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現代フランス精神医学の趨勢
著者: 武正建一2
所属機関: 1à la Faculté de Médecine de Paris 2慶応大学神経科
ページ範囲:P.902 - P.911
文献購入ページに移動 数年前,フランスの新聞は“医学の世界性”についての一つのアンケートを行なつている。それは,近代医学は世界共通性を持つているかどうかを求めたものであつた。回答は,Andre Siegfriedのような人間科学の専門家や作家Georges Duhamelまた医師たちによつて表明されている。そして,少なくとも産業文化のなかでは,3つの面,すなわち倫理・哲学・技術の面に関してはこの共通性のあることが肯定されたのである。たしかに,医業にとつて不可欠である倫理的秩序に関しては,われわれの間に一致のあることが認められるのである。また,Andre Siegfriedが強調したように,近代医学は自然法則にその基盤を持つているが,同時にまた,摂理,あるいは神秘力の干渉を認めた時,医師は科学的概念のなかにあくまでもそれらの力を考慮しようとはしないこともわかつている。しかしながら,技術面に関しての医学の世界普遍性は,Georges Duhamelの回答とされている“未成熟なものであるが,たしかに普遍性の表われをわれわれがみている技術的世界共通性は,われわれの目に年々大きな進歩を現わしている”と述べていることよりも多分疑わしいものであろう。それは,実をいつて,われわれの領域に限つてみると,まだ世界精神医学は存在しないし,また同様に,ヨーロッパ精神医学が存在しないのである。イギリスのMichael Shepherdは,つぎのような表題の論文のなかでそのことを非常に適切に述べている。それは,“異なつた国々での精神科治療の比較”と題するものである。
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