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文献詳細

雑誌文献

胃と腸1巻6号

1966年09月発行

文献概要

今月の主題 胃潰瘍〔3〕 綜説

胃潰瘍の外科的治療

著者: 林田健男1 佐治弘毅1 赤沢章嘉1

所属機関: 1東京大学分院外科

ページ範囲:P.543 - P.547

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まえがき

 胃潰瘍手術は,今日全くpopularなものとなっており,BillrothⅠ法あるいはⅡ法の,幽門輪を含めた胃1/2~2/3部分切除がもっとも広く採用されている.手術が定型化されるということ自体は,その手術が手技上も,治療成績の面からも優秀なものであることを物語るものではあるが,今日定型的に行なわれているBillrothⅠ法あるいはⅡ法の胃切除術について問題がない訳ではない.本稿ではこれらの問題点を中心に,近年行なわれつつある二,三の手術について触れてみたいと思う.

 胃潰瘍は十二指腸潰瘍に較べて,自覚症状が少なく,穏和であり,それだけに穿孔,大出血が初発症状であることがまれではない.また胃潰瘍は治癒しやすい代りに,再発も起しやすいことが特徴とされる.文献集計上,胃潰瘍手術後の再発率は,BⅠ法で3.6%,BⅡ法で1.7%法であって1),内科的治療の再発率に比して圧倒的に低い.さらに死亡率の面では,内科的治療の場合の死亡率が4.5%2)3),胃潰瘍に対する胃亜全剔術の死亡率が2.5~4.5%のごとく3)4)著差をみない.この数値は一見,胃潰瘍に対しては内科的治療よりも外科的治療の方が優るかの感を与える.しかし,他方当科症例の検討5)では,術前胃切除後6週~10年のfollow-upで,正常および表在性胃炎が80%前後を占めるのに対し,胃カメラ,胃生検による残胃粘膜の所見は萎縮性過形成胃炎が55~83%の高率にみられた.当科に於るfollow-upでは胃切除後症状と残胃粘膜の胃炎像との間には密接な関係があるとは考えられなかったが,この術後胃炎像と切除後胃症状との間に関連性があるとの報告6)も見られる.さらにダンピング症候群を始め,いろいろな胃切除後症候群の問題もあり,治癒しやすい傾向を持つ胃潰瘍に対しては,部分的欠損を必然とする外科的治療の前に,まず内科的治療を行なうべきはいうまでもない.内科的治療で,急性胃潰瘍は1週間で,慢性胃潰瘍も多くは4~6週間でレ線的にも内視鏡的にも治癒するという7).内科的治療で1~3カ月間観察し,その間出血の反覆,疼痛の持続など症状の改善のみられぬもの,自覚症状が改善されてもレ線的または内視鏡学的所見で治療傾向のないものなどが手術の適応となる.適応を決めるに当っては,精神身体医学的立場から自覚症状と他覚症状の勘案,性格テストの吟味なども十分に考慮されなければならない.穿孔,大出血などの合併症の場合はもちろん外科的治療の対象になり,大出血に対してはショックの治療を中心とした従来の治療の他,近年胃冷凍法あるいは胃冷却法も行なわれるが,本稿ではこれら合併症の対策には触れない.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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