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雑誌目次

雑誌文献

精神医学9巻8号

1967年08月発行

雑誌目次

展望

Butyrophenone系薬剤の歴史と展望

著者: 原俊夫

ページ範囲:P.549 - P.563

I.はじめに
 精神疾患の治療がphenothiazine系薬剤にはじまる向精神薬の導入によつて大きな変革をとげたことは,疑う余地のないところである。そして,reserpineをprototypeとするrauwolfia-alkaloid,chlorprothixeneを主とするthioxanthene誘導体ならびにtetrabenazineを主にするbenzoquinolizine誘導体などが相ついで出現し,抗うつ剤や緩和精神安定剤にも優秀なものがあらわれてきた。しかし,強力精神安定剤(major tranquilizer)あるいは神経転轍剤***(neuroleptica)としては,chlorpromazineをprototypeとするphenothiazine誘導体が1960年までの主役であつた。
 ところが,phenothiazine,reserpineについで,neurolepticaの第3の系ともいうべきbutyrophenone系薬剤が1958年ころより欧州をはじめとして各国で使用されるようになり,その臨床的価値が本邦においても認められはじめてきた。

研究と報告

海外留学生の精神医学的問題(その1)—留学中の精神障害例ことに精神分裂病とうつ病について

著者: 島崎敏樹 ,   高橋良

ページ範囲:P.564 - P.571

Ⅰ.まえがき
 戦後わが国から研究や勉学のために諸外国へ出かけ,滞在する研究者や学生が増加していることは,われわれの身近かに知つていることであるが,外国のなかでも米国へ留学する人々の数がきわだつて多いことも周知の事実である。海外生活を体験した人々の多くは,新しい環境に適応するまでの間,なんらかの身心上の困難や症状を感じるものであるが1),その後大多数の人々はとくに問題もなく帰国している。しかし留学生も多くなると,なかには精神障害を呈して,本来の留学の日的を追求しえなくなる不幸な例も見られてくる。留学のみでなく戦後国際間の移住交流が増加するにつれ,海外生活上の精神衛生も精神医学の一つの問題となつてきた。そこにおいては異国民の接触や異なる国民性,民族性,文化,言語などの相互作用の間に現われてくる心理学的,精神病理学的諸問題,「異国人」の心理,気候風土の精神に対する影響,精神病の誘発の問題,休暇の心理学など,多くの問題が内在している2)
 われわれは米国在日教育委員会(フルブライト委員会)の依頼で,わが国より米国に留学中のフルブライト奨学生のなかで,精神障害を呈したとして送還されたケースをすべて診察治療する機会をもつと同時に,文部省調査局国際文化課の斡旋で渡米する交換高校生(A. F. S.=アメリカンフィールドサービス)についても同様な症例を診察し,毎年出発する高校生の精神衛生について講義を依頼されてきた。

老年期におけるアルコール依存者—家庭内緊張を中心として

著者: 大原健士郎 ,   奥田裕洪 ,   小島洋 ,   有安孝義

ページ範囲:P.572 - P.576

Ⅰ.はしがき
 本来,嗜好品としての性質をもつアルコールが,ある者に,Trunksucht,addictionを生じ,ある者にはchronischer Alkoholismus,chronic alcoholismを生ずる。この両者は,互いに移行する場合も多いが,どちらかの状態にとどまる場合もまれではない。ここで,きわめて素朴な観察をくだすとき,機会的に適度の飲酒をたしなむ者,習慣的な飲酒者であるが精神的にも身体的にも障害を示さない者,さらにはアルコールを断つことができず,そのうえ,精神的にも身体的にも著明な障害を示す者など,質的にも量的にも異なると思われるいくつかの群があげられよう。
 しかもそれらは,必ずしも単純な段階的経過をとるものではなく,各群の差異ならびに機制についても明らかでない点が多い。

精神医学領域における比較家族研究的接近(その2)—知見の概要とその考察(Ⅰ)

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   馬場礼子 ,   岩崎徹也 ,   北田穣之介 ,   林田基 ,   南坊満里子 ,   滝口俊子

ページ範囲:P.577 - P.584

Ⅰ.まえがき
 本報告(その1)1)でわれわれは,比較家族研究の方法の概要とその方針を述べた。今回は,この接近によつて得られ,昭和40年10月の第2回日本精神病理・精神療法学会に報告した知見の概要とその考察を述べたい。なにぶんにもぼう大な資料である。一家族の症例報告でも精神療法の1例報告に倍する。そこで,なんとか,われわれの知見のよき伝達をはかるために,家族力動パターンについての全体的な見通しとともに,そのパターンを代表する症例を紹介するというかたちをとりたいと思う。
 ただし,この報告(昭和41年7月投稿)にあたつて,つぎのような方法論上の反省をいだいている事実を付記しておきたい。

Centrophénoxine(Lucidril)の頭部外傷後遺症に対する効果—精神神経科の立場より

著者: 太田幸雄 ,   元村宏 ,   川端利彦 ,   古籔修一

ページ範囲:P.587 - P.595

 Centrophénoxine(Lucidril)を頭部外傷(主として後遺症)症例11名にもちい,多次元的診断の立場より効果をみていつた。頭重感,めまい,気分のいらだちなど一般の神経衰弱様症状群,頭痛(神経痛)に著効があつた。また,抑うつにも有効であつた。
 そのほか,人格変化としての易怒性,自発性低下,Bradyphrenie,にも少し有効であつた。記銘力低下にも若干の効果がみられた。
 以上の効果は主として器質的原因によるものにみられ心因性の要素の強いものでは効果がみられなかった。
 上の事実よりcentrophénoxineは頭部外傷後遺症のあらゆるケースに使用して効果が期待できると考えられるが,ことに,もつとも治療困難である人格変化症例の生活指導,精神療法,作業療法を行なうさいの導入または支持のためにもちいるならば非常に効果が期待できると考える。
 なお,1例に白血球減少を認めた以外,副作用はまつたくなかった。

回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・14

戦時体験のあれこれ

著者: 内村祐之

ページ範囲:P.609 - P.616

 前回に述べたラバウル出張のちよつと前の18年4月に,同僚の中から最初の戦争犠牲者が出た。それは松沢病院医局の吉松捷五郎君であつた。当時,セレベスの司政長官だつた東龍太郎さんの要請により,同君を派遣したところ,その乗船が,フィリッピン近海で潜水艦に攻撃されて沈没したのである。しかし,同僚の悲報が相次ぐようになつたのは,19年の末から20年の終戦の年にかけてであつた。東大の教室関係からだけでも,実に十指に余る若い戦争犠牲者を出したのである。
 若い諸君の召集も引き続き行なわれ,大学の医局は目に見えて寂しくなつた。この間にあつて,最小限度にもせよ,教室の機能が維持されたのは,多少とも健康に問題があつて召集に洩れた諸君と,女医さんたちの力であつたといつてよい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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