文献詳細
文献概要
特集 創造と表現の病理 第63回日本精神神経学会総会シンポジウム Ⅰ部・創造性の病理
追加討論
著者: 野村章恒1
所属機関: 1慈恵医大精神科
ページ範囲:P.320 - P.321
文献購入ページに移動宮本氏はこの長寿の画家の生涯と作品との関係を病誌を通じてあとづけた報告をされ,Winklerの考えの分裂病の妄想型辺縁圏内にあるとする説を採用している。しかし36歳発病当時には四角関係という恋愛の悩みの心因も考えられる点と,46歳軽快後の画風の外向化の転換は気分昂揚の軽躁気分とみることはできないだろうか。これは懐疑,不安,孤独,憂愁の少年期から環境的に身心両面の素地に色あげされていたものが,神経症的体験を転機として魂の生長開眼として社会的自己実現の方向に発展した画風の変化とみられないであろうか。宮本氏は『叫び』は狭義の幻覚ではなく広義の幻覚的意識を母胎として創造された名作であるとしているが,この幻覚的意識から完全にさめた現実直視のなかでの『坑夫』などの制作も健康な名作とよべるであろう。
掲載誌情報