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特集 創造と表現の病理 第63回日本精神神経学会総会シンポジウム Ⅰ部・創造性の病理
創造性とその病理
著者: 佐々木斐夫1
所属機関: 1成蹊大学文学部文化学科
ページ範囲:P.310 - P.314
文献購入ページに移動人間の創造のいとなみを心的活動の面で解明しようとするこころみにおいて,その過程と成果とにかかわる病理の問題は,これまで主として精神病理学や病態心理学の内側から追究されてきた。したがつて創造や表出のはたらきに生じる異象は,研究者が臨床体験のうちで遭遇する病態一般の,一区画とみなされるわけで,いきおい研究者の興味は情動的表現を基動とする文学や芸術の領域に集中しがちであつたし,それだけに治療を本務とする専門の精神医や異常心理学者にとつては,とかく副次的な意義しかもちえなかつたといえよう。もちろん病者に通在する行動や思考の異常性の判定に比べれば,文学作品や芸術形象における病的要素を具体的に定位してゆくことは,自由な美的表現が人間生活のなかで一つの独自なSpielraumをかたちづくるものとして,社会的な承認を受けているだけに,いろいろと困難な条件を伴わざるをえない。つまり芸術や文学の創作表現の場では,周知のように正常と異常との区別がつけにくいからである。
ところで管見によれば,最近にいたり私たちの課題に対してアプローチのしかたの変改を促すような,新しい状況の諸変化が生じてきたように思われる。ここでは二つの対照的に顕著な例をとりあげてみよう。一つは創造性(creativity)の本質やその開拓に関する研究を,正常心理学および関連諸科学の主要日程のなかへ織り込むことが,巨大な発展を遂げつつある産業社会の側から要請されるようになり,それに応じる専門学者のあいだで,発明の心理からくふうの論理にわたる多面的な考察が,実験と調査との方法に支えられて活発化してきていることである。
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