icon fsr

文献詳細

雑誌文献

胃と腸1巻5号

1966年08月発行

文献概要

今月の主題 胃潰瘍〔2〕 綜説

胃潰瘍の経過―胃力メラによる経過観察,とくに治癒の問題について

著者: 内海胖1 三輪剛1

所属機関: 1東京大学医学部吉利内科

ページ範囲:P.449 - P.453

文献購入ページに移動
Ⅰ.はじめに

 胃潰瘍という疾病は,外来診療や胃集団検診をとおして非常に高頻度に遭遇するが,その発生する状況や終末の運命については,存外わからないことが多いようである.そのために,実際患者を診ても,必ずしも患者が満足するような答えを与えていないことがあると思う.

 胃潰瘍が胃の局所病変ではなく,むしろ心身両面の状態を表わす「顔」の一種の表状のようなものとも考えられ,そのような意味での治療法が多く唱えられてもいる.しかし,実際に診断,治療の面では直接胃の形態的変化,機能的変化に対して向けられていることが多い.したがって,胃潰瘍の経過についても,局所の形態上の変化について多く論ぜられているが,一方また,その他の諸関連要因からも検討してみる必要がある.

 また,胃潰瘍の治癒と再発についても,近年,胃内視鏡の発達・普及にともなって,精細な観察が行なわれるようになった.胃潰瘍は実際に1回のepisodeをみると比較的よく治癒するが,一方また非常に再発しやすいものである.しかも,わたしたちがみる胃潰瘍は,かならずしも発生直後のものではなく,長い胃潰瘍の経過の一時相をみているにすぎない場合が多く,一律に胃潰瘍のたどる経過を説明することははなはだむずかしいものである.ごく一般論として,内視鏡的にみた胃潰瘍の経過は,活動期,退行期,治癒期および瘢痕期の順に大別されているが,すべての胃潰瘍が順調な経過をたどるわけではなく,この各期が入れ替りあらわれるのが普通である.この点からさらに長い期間の様相をみたら胃潰瘍というものはどういう運命をたどるのであろうか.

 胃潰瘍の診断を下した時,まず患者にきかれることは,

 (1)胃癌ではないのか?将来胃癌にならないか?

 (2)手術をしなくてもなおるのか?

 (3)手術をしないとすれば,どれくらいで癒るか?

 (4)入院治療をしなくてもよいか?

 (5)仕事を休むべきか,休まなくてもよいのか?

 (6)食餌,嗜好その他について,患者自身として心懸けるべきことは何か?

等々である.

厳密にいえば,これらの質問に対し十分な答えをすることは容易なことではない.

 以上のようないとぐちから,(3)の問題を中心に,胃潰瘍の経過の概略を,手もとの資料を用いてのべることにする.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?