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文献詳細

雑誌文献

精神医学9巻12号

1967年12月発行

文献概要

研究と報告

刑法改正に関する私の意見 第1篇 責任能力(その4)—日本篇

著者: 田村幸雄

所属機関:

ページ範囲:P.912 - P.916

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Ⅰ.心神喪失および心神耗弱
 刑法第39条に,「心神喪失者の行為は之を罰せず,心神耗弱者の行為は其刑を減刑す」と規定されている。心神喪失と心神耗弱はともに法律用語といわれている。しかし,これらの語は本法制定のとき,すでに,法律用語として用いられていたのであろうか。または,外国語の翻訳であろうか。心神喪失はフランス刑法(1810年制定)のdémenceの訳であるといわれる。Démenceすなわちラテン語のdementiaは精神科では痴呆と訳されているが,私はこれを適訳と思うし異議をはさむものでない。こんにち,dementiaは世界各国でほぼ,後天的脳障害による高度の二次的知能障害の意に用いられているようであるが,歴史的に見ると,国により時代によりさまざまに用いられた。17世紀にはdementiaがdeliriumと同義に用いられ,また,精神病と同義に用いられた時代もあつた。フランスでは,古くPinelがla démenceを一種の精神病と記載したが,後,多くの精神病に用いられるようになつた(les démences)。Esquirolは治癒可能な急性のdénenceと時に治りうる慢性のdémenceを分けた。démenceを治癒不能なaffaiblissement mental définitifとフランスで考えるようになつたのはGeorget(1820)に始まるといわれる。démence(=ラテン語のdementia)の言葉そのものは,dé=deは離れる,脱する,mence=mentiaは「精神の(mensの)」であるので,「精神の脱失」すなわち,「心神喪失」のほうが痴呆より原語に近い。フランス刑法第64条はつぎのごとくである。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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