyline-diazepam併用療法について

著者: 野沢栄司 ,   米沢照夫 ,   根岸敬矩

ページ範囲:P.768 - P.773

I.はじめに
 向精神薬の出現は,精神科領域の治療上に大きな進歩と変革をもたらしたが,各種向精神薬の作用とその適応がしだいに明らかにされるとともに,2種類あるいはそれ以上の薬剤の併用がよりすぐれた効果を現わす場合も多く報告されている。
 われわれは,すでに精神科領域の各種症状に対するdiazepamの使用経験について報告し,そのさい,神経症領域の患者,とくにヒステリー,心気,不安状態に対して有効であるとともに,抑うつ神経症,反応性うつ病などの抑うつ状態に対しても有効であることを認め,とくにそのenergizer的効果に注目した。

Double-blind,Controlled Trialによるspiroperidolの精神分裂病に対する薬効検定—逐次検定法および判別分析の応用について

著者: 伊藤斉 ,   岡本正夫 ,   三浦貞則 ,   壁島彬郎 ,   鈴木恵晴 ,   茂田優 ,   望月延泰 ,   八木剛平 ,   浅香富允

ページ範囲:P.777 - P.787

Ⅰ.まえがき
 新しい向精神薬がつぎつぎと数多く開発されているが,われわれ精神科医はこれらの薬剤のそれぞれについて,臨床効果の特性をできるかぎり詳細かつ正確に把握して日常の診療のうえで駆使したいとねがつている。このためには従来よりわれわれがながく行なつてきたような,素朴経験的に薬剤を患者に試用して,著効,有効,やや有効,無効,増悪というように全般的改善度の段階的評価を行なつたり,またどのような症状または症状群に奏効するようだというような印象的な薬効判定に加えて,より客観的,科学的な評価方法としてcontrolled studyの必要性が認識されつつある。ここ数年来,phenothiazine系薬剤,reserpineについでmajor tranquilizerとしてわが国でも用いられ始めたbutyrophenone系薬剤についても,はたしてわれわれが従来より使用してきたphenothiazine系薬剤などと同様,臨床効果の点でpotencyのたかいものであるということを客観的にも証明し,あるいは批判しうる資料が必要であろう。ここにあげるspiroperidolも最近登場したbutyrophenone系薬剤の一つであり,精神分裂病を中心とした精神疾患の治療薬としての有効性がBobon1),Paquayら2),により報告され,わが国でも桜井3)らの追試が行なわれている。

動き

Alcoholics Anonymousの現況

著者: 大原健士郎

ページ範囲:P.797 - P.801

はしがき
 数年前,筆者は土佐の片田舎で1人の飲酒者に会つた。かれには妻と幼ない2人の子どもがあつたが,家業の製紙をかえりみず,終日酒を飲み続けていた。かれの庭には一斗樽が据えられ,かれは朝な夕な手びしやくで飲酒を続けた。酒が切れると,手指は震え,幻覚が生じた。家業は傾き,夫婦間の葛藤も日ましに深刻となり,ついには妻の自殺未遂までひき起こした。筆者はかれの妻に夫を精神病院に入院させて,薬物療法を受けさせるように極力すすめたが,彼女にはどうしてもその決心がつかなかつた。約2年の後,筆者は完全に立ち直つたその男に会つた。かれは一滴の酒も口にせず,家業に励んでいた。かれは高知市の断酒会に属し,その役員となり,かれの妻も断酒会の婦人グループで活躍していた。筆者はこの夫妻から断酒会の内容を聞き,非常に関心を抱くようになつた。当時のかれは,確かに気負い込んでいる傾向がないでもなかつた。かれは,自分の体験談が会の新聞に載つたり,夫婦が会の役員として活動していることが禁酒に役立つているであろうと述懐した。そして現在,かれは禁酒を続け一家には平和が訪れた。筆者は,この一家については詳細な資料をもつている。なぜなら,これは筆者の姉一家だからである。かれの再起を想い出すごとに,筆者は自分がかつて学んだ医学教育のみでは恐らくかれを助けることができなかつたかもしれない,と懸念している。

回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・16

力動精神医学とJaspersの「精神病理学」

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.789 - P.796

 終戦と同時に,われわれ精神医学者を動揺させたのは,進駐軍とともに滔々として流れ込んだアメリカの精神医学であつた。言うまでもないことだが,戦時中は外国との交流がほとんど絶えていたから,どんな研究が外国でなされているかを知る由もなかつた。また国内の研究活動も,研究員と物資との不足のため,思うにまかせぬ状態で,少なくとも精神医学の領域では,目ぼしい研究成果が少なく,まして新機軸と言えるほどの研究はなかつたのである。
 このような状態であつたから,終戦後,私が期待したのは,諸外国の学界の状況を知ることであつた。第一次大戦後のような,画期的な業績の続出が今度の大戦後にも見られるのではないかと,大きな期待を持つたのである。しかし,この期待は全く裏切られた。取り立てて問題とするような新研究は皆無に近く,その代わりにアメリカから流れ込んできたのは,昔とあまり変わりばえのせぬ,精神分析を基調とした力動精神医学であつたのである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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