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回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・10
東京大学への転任と傑出人脳の研究
著者: 内村祐之12
所属機関: 1東京大学 2日本学士院
ページ範囲:P.292 - P.299
文献購入ページに移動 私が札幌に在任していた昭和2年から11年にわたる期間は,わが国の政情がすでに安定を失つた時期であつた。すなわち昭和6年には満州事変,続く昭和7年には5.15事件が起こり,昭和11年に至つて,ついに2.26事件の暴発を見るというわけで,軍部勢力の抬頭と,これに伴う国内および国際情勢の緊迫は,無気味な未来を暗示するかのようであつた。しかし政治の中心地から遠く離れた北海道には,さほどの切迫感も伝わらず,また教室の創設と研究の促進とに全力を傾けていた私には,それほどの危機とも感じられなかつたのである。
のみならず,当時の私は,大学や学部の運営というような,事務的責任を多く負わされぬ若輩であつたので,ひた向きに専門の研究に没入することができた。今から振り返つてみると,外国留学と北海道在任とを合わせた10年に余る期間が,私の一生涯中の最も恵まれた時期であつたと言えるように思う。
のみならず,当時の私は,大学や学部の運営というような,事務的責任を多く負わされぬ若輩であつたので,ひた向きに専門の研究に没入することができた。今から振り返つてみると,外国留学と北海道在任とを合わせた10年に余る期間が,私の一生涯中の最も恵まれた時期であつたと言えるように思う。
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